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グランドスラム最終章・全米オープンに期待!――若きプロデューサーが注ぐ、WOWOWテニス中継への情熱

グランドスラム最終章・全米オープンに期待!――若きプロデューサーが注ぐ、WOWOWテニス中継への情熱

スポーツ局スポーツ部プロデューサー 加藤弘樹

大坂なおみ選手が優勝を果たした2018年の全米オープンで、中継チーフプロデューサーとして現場の「最前線」から指示を出していた加藤弘樹。学生時代からテニスにどっぷり浸かってきた偏愛ぶりを活かしながら、より「伝わる」テニス中継を企画・製作している。WOWOWの中継を作る上で大切なことは「視聴者が知りたいことをいかにキャッチするか」「現場の空気感を、いかに表現するか」だと語る加藤。8月26日(月)には、大坂なおみの大会連覇や錦織圭の日本人男子初のグランドスラム制覇が期待される全米オープンがいよいよ開幕。その見どころや、これからのテニス中継のあり方について存分に語ってもらった。

テニス班を離れて得た経験が、プロデューサーとしての信頼につながった

――加藤さんはどのような動機があってWOWOWに入社されたのでしょうか?

小学5年でテニスと出会い、学生時代から今までずっと熱中してきました。レッスンや部活で練習に明け暮れながら、複数のテニス雑誌を定期購読して世界の選手の情報を得ていましたし、夜更かししてはWOWOWのテニス中継を見ていました。

当時、今と比べてテニスの放送自体が極端に少なかったのですが、そんな中でWOWOWでは、マニアックな人しか知らないような海外の選手の試合を、最初から最後までしっかり放送していました。他と比べてオンエア時間もすごく長いんです。だから就職活動を始めた時に、「この会社に入れば、長い時間テニスに接することができそうだな」「憧れの選手にインタビューできるかも!」と思ったのが大きな動機ですね。

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――その夢が叶い、晴れて2010年にWOWOWへ入社。入ってみて感じられたことはありますか?

テニスのことで言いますと、僕が入った当初は、世間でも社内でも今ほどテニスが注目されていませんでした。それが2014年の全米オープンで錦織選手が準優勝したのを境に、ガラッと激変したんです。新聞やニュースも、みんながテニスに注目していて、みんなが結果を知っているぐらいのブームとなり、地上波での放送も一気に増えました。その大きな変化を肌で感じていますね。

――現在のテニス班プロデューサー職に就くまで、どのようにキャリアを積まれたのでしょうか?

入社1年目は番組宣伝部に配属され、その後カスタマーリレーション部も経験しました。新入社員自己紹介の時に「テニスの仕事をやりにきました!」と言ってひんしゅくを買ったほど(笑)、当時はとにかくテニスの仕事がしたいとあらゆる場面で言い続けていましたね。

スポーツ部テニス班に異動できたのは入社3年目の7月。その後は一度ボクシング班へ異動になり、また日本テレビのスポーツ部への出向期間を経て、2018年からはテニス班に戻りました。

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――日本テレビへの出向中はどのような業務を経験されたのですか?

2016年から1年間、ADやディレクター業務、それこそ台本作りから実況席のフロアディレクターといった、現場の仕事をさせてもらいました。WOWOWにいるときは制作会社のみなさんにお願いしていたことを、いざ自分でやってみることで、その仕事に就いている方々の気持ちや大変さがよくわかりました。

―― 一番印象深かった出来事はなんですか?

2017年、ボクシングの山中慎介さんの世界戦を生中継する「山中慎介世界戦The REAL25」という番組で、ハワイのブライアン・ビロリア選手の試合のスイッチングをやらせてもらいました。会場のあらゆる場所に設置した11台のカメラを、モニターを見ながら切り替え、インカムを使って各カメラマンへ指示を出していくんです。人生初の「11カメ」に、手が震えました。

本番の数日前から、何度も何度も脳内でイメージトレーニングを繰り返して臨んだのですが、いざこれからという瞬間に、パーンと頭が真っ白になってしまって。そばで見てくれている先輩が「おい加藤、大丈夫か!」って声をかけてくれたんですが、正直まったく大丈夫ではなかった(笑)。

それでもCMが明ける数秒前に平常心を取り戻し、手の震えは止まらないままでしたが40分間すべての指示を出し続け、なんとか無事に進行することができました。終わって放心状態だった僕に、いつもは厳しかったカメラマンさんが「今回の指示、よかったよ」と言ってくれて...号泣してしまいました。

――加藤さんが出向期間に「現場」で学んだ体験は、今の仕事にどのように活きているのでしょうか?

