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鳥肌が立つようなサウンドを! アーティストと試行錯誤を重ね生まれた「Nulbarich」日本武道館ライブ3Dオーディオ上映会

鳥肌が立つようなサウンドを! アーティストと試行錯誤を重ね生まれた「Nulbarich」日本武道館ライブ3Dオーディオ上映会

制作局音楽部プロデューサー 島本時、技術ICT局制作技術部エンジニア 戸田佳宏

昨年11月、初の日本武道館ワンマンライブを行なったNulbarich。この武道館ライブを臨場感あふれる3Dオーディオでお届けする上映イベント“Nulbarich 「Blank Envelope」スペシャルイベント"が6月2日(日)にイオンシネマ幕張新都心にて開催された。
NulbarichのプロデューサーにしてボーカルのJQのトークセッションに続き、いよいよ始まった本編の上映。デビュー曲「Hometown」で幕を開け、「It's Who We Are」、「Everybody Knows」、そして「NEW ERA」で武道館全体での大合唱――。スクリーンの向こうの熱気を再現する3Dオーディオによるイマーシヴ(=没入感)なサウンドによって、スクリーンを越えて武道館へとグイグイと引き込まれていく様子が見て取れた。
今回、話を伺ったのは、この3Dオーディオ上映を企画・制作した音楽部の島本時プロデューサーと技術者として当日の収録、さらにその後の3Dオーディオのミックス・編集を担当した制作技術部の戸田佳宏さん。そもそもなぜ、Nulbarichの武道館ライブで3Dオーディオによる収録が行われることになったのか? その交渉や制作の経緯から、Nulbarichのプロデューサー&ボーカルであるJQを交えての編集作業のエピソードまでたっぷりと話を聞いた。

メタル&サッカーが好きでWOWOWへ!

――まずはWOWOWに入社された経緯についてお聞かせください。

島本 入社は2013年ですね。大学時代は経済学部でしたが、ずっとバンドとサッカーに明け暮れていました。就職活動では金融や商社なども受けていましたが、エンタメ企業で働きたいという思いが日に日に強くなり、サッカーはリーガ・エスパニョーラやEURO、音楽だと人気国内アーティストからLOUD PARK(!)まで放送していたWOWOWを受けました。

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――戸田さんは技術職での採用ですね?

戸田 そうです。もともと、ライブはすごく好きで、そういう仕事をできたらと高校時代から漠然と思っていて、大学ではデジタルオーディオに関する研究室に所属していました。

就職にあたってどんな仕事があるのか? と考えたとき、技術者として音に携わるとなるとテレビ局やラジオ局となってくるんですよね。それでWOWOWを受けました。

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――入社後、島本さんは営業部、宣伝部を経て現在の音楽部に配属されていますね。具体的にどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?

島本 最初に配属された営業部では加入件数の推移を見て、加入者を増やすにはどうしたらいいか取り組んでいました。 「WOWOW ライブ」担当となり、リーガ・エスパニョーラの加入者プレゼントで選手名鑑を作ったり、ライブ会場やスポーツショップでチラシ撒きをするといった草の根的な活動もしていました。

その後、宣伝部に異動、「WOWOW ライブ」コンテンツのデジタル広告を担当するようになりました。

営業、宣伝と「WOWOW ライブ」をプロモーションして3年経ち、念願叶って音楽部に異動することになりました。今年で4年目、徐々に担当するアーティストさんも増えてきたという状況です。

――音楽部での基本的な仕事は、アーティストのライブを放送するということですね?

島本 そうですね。事務所やレーベルにこちらから「やりましょう」と交渉することもあれば、先方から「ぜひWOWOWで」とおっしゃっていただく場合もあります。

プロデューサーの仕事としては、社内で企画提案や予算調整などをしつつ、並行してアーティストとも交渉を進めていきます。話が上手くまとまったら、アーティストの要望を伺いつつ、予算内でディレクター含めどういう制作体制を取り、どのような番組にしていくかを詰めていくことになります。また、ただ良い番組を作るだけでは誰も見てくれないので、いかに番組を広めるかプロモーションプランも考えます。これは営業・宣伝の経験が役に立っていると思います。


――普段からいろんなアーティストをチェックしたり、ご自身が好きなアーティストのライブを放送できないかとアンテナを張ってるんですか?

