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リモートプロダクションでしかできないコンテンツを生み出したい! 時代の先端を行くWOWOWのリモートプロダクション

リモートプロダクションでしかできないコンテンツを生み出したい! 時代の先端を行くWOWOWのリモートプロダクション

WOWOWエンタテインメント 石村孝之 × WOWOW 技術企画部 石村信太郎

新型コロナウイルス感染症の拡大による自粛期間中にわずか数週間で制作・配信されて話題を呼んだWOWOWオリジナルドラマ『2020年 五月の恋』でも注目を浴びたリモートプロダクション。"リモート"という言葉から、離れた場所で制作されている...ということはわかるけど、実際、どのような技術が活用されていて、どんなメリットがあるのか? 今回、登場いただくのはWOWOW Labにてリモートプロダクションの技術開発を進めている石村信太郎と石村孝之のふたり。驚くべきスピード感で進化を遂げ、実績を積み重ねてきたWOWOWのリモートプロダクションについて、たっぷりと話を聞いた。

入社1年目で感じた「好きなことをやっていい」という自由

――入社されてから、これまで担当されてきたお仕事の内容について教えてください。

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石村孝之:2001年に新卒で入社し、最初に配属されたのは"マスター"という放送の最終段階を担当する部門でした。その後、2009年に制作技術部という部署に異動したんですが、そこで回線という部門を担当し、生中継の回線の手配や運用をしていました。2017年より現在のWOWOWエンタテインメントに出向しています。

WOWOWエンタテインメントでの仕事ですが、当初はテレビリモコンの「字幕」というボタンを押すと出てくる字幕の制作を管理したり、今後使えなくなるHDCAMのファイルをいまのうちにサーバーに保管していくというアーカイブの管理などを行なっていました。

そこから、自分の得意分野をWOWOWエンタテインメントでも広げていければと考えて、以前やっていた回線の業務であったり、WEB配信に関連する業務、技術開発などにも取り組むようになりました。

――WOWOWに入社を決めたきっかけは?

石村(孝):大学時代は電気電子工学科という、いわゆる「理系と言えば」という学部にいまして、特に目的意識があったわけでもなくほとんど勉強もしてなかったんですけど(苦笑)。

ちょうど就職活動をしている時期に、その年の2000年12月からBSデジタル放送が始まることを知ったんですね。普通にメーカーなどに就職することも考えてはいたんですけど「何か面白いことがしたいなぁ」と考えている中で、特にWOWOWがBSデジタル放送に力を入れているということを知って、他局に比べても自由度が高く何か新しいことができるんじゃないかという想いもあってWOWOWを志望しました。

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石村信太郎:私は2015年新卒入社で、孝之さんと同じく最初はマスターに配属され、約3年ほどそこで働きました。4年目のタイミングでいまの技術企画部に異動となって、技術開発関連でR&D(研究開発)業務を行なったり、このWOWOW Labの推進のためにいろいろな取り組みをしています。

リモートプロダクション関連では、もともと1年目の頃から「Live Multi Viewing」という、低遅延のマルチアングル配信アプリに携わっていて、それをずっと続けていく中で、今回のリモートプロダクションというものが派生して出来てきたという感じです。

――特にこれまでの業務の中で、印象に残っていること、また現在の業務に活かされているプロジェクトについて教えてください。

石村(信):仕事の内容というよりマインド的な部分なんですが、1年目の秋に「TOUCH! WOWOW 2015」というイベントが開催されて、そこでプロジェクションマッピング企画があったんですね。私自身、学生時代はプロジェクションマッピングを制作していて、ある飲み会で、その「TOUCH!WOWOW」に関わっている人と話をする機会があり、「じゃあチームに加わりなよ」と言われて、マッピングのメンバーに参加させてもらうことになったんです。

そこで結構、好き勝手にあれこれ言ってたら、それが採用されたりもして、「好きなことを提案し、それをやらせてもらえる自由度があるんだな」と感じられた経験が、その後のR&Dやいまの仕事における、いろいろな提案をして予算を取ってきて、プロジェクトを進めていくということにつながっているんだなと思います。

