2018.12.28

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「放送で落語を見て、寄席に足を運んでもらうのがゴール!」 WOWOWと落語の幸せな関係

制作部小林慶吾チーフプロデューサー 制作部高田亜美プロデューサー

「放送で落語を見て、寄席に足を運んでもらうのがゴール!」   WOWOWと落語の幸せな関係

WOWOWでは「博多・天神落語まつり」「はじめての談志×これからの談志」、「はやおき落語」と充実のラインナップで他局では見られない落語コンテンツの放送に取り組んでいる。これらの番組を担当しているのが小林慶吾チーフプロデューサーと高田亜美プロデューサー。仕事で落語の担当になって以来、自腹で寄席に通いつめるほど落語にのめり込んだというお二人に番組に込めた思いや制作の裏側、落語の魅力について話を伺った。

限られた予算の中で落語をどう世の中に伝えるか?

――まずは、おふたりの普段のプロデューサーとしてのお仕事の内容について教えていただけますか?
小林 僕の担当ジャンルは割と幅広いですね。落語のほか、ドキュメンタリー、ステージ、お笑いジャンルの番組も担当しています。昨年度からフィギュアスケートのアイスショーなどもやっていて現在来年度の企画開発中、あと新しいところではダンスコンテンツの企画開発にも挑戦しています。

――WOWOWには新卒で入社されて?
小林 そうです。入社して26年になりますね。基本的にずっと番組を制作する部署に所属しています。中でも音楽番組制作に関わっていた期間が長くて約15年間。社歴の半分以上ですね。他にもいろいろやっていますが、やってないことと言えば...映画とドラマのプロデュースに触れたことはあまりないですね、そういえば。それ以外はだいたい全部やっています。

――高田さんのお仕事は?
高田 落語以外では、オリジナルコンテンツの「おしゃべりアラモード ~森山良子と清水ミチコとプラスワン~」というトーク番組を担当しています。あとは米国のアカデミー賞の授賞式の中継を毎年やっておりまして。

――ロサンゼルスに行かれるんですか?
高田 私は残念ながら現地には行かないほうのスタッフでして...、日本のスタジオを守っております(笑)。あとは単発でステージを担当することが多いですね。rakugo6.jpg

――WOWOWと落語の関りについて、WOWOWでは「W亭」など、以前から落語を放送されていますね。近年では 「博多・天神落語まつり」などレギュラーコンテンツも放送されるようになって...。

高田 「博多・天神落語まつり」はアカデミー賞と同じで年に1回開催されています。放送としては今度で5回目になります。114220_000_key_a.jpg

小林 もちろんそれよりも前から落語自体は放送しています。 僕らが落語の担当になる以前から、レギュラーではなくとも単発でいろんなコンテンツを放送していますね。

高田 私たちが関わるようになったのは去年くらいからで、もともと、いまの制作部の部長がプロデューサーだった時代に、落語を定期的に担当してました。W亭なども彼が担当していました。5年前に「博多・天神落語まつり」の放送を始めたんですが、これはボリュームも大きくて尺も長く、シリーズ展開もされていて、今やWOWOWの落語コンテンツの大黒柱になっています。それを中心に、そこに向けてお客さんを定着させていこうと去年、初めて年間計画を立てて色々と始めてみたんです。それまでは舞台などと同じで(コンテンツが)あるタイミングで放送するという感じだったんですけど。

――具体的にいま、WOWOWでは落語に関してどんな展開を意識していますか?

高田 まず、大きく言うと予算が限られた中でどう工夫していくかという点がすごく重要でして...(苦笑)。

小林 そうだね(苦笑)。rakugo3.jpg

――「コンテンツは増えているんですよね?

高田 はい、増やしました。

小林 見せ方として、「博多・天神落語まつり」を4か月連続で展開したりもしていますが、他のメジャーコンテンツと比べると番組予算は限られるので、その使い方をどうするかがとても大事です。より広く"絨毯爆撃"をするか? それともひとつのコンテンツに集中して視聴者を引き込んでいくか? で言うなら、いまは前者のやり方で、なるべくコンテンツを増やしている状況ですね。

高田 落語番組の面積を増やすことで「WOWOWも落語をやっているんだ」ということを視聴者に気づいてもらうという考え方です。もともとの落語ファンももちろんですが、偶然チャンネルを合わせて頂いた方にも落語の魅力に気づいてもらえたらと考えています。

現在の"落語ブーム"はホンモノか!?

