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"映画のWOWOW"だからできること、チームだからできること――番組プロデューサーが語る、アカデミー賞授賞式生中継の舞台裏

制作部宮田徹プロデューサー

今年も2月25日(月)に独占生中継を行う、年に一度の映画の祭典「アカデミー賞授賞式」。WOWOWでは長年にわたって授賞式の模様を日本の映画ファンにお届けしてきた。2年前の作品賞の誤発表のトラブルも記憶に新しいが、まさに何が起こるかわからないロサンゼルスの現場と東京のスタジオを中継でつなぎ、最高峰のエンターテインメントを視聴者に届けるために、どのような準備が行われているのか? 宮田徹 番組統括プロデューサーに今年の授賞式の見どころなどもあわせて話を聞いた。

「決定権を持つプロデューサーとして自分の番組を作りたい!」と選んだ転職の道

――宮田プロデューサーは2008年にWOWOWに中途採用で入社されたと伺いました。前職や転職を決めたきっかけについて教えてください。

以前はテレビマンとしてディレクターを務めており、日本テレビの「news zero」のスタジオディレクターや、番組の総合演出など、制作畑を歩んできました。

ただ、番組の演出を担当していたとしても、制作会社や局のプロデューサーがいるわけで最終的に「こうしたい」という自分の希望を通すことってなかなか難しいんです。自分が思い描く100%のものを作るには、自分がプロデューサーになるしかないんだなと思いました。そういう環境で自分の番組を作ってみたいと思い、WOWOWに転職しました。

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――WOWOWでどんなことがやりたいと考えて転職されたんですか?

それまでずっと生中継をやってきて、そこが得意ではあったんですけど、それだけでなくVTRからしっかり作るようなノンフィクション、ドキュメンタリーをやりたいなと思っていました。丁寧に「これはゼロから自分が生み出しました」と言える番組を作りたいなと。

――入社されてからはどんな作品を担当されてきたんですか?

「クエスト~探求者たち~」や「ノンフィクションW」といったドキュメンタリー番組のほか、これまでの職歴を活かして"お祭り"的なイベント企画を担当することが多いですね。「無料放送の日」の特番や、WOWOW初の大型イベント・放送企画として展開した「WOW FES!」だったり、3チャンネル開局を前に「WOWOWの窓を作る!」ということで制作された情報番組「ザ・プライムショー」も担当しました。

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「WOWOWの窓」として無料展開したレギュラー生情報番組「ザ・プライムショー」

「ザ・プライムショー」は平日の月~金の19時からの無料の生放送番組で、毎日、特番をやってるようなものでした(笑)。渋谷にスタジオを作って、そこにジョン・カビラさんや斎藤工さんが毎日のようにいて、女性キャスターも内田恭子さん、ともさかりえさん、土屋アンナさん、hitomiさん、冨永愛さんというすごいメンバーで...。いま考えると、いろんな意味で「早すぎた」番組だったんだなと思いますね(笑)。

――現在、担当されている番組は?

「W座からの招待状」に「映画工房」。それからバレエの情報番組「バレエ プルミエール」も担当しています。

番組は船! 苦しい時に立ち返るビジョンが必要

――そうした番組におけるプロデューサーの仕事とはどのような業務なのでしょうか?

広い視点で言うと、番組の大きな枠組みを作って、企画と予算を会社で通し、そこに出演者や制作会社をはめていき、枠組みの設計通りに番組を作っていくことですね。

番組というのは「船」や「家族」のようなものと言えるかもしれません。船長である自分が旗を振るんですが、ちゃんと振らないとみんなが路頭に迷ったり、船が遭難してしまいます。WOWOWのことだけを「家族」として考えていたら、みんなにそっぽを向かれちゃうので、出演者のみなさんをリスペクトし、制作会社さんと一緒により良いものを目指していくという意識が必要です。

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特に大事なのは最初のビジョン設定ですね。例えば今回の中継について、「アカデミー賞授賞式を通じて視聴者に映画の良さを伝えたい」といったビジョンです。苦しくなると、ふと「何のためにやっているのか?」という思いがよぎってしまうこともあります。そんな時に立ち返れるものです。そうしたビジョンを掲げつつ、基本的にはみんなに、自由にクリエイティブを発揮してもらえたらと思っています。

一見、プロデューサーって個人プレイに見える部分もあるかもしれませんが、僕は、そういうやり方は好きじゃないんです。自身、制作だけでなく編成や宣伝も担当したキャリアもあり、会社というものを動かすには、各部署の協力が不可欠だと実感しています。どうやってみんなを巻き込んで一緒の船に乗ってもらえるか? そのためにしっかりとビジョンを打ち出していかないといけないと思っています。

