第9回「WHO I AM」 フォーラム開催! 気鋭の作曲家マイケル・ハウウェルが生演奏&歌声を披露! 西島秀俊が語る"アフター"東京2020の継続性!
WOWOWとIPC(国際パラリンピック委員会)の共同プロジェクトとして2016年にスタートしたパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」がリニューアルし、新シーズンの放送・配信が2023年1月よりスタートした。
これを記念して1月27日、都内で《未来へ動き出そう!~東京パラリンピックが残してくれたもの~第9回「WHO I AM」フォーラム》を開催! 過去の同シリーズに出演した、陸上のパラリンピック金メダリスト・伊藤智也、アーティストやクリエイターなど、エンターテインメントの世界で活躍する表現者たちを追った新シリーズ「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE」に出演している作曲家のマイケル・ハウウェル、事故で下半身不随になるもアイドル「仮面女子」のメンバーとして活動を続けている猪狩ともかがゲストで出席した。
MCを務めたのは、もはやWHO I AMフォーラムに欠かせない存在である松岡修造。この日も、イベントの前説から登場して会場を盛り上げる。
コロナ禍を経て、3年半ぶりのリアル開催。そして東京2020オリンピック・パラリンピック後、初の開催となった今回のWHO I AMフォーラム。あいさつに立ったWOWOWの田中晃代表取締役 社長執行役員は「『東京大会はゴールではなくスタート』というのが私たちの合言葉」と強調。「東京パラリンピックが終わって、これからは私たちが選手と一緒に、多様な価値観が認められる公平でインクルーシブな社会に変わるように、小さなことから活動していきたいと思っておりますし、WOWOWもささやかながらその手助けをしていきたい」と語った。
続いて、来賓の国連広報センターの根本かおる所長が登壇。根本氏は障害のある家族がいることを明かし、自身も深刻な鬱を患った経験があることなどを語りつつ、国連が進める、世界人口の15%にも及ぶ障害がある人々の生活をより良くしていくためのキャンペーン「WeThe15」を進めていくことの意義を訴えた。
そして、この日はトークセッションの前に、特別試写会として新シリーズ「WHO I AM LIFE」のヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)の回が上映された。上映前にはロサンゼルスに住むヴィクトリアから会場の観客に向けたビデオメッセージも到着した。
続く第2部のトークセッションで、マイケルが登場すると、会場は温かい拍手に包まれた。ジャマイカにルーツを持ち、ロンドンで作曲活動を行なっており、ジャマイカとイギリス以外の国に足を運ぶのはこれが初めてとのこと。マイケルは感謝を口にし「音楽は自分の軸であり、小さい頃からずっとやりたいことでした。自閉症への偏見にも打ち勝っていきたいし、『黒人ならジャズのほうがいいんじゃないか?』と思われることも多い中で、愛するクラシックの素晴らしさを伝えていけたらと思っています」と語った。
伊藤は現在59歳! 松岡の「現役なんですか?」という質問に「現役です」と即答する。東京大会ではレース直前の障害クラスの判定により、障害がより軽度なクラスへと変更となり、メダルが有力視されていたT52クラスに出場できなくなるという事態に直面した。大会が始まってからの変更に伊藤は「ショックが大きかった」と率直な思いを明かす。
松岡の「出ないという選択肢もあったと思いますけど、あえて(別のクラスで)出ました。何を伝えたかったんでしょう?」という問いに、伊藤は「僕は素晴らしいマシン(車いす)に乗っていました。僕のために2年間、寝食を惜しんですごいチームが作り上げてくれました。多業種に及ぶ大勢の方の期待もそこに含まれていました。(クラス変更で)本来は出場できないくらいのタイム差があったけど、最高のパフォーマンスを見せて、TVカメラに一瞬でもいいからマシンを映したかった」とここまで支えてくれた人々の存在に言及。そして「出て良かったと思うのは、T52ではトップを走ってきて、すごい勢いで(相手を)抜いてきたけど、(別クラスになって)あんな勢いで人に抜かれたことはなかった!」と敗北さえも良い経験とし、笑顔で東京でのレースを振り返った。
ちなみに、猪狩のライブステージ用の車いすを開発しているチームが伊藤と同じという縁もあり、猪狩は伊藤のレースを注目して観ていたそうで「逆境に立ち向かい、走り抜く姿が本当にかっこ良かったです!」と感動を口にしていた。