――ここ最近、「平成最後の落語ブーム」なんて言い方もされていますが...。

高田 配信では若い人が多く見られている印象があります。『はやおき落語』はもともと、渋谷のユーロスペースで毎月開催されている落語会「渋谷らくご」で収録されたものを放送していて、「渋谷らくご」ではポッドキャストでも若い層を中心に多くの方が見ているようなんですが、「博多・天神落語まつり」の現場に行ってみると、客層はやっぱり年配の方が多いですし。地域差もあると思いますが、ブームと言いつつ、まだまだ広がる可能性があるとも言えます。

小林 ブームとは言われてますが、冷静に見ると「実際はどうなんだろう?」と思うことがあります。 なんとなく「落語」と聞いて、みなさんは絵づらを想像できるでしょうし、『笑点』という国民的な番組があるおかげで落語家さんそのものには馴染みはあるのだけども、果たして実際に落語に直接触れているかというとまた別だったりすると思います。 確かにいままで触れてなかった人たちが、落語というコンテンツに触れ始めたのは事実だと思います。

僕にとっては「落語ブーム」ってありがたい言葉ですし、企画書のキャッチには非常に使いやすい言葉なんですが、実際のところエンターテインメントの中で落語が「ブーム」と言い切れるのかどうかは微妙なんじゃないかと思ったりする部分もちょっとあります。 普通の人が「粗忽の釘」と言われてもどんな話なのかは知らないし、有名な「芝浜」もタイトルは聞いたことあるかもしれないけど、話のサゲ(=オチ)までは知らない人がやはり多いと思います。

まあ僕自身が昨年、落語の仕事を始めた当初は「芝浜」のサゲは知らなかったんですけどね(笑)。rakugo4.jpg

――小林さん自身は仕事で触れるまで、まったく落語を聞いたことがなかったんですね?

高田 私のほうが1年先に落語の担当を始めてたんですよ。

小林 担当してすぐの頃は、高田と制作スタッフさんとかとの会話を聴きながら「こりゃマズい。まったくわからん。」と思ってました(笑)。

高田 私自身は1年前の段階で完全にハマって、いまでは枕(=イントロダクション)で、何の演目か早押しクイズができるようになってきました(笑)。でも小林さんもこの1年で相当、見てますよね?

小林 あれから1年で1,000席見たからね。先週も寄席に行ったし。

――高田さんは、担当になる以前の落語への造詣は

高田 ほとんど知識も何もなかったです。きっかけ、出会いということで言えば、「渋谷らくご」に伺ったときに、春風亭一之輔師匠の「藪入り」という話を聞いて、涙が止まらなくなって「あぁ、すごいんだな、落語」という体験があったんです。それから仕事をしていく中で、落語家とはどういう人間なのか? どんな話が面白いのかとどんどん深みにはまっていくようになりました。

だから、どちらかと言うと「放送を見てほしい」という気持ちよりも、放送を見てハマってもらって「寄席に足を運んでほしい」という思いがあります。小林さんともよく話すんですけど、最終的なゴールは寄席に人を連れて行くことだって。放送がその手助けになればと思います。

小林 本質的に落語はTVのエンターテイメントじゃないんだよね。

高田 それは仕事しながら本当に思います。完パケを見ながらつい「絶対に生のほうが面白いんだけど!」って思っちゃう(苦笑)。

――「WOWOWで働いている人あるある」かもしれませんね(笑)。

高田 そうかもしれませんね(笑)。

小林 もちろん、(放送と生と)両方が成立しているコンテンツはありますよ。例えばサッカーとか。スタジアムで生で観るのが面白いのは事実なんだけど、選手の表情や細やかな動き、またフォーメーションの変化なんかを専門家の解説付きで楽しめるのはTV中継ならではですし、サッカーだけじゃ無く他にもたくさんそういうコンテンツは存在しています。落語はそういうのとはまた違って、お互いの目が合うくらいの広さでしかやらないエンターテイメントですからね。1万人の劇場ではやらないですから。落語は、細やかな表情や動きが見えてなんぼのエンターテインメントなんで。

そういう意味でもTVの現場がゴールではないんですよね。むしろ番組は寄席に足を運んでもらうお手伝い、1回も寄席に行ったことがないひとに行ってもらえるようになる番組を作りたいなと思いますね。本当に1回、たった一度で良いので寄席に行っていただければ面白さがわかりますから。

――知らない人からすれば、古典の作品なんて中身は同じなんだから、誰がやろうが同じじゃないの? と思ってしまいますが...。

小林 言ってみれば、全部"カバー曲"のライブですからね(笑)。不思議なものですね。理論化できないですよね、その魅力を。

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朝6時から毎日、落語というチャレンジ!

