2018.11.29

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金メダリスト来日! 第5回『WHO I AM』フォーラム with OPEN TOKYOレポート

金メダリスト来日! 第5回『WHO I AM』フォーラム with OPEN TOKYOレポート

“競泳界の金メダルコレクター”ダニエル・ディアス&“競泳大国片足のエース”エリー・コールが来日! リオ五輪銀メダリスト・坂井聖人も駆けつけ、トークセッションが実現

WOWOWと国際パラリンピック委員会(IPC)の共同プロジェクトによるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM-これが自分だ!という輝き』。10月25日(木)よりシーズン3が放送されているなか、上智大学にて11月22日(木)、<金メダリスト来日! 第5回『WHO I AM』フォーラム with OPEN TOKYO>が開催された。

2部構成の本フォーラム。第1部では11月29日(木)にWOWOWにて初回放送となる『WHO I AM』シーズン3「パラ水泳 ガラスの金メダリスト マケンジー・コーン」の先行上映が行われた。1022whoiams3.jpg

上映に先立ち、主催者代表としてWOWOW代表取締役社長・田中晃が挨拶。第2部に登壇するダニエル・ディアスとエリー・コールについて「ふたりとも、東京パラリンピックの金メダル最有力候補」とし、『WHO I AM』のシーズン1に登場した彼らの言葉から印象的なものを紹介。挨拶の終わりには、会場に訪れた学生に向けて「『WHO I AM』のゴールは2020年ではありません、その先です。2020年のその先の日本の社会を変えていくのは、みなさんたちです」とエールを送った。

続いて主賓挨拶として、IPC理事であり、日本パラリンピック委員会委員長、日本財団パラリンピックサポートセンター会長の山脇康氏が登壇。『WHO I AM』は「アスリートの持つエネルギーや勇気、強い意志を伝えていくことによって、障がいに対する意識を変え、インクルーシブな世の中を作っていこう」というIPCのビジョンを共有し、強いパッションで作り上げられたドキュメンタリーシリーズであると紹介。「『WHO I AM』を観て、パラリンピックのファンになっていただきたい」と語った。

さらに、『WHO I AM』でナビゲーター&ナレーターを務める西島秀俊さんもビデオメッセージで登場。「毎回アスリートたちの物語に感銘を受けながら、同時に、それは決して特別な世界の人たちの話ではない」とし、誰もが平等に与えられている"人生"という舞台で輝く彼らの姿を『WHO I AM』を通して観ることで、自分について考えるきっかけにしてほしいとコメントした。

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続いて、『WHO I AM』シーズン3「パラ水泳 ガラスの金メダリスト マケンジー・コーン」が先行上映される。
先天性の骨形成不全症により、これまで50回以上の骨折をしたというマケンジー。5歳の頃に出会った水泳によって、初めて自由を手に入れた彼女はリオパラリンピックで3つの金メダルを獲得する。試合の前は必ずピーナッツバターをたっぷり塗ったトーストを食べ、「ピンクでキラキラしたものが大好き!」と語るマケンジーは底抜けに明るく、かわいらしい。ガラスの身体にタフな心を宿すマケンジー・コーン選手の『WHO I AM』は11月29日(木)夜22:00よりWOWOWプライムにて放送となる。お見逃しなく!

自由とは、限界を作らず、チャレンジすること

上映後に始まった第2部では、司会を務める松岡修造氏のコールに導かれ最初にオーストラリアのエリー・コール選手が登場。「みなさん、こんばんは」と日本語で挨拶すると、会場からは大きな拍手があがる。北京では3枚のメダルを、ロンドンでは金メダル4枚を含む6枚のメダルを獲得したエリーだが、その後、深刻な肩の怪我により競技復帰不可能と診断される。それでも彼女は手術と2年に及ぶリハビリを経て復活し、リオでは100m背泳ぎでの金メダルを含め、出場全6種目でメダルを獲得した競泳大国オーストラリアのエースだ。

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続いて、パラリンピックを代表するスーパースター、ブラジルのダニエル・ディアス選手が登場すると、会場からは大きな声援があがる。北京、ロンドン、リオの3大会で男子水泳史上最多となる合計24枚のメダルを獲得。うち14枚が金メダルというダニエルに、同クラスの選手たちはもはや勝ち目なしとも言われている、文字通り"競泳界の金メダルコレクター"だ。whoiamf5daniel.JPG

最後に登場したのは坂井聖人選手。2016年リオ五輪では200mバタフライにて、アメリカのマイケル・フェルプス選手と0.04秒の僅差で銀メダルを獲得。肩の怪我に悩まされる今シーズンだが、2020年に向けて復活をかける坂井選手。「今日は緊張しているので、修造さん、お手柔らかにお願いします」と挨拶し、会場を沸かせた。_N1_8007.JPG

