2019.07.11

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「番組が持つ本質を十分期待させるプロモーションを。」WOWOWの視聴者の方に「期待通り面白かった」と言っていただけるような番組作りをしたい

スポーツ局スポーツ部 加賀爪充穂子

「番組が持つ本質を十分期待させるプロモーションを。」WOWOWの視聴者の方に「期待通り面白かった」と言っていただけるような番組作りをしたい

7月13日(土)より放送がスタートする、異色の番組『つるさんかめさん~ニッポン算額探訪~』。海外スポーツの買い付けを主な仕事としてきた加賀爪充穂子プロデューサーが、社内の“オリジナル企画募集”に応募し射止めた企画だ。好奇心が旺盛なWOWOWの視聴者の方に満足いただけるであろう、いろんな「なにそれ?」が詰まった“算額”を題材とした本企画。
【『つるさんかめさん~ニッポン算額探訪~』番組説明】『江戸時代に発展した日本独自の算術「和算」。全国の神社仏閣に奉納された「算額」を訪ね、そこに描かれた和算問題に挑戦する。時代を超え、数学と戯れる新感覚の旅番組』―要点をシンプルに伝える文章は、加賀爪がとくに意識しているところでもある。「番組の良さがしっかり伝わるようなプロモーションをして、『本当にその通りだったね。面白かった』と言っていただけるよう心がけている」と語る彼女の思いは、常に視聴者に向いている。

人脈と知識を活かし、WOWOWのスポーツコンテンツの拡大につとめる

──WOWOWに入社する前はどんな仕事をされていましたか?

何度か転職しているのですが、長く勤めたのはワーナー・ブラザースのビデオ部門(現:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント/旧:ワーナー・ホーム・ビデオ)が最初ですね。入社当時はレンタルビデオの全盛期。マーケティング部で米国本社とのコミュニケーションを担当していました。

その後、CSチャンネルが増え始めた頃に、たまたまご縁があってVAIONETというソニーのCSチャンネルを運営する会社で編成プロデューサーとして働いていましたが......2年半くらいでなくなってしまって。

「もうちょっと本格的にCSの仕事をしてみたい」と、CSで人気がある映画、アニメーション、スポーツの3つのジャンルの仕事を考えた時に......映画とアニメーションは「すでに劇場公開したり他局で放送済みの作品を買い付けて放送する」という意味では、ワーナーでやってきた仕事と似ているような気がしたんですね。

一方で、スポーツはテレビがファーストランの仕事なので「面白そうだな」と。自分もスポーツを観るのが好きだったということもあって、ご縁があったJ SPORTSに入り、海外スポーツの放送権を獲得する仕事を担当しました。

──J SPORTSではどんなスポーツを担当されていたのでしょう?

プレミアリーグなどの海外サッカーや、自転車のツール・ド・フランス、プロレスのWWE、世界卓球......ほか、スキーのFISワールドカップやフィギュアスケートの世界選手権などもありましたし、Jリーグを担当していたこともあります。

──当時からJ SPORTSはスポーツ放送のトップランナーだったと思うのですが。

そうですね。入った時点ですでに3チャンネルあって、後からもう1チャンネル増えるのですが、それだけのボリュームを中継できるスポーツチャンネルというのは、いまもJ SPORTSだけです。そういう意味では色々な仕事をさせていただいて、大変勉強になりましたし、楽しかったですね。

その後、ソニー本社のODS(映画館で映画以外のコンテンツを配給する)を扱う部門で働くことになりまして、ちょうど全国区になっていくタイミングのAKB48の仕事を手がけることができました。日本で初めてHDの生中継を映画館でやったりと、すごく楽しい仕事だったのですが......そこも1年ちょっとでなくなってしまったので、「次はどうしようかな?」と思っていたときにWOWOWとご縁があり、2011年に中途採用で入社しました。

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──そうして、スポーツ部に配属されたということですね。

そうですね。入社した頃、WOWOWはちょうどHD3チャンネル化の準備をしていて、コンテンツを増やしていた時期で。スポーツについても「扱うジャンルを増やしていく」ということで、権利交渉をしたり、権利元にプレゼンしたり、契約を進めたりと忙しく仕事をしていました。WOWOWで初めて放送するスポーツコンテンツを色々と手掛けることができましたね。

──加賀爪さんのキャリアが活かせたということですね。

人脈や知識を活かすことができたので、よかったなと思います。スポーツのコンテンツを扱っている業界は比較的狭い世界で、ずっと同じ人たちがどんどん転職しながら(笑)居続けているんですね。なので、そういう意味では人脈はとても重要ですし、ほかのコンテンツと買い方が全然違うので、知識も必要ですし......。

──「買い方が違う」というのは?

例えば映画などはできあがっている完成形のものを買いますが、スポーツは生中継をする前に権利を購入するので......そんなに難しくはないけれど、やっぱり経験が必要かなとは思います。

──どういった内容になるかわからないものを買う、ということですからね。

ある意味、そうですね。日本のチームが活躍するかどうかわからないけれど買う、錦織選手が出るかどうかわからないけれど買う、みたいな感じですね。もちろん、ある程度見込んで買っていきますが......それがスポーツの面白さでもあるんですよね。

いろんな"知りたい"という気持ちが刺激される、「算額」という題材

──入社以来、スポーツ部で海外スポーツの買い付けに携わっている加賀爪さんですが、今回まったく異なるジャンルの番組『つるさんかめさん~ニッポン算額探訪~』(7月13日スタート)をプロデュースされるということで、とてもビックリしました。

ですよね(笑)。「今度、算額の番組を作ることになった」と話したら、「なにそれ!?」って、みんな口を揃えて言うのがすごい面白くて(笑)。

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──企画のきっかけは何だったのでしょう?