――石村(孝)さんが現在所属されているWOWOWエンタテインメントという会社はどのような会社なのでしょうか? WOWOWとの業務や社風の違いなども含めて教えてください。

石村(孝):会社自体はもともと、音楽のイベントやレーベル事業を行なうために出来た会社です。

WOWOWには音楽や舞台の撮影・中継をしている部門があり、当初はWOWOWの番組だけを制作していたんですが、業界から非常に高い評価をいただけるようになって、中継車を活用してWOWOW以外のコンテンツも中継するようになりました。

せっかくそれだけの技術力があるのだから、きちんと分社化してそこでしっかりと収益をあげていこうという流れになり、WOWOWエンタテインメントに中継技術部門が2015年4月に加わる形になりました。

それからまたしばらくして、技術部門をWOWOWエンタテインメントの中でもより大きくしていこうという方針のもと字幕制作もスタートすることになり、そのタイミングで僕はWOWOWから出向することになりました。先ほどもお話ししたように、そこから回線やWEBなどの業務が増えていきました。

社風に関しては結局、WOWOWエンタテインメントの本社が辰巳の放送センター内なので、基本的にはWOWOW技術局の雰囲気がそのまま残っている感じですね。WOWOWって辰巳と赤坂の本社でわりと雰囲気が違うとも言われてますけど...。

石村(信):そうらしいですね。僕らはずっと辰巳なので。

石村(孝):こちらの周辺の環境によるところも大きいと思いますが、自由でのびのびとした、開放的な雰囲気がありますね。実際、自分が字幕制作だけでなく、いろんなことをやるようになったのは「自由になんでもやってみていいよ」と言ってもらえたのも大きかったですし。

――所属は別の会社となっても、勤務地は同じだったということなんですね。

石村(孝):そうなんです(笑)。所属が変わっただけで場所は同じなので、本当は「気持ちを入れ替えて」とならなきゃいけないところなんですけど...。WOWOWとの関係という意味でも、言ってみればWOWOWエンタテインメントから見てWOWOWはクライアントになるわけですけど、最初は戸惑いもありましたね。とはいえ、そこも時間が経つにつれて慣れてきて、いまは(隣の石村(信)を見て)プロデューサーって感じです(笑)。実際、技術開発案件は何度かやってますが、彼がプロデュースしてますからね...。

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コスト&時間の削減に「密」の回避...リモートプロダクションがもたらす革新

――その技術開発のプロジェクトのひとつとして「リモートプロダクション」のプロジェクトを一緒に進められてきたということですね?

石村(信):そうですね。プロジェクト自体はTBSさんと共同で進めているのですが、その中でのWOWOWの調査研究ということで2年ほどやってきました。

――ここからそのリモートプロダクションについて詳しくお話を伺ってまいります。「そもそもリモートプロダクションとはどういうもので、それによってどんなメリットがあるのか?」を説明していただけますか?

石村(信):通常、例えば福岡でイベントが開催され、その模様を中継するとしたら、多くのスタッフが現地に行くことになるわけです。スイッチングをする人もいれば、ディレクターもいるし、カメラマン、音声、それをミックスする人などもいます。そうして全員が現地に行って制作し、生放送・生配信であれば、その素材が一度全て辰巳に届けられ、放送・配信されます。

それに対し、「現地に行く人数を減らすことはできないか?」というのが基本的なリモートプロダクションのスタンスです。この辰巳の放送センターが拠点なので、多くのスタッフはここに残り、本当に必要なスタッフだけが福岡に行き、必要なことだけを現地でやってもらいつつ、いままで現地でやっていたことを辰巳でやれるようにすることで、移動費や宿泊費、時間などを含めて効率化していくことができるんじゃないか?というのがリモートプロダクションの考え方ですね。

さらに最近は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、現場に全員で行くことになると、スペース次第で「密」にならざるをえないので、密を回避するという点でもリモートプロダクションが注目を集めています。

――石村(孝)さんは、どのようにこのリモートプロダクションのプロジェクトに参加されることになったのでしょうか?

