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ジョン・カビラが語るアカデミー賞授賞式の醍醐味と、映画の「今」

ジョン・カビラが語るアカデミー賞授賞式の醍醐味と、映画の「今」

「生中継!第92回アカデミー賞授賞式」 案内役:ジョン・カビラ

世界最高峰の映画の祭典「第92回アカデミー賞授賞式」を2020年2月10日(日本時間)アメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターから独占生中継。WOWOWの日本のスタジオでは、今回も案内役としてジョン・カビラが、興奮と感動の瞬間をナビゲートする。案内役はこれで14回目。まさに“百戦錬磨”のカビラ氏に、映画の「今」を映し出す授賞式の魅力、案内役としての醍醐味や思い出、さらには前代未聞の“あの事件”の舞台裏を語っていただきました。

視聴者とともに目撃者となる高揚感

――2007年からWOWOWのアカデミー賞授賞式の独占生中継の案内役を務められ、今回で14回目を迎えることに。どの制作スタッフよりも長く番組に携わっていると聞いています。

その可能性はありますね。なんということでしょう(笑)。でも、ありがたいことです。初めてオファーをいただいた時は、まさかというか「こんなに名誉ある賞なのに、ボクでいいんですか?」「本当ですか?」という思いでした。

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案内役を務めたこの14年の様々なシーンが思い出されます。(名匠と言われながらも監督賞を受賞できていなかった)スコセッシが『ディパーテッド』でようやく受賞を果たし、プレゼンターだったコッポラ、ルーカス、スピルバーグに囲まれ祝福された時、『アーティスト』のジャン・デュジャルダンがフランス語で"Formidable!!(素晴らしい!!)"と叫んでスピーチを締めくくったシーン、『それでも夜は明ける』が作品賞を受賞した瞬間、ヒュー・ジャックマンが素晴らしいパフォーマンスと秀逸な司会を披露した年・・・案内役という大役を通して、数々のドラマを生んできたアカデミー賞を日本の皆さんと一緒に、リアルタイムでお届けできる幸福感、高揚感はすごいものがあります。

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第81回アカデミー賞授賞式より Michael Yada / ©A.M.P.A.S.

日本でアカデミー賞の放送に携わる僕らスタッフは、WOWOWのスタッフも含め、アカデミー賞授賞式そのものの制作スタッフではないので、視聴者の皆さんと同じ視点で携わっているんですよ。日本の皆様にお届けする放送局として、賞の発表順番や、パフォーマンスの順番は本番前に教えてもらえますが、どの作品が受賞するかはもちろん知りませんし、どんな展開になるのか?オープニングの演出はどうなるのか?レッドカーペットで誰がWOWOWのカメラ・ポジションで足を止め、日本の皆様にどんなメッセージをお届するのか、まったく予想できません。そういった意味でも、Realtime Witnessと言いましょうか、その瞬間の証人、目撃者となる5時間ほどの体験は充実感もありますし、高揚感や緊張感もありますし、スタッフに「時間がもうないです」と言われる焦燥感もあります(笑)。

前代未聞のハプニング!その瞬間「僕らも試されている」

――"リアルタイムの目撃者"となった、思い出深いエピソードはありますか?

どう頑張っても予測できない、世紀のハプニングと言っても過言でない、封筒の渡し間違い事件(第89回アカデミー賞授賞式における作品賞の誤発表)ですかね。作品賞受賞が『ラ・ラ・ランド』かと思いきや、本当の受賞作品は『ムーンライト』だったというね。本当にありえない出来事でしたが、あれを視聴者の皆さんと一緒に体験できたというのは、忘れがたいですね。

見ていて、明らかに「あっ、これはおかしい」と思いましたね。『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが自分たちの受賞は間違いで、作品は『ムーンライト』であると訂正し、司会のジミー・キンメルが、プレゼンターを務めたウォーレン・ビーティに冗談ぽく「お願いしますよ、なんてことをしてくれるんですか」といったようなことを言っていましたが、ウォーレン・ビーティが印字された文字を読み間違えるわけないじゃないですか。これはウォーレンのミスではない、もっと根源的な問題が起きている、冷静に伝えなければいけないことが起きている、と思いましたね。その時は目を皿のようにして、舞台の助監督らしきヘッドセットをした人が飛び出してきて、何かを確認している状況を見て、単純な人為的なミスであって、プレゼンターの責任ではないだろうな、と。冷静に状況を見てお伝えできるか、東京にいる僕らも試されていたわけです。しびれますよね。

20200205_89_AR_1925.jpg第89回アカデミー賞授賞式より Phil McCarten / ©A.M.P.A.S.

