2017.11.28

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選手たちが見せてくれる素晴らしい笑顔に、いつもパワーをもらっている(後編)

WHO I AM フォトグラファー 新田桂一

選手たちが見せてくれる素晴らしい笑顔に、いつもパワーをもらっている(後編)

IPC(国際パラリンピック委員会)とWOWOWが共同で立ち上げた、東京パラリンピック開催の2020年まで5年間にわたるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』。世界最高峰のパラアスリートたちに密着し、彼らの「いま」に迫る。そこにはトップアスリートとして、徹底的に自分と向き合い、勝負の世界においても人生においても自信に満ちあふれる選手たちの姿があった。そんな彼らを独特なスタイルでシャッターにおさめるフォトグラファー・新田桂一。ハッピーでパワフルな撮影現場には、いつも選手たちの笑顔があふれている──。

ワンショット勝負に必要なこと──"選手たちの気持ちをほぐす"

──新田さんが一番撮りたいと思うのは、選手のどういったところでしょうか?

やっぱり競技のシーンですよね。白バックで競技のシーンを再現できたらいいなと思って撮っています。例えば、雪の上をスキーで滑ってるシーンを再現したいと思ったときに、白バックだったらできるので......すごく難しいですけど。本当に、ワンショット勝負なんです。

──この、森井(大輝)選手がスキーを滑っているようなカットもすごいですね。

スキーで斜めになってる選手の身体が倒れないように、太田さんが横から力づくで支えて、反対側では羅貴くんが抑えてて(笑)。バシャン! って撮ったら、バーンって倒れて。もう一度みんなでポーズを作って、バシャン! バーン! って......本当にワンショット勝負で、まぐれで撮れたものもあるかもしれないです。

──選手たちの気持ちをほぐしていくときに、心がけていることはありますか?

喋ったり、トントンって少し触ったり。スピーカーを持って行って、軽く音楽をかけてみたり。あと、番組のスタッフさんがいつもお土産を買ってきてくれるので......侍のTシャツを渡したりとかね。「日本に来たことある?」、「ない」、「じゃあ、今度日本に来るときは、一緒にメシ行こうよ!」とかって会話をしたりとか、そんな感じですね。

──アシスタントフォトグラファーの澁澤さんも、新田さんの撮影について、「最初から選手との距離を縮めるように、新田さんのほうからグッと近づいて行く」とおっしゃっていました。

選手のみなさんとは初めてお会いするので、まず距離を縮めていきます。そうすると「こいつ、なんだ?」って思われて、興味を持たれますよね。あとは、ちょっとした演出をすることもあります。事前に香水をシュッと吹いておくと、選手が来たときに「ん? なんかいい匂いじゃない?」とかって言ったり、人によって音楽を変えたり。それだけで雰囲気が良くなるし、いい気がグアーッと高まるのでね。「いいものを撮ろう!」っていう人たちばかりなので、本当に助かっています。

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──撮影中に、リアルタイムで東京にいるアートディレクターから指示が入るということですが。

そうですね。撮影するときには必ず東京とビデオ電話をつないで、映像で現場を見られる状態にしておくんです。その映像を東京にいるアートディレクターの川上さんが見て、いろいろと指示してくださるんですけど......やっぱり、ブラジル-東京間の通信は遅れちゃうんです(笑)。全然画像が届かなくて止まったりとかもしますが、必ずチェックしていただきますね。

──現地の撮影はスタジオで行うのでしょうか?

いえ、国や街によってはスタジオがないので、選手の自宅や滞在先のホテルの会議室で撮影したり、トレーニング場やスキー場まで行ったりします。白いペーパーさえあればどこでも撮影できるのでね。あ、でもボスニア・ヘルツェゴビナでのシッティングバレーボールのサフェト・アリバシッチ選手の取材は、「白いペーパーがない!」っていう事件が発生しましたね(笑)。白いペーパーが売ってなくて、「隣のセルビアに行けばあるらしい」って。

──それは......どう解決されたのでしょう?