石村(孝):先ほども少し話に出たとおり、もともとLMV(Live Multi Viewing)というプロジェクトから派生してこのリモートプロダクションの企画は動いているんですが、僕自身、LMVを運用する立場としてプロジェクトに参加していたので、そのままの流れでこのリモートプロダクションのほうにも参加させてもらうことになりました。基本的には私も一緒に開発はするんですが、私の場合、その運用(オペレーション)を行なうこともあります。

――LMVは、スポーツ観戦などに使用されるアプリで、複数のカメラによる視点をすぐに切り替えて見ることができるというものですね?

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石村(信):そうです。低遅延で、マルチアングルで映像を配信することができるスマホ用のアプリです。LMVの持つ「低遅延性」というのが、ほかのものと比べても優れているんです。リモートプロダクションの場合、実際に現地に人がいるわけではないので、現地の映像を見ながらオペレーションをしないといけなくなります。いままでのやり方だと、映像が遅れて届いてしまい、その遅延した映像を見ながら指示を出していくと、全てが後手後手に回ってしまいなかなか作りたい映像が作れないんですね。

それがLMVの低遅延をうまく活用することで、映像をすぐに送ることが可能になり、意図した映像が作れないというストレスが軽減されるようになりました。

ギリギリアウト...? 最初のリモートプロダクションの苦い経験が生んださらなる進化!

――これまでのWOWOWのリモートプロダクションの歩みを見ていきたいと思います。最初の試みはどのようなものだったのでしょうか?

石村(信):リモートプロダクションにつながった試みとして挙げられるのは、2018年冬の「慶應チャレンジャー」というテニス大会です。「(番組制作を)ソフトウェア化する」というコンセプトのもと、手作りソフトウェアでテニス大会の番組を作り、大会の模様は「テニスデイリー」というサイトで配信を行ないました。ハードウェアだと機材も非常に多く必要となるのですが、パソコンのスペックも上がってきているので、1台のパソコンの中で「スイッチャー」「スロー」「CG」などの複数のアプリを連動させて、番組を作れるんじゃないか?というチャレンジでした。ただ、当時はリモートプロダクションのことは全く考えていませんでした。

その後、ここまでできるのであれば、リモートでそれを制御できるのじゃないか?ということで行なわれたのが、2019年3月に福岡で開催された「全国選抜高校テニス」の制作で、これが最初のリモートプロダクションの試みでした。

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石村(孝):これは...相当、トラブったんですけど...(苦笑)。

石村(信):東京側に孝之さんがいて、僕は福岡側にいたんですけど、こっちの初日の夜は、もう全員クタクタでした(苦笑)。2日目、3日目でなんとかやりたいことが見えてきたかな...くらいのところで終わった感じでしたね。

石村(孝):ギリギリアウトくらいで終わって(笑)、人の数だったり、スペックだったり、いろんな部分の目測を誤ってしまいましたね。その失敗を糧にして、2019年の8月にやったのが「四日市ATPチャレンジャー」でした。

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――基本的にリモートプロダクションはテニスの大会で行なっていくというスタンスなのでしょうか?

石村(信):最初が福岡のテニス大会で、それがアウトだったこともあり、まずはテニスでしっかりとした番組を作りたいというのがありました。

ただ、今年に入って新型コロナの影響などもあって、これまでの2年間で積み上げてきた経験をもとに、「OTTAVA(オッターヴァ)」(※クラシック音楽専門のインターネットラジオ局)の協力を得て、「The Concert at Home」という企画を立ち上げました。そこで、リモートで音楽番組を制作・配信したり、新たな挑戦にも踏み出しました。

――苦い経験となった最初の福岡での全国選抜高校テニス大会から、どのようにして「成功」を導き出していったんでしょうか?