島本 日頃から音楽ニュースはチェックするようにしています。もちろん自分が好きなジャンル、アーティストを担当できるのが一番ですが、そう上手くはいきません。どうすれば自分がかっこいい!と思うアーティストのライブを放送できるかは常に考えています。もともと僕は洋楽が好きで、しかもメタル畑なので、2017年にドリーム・シアターというプログレッシヴ・メタルバンドの武道館公演を収録、放送できた時は「夢が叶った!」って思いました(笑)。

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――戸田さんは入社後、送出技術部(現/運用技術部)に配属となり、その後、制作技術部を経て、現在はWOWOWエンタテインメント中継技術部に出向されています。ここまでのお仕事について教えてください。

戸田 これまで3つの部署を経験していますが、やってきたことは2つです。最初の4年間ほど、"マスター"と言われる放送の監視を行なう場所でシステムの保守や設備の更新をしていました。要は、放送がちゃんと電波に乗ってちゃんと出ているか? 番組表の通りにきちんと放送するためのシステムがきちんと機能しているか? というのを監視し、維持管理する仕事です。なので最初の3年半は、音声だけを専門にしていたわけではないんです。

――その後、音声の仕事に?

戸田 そうですね。音楽、スポーツ、演劇、スタジオで収録される番組や外からの中継など、WOWOWで放送される番組の収録に関わってきました。

――では、今回のNulbarichのライブを3Dオーディオで収録するという仕事は、普段の仕事とはかなり異なるイレギュラーな業務となるわけですね?

戸田 そうです。普段は通常の番組の放送に関わる音声の収録が仕事ですが、3Dオーディオというのは、いわば現段階で"放送することができない音声"ですので(苦笑)、業務としてはイレギュラーなものになります。

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9人体制の武道館公演 「Nulbarichとなら新しい提案ができる!」

――では、ここからその3Dオーディオについて深く伺ってまいります。そもそも今回、Nulbarichの日本武道館公演を3Dオーディオで収録し、それを映画館でイベント上映するということはどのように企画され、実現したんでしょうか?

島本 当初は3Dオーディオのことなど全く頭になく、純粋にWOWOWでNulbarichの武道館ライブを放送させていただくというのはどうですか?と話をさせてもらいました。何度か打ち合せをして「一緒にやりましょう」と決まった頃に社内から3Dオーディオの話が出てきたんです。

――以前、テニスの楽天オープンの試合を3Dオーディオで収録したように、アーティストのライブを3Dオーディオで収録できないかと?

島本 そうです。ちょうど3Dオーディオの社内プレゼンがあり、とても興味を持ちました。そこでNulbarichが頭に浮かび、武道館というハコ、9人体制でのライブというのを3Dオーディオで表現するのは面白そうだなと思いました。収録の交渉をしているときに「新しいことも提案できるんじゃないかな?」という感触もありまして。すぐに戸田さんと打合せをして、事務所、レーベルの方たちに提案しに行きました。
すぐに先方も「面白そうですね」と興味を持ってくださり、「まずは当日、録音してみよう」ということになりました。その後、今回のようなイベント上映の話も具体的に固まっていきました。

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「もっといい音を!」映像の進化に負けない音声の進化を目指す

――技術部の方から「3Dオーディオでライブの収録を」という話が島本さんにあったということですが、戸田さんがこのプロジェクトに関わることになった経緯は?

戸田 映像技術に関しては4K、8K、HDR...と進歩していますが、音に関しては何十年とステレオが主流。「もっといい音で聴いてもらいたい」という思いがありました。

特に最近は映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットもあって、3Dオーディオ、サラウンドが注目を集めています。WOWOWでもそういうチャレンジをしてみたいなとも思っていて、そういうことは島本とも一緒に仕事をしながら雑談のような形で話をすることはあったんです。それを覚えててくれて「やれるかもしれないですよ。一緒に先方に話をしに行きましょう」と声を掛けてくれたのが、直接のきっかけですね。

島本 ずっとバンドをやっていたということもあり、"音"に関して僕も関心はずっとありました。ライブ音源もよく好んで聴いていたし、そういう話は戸田さんともよくしていて、「面白いことができたら」と2人ともずっと思ってたんですよね。

――特に「バンドでやりたい」とか「こういうジャンルで」といった希望などはあったんですか?