どれだけ早く送ってもらっても2日後になるって言われて、それじゃ間に合わなかったんですね。「なんならセルビアまで行ってもいいよ。隣なんでしょ?」って言ったんですけど(笑)。そうしたら、現地スタッフの知り合いに物好きな人がいて、ホワイトバックが自宅兼スタジオっていう場所があったんですよ。それをお借りしました。もしかすると、ボスニアで唯一のホワイトバックかもしれないですね(笑)。

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人間として、選手たちと"ダチ"になりたい

──ほかに印象的な撮影はありましたか?

ありすぎますよねえ(笑)。

──プロデューサーの太田さんは、新田さんが一番苦労したのは、ブラジルのリカルディーニョ選手(リカルド・アウヴェス/ブラインドサッカー)の撮影だったんじゃないかとおっしゃっていました。

あー、そうかもしれませんね。リカルド選手は目が不自由なので......僕、言語が通じなければ「メダル噛んで!」とか「イエーイってやって!」とかって、ボディーランゲージを使ってコミュニケーションを取るんですね。

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──でも、リカルド選手にはボディーランゲージが伝わらない。

そうなんです。英語が通じなくて、もちろん日本語も通じない。さらに、ボディーランゲージも通じないということで、「もうちょっと右手を上げてほしいです」って通訳さんに言って、それをポルトガル語で伝えてもらって、「うーん、こんな感じ?」、「もうちょっと力入れて!」、「こう?」みたいな感じで撮っていかないといけなかったので......難しかったですね。

──新田さんの撮影スタイルから考えると、ちょっと選手と距離がある感じで難しそうですよね。

そうですね。いつもの感じとかなり違いましたが、彼はすごく楽しんでくれていましたね。ワンカットだけ、「素が見えたショットが撮れたんじゃないかな?」っていうのがありました。ちょっと笑顔になったりとか、かわいいリカルドが撮れたかなと思います。

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──彼らはアスリートとして注目はされているけれど、普段写真をそんなに撮られる人たちではないですよね、それにしてはすごく......。

イキイキしてますよね。現場がやっぱりすごく楽しいので、選手たちも楽しんでやってくれているんだと思います。

──出来上がった写真を見た選手たちは、どんな反応ですか?

嬉しがってくれますね。撮影を始めてからすぐには見せないで、ワンセッションくらい......メダルのカットを撮って、お花のカットを撮って、選手が写真の出来を気にし始めるのがわかってくるんですね。そのタイミングで僕や太田さんが「ちょっと写真を見せてあげて」って言うと、羅貴くんがパソコンの画面を選手に向かって見せるんです。それで、みんなで「Beautiful!」とか、「Oh my god!」「So cool!」「Fabulous!」「Gorgeous!」「You're No.1!」とかってバンバン言うんです。

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──思いっきり盛り上げるんですね。

そう、アカデミー賞を獲った女優への賞賛のようにね。「あなたが今日は主役なんだから、楽しんでください」って。もちろん、目線が外れてたり、かっこ良くない顔になってる写真もあるんだけど、それは見せない。僕が撮りながら、羅貴くんがいいショットをその場でセレクトしておいてくれるんですね。そうやっていいショットばっかり見せられると、選手たちも「うわあ、私めちゃくちゃキレイ!」って、ノってくれますよね。もう、完全なるチームワークです(笑)。

──基本的には、まず新田さんが選手のいる国に写真を撮りに行ったあと、第2陣として映像チームが現地で取材を行なうと伺いました。

そうですね。僕の撮影には、羅貴くんがアシスタントフォトグラファーとして必ず同行して、プロデューサーは太田さんか泉(理絵)さんのどちらかがいらっしゃいます。ムービーチームはそのあとで取材することがほとんどですね。