松岡修造さんの司会で和やかに始まったトークセッション。最初の話題は"自由"について。「水は私たちを自由にする」とマケンジーも語っていたように、『WHO I AM』には「自由」という言葉が頻繁に出てくる。彼らが言う「自由」とは何なのだろうか──。_N1_8019.JPG

エリーは自由について「限界を作らず、チャレンジすること」と言う。動きづらかった自分が「水の中では自由に動ける」と気付いたように、「障がいを抱えて自由を奪われてしまった人たちが、パラスポーツによって自由をもう一度取り戻すことができる。自分にリミットを設けないことこそが自由であって、パラアスリートの素晴らしいところでもある」と語った。エリーの言葉を受け、ダニエルも「限界というのは、実は自分のなかにあるもの。その限界に常に挑み続けていくことをスポーツが教えてくれた」と自らの思いを口にした。

彼らの答えに松岡さんは「失礼な質問かもしれませんが」と前置きし、健常者から見たら、スポーツをするうえで身体が不自由なのは「自由ではない」と捉えられる可能性があると指摘。

それに対してダニエルは「僕は障がいがあるとは思っていない。ただ、みなさんと違うだけ。だから、やりたいことに対して限界はないと思う」と答え、エリーもまた「その通り。健康に生きていられるだけで素晴らしいから、私は本当に感謝しているし、ハッピーでいられる」と語った。エリーの"感謝"という言葉に、坂井選手も「僕もいまの自分の状況に感謝しています。不自由なく生活できているのを肝に銘じて、日々生活していきたい」と改めて実感したようだ。

人生を生きづらくしているのは、自分自身かもしれない

続いての話題は"ストレスやプレッシャー"について。世界に挑むアスリートたちには、我々が想像だにしないストレスやプレッシャーが課せられるだろう。それらをトップアスリートとして、どのように受け入れているのだろうか──。

ダニエルは「いつも笑うようにしている」そうだ。そうすると、自分が抱えている問題がなぜか軽くなる。人生を生きづらくしているのは、自分自身かもしれない。「だから僕は、できるだけ物事を軽くするため、そして周りの人をハッピーにするため、いつも笑っていようと思います」。そう言うと、ダニエルはとびきりの笑顔を見せるのだった。danielwarai.JPG

肩の故障により、一度水泳から離れたエリーにとっても、ダニエルの言葉は深く染み入るようだ。「私もまったく同感です。水泳から離れていた時期に思い返して気づいたのは、"自分はやっぱり水泳が大好きなんだ"ということ。プレッシャーのなかで、一度落ち着いて考えて、先を見据えることが大事」と語るエリーの言葉を、誰よりも噛みしめていたのは坂井選手だろう。

リオ五輪が終わり、銀メダリストとして期待されて臨んだ2017年世界水泳。結果はまさかの6位。以降、不調が続き、日本代表からも外れることになった坂井選手。不調の原因が肩の異常とわかり、今年8月に手術を行ったことで改めて感じた"泳げることのありがたさ"。「当たり前にやっていた水泳が大切な存在になったし、より大好きになった」と語る坂井選手の晴れやかな表情が印象的だった。sakai.png

それぞれが熱い想いを語り合うフォーラムも後半に差しかかり、話題は今回のメインテーマである"東京2020に向けて"。

エリーは、パラリンピックを経て日本人の障がいに対する考え方が大きく変わるのではないかと期待しているようだ。「というのも、ロンドンパラリンピックの1年後、障がいを持った友達とロンドンに行ったときに、街のみんなが自然に私たちを受け入れてくれたの。そのときに"ああ、パラリンピックを通して、ロンドンの人たちの考え方が変わったんだな"と強く感じたから、東京もきっとそうなると思う」と顔を輝かせる。errrylast.png

とはいえ、障がい者に対してどのように接したらいいのかわからない健常者が多いだろう。そんな人たちに向けて、アドバイスはないかとダニエルに問う松岡さん。それに対してダニエルは「障がい者を"かわいそう"と思わないようにしてほしい」と訴える。社会の差別はおそらく消えないだろうけれど、その差別が自分の中にあってはいけない。障がい者に対してどうアプローチしたらいいかわからないのは当然のこと。そういうときは笑いかけてほしい。ハグでもいい。ただひとつ、腫れ物に触るようなことはしないでほしいと語った。そんなダニエルの言葉に、エリーは「そうね、ダニエルにはハグをして。だって、彼はハグされるのが大好きだから」と笑い、その言葉に促されてダニエルとハグを交わす坂井選手に、会場からは大歓声が起こった。_N1_8163.JPG

