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コアな映画ファンではない90%に向けて、映画と関係ない話をしたい――『W座からの招待状』のナビゲーター・小山薫堂とイラストレーター・信濃八太郎が語る映画の愉しみ方

コアな映画ファンではない90%に向けて、映画と関係ない話をしたい――『W座からの招待状』のナビゲーター・小山薫堂とイラストレーター・信濃八太郎が語る映画の愉しみ方

「もう7年もやってるの?」――。小山薫堂にとっては、いつのまにか…という感じなのだろう。300本を超える作品リストを見てさすがに驚いたようだ。2011年から続くWOWOWの日曜の夜の映画紹介番組『W座からの招待状』。製作費やヒットの規模によらない佳作・名作を放送し、作品に合わせて小山が文を、そして、いまは亡き安西水丸、長友啓典に続き3代目イラストレーターを務める信濃八太郎がイラストレーションを添える。現実の映画館が次々と閉館を迎える映画不況の中、小さな映画館の灯を守り続ける2人に話を聞いた。

長寿の秘訣は「注目されないこと」? 素人目線を大事に映画を語って7年

――2011年にスタートした同番組ですが、小山さんは「W座」の案内人に就任された際は、この番組がこんなに長く続くとは...

小山 全く想像していなかったですね。当時は安西水丸さんに月イチで会えるというモチベーションのほうが大きかったですし(笑)。

anzaikundou.png2011年10月に安西水丸氏(故人)とのコンビにより番組は始まった

――案内人としては、どのような思いでこの番組に臨み、映画について語られていたのでしょうか?

小山 僕自身が大事にしたのは素人目線。映画を見る人のだいたい10%がマニアックでコアなファンで、残りの90%はホワンとした感じで見てると思うんです。僕は、後者の人たちが「あぁ、そうだよね」と思えるものがいいなと思ったんです。

普通、映画を見終わってカフェに入っても、その映画の話ばかりするわけじゃないでしょ? それと同じで、なるべくそういう映画と関係ない話をして、むしろ映画の話はしないくらいの感じでいいかなと。

――信濃さんにとってはイラストレーションの"師匠"である安西さんが初代のイラストレーターを務めてらっしゃいましたが、信濃さんはこの番組にどんな印象を持たれていましたか?

信濃 まさに薫堂さんがおっしゃったように、映画について話すのではない面白さがあるんですよね。映画が終わって飲み屋に行って、映画のことだけでなく、いろんなこと話すような会話が面白くていいなって。それを、いざ自分でやろうと思ったら、人生の年輪がないから難しいんですけど(苦笑)。

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――小山さんが考える、この番組がこれだけ長く続いている理由は?

小山 理由はひとつ! WOWOWがやめないからですね(笑)。すごいことですよ。この枠に無関心なのか...? ほら、最初から注目度が高いと、悪くなってきたら「あれを変えよう」とかなるけど、この枠は「そういや、そんなのあったね」くらいの感覚でスポットを浴びてないので、長く続けてこれたんじゃないかと(笑)。

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――プロデューサーから「日曜のゴールデンですからスポット浴びてます」という反論が(笑)。実際、民放でも映画を紹介する番組は"絶滅危惧種"になっていますし、非常に貴重な番組だと思います。

小山 そう言われるとちゃんとしなきゃな。まあ、これだけ続いたのは濱田岳(ナレーション)の力が大きいんじゃないかな?(笑) 阿部海太郎の音楽に乗せて、濱田岳が何か読めば、何でもそれらしく聞こえるから...。

――信濃さんは、安西さん、長友さんの後を継いでの3代目イラストレーター就任となりましたが...。

信濃 とんでもないことですからね。最初にプロデューサーからお話をいただいた際は、お断りしたんですよ。

小山 こんな番組、やってらんねーよと?(笑) お忙しいですしね。

信濃 いやいや!(笑) 安西先生が亡くなられた際、僕は「東京イラストレ―ターズ・ソサエティ」の事務局をやってまして「どなたかイラストレーターはいないか?」という相談を受けて、映画好きの長友さんらを紹介させていただいて、その縁で収録の現場を見学させていただいたりもしてたんです。

nagatomo.png2代目・イラストレーター長友啓典氏(故人)

だから「そんな大役はとても...」という思いでしたが、当初は、長友さんが検査入院をされるということで、その間だけの代役で、またすぐに戻ってらっしゃるという前提だったので「それなら」と引き受けたのですが、その後、長友さんが亡くなられてしまいまして...。

――実際に参加するようになって、映画を見て、それをイラストレーションに起こすという仕事はいかがですか?