石村(信):いきなり理想をやろうとしてもうまくいかなかったのが福岡でして(苦笑)、やはり最初の段階では機材も人間もどうしても多くなってしまうんですね。番組と連動している以上「できませんでした」では済まないので。

ただ習熟していく中で、徐々に「ここは削れそうだね」という具合に減らしていけました。そうして、経験値を上げていくことで少しずつ成熟させていくというのが、地に足をつけて研究開発していく上で重要なことなんだなとようやく気づいて、実施出来たのが2020年冬の「ITFジュニアテニス大会」の配信でした。

――最初の福岡が2019年3月ですから、傍から見たら相当な速さでの進化に思えますが、ご自身ではいかがですか?

石村(信):頑張ったんじゃないかと...(笑)。

石村(孝):スピードはわかりませんが相当な進化だと思います。先ほども言いましたが、福岡は正直、コンテンツとして成り立っていなかったので、次の四日市はせめてコンテンツとしては成り立たせよう、普通にテニスを中継しようという想いで臨んで、それはなんとかできたんですね。

ただやはり、テニス中継はできたけど、クオリティという点で「画質が悪い」とか「色がおかしい」とかいろんな問題が出てきて、それを解決しようとすると、現地に多くの人を充てないといけなくなるけど、それじゃそもそものコンセプトと違ってきてしまう...。そこでなるべく人を使わずクオリティを上げるにはどうしたらいいか? ということを考えながら、スピードアップも図りつつ、やってきました。

四日市では4Kのカメラを固定して引き気味に撮って、HDだとその4分の1のサイズなので、その映像をくり抜いて使用して、カメラワークをしているように見せていたんですね。ただ、これだけだと、アングルによってはうまくハマらなかったり、屋外の会場だったので夕暮れが近づくにつれてどんどん暗くなっていくといった問題がありました。そこで、カメラそのものの制御もリモートでできないか?と考えて取り組みました。

僕らはリモートプロダクションのコンセプトとして「低コストで」というのも重要視しています。結果的に、三脚の上に載せたカメラを動かす雲台はネットで見つけた15,000円くらいのものを使用したり、カメラも本来、プロ用のものは100万円を超えたりするんですが、十数万円のカメラを使用してみたり...。とはいえ、やはりコストが安くなれば、そこでまたいろいろと問題も出てくるんですがね(苦笑)。

そのあたりの問題を何とか解決しつつ、「The Concert at Home」での経験も積みつつ、ようやく満足のいく結果を得られたのが12月の「ITFジュニアテニス大会」だったのかなと思います。

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石村(信):配信ということであれば、放送と比べてやはり、そこまで厳しくないというのもあって、いろいろチャレンジできたというのもあったと思います。放送で「止まっています」ってなったら大事故ですから(笑)。逆に言うと、放送ではそうした事態にならないように、予備という部分も含めて多くのお金がかかっているわけです。一方で配信であれば、最低限守らなくてはいけないクオリティを担保していれば、そこからさらに「攻める」方向にコストを費やせます。そこがうまくマッチして、生配信でいろんな新しい試みをやれているのかなと思います。

吉田羊も称賛した『2020年 五月の恋』の制作の現場 異なる"文化"をつないだ技術

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――新型コロナウイルスによる自粛期間中には、オリジナルドラマ『2020年 五月の恋』がリモートで制作され、配信がされました。この作品もかなりの急ピッチで制作されたということですが、その経緯などについて教えてください。

石村(信):あれはうちのドラマ制作部からそもそもの話が始まって、WOWOWエンタテインメントに直接、話が行ったんですよね?

