2018.11.29

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パラリンピック金メダリストが立教大学にやってきた!

「WHO I AM」プロジェクト

パラリンピック金メダリストが立教大学にやってきた!

2人合わせて金メダル計20個! パラ水泳界のスーパースター、エリー・コール&ダニエル・ディアスが白熱のリレー対決!

WOWOWと国際パラリンピック員会(IPC)の共同プロジェクトによるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM-これが自分だ!という輝き」。10月よりシーズン3が放送中だが、このたびシーズン1に出演した金メダリストスイマーであるダニエル・ディアス(ブラジル)とエリー・コール(オーストラリア)が来日! 11月21日に立教大学新座キャンパスのスポーツウエルネス学科「スポーツ科学総論」の講義に来場し、トークセッションを行なうと共に、プールでは実際に泳ぎを披露し、同学科の学生で水泳部に所属するパラスイマーの鎌田美希や学生を交えてのリレー対決も行なわれた。

「子どもたちがメッシやフェデラーに憧れるようにパラリンピアンに憧れを!」

講義では冒頭、立教大学東京オリンピック・パラリンピックプロジェクト座長の松尾哲矢教授より今回の特別授業のオリエンテーションが行われた後、渋佐和佳奈WOWOWアナウンサーに司会進行がバトンタッチ。最初に「WHO I AM」プロジェクトメンバーのWOWOW渡邉数馬ユニットリーダーが同番組の制作の経緯や意義を説明。制作陣がパラリンピックや世界選手権をはじめとする多くの大会に足を運び、選手たちと触れ合う中で、当初は"障がいを抱えながら頑張るひとたち"と捉えていたのが、徐々に純粋な"アスリート"としてリスペクトして接するようになっていったと明かし「こちら側の意識にこそバリア(障がい)がある」と語る。さらに番組のタイトルについて「とにかく選手たちが皆、自信に満ち溢れ、輝いて見えた」ことから、己の個性を存分に発揮する選手たち自身を表すもの「WHO I AM=自分自身」というタイトルに決まったと説明した。

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そして、テニスのグランドスラムをはじめ、多くのスポーツ番組を手がけてきたWOWOWだからこそ「世界最高のアスリートのスポーツドキュメンタリーとして作る意味がある」と説き、「多くの子どもたちが、メッシやフェデラーに憧れるように」同番組を通じて子どもたちがパラリンピアンたちに憧れを抱くような番組になればとの思いを語った。

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WHO I AM シーズン3 は毎週木曜夜22時よりWOWOWプライムにて好評放送中!

「人の生き方は障がいの有無や外見で決定されるものではない」

そして、いよいよエリーとダニエルが教室に! 同番組の泉理絵プロデューサー、細井洋介ディレクターと共に過去パラリンピックで金メダル6個獲得のエリー、14個獲得のダニエルが姿を見せると、教室は大きな拍手に包まれた。

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エリーは日本語で「みなさん、おはようございます。私はエリーです」と挨拶。来日は5度目で、日本人パラスイマー・一ノ瀬メイとCMにも出演しているが「東京で車いすが乗れるタクシーが増えたり、来るたびにパラリンピックに向けての準備が進んでいるのを感じます」とも。さらに「日本のカルチャーは何でも好きですがとくに食べ物、ラーメンが好きです」と満面の笑みを浮かべて語った。

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一方、今回が初めての来日となったダニエルは、長いフライトを経て前日に到着したばかりにもかかわらず、疲れた様子を見せずに「初めての日本ということでずっとワクワクしていました。2020年にまた来ようって思いました」と笑顔で挨拶。前日には居酒屋で、初めて白子を食べたそうで「とても変わった不思議な経験だったよ(笑)」と語り会場は笑いに包まれた。

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彼らが出演したシーズン1の撮影は2016年のリオパラリンピック前から始まったが、ダニエルの撮影を担当し、片道30時間の日本とブラジル間を何度も行き来し、作品を作り上げた細井ディレクターは「短い滞在の中でいかに距離を縮められるかが重要でしたが、ダニエルはブラジルのまぶしい太陽のような笑顔で僕らを迎えてくれた」と述懐。

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ダニエルは「大事なのは信頼。この人になら託せると思った」と語り「この意義あるプロジェクトに参加できるのは誇りでした。単に選手としての部分だけでなく、私生活にもフォーカスをしているというのが重要なポイントで、僕らは障がいの有無にかかわらず、みなさんと同じ人間なんです。人の生き方は障がいの有無や外見で決定づけられるものではないということを確認してもらうためにも、意義のある機会でした」とふり返った。