信濃 すごく楽しいですね。普段、イラストレーターの仕事って「以前のあの仕事の画風で」という感じの依頼が多いんです。でもこの番組では、そうやってたら、プロデューサーから「またこういう感じのタッチ?」「こだわんなくていいよ」とか「飽きてきた」とか言われるんですよ(笑)。

そう言われると、何か新しいことをやってやろうと思うし、みんな、それを面白がってくださるので、おかげで目が覚めましたね。純粋に楽しんで、その思いをそのまま出しても良い場所を与えてもらいました。

故・安西水丸さんの飾らない言葉は愛にあふれていた

――小山さんは、信濃さんの3代目就任についてはどのような印象をお持ちになりましたか?

信濃 「誰だ? コイツ」ですよね?(笑)

小山 いやいや、光栄でした。いつかはご一緒したいと...というか、水丸さん、長友さんと年上だったので、先輩に寄っかかっていたんですけど、今度は引っ張らなきゃいけないなと。いかにうまく突っ込んでいくかを考えるようになりました。

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――本日の収録でも、話題がそれて、信濃さんの恋愛遍歴まで追及されていましたが、あれは信濃さんだからこそ?

小山 たしかに長友さんだったら、しなかったかもね。いや、でも水丸さんならしてたかな? 水丸さんは、若いおねえちゃんが大好きだったので(笑)。

信濃 おモテになられましたよね(笑)。

小山 飲んだらすぐ女の人を口説いてたし(笑)。

信濃 ちょっとそれは、弟子としては知りたくなかったエピソードだなぁ...(苦笑)。僕らの前ではすごく厳しい先生で「信濃、こないだのあの仕事は何なんだ?」という感じでしたから。

――改めて、安西さんと『W座』を始められて、一緒にお仕事をされてみて、どのような方でしたか?

小山 水丸さんは素直で飾らない方でしたね。「子どもが出る映画は興味ない」とか普通は言わないことをズバズバ言うし(笑)。でも、ちゃんと愛があって、人生の年輪を重ねてきたからこその包み込むような愛に満ちた映画の見方をされていましたね。

_MG_0156.jpg2012年11月【旅するW座】第1回上映作品「愛のあしあと」舞台挨拶での一枚

――その後、2015年から約2年にわたり、コンビを組まれた長友さんの印象は?

小山 長友さんが一度、ご病気をされて、その後、復帰したんですけど、その頃は「ちょっと老けたかな?」と思ったことがあったんですよ。でも、この番組が続いていく中で、どんどん若返っていったような印象を受けました。映画を通じて、日々の活力を取り戻されてたんじゃないかって思います。

――やはり、安西さんと長友さんでは番組の進め方などは違っていましたか?

小山 違いましたね。水丸さんはストレートに何でも言うから(笑)、フォローしないといけない。必死に球を拾いに行く感覚でした。長友さんは、水丸さんほどは散らからなかったですね(笑)。

そういう意味で、信濃さんは熱心で、最初からトークポイントをきちんと考えて来てくれるので、こちらはすごく楽をさせてもらってます。一度の収録で、4~5回分撮るんですけど、時々、作品がごっちゃになるんですよ。作品を選ぶ人が、実は月ごとに"テーマ"を持っているんですけど...。

信濃 ありますね。

小山 "カンヌ国際映画祭"みたいなわかりやすいテーマもあれば、"ダメ男"とかもあったりして、話してる内に、どの作品の話かわかんなくなりかけたり...(苦笑)。水丸さんも長友さんも、そういうことがあったけど、信濃さんはきちんとしてるのでね。

信濃 でも僕、ここ3~4か月で、メモを手元に置くのをやめたんですよ。もっとちゃんと、薫堂さんとの会話を楽しもうと思いまして。

――ちなみに本日の収録は11月分の『彼女がその名を知らない鳥たち』、『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』の3作でしたが、こちらに共通するテーマというのは...?

信濃 僕が思ったのは「異形なものへの愛」で繋がってるんじゃないかなと。

小山 そうそう。人それぞれの価値観や愛の形があるんだってことですよね。

面白くない映画ほど詩は書きやすい?