猪狩自身、東京大会では聖火リレーに参加し、競技の中継番組にも出演したが、大会を振り返り「たくさんのボランティアが参加されて、成り立っているんだなと感じました。たくさんの人たちの気持ちを乗せた大会だったと実感しました」と語った。
猪狩は強風で倒れた看板が直撃するという突然の事故で下半身不随となってしまったが、松岡からの「パラリンピックで選手たちが戦う姿から力をもらったことは?」という問いかけに「パラアスリートの方たちは、障害を理由に逃げたりせずに、自分の体で何ができるか? 今の状態でベストをどうしたら出せるかを常に模索されている。私も障害を理由に逃げちゃ駄目だと思いました」と思いを口にした。
マイケルは、音楽との出合いについて「小さい頃から自分の中に音楽はずっとあったと思います。物心がついて、気付くとクラシックに魅了されていました。11歳のとき、アプリでモーツァルトやショパン、ベートーヴェンを聴いているうちに『これだ!』と感じてYouTubeを見て、独学で学んで弾けるようになりました」と振り返る。
師事して教わるのではなく、独学で習得したという告白に、中学までピアノを習っていたという猪狩は「独学でピアノって考えられない! どうやって? 独学って何(笑)?」と驚愕!! マイケルは「音符を見るんじゃなく、音楽を聴きながら弾いていました。先生に習おうとも思ったんですが、あまり好きじゃなくて......。一時期、先生に習ったことがあったんですが『楽譜を読まずにここまで弾けるのか......』と先生がビックリしていました。これまで聴いたものがすべて混ざって、自分なりのユニークな音楽が出来上がったんだと思います」と笑顔で明かした。
マイケルの言葉を聞いて、松岡は「障害に対して『かわいそう』とかマイナスに捉えがちだけど、(障害があることで)自分の武器やユニークさに気付きやすくなるのかも」と語り、伊藤も「僕らは広く選択肢を持っていないんです。歩けないし、ジャンプもできない。そのぶん、考えなくてもいい部分が少しあるのかも」と同意。松岡は「何ですか、その松岡修造的な前向きさは(笑)!」と自身のお株を奪うような"ポジティブ"思考に驚いていた。
伊藤は「考えてもしょうがない。違う部分で感性が突き抜けているので、それを徹底的に磨いていく。僕の場合、感性として譲れないのは、過去を誇れるものにしたいということ。『いま』は明日になったら『過去』になる。それを誇れる自分でありたいし、一生懸命に生きたい。そう考えると、障害の有無とか関係ないし、できないことにこだわる必要もない。できることを頑張って、明日それが自分の誇りになれば、ちょっと自分を褒めてやればいい」と自身のスタイルを説く。
この自分なりの「感性」について、マイケルは「気を付けているのは、他人がどう感じるか? 気持ちをすごく考えるということです。自閉症というのは、時に社会と少し離れてしまい、人の気持ちが読み取れないことがあるので、相手はどういう気持ちかを考えるようにしています」と明かす。そして「自分では、障害というのは、スーパーヒーローのようなもの、神から与えられたギフトだと思っています。障害で制限されてしまうこともあるけど、その分、プラスになる部分もある。足りないことがあるからこそ、他の人にない素晴らしいものもあり、ひとりの人間としてそうやってバランスが取れているんだと思う」と語った。
改めて、東京大会のレガシー、"未来"について、猪狩は「オリパラがあって、社会が大きく変わったか? そうではないと思う。街に出たら、まだまだバリアフリーが進んでいないことも多いし、困った時に知らない人に助けを求めやすい環境でもない。ハード面は時間がかかるので、みなさんの心から変えていくことが大事だと思っています。私も自分から(助けてほしいと)言える勇気を持つことが大事だし、周りの皆さんが声をかける勇気を持つことも大事。障害のある人だけでなく、すべての人に『困っているのかな?』『大変なのかな?』と声をかけられる勇気を私も持ちたいです」と語る。
伊藤も「小さなものでも、自分の価値観をきちんと持って、その中で他人を思いやる気持ちがあれば、自然と文化というのはつながっていくと思う。その時代ごとに適した文化があって、10年後、20年後に振り返ったら『あぁ、あの時大きく変わったね』となるもの。その変わった方向が戦争ではなく、平和に向けて踏み出していけたらいいし、それもひとりの思いやりからスタートしていくものだと思う。優しい気持ちをもって周りを見渡していただけたら」と呼びかけた。