――現在WOWOWで放送されている落語番組が「博多・天神落語まつり」「はやおき落語」、そして「はじめての談志×これからの談志」の3番組になります。「博多・天神落語まつり」について、先ほど「年1回のアカデミー賞のようなもの」と仰っていましたが、今年も1月2日(水)午前11時からの放送となります。

高田 そうですね。11月に開催され、お正月に毎年放送して、WOWOWの落語コンテンツの中でも最も利用頂いている番組です。これまで正月、春、夏と総集編を放送してきたのですが、今年から、1月から4か月間連続で放送という新しい試みになります。というのは正月、春、夏だとどうしても間が空きすぎてしまうので、もうちょっと視聴習慣をつけていただければと、今回から4か月連続放送に舵を切りました。

――そして「はじめての談志×これからの談志」は今回で4回目となりますが、2019年は1月2日(水)の午前10時からの放送ですね。

高田 談志師匠の誕生日が1月2日なので、毎年、この日に放送するんですが、これも一種のイベントというか、"レジェンド枠"ですよね。談志の場合、どの放送局でもかかってないコンテンツが多く残っていまして、これまではそれを掘り出してWOWOWで初めて放送してきました。114310_001_key_a.jpg

――この番組自体はどういう経緯で始まったんでしょうか? そもそも、未放送のコンテンツというのは...?

高田 晩年の談志師匠の公演を記録し続けていたプロデューサーの方がいらして、その方が企画を持ち込んでくださったんです。結構な量のコンテンツを毎年、放送してきました。今年は放送にはかかってないけど、一度、DVD化されている演目を放送します。

――「はやおき落語」(毎週月~金曜午前6:15※レギュラー放送は現在終了)は平日の帯番組として全100回を放送しましたね。

高田 「はやおき落語」は、平日の帯で放送して、落語を見たい人、興味がある人たちに常に落語を提供できるようにと100回はやってみようと始めました。hayoki.jpg

――朝6時台で落語というのは、なかなかチャレンジングだと思います。民放では各局が朝の情報番組を流している時間帯ですね。

小林  結論から言うと帯で落語を置けるのは朝しかないのかなと思います。夜から深夜にかけてのWOWOWとして接触の高い時間はやはり、映画やドラマなどの強いコンテンツがありますからね。
当初は朝10時とか11時くらいの枠ではどうか、という話もあったのですが、それは僕のほうで断って6時にしてもらったんです。なぜかと言うと、10時帯は、統計上、家庭でTVがついてない時間なんです、白物家電のお時間というか。それならば6時台で各局の情報番組が横並びで8~9%を獲っているなかで、敢えてまさかの「落語」を放送してカウンターを当てていく感じの方がWOWOWらしいんじゃないかと。

高田 「はやおき落語」に関しては、オンデマンドの再生率も伸びていて、早起きの苦手な若者層が見てくれているのかなと思います。

いきなり名人芸を楽しむもよし! 勢いのある二ツ目で親しむもよし!

――素人目線の質問なのですが、これまであまり落語に触れたことのない初心者が見るのに、この3番組のうちでどれが適しているというのはあるんでしょうか?

高田 「博多・天神落語まつり」は出演者のほとんどが真打(=江戸落語で最上級の階級)しか出ませんから、入門編として最初にこういう名人芸に触れるといいのかなと思います。ただ一方でいま、"二ツ目"と言われる真打ちのひとつ手前の若手落語家さんたちが勢いがあってすごく面白いんですよ。二ツ目の落語の会の数も増えてて、若い人にとってすごくとっつきやすい落語をやっていると思うので、そういう意味でもどっちも楽しんでほしいです。

――「はやおき落語」は二ツ目の落語家が出られているんですよね?

小林 だいたい2割ほどの高座が二ツ目の落語家さんですね。

――若い層や新しいファンの獲得に向けて、意識されていることなどはありますか?