――過去には小山さんと安西さんがカンヌ国際映画祭に赴き、映画を買い付けるなど、TVを飛び出しての様々な企画もこの番組の魅力です。今後、やってみたい企画などはありますか?

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2013年5月番組企画で訪れたカンヌ映画祭での一枚

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小山 良く仕事で訪れる京都の商店街にクラウドファンディングで建てられた素敵な映画館があるんですよ。1階がカフェになっていて、地下に40席、2階に40席の劇場があるんですけど。そこの雰囲気が、まさに「W座」なんですよ。コラボ企画にうってつけの場所だなと思うので、ぜひ何かやってみたいですね。

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信濃 僕は、先ほども少し話に出た、月ごとのテーマについて「今月のW座」といった感じで、いっぺんに見て、そのテーマについて話し合うような場を作れたらいいなと思いますね。いっぺんに見ることで「こんなことが見えてくるんだ?」というものがあると思うんです。

――10月28日(日)には、第31回東京国際映画祭で「W座からの招待状」の公開収録も行なわれます。上映作品は『パリへの逃避行』ですね。

paris.jpg2018年11月11日放送「パリへの逃避行」

小山 今回、作品的に「愛」とか「不倫」とかについて語らないといけなさそうですよね...。どうしたものかと(苦笑)。日曜日の朝からですよ!

信濃 ホントですね。どうしてこの作品のチョイスになったのか...(笑)。

小山 以前の公開収録の『シャンボンの背中』も『5時から7時の恋人カンケイ』(原題『5 to 7』)もそういう話でしたね(笑)。そういう大人の恋愛を扱ったほうが、カップルが劇場に足を運んでくれるからかな?

syanbon.jpg小山薫堂、安西水丸がカンヌ映画祭で買い付けた思い出の作品「シャンボンの背中」

――これまで番組で紹介し、招待状を作ってきた作品の中で、最もお気に入りのものは?

小山 招待状そのものの記憶はあんまりないんですよね。自分で書いたものに関しては、すぐに忘れちゃうから...(苦笑)。でも純粋に映画としては、さっきも出てきた『5時から7時の恋人カンケイ』はすごく好きですね。ああいう恋愛、してみたいなって。なんだかんだ言って、恋愛映画好きなんですよ(笑)。ああいう劇場未公開作品を紹介できるってやっぱりいいですよね。

5to7.jpg2016年12月25日放送「5時から7時の恋人カンケイ」

信濃 僕は、自分が関わってからの作品ではなく、安西先生が亡くなられてすぐの『君と歩く世界』がすごく印象に残っていますね。薫堂さんの文章が先生への追悼の言葉で、いつもは2人で並んでたのに、番組の最後に「文・小山薫堂」って出てきて、グサッと突き刺さるものがありました。

小山 何を書いたか、忘れてるのでもう1回見てみます(苦笑)。いや、そのときは間違いなく特別な思いで書いてるんですけど、ひとつずつの作品に関して、覚えてないんですよね。

――見終わって、詩を書きやすい映画と書きにくい映画ってあるんですか?

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小山 ありますね。面白くない映画ほど書きやすいです。つまり、メッセージが明確すぎるし、理屈っぽいんです。作り手の思いが強すぎると、つまんなくなるんでしょうね。むしろ、あまり考えずに衝動だけで作られているといい作品になるのかもしれません。

それで言うと、かなり初期の放送ですけど『ワンエイティ・サウス 180°SOUTH』は好きでしたね。アウトドアブランドの「パタゴニア」と「ノースフェイス」の創業者の話なんですけど。

――お二人にとっての「面白い映画」とはどういう映画なんでしょうか?

信濃 父が印刷会社に勤めていた関係で、松竹とか東宝など新作映画のパンフレットが家にいつもあって、映画を見るわけじゃないのに、パンフを読むのが大好きだったんです。だから、映画は常に"向こうからやってくるもの"と思ってるんですよね。そのせいか、どんな映画も楽しめちゃうんです。

ただ、映画を見る上で好きなのは会話かな? 僕、メモ魔で、気になる会話のやりとりはメモしちゃうんですよ。なのでアクションやストーリーで見せるというような作品よりも、会話だけで進んでいく密室劇などが好みですね。

――イラストレーションを仕事にされているのに、会話や言葉が大事なんですね?