石村(孝):そうですね。うちに「リモートでやってる技術を使ってできないか?」という相談があって、そこから大急ぎで「ああしましょう」「こうしましょう」と進んでいった感じでしたね。

石村(信):リモートの仕組み自体は全然違うんですけど、最初からあった「ソフトウェアにする」というコンセプトは共通していて、ソフトウェア上でやっていくというこれまでの経験があったので、孝之さんが「こうしたらどうですか?」と提案していただき、作っていった感じですね。

石村(孝):あの作品は生配信ではなかったんですが、別々の場所にいる男女の物語として、実際に別々のスタジオに俳優さんがいて、監督はここ(=WOWOW Lab)にいるという状態で、監督はここから各スタジオへの指示などを行ないました。撮影監督もここにいました。

最終的にはそれぞれのスタジオで撮影された映像を編集するんですが、あらかじめ配信する際の画を「こんな感じ」とイメージしておくと編集作業が非常に楽になるので、なるべく完成形に近い映像をここで見られるようにしていました。

201202_features_coldcase3_gogatsunokoi.jpg『2020年 五月の恋』より

――主演の吉田羊さんは『2020年 五月の恋』について「この作品にはこういうスタッフが必要だと判断し連れてこられる、ある種の勘の良さもWOWOWさんの強みだなと思います」とおっしゃっていました。

(「もはや"日本版"という肩書きは要らない」 吉田羊、自負と誇りを持って臨んだ『コールドケース3 ~真実の扉~』より)

石村(孝):それは本当にこれまでの経験があったからこそですね。それがなければここまで柔軟にはできなかったと思います。ドラマって通常は専門のスタッフで作っていくので、いままで僕らは全く関わったことがなかったんです。そういう意味で"文化"が違うというか、急に無茶なお願いが来たりするんです(苦笑)。おそらくドラマの世界ではそれが当たり前のことなんでしょうけど、「え? マジで?」と思うようなこともあったんです。でも、それでもソフトウェアだからこそ対応ができたんですよね。

例えば、それまで16:9の画角で撮ってたんですけど、「やっぱりちょっと上下に黒帯がほしいなぁ」と言われて...。でもソフトウェアだとちょっといじったら、すぐできちゃうんです。ドラマ制作部のスタッフはいまでも「中継の人にお願いすれば、簡単にできるんだ」って思ってるかもしれないですが(笑)。

そういう意味で今回、ドラマ制作部と我々"中継屋"の文化の違いを埋めてくれたのがソフトウェアだったのかなと思います。それにしてもあり得ないスケジュールでしたけど(笑)。

石村(信):撮影の前々日くらいの段階で、決めなくちゃいけないことが20個くらいありましたよね(笑)

石村(孝):そもそもゴールデンウィーク明けくらいに話が来た段階で「2週間後に何とかしたい」って...。その段階ではまだまだ決まってないことだらけだったんで(笑)。

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実験ではなく常に"本番"でノウハウを積み重ねていく強さ!

――これまでこうしてリモートプロダクションの実績を積み重ねてきて、おふたりが感じるリモートプロダクションにおけるWOWOWならではの特徴、強みはどういった部分にあると思いますか?

石村(信):WOWOWはリモートプロダクションであっても、わりとバカ正直に"番組"としてちゃんと制作しているので、僕らも「リモートなので」という言い訳ができず、それだけ「ちゃんとしたものを作らなきゃ」という想いでやっています。

そうして僕らはこの2年間でそれなりの実績を作れてはいるんですが、周りを見渡すと、 "実験"レベルなのではないかという印象です。お金もすごくかかっていると思います。

僕らは完全に独自のシステムによるオリジナルで、低コストを意識して作っているので、案件をいくつも抱えることができるし、それがノウハウの蓄積にもつながっています。安いからこそ実績をいくつも重ねることができ、リモートプロダクションに関する知見が高まっていっているというのはWOWOWの何よりの強みなのかなと思います。

石村(孝):そうですね。「機会が得られる」というのは何よりも大きいですね。普通だとここまで思い切って、自由にできないと思いますがWOWOWだと「いいんじゃない?」って。まあ、それで1回目はコケたわけですけど...(苦笑)。