現地の熱を、起きていることをそのまま伝えたい

――WOWOWがアカデミー賞授賞式を中継する意義というのはどういう部分にあると思いますか?oscar2.png

『生中継!第91回アカデミー賞授賞式』 2月25日(月)午前8:30 (画像 © A.M.P.A.S.®)

僕自身、WOWOW入社前から長年「TV中継」に携わってきました。その当時からアカデミー賞授賞式の中継は知っていて、「すごいな」と思っていました。これまで全国40か所をつないでの選挙特番中継や海外各地との中継などもやってきましたが、「WOWOWのアカデミー賞授賞式への熱量ってすごいぞ」と中途1年目で思いました。

その熱量って、映画好きのお客様に素晴らしい世界を見てもらいたいという番組作りへの思いと、映画のWOWOWに泥を塗ってはいけないという自負。その両方を背負って歴代の担当者が取り組んできたことの蓄積から来てるんだと、担当することになり実感できました。授賞式本番を直前に控え、「失敗はできないぞ」というプレッシャーを、いまは心地よく感じています。

映画好きの人々に映画界の一番いい瞬間を届ける――それがWOWOWのミッションであり、他局にやらせるわけにはいかない番組だと思います。

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第90回アカデミー賞授賞式より © Todd Wawrychuk / A.M.P.A.S.®

――現地の熱を日本に届ける上で大事にしていることを教えてください。

なるべくライブ感を大事にしたいと思っています。時差もあるし、日本ではまだ見れない作品もあるなかで、あの場で起きていることを"自分事"として感じていただくにはライブ感、いま起こっていることをありのまま伝えることが大事だなと。

ただ、現地からの情報量は多いし、しかもものすごい速さで番組は進んでいくんです。なかなか同時通訳ではニュアンスまで伝わり切らない部分もあるので、そこは日本のスタジオでしっかりと情報を整理し、咀嚼していただくようにしています。シンプルに授賞式を楽しんでいただくためのお手伝いができればと思っています。

――いま、まさにお話に出ましたが、ジョン・カビラさん、高島彩さんが司会を務め、映画評論家の町山智浩さんをスタジオゲストに迎えた日本のスタジオの存在価値というのはどういう部分にあるのでしょうか?

次から次へと流れてくる情報をしっかりとお伝えすることが何より大事なことだと思います。「誰が受賞したのか?」「何を話したのか?」 カビラさんや町山さんは、卓越した英語力もお持ちですので、彼らのフィルターを通してプロの言葉で話していただくことに意義があるし、高島さんはそれらの情報を整理して伝えてくださるという意味で、最強の布陣と言えると思います。

変わらない勇気 最強布陣の理由

――カビラさんは11年連続、高島さんは5年連続の司会。もはや不動のコンビですね

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左からレッドカーペットレポーターすみれ、司会ジョン・カビラ、高島彩

高島さんはタイムキープ力と情報をまとめる力、そしてとっさの情報出しに関して素晴らしい能力をお持ちだと思います。町山さんはわりと暴走するので(笑)、そこで情報を聞き取りつつ、しっかりとまとめるってすごい技術です。

カビラさんは、事前の勉強量がものすごいんですよ。我々が番組を作る上で、リサーチしつくしたと思ってるさらに斜め上を行っています。現地の新聞やサイトの批評、細かなツイートまでチェックされていて...。あんな人はいないです。本当に頭が下がります。

毎年注目される番組だから、変化を望まれたりもします。でも、「映画好きの人に最高の情報を届ける」ことがモットーですから、変わらない勇気も必要だと思っています。

――プロデューサーから司会のお2人に事前にどんなことをお願いするんですか?

年ごとのWOWOWとしてのテーマについては、最初にお話しますね。去年は「きっと今年も何かが起こる」でしたので、トークの切り口として、このテーマを盛り込んでほしいと。

そして今年のテーマは「映画の今がここにある」です。"今"を象徴する現象を切り取っていこうと思っています。例えばNETFLIX配信作品である『ROMA/ローマ』のノミネート、LGBTを扱った作品が4作品も作品賞候補に入っている現状など、映画界の今が浮き彫りになるような番組にしていきたいと思っています。

――今回、映画評論家の町山智浩さんに加えて、スタジオゲストとして川村元気さんがいらっしゃいます。川村さんがプロデューサーを務めている『未来のミライ』が長編アニメーション部門にノミネートされていますが...。