そして、そんな混乱の中、作品賞を逃した『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーであるジョーダン・ホロウィッツが『ムーンライト』の関係者たちに向かって「これは君たちの賞だ!」って叫ぶわけですよね。心に余裕がなければ「何てことをしてくれるんだ」と人をなじることも容易に想像できるシチュエーションの中で、「この賞を『ムーンライト』のみんなに渡すことを誇りに思う」と言ったことの裏にあった彼のプライド、そして映画を作ることに賭けてきた思い。今こうやってお話しているだけで、ゾクゾクと背中が震える感じですね。僕らはすごい瞬間に立ち会っているんだと思いましたね。あってはならないことが起こったが故に、そこに映し出されたクリエイターの矜恃。己を信じて仕事をしていなければ絶対に言えないセリフですよ。とてつもないミスから生まれたドラマですが、そこに浮かび上がった懐の深さというか、人間力に震えましたね。誤解を恐れずに言えば、間違った封筒を渡してしまった会計事務所の人に感謝ですよ(笑)。


89_AR_1988  Aaron Poole.jpg第89回アカデミー賞授賞式より Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

時代を映し出す授賞式、受賞者のスピーチで「何かが起こる」!?

――本年のテーマは「映画の"今"がここにある」。長年、案内役を務めていらっしゃるカビラさんは、アカデミー賞授賞式の"今"の変遷をどのように感じていますか?

第82回(2010年開催)から作品賞のノミネートが5作品から一気に最大10作品に倍増されましたよね(2020年は全9作品)。その分、受賞予想は難しくなりましたが、アメリカ映画の「今」がこの10年、授賞式により反映されるようになったと思いますし、(映画芸術科学)アカデミーは良い判断をした、と思います。映画の素晴らしさをよくぞここまで高めてくれた!と映画人が同業の仲間を称えるアワードなので、ホラーなどニッチなジャンルの作品はノミネートされにくいものの、より幅広いジャンルの作品が顔をそろえ、原作をベースにした作品もあれば、オリジナル脚本の作品もある、実話のものもファンタジーもある、という状況になりましたね。

今年でいうと、例えば『ジョーカー』や『パラサイト 半地下の家族』(以下『パラサイト』)といったように、「格差」や「断絶」と言ってしまえば簡単ですが、社会的に不利な立場にいる人たちをおもんばかる余裕がない時代であることを感じさせる作品が一つの特徴かもしれません。リーマン・ショックがあったり、日本で言えば高度経済成長時代に公害問題があったり、バブルがはじけたりといったことはありましたが、「世の中は好転していく」「我々は前進していく」と基本的には思えていた時代から、そんなことを信じていた自分たちはこんなにもナイーブだったのか、と思わされる時代に入ってきたような気がしますよね。今までなら、社会的なテーマを扱う作品は、実話ベースのものが多かったじゃないですか。ところが『ジョーカー』も『パラサイト』も完全フィクションですよね。エンターテインメントの匂いをさせながら、『パラサイト』なんであえて"匂い"と言いますけど(笑)、僕らをとんでもない世界に誘う、いや連れ込む、という表現の方が合っているのかな。どちらも「この黒い霧と雲はいつ晴れるんだろう?」と、そんな気にさせる作品ですね。

20200105Features_Parasite_Main.jpg『パラサイト 半地下の家族』大ヒット上映中 ! 配給:ビターズ・エンド
©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