石村(信):意外とスルっと企画が通っちゃうんですよね。

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石村(孝):そうなんだよね。「いいじゃん。面白そうじゃん。やってみなよ」って(笑)。そこが最大の強みだし、最初から「これは実験です」となると、みんな本気にならないんですよね。展示会などじゃなく、実際にメディアに乗って多くの人の目に触れる番組となると、開発段階から真剣にやらなくちゃいけないなってなりますし。そういう"場"を与えてくれるというのがWOWOWのいいところだなと思いますね。

――逆に今後、さらに改善すべき点などもあれば教えてください

石村(信):「ITFジュニアテニス大会」を終えて、クオリティという点においてはある程度の部分まで達することができたかなと感じています。その一方で、1つずつの機材に関しては、まだ安定を優先してオーバースペック気味にしている部分はあるので、低価格化とスリム化のバランスをチューニングして、より気軽にリモートプロダクションを実現するにはどうしたらいいか?というところを突き詰めていく必要があるのかなと考えています。

石村(孝):まだまだ現場に行っているスタッフはそれなりにいるので、そこを減らすためのリモートプロダクションとして、その現場の負担をいかに減らしていくか?ということについては話をしていますね。

リモートプロダクションがもたらす新しい生活様式における"未来"

――おふたりが考える究極のリモートプロダクション、将来的にリモートプロダクションで実現させてみたいことを教えてください。

石村(孝):あんまりほかのコンテンツをまだ想像できていなくて、テニスで考えてしまうんですが、実現させたいのは「無線」ですね。僕は今回、現場を担当させてもらったんですが、先ほども言いましたように、いかに現場の負担を減らせるか? 極端な話、1~2人で、機材を置けばできるくらいにまでなったらいいなと思っています。カメラを置いて、無線で映像を飛ばして...ということができたらいいですね。

あと、そもそも国内での中継に関しては、リモートプロダクションのメリットってそこまで大きくありません。せいぜい減らすことができるのは、食事や移動費、宿泊費といったところなので、海外まで行かないと本当のメリットは生まれないのかなと感じます。なので海外で無線でできるようになったらいいですね。回線の帯域といった部分でのハードルも上がるんですけど、そのあたりもクリアして、実現できたらと思います。

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石村(信):無線でアップロードというところまでできるようになったら、カメラと必要最低限の機材さえ置けば、自宅から配信することもできるようになり、そうなると離れた拠点にいる人たちが気軽にコラボレーションできるようになりますよね。それを世界規模でできるようになったら、海外の有名アーティストたちが複数の場所からライブでセッションするということも可能です。

そうなると、これまでリモートプロダクションというのは、放送と似たようなものというのが基本スタイルでしたが、「リモートでしかできない」という価値が付け加えられ、国をまたいで新しいコンテンツを高画質・高音質で届けることができるようになると思います。

石村(孝):先ほど少し話が出た「The Concert at Home」との取組みというのが、いまの話に近いもので、まさにスタジオもリモートにして番組を作っていこうという試みだったんです。二人の演者さんが別々の部屋にいて、音楽を合奏するということで、これまでのテニスとはまた違った形式になります。

石村(信):「The Concert at Home」で配信される番組をWOWOWが技術協力をして制作したという形ですね。この新型コロナの影響下で人と人の距離をあけた状態で作ってみようということで。どこまで離したら成り立たなくなるか? ということで演者さんもカメラマンもスイッチャーも全員離れた状況で、制作陣にとってはあえて過酷な条件でやってみました。

――いま、お二人が仕事をする中でやりがいや手応えを感じるのはどんな瞬間ですか?