一番大きいのは、ディレクターさんや外部の制作会社の方と話す時に、現場を知っている人間として、より信頼していただけるようになったことですね。「現場を見てきて、加藤くん変わったよね」と言っていただけることもありますし、そこは力になったなと。

また、決断力もつきました。WOWOWはCMもそれほどないので、どっしりと構えていられるのですが、地上波ではかなりスピーディに物事が動くんです。現場で優秀な人たちは、みなさん決断が早いんですよ。この人の働き方好きだなと思ったら、自分もトレースするようにしていました。

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最前線で大坂選手を追いかけた全米オープン。今年は世界の若手選手にも注目!

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――大坂なおみ選手が日本人初となるグランドスラム制覇を果たした、2018年の全米オープン。加藤さんは、その中継のチーフディレクターを務められました。加藤さんの先輩にあたる須川プロデューサーも語っていましたが、大坂選手がセレナ・ウィリアムズ選手を制した決勝戦では、試合から表彰式まで、異様な雰囲気だったそうですね。

確かに異様な雰囲気でした。僕は現場のスタジオからインカムで各所に指示を出していました。優勝セレモニーのすぐ後に大坂選手にスタジオへ来ていただき、僕たちがインタビューさせていただく段取りを大会側と組んでいたのですが、先にアメリカのテレビ局の取材が始まってしまいました。関係者に電話をかけてもつかまらなくて、どうしよう...と。

ただ、会場内の導線として「彼女は確実にこのルートを通るだろう」という見当をつけることはできたんです。そのときコートサイドにいたカメラマンさんに「このあたりで張っていて、大坂選手が来たら追いかけてください!」と指示を送りました。結果、通常の撮影では入れない会場内の通路を通って放送スタジオへ入るところまで、WOWOW独自のカメラで大坂選手の動きをずっと追うことができました。

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――予想外の展開ですから、現場での臨機応変な対応が求められますよね。

そもそも、大坂選手が決勝戦まで残ることも僕らの中で予想外だったんです。だから当初は決勝戦よりも前にカメラマンさんが帰国するスケジュールを組んでいました。でも、決勝の3~4日ぐらい前から「優勝の可能性、あるな」と。

大急ぎでカメラマンさんのスケジュールを確認して延泊のお願いをし、航空券やホテルも全部取り直して、決勝戦まで残っていただきました。だからこそ撮れた映像でしたね。

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――いよいよ2019年の全米オープン開幕となりますが、WOWOWらしい中継をどのように作ろうと考えていますか?

2019年のグランドスラムの最後を飾る大会として、新しいことをやろうというよりは今まで通り「ありのままをきちんとお伝えすること」が大事だと思っています。特に全米オープンはWOWOWの独占放送となるので、お客さまが知りたいことを余すことなくお届けできるようにしたいです。

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――今回の見どころは、どんなところでしょうか?

まずは、ディフェンディング・チャンピオンとして登場する大坂なおみ選手。全仏、ウィンブルドンと少し調子を落としてしまっていますが、彼女が得意なハードコートシーズンなので、復活を期待したいですね。錦織選手も去年ベスト4でしたから、今回も頑張ってほしいです。

個人的には、外国の若手選手に注目しています。女子ではウィンブルドンでも活躍したコリ・ガウフという15歳の選手。USTA(アメリカのテニス協会)の規定で、16歳以下はワイルドカードを使って主催者推薦で3大会まで行けるのですが、彼女は今年その3枚を使い切ってしまったんです。

今の規定でいくと全米には出られないのですが、強くて人気もあるので、アメリカとしては全米オープンに何としても出したい。そこで今、USTAは急いで規定を変えようとしてるらしいです。もし彼女が出ることになったら、面白くなるはずです。
(※このインタビュー後にワイルドカードでの出場が決まりました。)

男子で注目したいのは、19歳のフェリックス・オジェ・アリアシム選手。強くてセンスがあるので、期待しています。他にもシャポバロフ選手、チチパス選手あたりが上がってきてくれれば、大会が面白くなりそうですね。

ポスト錦織・大坂時代まで、
テニス界を盛り上げ続けるために

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楽天ジャパンオープンテニス
9月30日(月)~10月6日(日)連日生中継

――錦織圭選手が準優勝した2018年9月の楽天オープンでは、プロデューサーとしてどのように関わっていたのですか?