信濃 むしろ言葉からの影響のほうが強いですね。画を見るとそっちに引っ張られちゃうので。

小山 僕はむしろ逆かな? 粋なセリフがいっぱいある映画も好きですが、むしろオープニングの映像で、最初のタイトルが出るまでの映像や音、編集、クレジットのセンスがいい映画が好きですね。

たとえば『グレイテスト・ショーマン』の始まりとか「これはすごい映画が始まるぞ!」って感じました。

自然体で、自分に嘘をつかずに仕事をしていきたい

――番組で扱う作品を見る際に、気をつけていることはありますか?

信濃 僕は、何度か見ることが多いんですが、最初の1回は、日曜日にTVをつけて、この番組を見る人と同じ気持ちで、単純に映画を楽しんで見るようにしています。2回目以降から、何を描こうか? 何を話そうか? と考えますね。

小山 僕は、知らない街を旅してて、なんとなく時間が余ったからフラッと劇場に入って座ったら、映画が始まったというスタンスです。だから、タイトル以外は情報を入れず、どんな映画なのかも知らないまま見るようにしています。

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――これまでもアカデミー賞に輝いた『おくりびと』などの映画脚本を手がけていらっしゃいますが、この番組で見た映画に刺激されて、脚本を書きたいと思うことはないですか?

小山 ありますね、というか、この番組が終わんないと書けないだろうなと思っています。月に映画を4本見て、分析するって結構重くて、クリエイティビティが削がれるんですよ。だから、この番組が終わったら、本格的に腰を入れて書きたいですね。

――WOWOWでは、2015年からの10年間の未来に向けた指針として「偏愛」をテーマに掲げています。お二人は仕事をする上で、どんなことを大切にし、どういう部分に"偏愛"を持っていらっしゃいますか?

小山 「自分に嘘をつかない」ですね。自然体で正直に、無理に嫌いな仕事はしないようにしています。

――映画に関してもハッキリと「つまんない」とおっしゃることも...

小山 そこは正直に! でも、視聴者を減らしちゃいけないぞと思いつつ、言い方は考えるようにはなりましたね。それこそ、昔の水丸さんとかのほうがすごかったですから...(笑)。

信濃 すごかったですね。見終わって「どうでしたか?」「つまんなかった」って...よくそんなことを言えるなぁと(笑)。

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――信濃さんのお仕事における「偏愛」は?

信濃 薫堂さんと一緒で、やはり自分に嘘をつき始めると、その後もずっと嘘をつかないといけなくなるんですよね。以前、それがイヤで一度、絵をやめてしまったことがあるので、戻ってからはそうしないようにしています。

あとは、常に自分をびっくりさせたいという気持ちで絵を描いてますね。現状に慣れたくないし、まだまだ新しい絵が描けると意識しながら仕事をするようにしています。

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W座からの招待状」毎週日曜夜9時 WOWOWシネマにて絶賛放送中!


取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.


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次週の「FEATURES!」では、10月28日(日)に小山薫堂さん、信濃八太郎さん、番組の音楽をつとめる阿部海太郎さんが登壇して行われた第31回東京国際映画祭での公開収録の模様をレポートいたします。お楽しみに!

【プロフィール】

小山薫堂(こやま・くんどう)

1964年6月23日生まれ、熊本県出身。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、『ポンキッキーズ』、『料理の鉄人』、『カノッサの屈辱』、『東京ワンダーホテル』などの構成を担当。アカデミー賞外国語映画賞にも輝いた映画『おくりびと』で初めて映画脚本を担当し第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ゆるキャラブームの先駆けといえる「くまモン」の生みの親としても知られる。放送作家、脚本家、作詞家、ラジオパーソナリティなど、その活躍はジャンルを問わず多岐にわたる。


信濃八太郎(しなの・はったろう)

1974年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科舞台装置コース卒業。在学中より安西水丸に師事する。パレットクラブスクール、朝日カルチャーセンター安西水丸塾、コムイラストレーターズ・スタジオ修了。重要文化財自由学園明日館、ペーターズギャラリー勤務を経てフリーのイラストレーターに。雑誌、書籍、広告、舞台美術やアニメーション作品も手がける。

■「パリへの逃避行」(c)Improvised Films Limited 2017

■「シャンボンの背中」(C)TS Productions - F comme film - Arte France Cinema - 2009.

■「5時から7時の恋人カンケイ」(C)2014 5 TO 7 PRODUCTIONS, INC.

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