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石村(孝):いま、僕はWOWOWエンタテインメントに来て、B to Bで売上を出していくという仕事をしているんですけど、以前、技術局にいてインフラの仕事をしていた時代は"お客さん"が自分の近くにはいなかったので、身近にお客さんの存在を感じることが少なかったんです。

WOWOWエンタテインメントに来て、目の前にお客さんがいる状況になったことで、お客さんが喜んでいる姿を見ると喜びややりがいを感じますね。こちらがお金をいただいている立場なのに「ありがとうございました」と言ってもらえると、やってよかったなぁと思います。

石村(信):僕は完全に技術者の立ち位置なんですが、開発関連がメインなので"本番中"って意外とやることがないんです。システムができて、それをみんなに使ってもらう前の段階、システムを作り上げるところまでが自分の仕事なので。そのなかで、自分がわからないなりに進んだ道が、最終的にひとつの形になって、それに実際に触れてもらって、コンテンツとしてでき上がった瞬間は、自分自身も「作り上げた」という感覚になるし、やりがいを感じますね。

――リモートプロダクションに限らず、今後WOWOW Labとしてチャレンジしてみたいことはありますか?

石村(信):リモートプロダクションをはじめ、ソフトウェア部分が実際の配信でかなり使われ始めています。WOWOW Labとして「みんなで技術力を上げていこう」という思いがあるので、複数の企業とコラボして実施した取組みやサービスが「WOWOW Labから生まれた」と言えるものになったらベストですね。

100点ではなく常に105点を! プラス5点を目指す気持ちが生み出す新たな可能性

――石村(孝)さんはWOWOW Labの活動をどんな風に見ていますか?

石村(孝):せっかくこんなにいい環境があるんで活用していきたいですね。もともとのコンセプトとして、いろんな人に来てもらって、創造的なことをやろうというのがあるんですけど、そういう点からすると、まだまだ活用しきれていないかなと思います。いまの時点で、ここに一番来ているのは僕らじゃないかなと(笑)。新型コロナの影響もあって、なかなか難しいですけど、セミナーなんかも積極的にやっていけたらいいんじゃないかなと思います。このプロジェクト自体、TBSさんとの交流がなかったら生まれていないので、社外の人間との交流の場を増やして、最終的にそれが売上につながっていったらいいですね。

――最後に、おふたりの「偏愛」――仕事をされる上で大切にしていること、軸となっているものを教えてください。

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石村(孝):「攻め」ですね。攻撃的にいたいと思っています。ずっとインフラ系の仕事をしてきたんですが、インフラって「安定」が一番なんですよ。それは当然なんですが、自分の性格上、それだけじゃ物足りないんですよね。

インフラ業務ってずっと100点でいなくちゃいけなくて、99点だとメタメタに怒られちゃうものなんです。逆に105点もいらないんです。でもそこで、「105点を目指したい!」というのが自分であって、プラス5点を目指すことでスキルも上がっていくと思うんです。インフラ屋でありつつ、攻めの姿勢を忘れずにいたいなと思っています。

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石村(信):僕も孝之さんもそうですが、「制作技術」上がりじゃないってところが大きいんだと思います。良くも悪くも常識を知らないまま、番組作りを始めちゃったんですね(笑)。たまに痛い思いもしつつ(苦笑)、そこでノウハウを身に付けて、それがようやく周りの人にも認めてもらえるようなクオリティに仕上がってきたし、そこで並んでみて改めて気づいたのは、やっぱり常識が全く周りと違うんですよね。手探りでやってきたので。そこが「変わったことやってんな」と思われるところなんでしょうね。

僕自身は「なるべく一人で抱え込まない」ということを大事にしています。さっき、孝之さんが僕を"プロデューサー"と呼んでくれましたが、こちらからすると、お願いして、動いてくれる先輩なんてありがたすぎます(笑)。会社の予算で、自分より確実に技術もノウハウもある先輩たちといろんなことができるわけですから。

自分一人で抱え込んでるだけじゃやれないことってたくさんあるので、みんなに展開していくというのは常に心がけていて、それによってプロジェクトも活性化していくと思っています。抱え込まず、共有し、チームとしてどうしたらできるかを考えていくのが大事だなと思っています。

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WOWOW Labサイト: https://corporate.wowow.co.jp/wowowlab/

インタビュー/黒豆直樹  撮影/祭貴義道

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