楽天オープンは、唯一国内でやるATPツアーなので、画作りから考えることができるんです。試合の中継はもちろん、各選手へのインタビューや、注目の選手を連れ出してロケ撮影を行うこともあります。一度、ラオニッチ選手を浅草に連れて行って模造刀を持ってポーズしていただいたのですが、こうした企画を考えたりするのも楽しいです。

昨年も、イケメンのチチパス選手に日本人の親戚がいて、日本のことが好きだと聞いていたので取材を申し込んでいました。会場が武蔵野だったので、近くの深大寺に連れ出してお蕎麦を食べてもらうというロケの準備を進めていたんです。しかし、なんと当日に台風が直撃してしまってすべてがキャンセルに...あれは残念でしたね。

――インタビューやロケの映像は、どのように放送するのですか?

中継番組の試合と試合の間の時間に入れます。試合中は選手たちがすごいプレーを見せてくれているので、僕らが特に味付けをするところではないんですが、試合の合間に何をやったらお客さまがより楽しんでくれるかな...と考えながら作っています。

そうした取材がNGの選手もいますし、マネージャーさんからノーと言われることもあります。「前日が激しい試合だったから今日は回復につとめたい」と急なキャンセルもありえます。そうした中で、面白い映像が撮れたときは嬉しいですね。

――そうした企画を考えるのも、WOWOWのプロデューサーの仕事のひとつなのですね。

もちろんディレクターさんをはじめ、みなさんと協力して作っていますが、発案自体はプロデューサーの仕事ですね。面白そうな企画を考えて、選手のマネージャーや大会側など関係各所に話を通すので、交渉力や人脈も必要な仕事かもしれません。

――そこがプロデューサーの腕の見せどころになると思うのですが、加藤さんはどんなところに力を入れていますか?

僕の理想のテニス界は、今人気の高い錦織選手や大坂選手が引退してしまった後でも、テニス中継が盛り上がっていることなんです。今でこそテニス中継はとても人気がありますが、だからこそそれに甘えていては危ないなとも思っています。

日本でベッカム選手が人気だったとき、「サッカーは興味ないけどベッカムはかっこよくて好き」という人がいっぱいいましたよね。僕は今、その状態をテニスでも作りたいんです。強くてイケメンな外国の選手はたくさんいますし、彼らの魅力を引き出して、伝えたい。だから、今からそうした企画に力を入れていきたいなと考えています。

――ずいぶんと先の先まで見ているのですね。

本気で、危惧しています。楽天オープンもこの数年は錦織人気でずっと完売しているのですが、昔僕が見に行っていた頃は本当にガラガラだったので。あの状態に戻ってしまうのは、いちテニスファンとして残念だなと。

微々たる力かもしれませんが、「WOWOWを見てこの選手が好きになりました」といった人を少しでも増やせれば、テニス自体がもっと盛り上がるんじゃないかなと思っています。

WOWOWとして新しい中継技術にもチャレンジしていきたい

――2019年、第41回全国選抜高校テニス大会の配信では、「リモートプロダクション」という技術に挑戦されたそうですね。これはどのような技術ですか?

ものすごく簡単に言うと、試合会場に設置したカメラの映像を、インターネットで辰巳の中継ベースへ送り、辰巳のほうでカメラのスイッチングや画面のトリミングを行い編集するというものです。これにより現場で動く人員を減らせるので、コストを大きくカットできるんです。

――加藤さんはその時、どこでどのようなことをしていたのでしょうか?

僕は福岡の試合会場から、現地のカメラマンさんのほか定点カメラやリモートカメラなどで撮った4Kの画像を辰巳に送っていました。現場で全体の動きを見ながら「今、スコアはこうなっています」とか「次は○○高校の△△くんが出ます」という状況を辰巳のスイッチャーさんに伝えながら、指示を出すんです。

――リモートプロダクションを取り入れての中継は、WOWOWとしても新しい取り組みだったのでしょうか?