小林 落語の力を信じて球を投げ続けていきたいなと思います。二百年も続いている伝統芸能...いや、大衆芸能がエンターテインメントのコンテンツとしてつまんないわけはないんですよ。どの時代にも、楽しんでいる人たちがいるからこそ続いてきたわけですから。

いまでも、新宿の末廣亭の楽屋口で緊張した顔の若者が、自分が惚れた師匠が出てくるのを待っているたりするんです。まさに今話題の「昭和元禄落語心中」の世界ですけど。頭下げて「お願いします。弟子にして下さい」「おめぇ、誰だ?」って。で、3度目、4度目くらいにようやく一言「明日、鈴本(※上野にある寄席)に来い」って言われて、新しいお弟子さん、つまり未来の真打が生まれたりしているんです。実際に。

いまでもそういう人たちがいるわけですよ。レジェンドと言われる人たちが亡くなって、でも若い人たちがそうやってこの世界に飛び込んで...それが脈々と二百年も続いている。面白くないわけがないんですよ。番組制作予算の限りはありますが、その範囲でできるだけ提供し続けて触れて頂いて、WOWOWで落語に触れた人が好きになってくれるように取り組んでいきたいと思います。

質問の答えからは外れてしまうと思いますが、ブームかどうかとか、若い人がどうしたとか僕はあまり気にしたことはないです。興味があっても落語に触れる機会が今まで無かった方だとか、寄席や落語会があまり無い地方に住んでいらしたりだとか、例えばお身体が悪くてなかなか寄席に行くことが出来ない事情をお持ちの方だとか、全国放送のWOWOWは日本全国の皆様にコンテンツを送り出せるので、そういう人たちの"寄席"になれたらいいなと思ったりしています。

――小林さんご自身、落語に衝撃を受けた原体験は...?

小林 いっぱいありますよ! 挙げきれないくらい。番組でご一緒させて頂いた柳家喬太郎師匠や春風亭一之輔師匠の高座はいつ見ても転げまわるように笑っちゃいますし、談志師匠や志の輔師匠は抱腹絶倒というよりも「すごい!」って印象が強いです。rakugo7.jpg

高田 「すごいものを見た」って感じですよね。去年、小林さんがWOWOWオリジナルで喬太郎師匠の独演会をやったので、今後も違う座組で「WOWOW寄席」のような感じでやっていけたらいいですよね。

――WOWOWでは、未来に向けた社員の行動指針として「偏愛」をテーマに掲げています。お二人は仕事をする上で、どんなことを大切にし、どういう部分に"偏愛"を持っていらっしゃいますか?

小林 僕は"結果主義"なので、やりがいという意味ではお客さんの声だったり、より多くのお客様に番組を見てもらうことです。「お客さんが見ている」「ほめてくださっている」というのが結果や数字として出てくるとテンションが上がります。

高田 私はむしろ逆で、入社してしばらく番組宣伝を担当していて、そこは利用者数が出ない世界なので、あまり数字を過信しないように気をつけています。むしろ数字に関係なく「目の前でひとりが面白いと言ってくれるなら、その裏に100人くらいはそう思ってくれる人がいるんじゃないか?」くらいの感じで、まずは自分が面白いと思えるかどうかを大事にしています。ハッキリした数字が出なくても「全国のどこかに私と同じように楽しんでくれてる人がいるんじゃないかな?」って。だから、手応えややりがいという意味では、身近な友達とかに直接「あの番組、面白かった」と言ってもらえるほうが、数字が出たときよりも意外とうれしかったりするんですよね。rakugo8.jpg

小林 あとは僕は基本、制作畑の人間で「企画がすること」が好きなんです。「0を1にする」と言いますか。もちろん、落語であったりライヴであったり、エンターテインメントのコンテンツはもともと存在するわけですから、厳密に言えば、自分が「0を1にする」わけではないんですが、「落語の面白さをどう伝えるか?」くらいのざっくりした大きめのお題から、「さてどうしてやろうか」と考えてその魅力を掘り起こして企画を練っていくのが好きですね。

高田 私も落語に関して言えば、仕事として担当しつつ、自分でお金を払って見に行くのを楽しんでますから、まさに偏愛を仕事にしていると言えるかなと思います。

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平日は朝一番から、ひと笑い。心と体の健康を作り、幸せを呼び込むような落語番組。厳選した笑いをお届けする。

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.