──太田さんが「最初に新田さんが選手たちをほぐしてくださるから、映像チームも警戒されないでスムーズに取材に入れる」とおっしゃっていました。

最初に変な思い出を作っちゃうと、嫌な雰囲気を残すと思うので、なるべく楽しくハッピーにムービーチームに引き継げるようにしていますね。選手をとにかく盛り上げて、楽しませる。

──「家族や恋人も連れておいでよ」と撮影の現場に呼んで、記念写真も撮られているということですが。

そのほうが多分、選手たちも楽しいと思うので(笑)。また、子どもさんたちがすごくかわいくてね。撮った写真を家に飾ってくれたら嬉しいですし、僕、額を選んだりするのも面白くって好きなんですよ(笑)。プリントして額を選んで、額装して、ムービーチームに「次回の取材で持って行ってください」って渡すんです。

──それはとても嬉しいでしょうね。「新田さんは選手たちと仲良くなりすぎて、"日本に来たら、ディズニーランドに一緒に行こう"とかって勝手な約束をいっぱいしてきちゃう」という話もありますが(笑)。

ははは! すぐ約束しちゃいますね(笑)。2020年にまた会えると思っているので。そのときはみんなに写真を持っていくか、撮らせてもらうか、ビッグハグするか、ディズニーランド行くか(笑)......楽しみですね!

──こうやってお話を伺っていると、パラリンピアンだからとかではなく、「その人のいまをどれだけカッコよく撮るか」というところに集中されている印象です。

うん、パラリンピアンだからではないですね。僕はそれは全然なくて、ひとりの人間として彼らを捉えています。僕はたまたま健康な体で生まれたけれど、そんなことは関係ナシ。人間として、彼らと友達......というか、僕は"ダチ"になりたい。そういう感じで接していますね。でも毎回、彼らにはやられちゃいます。

──「やられちゃう」とは?

「僕は小さいことで悩みすぎてるなあ」って。彼らがデカすぎて、自分がちっちゃく感じますね。「障がいがあって辛いこともあるだろうに、なんでこんなに素晴らしい笑顔を僕に見せてくれるんだろう?」、「彼らがこんなに素晴らしい笑顔なのに、僕がこんな顔しちゃダメだなあ」っていうのはよく感じますね。

──まさに『WHO I AM』のフィロソフィーですね。

本当に、そこですよね。

──『WHO I AM』の撮影が、新田さんに新たにもたらしたものってなんでしょうか?

うーん、やっぱり笑顔や元気ですかね。普段の仕事ではセレブを撮る機会も多いので......かっこいいセレブたちに会えるのももちろん嬉しいし、パワーをもらえるんですけど、『WHO I AM』は選手たちのプライドや力強さ......笑顔を見るだけでパワーをもらえるんですよね。「力をもらえる」というのは同じなんですけど......うーん、言葉で伝えるには難しいです。なんていうか、パワーの種類が全然違うんですよね。

──『WHO I AM』のシリーズは2020年まで続きますが、やってみたいことなどはありますか?

まだ取り上げていない、いろんな国のいろんな選手を撮りたいですね。アフリカとか行きたいなあ(笑)。あと、『WHO I AM』の写真集を作りたいですねえ! 海外で売ったり、講演会で配ったりして、子どもたちがそれを見て「いやー、私も頑張ろう!」って思ってくれたら最高ですよね。

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フォトグラファー 新田 桂一

1975年東京生まれ。1997年に渡米し、フォトグラファー テリー・リチャードソン氏に6年間師事。2006年に帰国後、独立。現在は東京を拠点にパッショナブルな作風でファッション誌や広告など、幅広い分野で世界的に活躍している。「WHO I AM」のキービジュアル撮影のため、アシスタントの勝間田大揮氏、澁澤羅貴氏とともに、世界各国を飛び回った。選手たちが一瞬にして心を開くその手腕は彼が撮影した一枚一枚の写真によく表れている。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.