誰だって、人生におけるチャンピオンになれる

続いて、フォーラムに参加した学生からの質問へ。「2020年の先に、私たちも何かを残したいと思っていますが、2016年のリオパラリンピックを経て、いま残っているものは何でしょうか?」。

問いかけられたダニエルは「ナイスクエスチョン!」と質問者を称賛し、そして答える。「僕が一番強く感じているのは、人それぞれが持っている価値というものに、みんなが注目するようになったこと」。それは例えば、目に見えるものだけで人を判断しないということだという。「僕の在り方は障がいによって決まるものではなく、僕の内面が決めるもの。見えるものだけで判断してほしくない。これが僕、これがWHO I AMです」。ダニエルの真摯な訴えに、会場からは大きな拍手があがった。daniel.png

エリーも「素晴らしい質問です」と前置きしたのち、シドニー五輪を経てオーストラリアが国をあげてスポーツに力を入れてくれるようになったと明かす。まさに当事者となるであろう坂井選手は、「種目を超えて、みんなで一緒になって盛り上げる必要があると思うので、結果を出し合い切磋琢磨しながら、東京オリンピック・パラリンピックを大きなものにしていきたいと思います」と意気込みを語った。

もうひとつ、学生からの質問があがる。1型糖尿病を抱えている質問者はエリーの「限界はない」という言葉に感銘を受けたとし、「どうやったらあなたのように、人々に良い影響を与えることができるのか?」と問いかける。gakusei.JPG

対してエリーは「この場でご自身のことを発表できるというのが、すでに素晴らしい強さだと思う」としたうえ、自分自身は誰かに良い影響を与えようと思ったことはなく、「どうやったら自分のベストを尽くせるのか、どうやったら自分の一番をみんなに見せることができるのか」を常に考えて努力していると答えた。自分が精一杯取り組んでいる姿こそが、周りの人に良い影響を与えることになるという、彼女の強い思いが伝わってくる。eriikotae.png

ダニエルも「まず僕が伝えたいこと」として、メダルを獲るために水泳をやってきたわけでなく、昨日よりも今日、今日よりも明日、進歩していたいという思いで水泳をやってきたと伝えたのち、「自分が信じていれば、不可能を可能に変えられると思っている。僕もキミも、ここにいるみなさん誰だって、人生におけるチャンピオンになれるものだと思います」とエールを送った。danierugakusei.png

フォーラムもいよいよ終盤に差しかかり、松岡さんから最後の質問が投げかけられる。幸せを掴むためには、なにが必要なのか。「WHO I AM」すなわち、自分らしくいるためには、なにが必要なのか──。syuzo.png

エリーからのメッセージはこうだ。「なによりも、自分の大好きなことを見つけてください。そして、そのことに誠心誠意尽くしてください。常に前進していってください」。実際、エリーは金メダルを獲るまでに15年かかったという。すべてが上手くいくわけではない。失敗することもある。「だからこそ、自分に厳しすぎないようにしてほしい。それでいつか、"自分がどういう人間なのか"を見つけていくことができると思います」と訴えるエリーの言葉に、会場からは大きな拍手が送られた。erry.png

続く坂井選手からは、意外な答えが飛び出した。「僕はちょっと違う視点から」とあらかじめ断ったのち、「僕は恋することだと思います」とキッパリ。どよめく会場を気にすることなく「やっぱり恋をしていると、何事にも気合が入りますし、すべてが上手くいくと思っています。リオオリンピックのときも恋してたんですよ」と爆弾発言(?!)の坂井選手に会場は大盛り上がり。「何をモチベーションにしよう? と考えたときに......"やっぱこれ、恋だな"って。ラスト50mの追い上げをするためには、恋だなと思いました」と畳みかける坂井選手に、松岡さんからは「恋愛は大事だよ。でも一番大事なのは......自分に恋しろ!」と親しみを込めた喝が入った。sakaikoi.JPG

「坂井選手をしのぐ回答はちょっとないかも......」と笑いを誘ったのち、ダニエルは静かに語り始めた。「夢というのは、"自分にはできる"という信念がないと実現しないもの。だからまずは自分を信じる。そして、"自分はどうしたいのか、どう在りたいのか"を常に考えてほしい。何年かかってもいい、途中で挫折したっていい。その答えが出たときに、少しずつ周りの人が変わっていって、それが徐々に日本を変えることになり、最終的に世界を変えることができる。僕はそう信じています」──実にシンプルで力強い"金メダルコレクター"の言葉に会場からは大きな拍手が送られ、フォーラムは幕を閉じた。danieikotae.JPG

取材・文/とみたまい 制作/iD inc.