戸田 僕自身、見てきたライブはバンドが一番多かったので、それをひとつ、形にできたらという思いはありましたね。

もともと、僕は洋楽のMaroon 5とか、ポップな感じが好きで、あとはジャズも結構好きだったので、そういう意味ではNulbarichはすごく好きなサウンドでした。

島本 僕もバンドサウンドかつ、聴きごたえのある音楽がいいな、と思っていました。ジャミロクワイ(※2017年、武道館で行われた来日公演ではNulbarichがサポートアクトを務めた)はよく聴いていたので、Nulbarichとご一緒できるとなり、すぐに3Dオーディオもいける!と思いました。

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JQからの課題をこなす千本ノックの日々! 最適解を求めての編集作業

――ライブで収録した素材をイベント上映用に編集していく過程では、JQさんも何度か辰巳のスタジオに足を運ばれて深く関わったとのことですが、ライブ後のやりとりについても教えてください。

島本 JQさんだけでなく、スタッフさんも何人かいらしたんですが、やはり音に関してはみなさんプロフェッショナルですので覚悟しました(笑)。まずは課題曲としてJQさんが選曲した3曲を元に全体の方向性を決めていきました。

3Dオーディオは気軽にデータを送って聴いてもらって...というわけにはいかず、直しもその場で簡単にというわけにはいかないところが難点でした。毎回、指摘を手書きでノートにまとめて"宿題"にさせてもらい、次回までに修正するということを繰り返しました。

――映像に関しては、基本的には放送時と変えなかったとのことですが、そうするとどうしても、画と音が合わない部分も出てきますよね?

島本 そうなんです。ステージ側からのバックショットのシーンもあるので、「こっち側から音が聴こえるのはおかしい」という場面は出てきてしまうんです。JQさんもそこはとても気にされていました。じゃあバックショットのシーンで、映像に合わせてバックショットからの音声に切り替えるというのも面白いんじゃないか? という意見も出たんですが、今回、初めてということでなかなか難しい部分もあって。そこは今後の課題ですね。

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先方の要望もあるし、技術側の限界もある中でのせめぎ合いはありました。「もうちょっと、あと2デシベルだけドラムの音を上げて」とか(笑)、「ライブで感じるくらいの大きさで出してほしい」「いや、これ以上出すと、他の音が飛び始めちゃいます」とか...。

戸田 合宿&千本ノックでしたね...(苦笑)。できる限り無地の状態で、僕らもどんなものが出来上がるのか想像できない状態で探り探りで、随時、アイディアや意見をもらいつつ進めていったんですが、「これでどうでしょうか?」「うーん、もうちょっと...」という連続で(笑)。

――楽器の音はもちろんですが、ライブですから当然、観客の声や拍手もあり、武道館という空間での音の響きなども重要だったかと思います。

戸田 そうなんです。楽器の音をきれいに聴かせようとすればライブ感はどんどん薄れてくし、逆に臨場感を上げ過ぎれば楽器の音がぼやけてしまう。そこはまさに、せめぎあいでしたね。

――今回の音は、日本武道館のどのあたりでライブを見ているという想定なんですか?

戸田 アリーナの10列目あたりの席、武道館のど真ん中で聴いていると想定して作りました。特に今回、仕込んだのが、日本武道館でマイクを吊るという作業でした。とはいえ、武道館って真上の天井からマイクを吊ることはできないんです。なのでスタンド席にロープを渡して、そこにマイクを吊るという方法をとりました。

武道館はこれまでも場数は踏んでいるので"鉄板"と言えるマイクの位置はわかってはいるんですが、3Dは初めてで、いつもより多めに――普段と比べると倍くらいのマイクを仕込みました。

――テニスの楽天オープンの3Dオーディオ収録も担当されたそうですが、スポーツと音楽では違いますか?

戸田 全然、違いました。特に武道館はライブ専用の会場ではなく音の反響も大きいですし、技術者にとっては難しいですね。ただ、独特の盛り上がり、音が上にフワーッと上がっていくような感じがあって、それはすごく気持ちいいですね。それをバランスよくどう伝えるか? 劇場で見せる映像に合わせてきれいに聴かせつつ、あの会場独特の残響感、雰囲気を出していくというのは大変でした。

完成されたCDの音ではなく、"生っぽさ"をいかに伝えるか?

――改めて今回のイベント上映をしてみて、感じた手応えや課題などがあれば教えてください。

島本 Dolby Atmos対応の映画館を提供いただいたイオンシネマさんがすごくイベント感を出してくださいました。また東阪の2箇所で4ケタを超える応募があり、幕張では200人を超えるお客さんに足を運んでいただけたのでやってよかったなと思いました。

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トークセッション中のJ-WAVEナビゲーター 藤田琢己さんとJQさん