もちろん、『未来のミライ』のノミネートも見越した上でのオファーでしたが(笑)。川村さんは、普段あんまりテレビに出ない人なんですが、アカデミー賞授賞式は日本で一番好きな番組だとおっしゃっていただいて、二つ返事で快諾いただきました。ノミネートされた作品の関係者がスタジオにいるって、いままでにないことなので、臨場感のある展開ができないかと考えています。mirai.png

『未来のミライ』Blu-ray&DVD 発売中 発売元:バップ ©2018 スタジオ地図

ノミネート作品の配給会社等とも、レッドカーペットに関して打ち合わせをしているんですが、WOWOWが授賞式の生中継をやってるからだけじゃなく、うちの映画部が日々、様々な配給会社と仕事を通して向き合ってるからこそ、話をさせてもらってるというのがあると思います。ずっと映画と真摯に向き合ってきたチャンネルだからこそ、それができるんだなと感じます。

ようやく実現したノミネート作品の事前試写会!

――WOWOWさんの、アカデミー賞授賞式生中継に向けた年間のスケジュールを教えてください。

放送が終わって、3月中に一度、総括をし、課題を洗い出します。その後、5月くらいに制作会社と「来年はこんなことをやってみたいね」という感じで、イメージ段階ですがブレストを行ない、指針を固めていきます。

それから9月くらいに企画の提案を行ない、まだノミネート作が分からない状態ではありますが、コンセプトなどを決めて、キャスティングも並行して行なっていきます。

12月くらいになると、徐々にノミネートされるであろう作品の試写が始まるので、それを見つつ、一度、映画評論家の町山さんと打ち合せて候補作の見立てを行ない、事前のノミネーション番組の準備を進めていきます。その情報を受け取りつつ、カビラさんと高島さんには試写で作品を見ていただくようにしています。実際にノミネーションが発表されるのが1月で、WOWOWの事前ノミネーション紹介番組の収録がだいたいその5日後くらいですから、その間にもう一度、映画見たり、情報の整理をするようにしています。

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――実際に番組に関わるWOWOWスタッフの数は?

技術スタッフや宣伝をのぞいた、制作だけですと、僕が番組統括で、一緒に取り組むプロデューサー、アシスタントプロデューサーが1人ずつという布陣。当日のレッドカーペットに関しては、また別のプロデューサーが現地に行きます。小規模ですが、少ないがゆえに密にできる部分もあり、効率的にやっています。

――事前のノミネーション紹介番組の話も出ましたが、今年の中継に向けたプロモーションについても教えてください。

ロサンゼルスにあるWOWOWの事務所主導で、現地のアカデミー協会の方と話し合い、今年から日本で事前に候補作の一般向け試写会を行えることになりました。日本でアカデミー賞を放送する上での一番の弱点は、授賞式時点で、日本では見られない作品が多いということ。映画を観てからならもっと楽しんでもらえるのに・・・という積年の望みが一部作品ではありますが、ようやく実現しました。oscar.png

「WOWOW×OSCARS」特別試写会 (画像 © A.M.P.A.S.®)

2月23日(土)に「WOWOW×OSCARS®特別試写会」と銘打って、『グリーンブック』、『バイス』、『ブラック・クランズマン』という日本未公開の3作映画に『ブラックパンサー』を加えた4作品の特別試写会を開催します。正直、まさか実現するとは...という企画で、ロサンゼルスの事務所とパブチームが様々な苦労を重ねて実現してくれた宣伝イベントなので、しっかりと盛り上げていきたいです。

これが来年以降、さらに大規模に行えるようになって、そのメリットを配給会社側にも感じていただけるようになれば、さらに色々なことが変わってくると思います。

それ以外では、やはり日本の2作品(『万引き家族』、『未来のミライ』)が候補に入ったこともあり、その情報をきっちり出すことを徹底しようと思っています。去年、辻一弘さんが受賞(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でメイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞)した際の知見もあり、日本作品に力を入れていこうと。貴重な現場での撮影を実現し、WOWOWでしか見ることが出来ない映像を提供していけたらと。

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『万引き家族』 全国公開中配給:ギャガ©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


――一昨年の作品賞の誤発表など、日本からはどうにもできないようなハプニングに見舞われることもあると思います。これまでの経験の中での苦労したことやエピソードを教えてください。

(誤発表の)『ラ・ラ・ランド』の時は...絶句しましたね(笑)。「おい、どうするんだ? これ...」って。

僕自身が関わって、一番大変で、でも楽しかったのは2009年に『おくりびと』が外国語映画賞を受賞した時ですね。 現地のレッドカーペットを担当していたんですが、当日に向けて、日本の盛り上がりがすごいことになってきたと聞いて、それならMAXでやろうと。