さらにここで、スペシャルゲストの西島秀俊が登場! 西島は、リニューアルされた「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM パラリンピック」でも引き続きナビゲーター&ナレーターを務めるが、番組に出演するアスリートたちの姿を見て「ナレーションをしていて、思わず途中で感極まってしまって声が震え、NGになることがあります(苦笑)」と明かす。
東京大会まで計5シーズン、40作品に登場したアスリートたちの物語に寄り添ってきたが、西島は「番組に関わることで、誰よりも僕が、落ち込んでいる時に見て、『やっぱり頑張ろう』と勇気づけられてきた『WHO I AM』――自分は何者かと向き合う体験になりました」と語る。「最初は手探りで始めたけど、継続していくことが大事だと感じたし、それが当たり前になって、"今"があると思います。東京大会の後も、当たり前のように続くということになって『WHO I AM LIFE』でアスリートだけでなく、別の形にもなって嬉しいし、僕も参加できる限り参加したいと思います」と新シリーズへの意気込みを語った。
そして、「WHO I AM」シリーズから受け取ったものを胸に「僕も50代に入って、自分が関わる作品で若い人が自分の価値観で、健康的に才能を発揮できる場をつくっていきたい。継続というのはすごく大事なこと。ドンっと大きく打ち上げて、終わってしまっては意味がない。僕自身、遅咲きで、長く見守ってくれている人がいて、お仕事がつながっているので、若い人が健康的に長く才能を発揮できる場をつくれたらと思っています」と未来に向けた思いを語った。
この日のイベントの最後を飾るのは、マイケルによるピアノの生演奏&歌唱! 1曲目は、これが世界で初めて観客の前で披露されることになる「Rise Again」。演奏前にマイケルは「皆さんに希望を持ってほしいと思ってこの曲を作りました。私自身、大学でいろんな苦労があり、精神的に病んでしまったこともありましたし、パンデミックで皆さんも本当につらい思いをされたと思います。それでも、諦めず希望を持って前に進んでいければという想いを込めました」と語り、美しい演奏と歌声を披露した。
2曲目は「Great Is the Grief」。マイケルは「ここで歌われているのは、言葉をしゃべっているように聞こえるけど、実は何の意味もなさない言葉です。音楽は言葉の意味を受け取るものではなく、耳を通して受け取るものだということを感じてほしいという想いからそうしました」と語り、力強く高音を響かせて「Great Is the Grief」のパフォーマンスを行ない、客席からは拍手が湧き起こった。
イベントの最後に、伊藤は「こうやってまた一つ、素敵な思い出ができました。まだまだ競技を続けていきたいし、その中で生まれてくる自分を大切にしていきたい。出られるか分からないけど、パリ(2024)、そしてロス(2028)へ向けて羽ばたいていきたい」と現役続行への決意を語る。
猪狩は「誰かにとっても希望の星のような存在でありたいと思っています。私を見て、明日、頑張る原動力になればと思うし、メッセージを発信していけたら」と語り、西島は「番組、イベントを通じていつも皆さんに圧倒されます。何より皆さん、人生を楽しむ達人なので、この人たちに負けないように人生を楽しみたい」と笑顔で語る。
そして、マイケルは客席に向けて「社会での多様性の広がりを望んでいますし、クラシックの世界でもこの先、多様性を見いだせたらと思っています。希望を持って、誰が何を言おうと、自分が信じるものを胸に前を向いて進んでほしいと思います」と呼びかけ、温かい拍手の中でイベントは幕を閉じた。
取材・文/黒豆直樹
関連情報
<WHO I AMシリーズ全作品 WOWOWオンデマンドで配信中>
「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM パラリンピック」(全3作品)
エレナ・クラフゾウ(ドイツ/水泳)
サルーム・アゲザ・カシャファリ(ノルウェー/陸上)
鳥海連志(日本/車いすバスケットボール)
「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE」(全3作品)
ヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)
チェラ・マン(アーティスト)
マイケル・ハウウェル(作曲家)
「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」(全40作品)
2016年から2021年に初回放送した全40作品
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