足を失ったことは「人生で最高のこと」エリー、強さの原点

一方のエリーは、作品の中で「(3歳でがんで)足を失ったことは、人生で最高のことであり、多くの扉を開いてくれた」と語っている。改めてこの言葉の真意、そう発することができる"強さ"について尋ねると「よく両親とも話をするんですが、(手術で)2度目の生きるチャンスをもらえたのに、そこでネガティブな気持ちでいてももったいないでしょ? 私と同時期に入院していた子たちの中には、残念ながら命を落としてしまった人たちもたくさんいるんです。自分はこうして生きているし、パラリンピックは私の人生の大きな一部なんです。何より、私の周りにいる選手たちは、誰もが人生でつらい時期を過ごし、他の人たちよりも苦しい経験をしてるけど、みんな、それをバネにして金メダルを獲ったり、結果を出しているの。周りにも影響されて、私はポジティブにいられるんだと思うわ」と力強く語った。

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3度目のパラリンピックとなったリオで、エリーは当初、結果を出せず、追い込まれる中で、最後の100M背泳ぎで金メダルを獲得。表彰台で涙した。この涙について「ロンドンで金を獲って、追われる立場として臨んだけど結果が出ず、不安もありました。最後の挑戦でやっと金メダルを手にして、普段、あんまり泣くことなんてないのに表彰台に向かう途中"GOLD"という表示を見てグッとくるものがあったの」と明かす。

彼女に密着してきた泉プロデューサーは「もし最後まで金メダルを獲らなかったらどうしよう? と緊張して見ていたんですが、最後に素晴らしいレースを見せてくれて、パーフェクトな物語ができたと思いました。それまで、インタビューでもつらい経験の話でも全然泣いたことなんてなかったのに、表彰台に上がった瞬間にブワっと泣いて、スタッフ一同も涙でした」と当時の興奮をふり返った。

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パラリンピックが自国で開催されることの意義とは?

2020年の東京パラリンピックを前に、リオで自国開催のパラリンピックを経験したダニエルは、学生たちに向け「パラリンピックへの出場は素晴らしいことですが、自国での開催というのはさらに素晴らしい経験なんです。リオでの開催はブラジルにとってもターニングポイントとなったと思いますし、障がい者スポーツがどういうもので、障がい者がどんな存在であるかを実感できたことは、大きなレガシーになったと思います。みなさんもこれから、それを経験しようとしているわけで、その大きさを感じてほしいし、自国の選手たちに声援を送ってあげてほしいと思います」と呼びかけた。

エリーもダニエルの言葉にうなずき「(2000年のシドニーパラリンピックを開催した)オーストラリアもそうでしたが、東京で開催されることで、みなさん、パラリンピックを肌で感じると思いますし、この10年ほどで知識も大きく増え、変化を体感することになると思います」と語った。

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また、学生からの「タイムが伸びなかったり、壁にぶち当たった際、どのように乗り越えるのか?」という質問に、エリーは「長く競技を続けていれば、なかなか伸びなくなったり、後退することは必ずあるので、まずはそれを受け入れることが大切。私自身、スポーツ科学を勉強してきたので、知識を駆使して何が自分に合うのかトライするのが好きです。うまくいかないこともあるし、みんなと同じことをやっても差は生まれないので、自分に合うことをやるのが重要です。壁にぶち当たったったら、一歩下がって深呼吸し、何がいけないのかを冷静に見なくてはいけません。ちょうど"カイゼン(=改善)"という日本語を知りましたが、それはすごく大事なことです」と語った。

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ダニエルも「選手である以上、行き詰まる瞬間は必ずある」とエリーに同意。「僕は選手として、掴むべき成功をそれなりに手にしてきたけど、いつも昨日より今日、今日より明日と革新を求めるタイプです。そのためには変化も大事です。いままでうまく行ってたとしても、何かを変えなくてはいけないこともあるし、限界や不可能は自分自身の中に潜んでいるものであり、信じる力があれば覆せると思っています。まずは行動すること。そして、苦しい時はいったん休んで、笑顔を周りに向けることも大事だと思います。笑顔はいろんな扉を開けてくれるものだと思います」と語り、教室は大きな拍手に包まれた。