クルーを連れてあちこち取材したことや、パブリックビューイング会場を押さえられるように申請の段取りを寝ずにやったり、受賞の翌日、本木雅弘さんとハリウッドの街並みを撮影して回ったりしたのもいい思い出です。突貫でしたが(笑)、やってよかったと思うし、今年もあの時の再来となるといいですね。

――改めて今年の授賞式の見どころを教えてください。

今回は、司会者不在という、これまでにない状況のなか、どのようなエンターテインメントが展開していくのかすごく楽しみです。歌曲賞に関しては、候補者全員が生歌を披露することも発表されていますし、これは本気だなと。いままで以上にエンターテインメントに寄り添った賞になりそうだなと感じています。

僕自身はアルフォンソ・キュアロン(『ROMA/ローマ』監督)に頑張ってほしいという気持ちはあります。

自身、つい先日放送のあった、アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・G・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロといった、近年のオスカーを席巻するメキシコ人の巨匠たちの原点に迫るドキュメンタリー番組、ノンフィクションW「WHY MEXICO? ~アカデミー賞に輝く越境者たち~」という番組のプロデューサーをしており、それもあって。

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『ノンフィクションW WHY MEXICO?  ~アカデミー賞に輝く越境者たち~』最新放送予定はこちら

また外国語映画賞は、NETFLIXの『ROMA/ローマ』とAmazon制作の『COLD WAR あの歌、2つの心』がノミネートされていて、そこに是枝裕和監督の『万引き家族』がどう割って入っていくのか? 楽しみですね。

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Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』Netflixにて独占配信中

――宮田さんご自身の予想は?

番組プロデューサーとしては、作品賞は『ROMA/ローマ』が獲ったらいいなと思いつつ、僕個人の好みとしては『グリーンブック』かな? 主演男優賞はヴィゴ・モーテンセン(『グリーンブック』)かクリスチャン・ベール(『バイス』)ですかね...?

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『グリーン・ブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

――日本では『アリー/スター誕生』のブラッドリー・クーパーの受賞を望む声も多いですが...。

そこは番組として煽りつつ(笑)、ヴィゴが来るんじゃないかと。主演女優賞は普通で言えばグレン・クローズ(『天才作家の妻/40年目の真実』)で堅いですが、ガガ(『アリー/スター誕生』)が最後まで競っていくと面白いですよね。tensai.jpg

『天才作家の妻 40年目の真実』© META FILM LONDON LIMITED 2017

テレビだからこそ、見た目とインパクトを大事にしたい

――最後に宮田さんがプロデューサーとして仕事を進める上で、大切にしていること、"偏愛"を教えてください。

大事にしてるのは最初に描いたビジョンを最高の映像でお伝えすること。全てはそのためですね。あとは、やはりテレビですから、ルックにはこだわりたい。見た目とインパクトは大事にしたいですね。

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――そういう意味で現地のアカデミー賞の演出から刺激を受ける部分も多いのでは?

オープニングがいつも楽しみです。どんな映画を切り取って好き勝手なオープニングを作るんだろうって。普通は映画を切り刻んじゃダメだけど、彼らは躊躇なくやるから(笑)。映画をリスペクトしているからこそ、最高の授賞式を作り上げる。その姿勢がとってもいいなぁと思います。

――WOWOWにおける、視聴者の存在をどのように感じていますか?

視聴者から頂いた声をまとめた「ホットボイス」には毎日必ず目を通してますし、お叱りの言葉は真摯に受け止めるようにしています。それから、恥ずかしながら、自分の番組に関するエゴサーチもやめられません(笑)。宣伝で使っているSNSの声もしっかり見ていますし、いまの時期、アカデミー賞のニュース検索と、「WOWOW アカデミー賞」というツイッター検索は欠かせないですね。

――お話を伺っていると、宮田さんの口から他部署や関わっているスタッフさんが大勢出てきます。多くの人々を巻き込んで"チーム"で仕事をするということを大切にされていることが伝わってきます。

もう、自分の好きな映像や人だけを撮って「これいいでしょ?」って出してるだけじゃダメな年齢だなって(笑)。せっかく好きな仕事をさせてもらっているので、会社に貢献したいし、一緒にやってくれるみんなの目標に寄与しないと、うまく巡回していかないですよね。みんなの目標をみんなで達成したいし、絶対にひとりじゃできない仕事ですからね。

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.

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