海外の放送局ではやっているところもあるのですが、WOWOWとしては新しいチャレンジのひとつでした。実際やってみたら相当大変で、成功できたかというとフィフティ-フィフティです。1~2日目はいくつか不具合が出てしまい、試合後にホテルのロビーでみんなで集まって頭を抱えていましたから。大会最終日の3日目に、ようやく成功しました。

――まだまだ課題はあるけれど、収穫も得たということですね。

僕自身、新しいことに挑戦するのは好きですし、技術チームとやりとりしながら新しい知識も得られたので、大変でしたが楽しかったです。ピンチであればあるほど、すごい燃えてくるんですよね(笑)。映像新聞の1面にも取り上げていただきましたし、今後の中継作りの上でも貴重な経験にはなりました。また来年も新しいことを試してみたいです。

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誰もが「行った気持ちになれる」グランドスラム中継を作りたい

――WOWOWのM-25旗印では「偏愛」をキーワードとしていますが、ご自身ではテニスへの偏愛について、どう思われますか?

僕の生活の中心は、間違いなくテニスですね。毎週月曜は世界ランキング発表の日なので、朝起きてすぐにスマホでランキングを見ます。ざっと100位ぐらいまでを見て、急激にランクが上がっている選手がいたら、なぜ上がったのかを調べます。もはや、株価をチェックしているような感じですね。その情熱を株に注ぐことができていたら、もっと資産を築けていたような気がします(笑)。

――常に世界中の選手たちの動向を把握しているんですね。

世界ランキング100位ぐらいまでの選手は常に追っています。スター性のある選手は、プレーを見たときにセンスを感じるというか、「ここでこのショット打てるんだ、すごいな」って思わせてくれる瞬間がたくさんあります。そうやって目をつけていた選手が上がってくると、嬉しいですね。

――注目の選手は、どのように見つけているんですか?

それこそ今はWOWOWのオンデマンド放送で世界のプレーを配信しているので、いろんな試合を見られるようになりました。会社のデスクで作業をしている時も、横にスマホで映像を出して見ながらやることもありますし、なるべくいろんな試合をチェックするようにしています。

現場や記者会見の会場では、テニス誌の記者さんたちと雑談する中で情報交換をすることも多いです。「○○っていう選手、知ってる? あの子はすごいよ」って教えてもらったり、逆に僕のほうから「この間ジュニアの試合で○○っていう子を見たんですけど...」といった感じでよく話しています。

――ジュニアの選手にも注目されているんですね。

僕、ジュニアの試合を見るのが好きなんです。「この子はくるな」と目星をつけておいて、実際その選手が上がってくると「やった!」と。

今年のウィンブルドン大会でジュニア優勝した望月慎太郎選手も、社内で「この子、すごいですよ!」って前から言っていたんです。まだ世間が彼に注目していなかった全仏オープンの大会中、今後使えるかもしれないと思って、マイクを持って自己紹介してもらった映像もありますよ。あれは撮っておいてよかったです。彼の今後も楽しみですね。

――加藤さんにとってテニスの魅力はどこにあるのでしょうか?

1対1で、勝敗が完全につくところが好きです。サッカーや野球だと自分が絶好調でも誰かがミスしたら負けてしまうこともあります。でもテニスはすべてが自分次第で、他の要因なんてひとつもない。その勝ち負け、白黒がつくのが僕の中では魅力でした。

初対面の人とだったら、この人はどこが苦手なのか、どこを攻めたらいいのかを対戦しながら分析して、弱点を攻めてみたり、逆をついてみたり。そこに、自分の調子とメンタルのコントロールも加わって...その駆け引き、ゲーム感覚が最高に面白いですね。

――では最後に、今後目指していることを教えてください。

グランドスラムの中継でいえば、まず第一には、お客さまが見たいと思うことをちゃんと把握できることが大事だと思っています。お客さまが見たいものとずれていないか、ひとりよがりになっていないかは、常に気を付けていたいです。

もうひとつは、グランドスラムって、現地に見に行くのにお金も時間もかかり、なかなか大変ですよね。だからこそ、オンエアを見て現場の空気感まで伝わるようにしたいです。「行った気持ちになれる中継」を、2週間通してやりたいですね。

現地の試合に行くと、至る所に掲示板があって、現在どのコートでどの試合がどういう結果になっているのかがわかるんです。それを放送でもやりたいですね。今も、中継の裏でなるべく他の試合結果を出してはいるのですが、まだまだ足りません。お客さまが番組をテニス中継に合わせたら、「今日、この試合でこんな番狂わせがあったのか」というような情報を、もっと提供できるようにしたいです。再来年ぐらいには、実現できるように動いています!

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取材・文/古俣千尋  撮影/祭貴義道  制作/iD inc. 

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