さらに、2020年、トランプ大統領が再選されるのか、否かという中での本年のアカデミー賞ですからね。「何かが起こる」とすればスピーチですかね。「忖度」というボキャブラリーがないカルチャーなので、僕らの胸を突き刺すような言葉の数々が出てくるんじゃないかと思いますね。臆することなく発信する、いやむしろ、臆することを許さない、スタンスを曖昧にせず、はっきりとさせるカルチャーですからね、アメリカは。だからどんなことを突きつけてくるのか、スピーチは本当に楽しみですね。

映画界への期待と「面白がること」を大切にしていきたい

――14年間、毎年、授賞式に向けて丁寧な準備をされていると伺っていますが、どんな準備をされていますか。

ノミネートされている作品は可能な限り見て、過去のノミネートと受賞の情報や、前哨戦のデータ、受賞予想ウェブサイトも勉強しますね。それ以外にVarietyやHollywood Reporterといった現地のエンターテインメント専門のサイトや、LA Times, New York Timesといった現地メディアの記事も総体的に見ています。彼ら(アメリカのジャーナリスト)は舌鋒を緩めたりすることがないので、そういった部分が参考になります。

――アカデミー賞と言えば、近年はNetflixを中心に配信事業会社が製作する映画が話題を集めています。今年はマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』が10部門にノミネートされていますね。

ビジネスとして映画業界がどうなっていくかは、個人的にも興味がありますね。例えば、Netflixがストリーミング配信を始めてから、アメリカの興行収入が打撃を受けているかと言えば受けていないわけですし、配信業者が台頭して、アメリカの地上波4大ネットワークと言われる放送局がビジネス的に困っているかと言えば、そうでもありません。そういったことを冷静かつ総体的に見なければいけないと思います。一方で、スコセッシ監督はNetflixがなければ『アイリッシュマン』を製作できなかったわけですし、クリエイターが表現するチャンスが増えれば増えるほど、優れた作品が生まれてくると思うので、新たなプラットフォームができることはむしろ歓迎されるべきだと思います。ハリウッド側は「私たちをスクリーンに誘うような魅力的な作品をもっと作ってください」と突きつけられているわけですし、Netflixは「大きいスクリーンで圧倒的な体感を得られるスペクタクル作品は作らないんですか?」と突きつけられているので、そういった意味でも本当に面白い時代に突入しているなと思います。

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カビラさんは帯番組の『ザ・プライムショー』や、ドキュメンタリー・シリーズ『クエスト~探求者たち~』のナレーション、グラミー賞の案内役とWOWOWの多くの番組に携わってこられましたが、局として、あるいはWOWOWがエンターテインメントに対して取り組む姿勢についてどんな印象をお持ちですか。

電波行政の中、ここまでくるのに、大変な旅だっただろうな、と率直に思いますね。2011年にフルデジタルの3波となり、WOWOWメンバーズオンデマンドもできて、視聴サービスはどんどん向上していると思います。一方で、映画やスポーツ等コンテンツ・ライツを独占的に、複数年に渡って獲得していくことはどんどん厳しくなっていますよね。(アカデミー賞も)契約交渉、毎度お疲れ様でございます。勝ち続けましょうね!

だからこそ、オリジナル・コンテンツには引き続き果敢にチャレンジして欲しいな、とも思います。専門家でもないのに、こんなことを言うのもどうかと思いますが・・・。でも、ぜひこのまま突き進んでください。僕も「ドラマW」には期待をしていますから!

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――最後に、多方面に渡る仕事をされているカビラさんが仕事をする上で「大切にしていること」を教えてください。

純粋に現場の共演者、スタッフの皆さんとワクワク楽しむこと。それが醍醐味、というか、もうそれ以外にないですね! アカデミー賞授賞式の生中継も同じで、ご一緒する高島さんと町山さんと楽しみ切る。それが一番の目標であり、糧ですから。そのために入念な準備をするんです。「面白がらせてください」という受け身の姿勢ではなく、ずっと「面白がりたい」、「面白がらせなければいけない」な、と。面白がることができなくなったら、お暇する時でしょうね・・・。

『生中継!第92回アカデミー賞授賞式』二カ国語版、同時通訳
        2020年2月10日(月)午前8:30〜放送
『第92回アカデミー賞授賞式』字幕版
         2020年2月10日(月)よる9:00〜放送

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