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講義終了後にはエリー、ダニエルを囲んで全員で記念撮影。撮影終了後は余韻冷めやらぬ様子の多くの学生がエリー、ダニエルの元に駆け寄り、一緒に写真を撮ったり、ハグを交わしたりする姿が見られ、2人とも気さくに学生たちの求めに応じていた。

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金メダリストが目を向ける「これから」

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午後からの第二部では、場所を教室から同大学の屋内プール セントポールズ・アクアティックセンターに移して実演を含めての講義を開催! プールサイドは多くの学生で埋まった。こちらの講義には同大学のスポーツウエルネス学科の学生で、水泳部に所属するパラスイマーの鎌田美希も参加したが、鎌田さんは「私自身、小さい頃から水泳をしていますが、パラリンピックにはまだ参加したことがないので、こうした機会はすごく嬉しいです」と金メダリストたちと並んで笑顔を見せる。

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エリー、ダニエル、鎌田さんは3人とも、得意種目として背泳ぎを挙げるが「高校までは自由形で、大学から背泳ぎを始めた」という鎌田さんが、速く泳ぐ秘訣を尋ねると、エリーは「大事なのは首と頭の安定。コップを額に乗せて、落とさないようにするトレーニングを小さい時からしていました」と語り、ダニエルも「なるべく真っすぐに泳ぐこと。そのためになるべく体を大きく、バランスよく動かすことが大事」とアドバイス。鎌田さんは「トレーニングに活かしていきたいと思います」と目を輝かせていた。

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改めて、パラ水泳の魅力、楽しみ方について尋ねるとエリーは「水泳をしていない、普段の姿を見ていると『このひと、どう泳ぐの?』と思えるようなスイマーがものすごく速かったりするんです。これは水泳に限りませんが、見た目だけで人は判断できない、人の能力は外見では見えてこないというよい勉強になると思います」と語る。

ダニエルも同様に「アスリートが内に秘めている力を見てほしい」と訴える。「自分の中に秘められた力には信じられないものがあるんです。頼りになるのは自分の中に秘められた力です。パラリンピアンはトップアスリートである前に、ひとりの人間であり、とてつもない夢を追いかけてここまで来た人間です。そうした選手たちを生で見られるチャンスを楽しんでほしい」と語りかけた。

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さらに、ある学生からは、世界のトップで活躍する2人に対し、今後、年齢を重ねていく中でチャレンジしてみたいことを問う質問も。エリーは「まだまだいっぱいやれることはあると思いますので、目の前のことを頑張りたいですが、もうひとつ、大学で勉強を重ねて、助産師になりたいと思っています」とセカンドキャリアでの夢を明かす。

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ダニエルは「僕はいま30代だけど、マーケティングを勉強しています。スポーツでいろんな可能性を見出したので、スポーツを通じていろんな人をサポートしたいし、障がい者がスポーツをしていくサポートもしたい。スポーツでという以前に、人生で成功し、引退した後も人の役に立っていけたらと思っています」と語った。

金メダリストの競演に学生たちも熱狂!

そして、いよいよ実技の時間では金メダリストたちが水の中で競演! エリーとダニエルは背泳ぎ、バタフライ、自由形と華麗な泳ぎを見せつけ、プールサイドから学生たちが熱い声援を送った。

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さらに、鎌田さんをはじめ、同大の水泳部のメンバーも加わり、"チーム・エリー"と"チーム・ダニエル"にわかれてのリレー対決を実施!

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エキシビジョンかと思いきや、両チームとも泳ぎに熱が入り、わずかにチーム・ダニエルがリードしたままダニエル、エリーというアンカー同士の争いに!

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最後はエリーが渾身の泳ぎでダニエルをかわし、タッチの差で勝利! パラリンピック本番さながらの白熱した戦いに会場は拍手と大歓声に包まれた。

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最後にダニエルは、学生たちへの感謝の想いを口にし「夢を信じて進んでください。僕はたくさん、夢をかなえることができましたが、もっともっとかなえたいと思っています。僕にできたんですから、みなさんにもできるはずです。いつまでも自分を信じ続けて!」と熱いエール。

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エリーも「自分を信じて進んでください。新しいことを始めるときに、はじめからエキスパートである人はいません。夢を持っているだけで資格は十分です。必ず、ネガティブなことを言う人はいるでしょうが、そういう人たちの言葉を信じていたら、今の私はいませんでした。自分を信じたからこそ今があるんです。2020年を楽しみにしています」と2020年の凱旋を約束した。

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取材・文/黒豆直樹  撮影/川野結李歌  制作/iD inc.