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JQさん

ただ、上映が始まると、お客さんが遠慮がちで、頭や体を少しだけ振っている人たちがいるくらいで「あれ? 大丈夫かな?」と思ったんです。あとからSNSをチェックすると、お客さんのほうも「じっとしているのがつらかった」「拍手したかった」という方が結構いたんですよね。初めての経験で緊張もあって、お客さんも周りを気にしつつ「どう楽しんだらいいの?」「歓声を上げてもいいの?」と迷う部分があったんだと思います。最初に告知しておけば、もうちょっと違ったのかなと思いますし、会場自体が盛り上がるような工夫の余地はあったのかなと思います。

技術的な部分に関して言うと、先ほども出ましたが「画」と「音」の関係をどうするか? また「音」の完成度を上げることで薄れていく、"生っぽさ"、臨場感も上手く残したいと個人的に思いました。それはアーティストと話し合い、経験を重ねていく中で作り上げていけたらいいですね。

今回、1回目としていいものができたと思うので、今後、2回目、3回目と重ねていく中で面白いものができていくんじゃないかと思います。

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戸田 イベント上映に関して、感じたことは僕も一緒で、ノり方はやっぱり難しいですよね。もう少しビールを促してもよかったのかなと(笑)。

いろんな人の反応を聞いても、1回目としていいものができたのかなとは思います。"せめぎ合い"の部分は、3Dオーディオの場数を踏む中で、答えを出していきたいなと思います。

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上映後のお二人

VRの映像と3Dオーディオを組み合わせてのライブ体験も実現可能?

――3Dオーディオの可能性、今後、3Dオーディオで実現したいことなどはありますか?

島本 まず目標にしたいのは、券売して事業化するということですね。 クオリティをしっかりと担保して、お客さんが「これならお金払って見に行ってもいいかな」というレベルにまでできたらいいですね。まだまだ3Dオーディオって一般には知られていないので、気軽に映画館に見に行って、ポップコーンを片手に楽しめるような環境を作りたいですね。

さらにはVR(ヴァーチャルリアリティ)のスコープをつけて、3Dオーディオとセットで、本当にライブ会場にいるような感じで楽しめるような"体験型"の上映ができるようになったら面白いなと思いますね。

戸田 事業に関しては頭のいい人たちが考えてくれると思いますが(笑)、僕は音がコンテンツを引っ張る――画が音に合わせて作られるような作品ができたらいいですね。あとは島本も言ったように、VRと3Dオーディオを組み合わせて、異空間に連れて行けるようなコンテンツができたら面白いなと思いますね。

それと、やはりアーティストが海外に行って公演を行なうのは大変だと思いますが、今回のように映像と音がパッケージ化された形でライブの様子を海外でも見てもらい国境を超えて熱気を共有できたら最高ですね。

――WOWOWのM-25旗印では「偏愛」をキーワードとしていますが、ご自身にとってお仕事をするうえでの「偏愛」や大切にしている哲学があれば教えてください。

島本 "偏愛"ということであれば、好きなライブ(特にプログレッシヴ・メタル)があれば必ず観に行くようにしています。先日もニューヨーク出張の直後に有休をくっつけて、飛行機を乗り継ぎ、アラバマ州バーミンガムまで行ってライブ(TOOL)を見て、それからテネシー州ナッシュビルまで行って、ライブハウスでライブ(MESHUGGAH)を見るという経験をしました。ささる人にはささると思います(笑)。

バックパッカーか! という感じなんですけど(笑)、自分はそれくらい、ライブが好きなんだなと改めて感じました。とりあえず、好きなアーティストは絶対に観ると決めてます。

この仕事をしていると、これまで知らなかった作り手の裏側まで知ってしまうことで、逆に音楽を嫌いになる人もいると思うんです。でもありがたいことに自分にはそれがなくて、仕事、プライベート問わず、小っちゃなライブハウスであっても好きで行ってしまいますね。「音楽が好き!」ということに関しては自負があります。

戸田 僕、「いい音だな」と感じるとサブいぼ(※鳥肌)が立つんです(笑)。「考えるより感じろ」じゃないですけど、フッと聴き流した音が体に引っかかるというか。だから常に"サブいぼ"を探し続けたいし、その体験を多くの人に伝えたい。

去年、仕事でウィンブルドンに行った際に、現地のフェスに足を運んだらブルーノ・マーズが来てて、やっぱりすごいんですよね。あれもサブいぼ体験でした(笑)。言葉の壁の有無もあるんでしょうけど、日本と比べて現地の人のノリってすごいんですよ、すぐに叫ぶし(笑)。ああいう一体感を伝えたいですね。だから僕の偏愛は"サブいぼ愛"です(笑)。

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取材・文/黒豆直樹  イベント撮影/曽我美芽 インタビュー撮影/祭貴義道   制作/iD inc.

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