WOWOWの社内で"オリジナル企画募集"というのがあって、それに応募したんです。以前一緒に働いていた人が企画会社を立ち上げて、いろいろと面白い企画を実現していて。彼らならば、WOWOWの視聴者の方たちが好きそうなものを作ってくれるような気がしたので相談してみたところ、企画書が出てきたんですが......あんまりピンとこなくて。そこで初めて「だったら、算額とかのほうがいいんですかね?」って言われ、「なに算額って!?」という話になりまして(笑)。

「江戸中期から明治初期にかけてすごく流行っていた」、「全国の神社仏閣に奉納されていて、900枚ぐらい現存している」、「北野天満宮や善光寺といった、すごく有名なところにもある」といったように、聞けば聞くほど「なにそれ?」という疑問がたくさん出てきて、それは面白いんじゃないかと思ったんですね。それで企画書を作り直して応募したら選ばれました。

──「WOWOWの視聴者の方たちが好きそう」というのは、具体的には?

WOWOWの視聴者の方たちは、好奇心が旺盛な人が多いと思うんです。映画やドラマ、スポーツを観るためにお金を払って契約してくださっている、コンテンツを観ることに積極的な方々ですから。

そんな中で"知っているはずの場所に、知らないものがある"みたいな......修学旅行や観光旅行で訪れることの多い神社仏閣ですが、そこに算額が奉納されているというのは知らない方のほうが多いと思いますから、「算額ってどんなものなんだろう?」、「自分も行って探してみたい・解いてみたい」、「近くの神社にもあるのかな?」と興味を持っていただけるだろうと。

いろんな"知りたい"という気持ちが刺激される題材だなと思ったので、WOWOWをご覧になる方だったら「これは面白い」と思って観てくださるんじゃないかと。

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──社内で最初に企画を出したときの反応は?

結構ウケました(笑)。「期待してるから!」と何人かに言われて、逆にプレッシャーになりましたね(笑)。ネタ的には面白いので、選ばれる可能性はあるんじゃないかなと思っていましたが、実際に選ばれたのでうれしかったです。

──京都を拠点に活動する演劇集団「ヨーロッパ企画」の方たちをキャスティングした理由は?

キャストについては悩みましたが......そもそも算額というものが知られていないなかで、「実は僕、算額ファンです」という人はまずいないでしょう。それでも、一緒に算額を見ていきながら、番組を支えてくれる人が必要でした。そういう意味でも、ヨーロッパ企画の方々はいろんなジャンルのお仕事に挑戦されていますし、Eテレでレギュラー番組を持っていらっしゃったりもするので、ピッタリなんじゃないかと思いました。

実際、今回の企画の話に、すごく興味を持ってくださって「ぜひやりたいです」と言ってくださいました。それなら、未知のものに取り組んでいく番組を一緒に作っていけそうだし、支えていただけるんじゃないかと期待が高まり、キャスティングしました。

──神社仏閣でのロケや、「和算」や「算額」のリサーチなど、準備が大変そうな印象ですが......。

関係者の方々はとても協力的で、よくしていただいたので、特段苦労はなかったのですが、監修は小寺裕先生という「算額」の権威の方を紹介していただき、どの神社、どの寺院のどの問題がいいかなどを教示いただきました。

算額に描かれた和算の問題ってすごくレベルが高いので、改題が必要だったり、そのあたりを相談させていただいたり、解答の表現が合っているかどうかを監修していただいたりもしています。非常に奥深い世界なので、小寺先生曰く、過去にも何度か算額を扱う番組を作りたいと相談を受けたものの、実現したことはなかったそうです。そういう意味でも、今回は本当にチャレンジだと思います。

当時の人たちと同じように算額に取り組むことで、感情を共有できる

──算額の番組を作るうえで、とくに難しさを感じているところは?

問題の解説も難しいんですが、解答をどう見せるかもものすごく難しくて。全部やろうとすると、数学の番組になってしまうんですよね。番組の限られた時間内で説明し、理解してもらえる量はそれほど多くありません。数学がよほど得意な人じゃないかぎり、わからないと思うんです。ですから、どう端的に解答を見せていくか、というところは本当に難しいですね。

──番組を作っていくなかで、算額の魅力を改めて感じたところは?

丁寧に図形が描かれていて、彩色されて、問題がきちんと書かれていて、奉納した人の名前が書いてあるっていう......算額を作った人の思いをすごく感じます。番組のなかでも、船の形をした問題とか、とても変わったものも出てきます。奉納した人の肖像画が描いてあると、「自分のことが好きな人だったのかなあ?」とか(笑)想像できるのも楽しいです。

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── 一般の人が神社を訪れて見せてもらえるものなのでしょうか?

神社によって異なります。北野天満宮は絵馬所に飾ってありますし、善光寺も資料館に展示されていますね。一方で、蔵に納められている場合もありますので、全部見られると一概には言えないんですが、今回の番組で扱ったものは......ひとつを除いて、行けばすべて見ることができます。

──そういった魅力を、好奇心が旺盛なWOWOWの視聴者の方々に伝えるために意識したことは?

私のように、幾何学の問題を見ただけで「?」と思考停止してしまうような人もいれば(笑)、「解いてみたい!」とすぐに手を動かし始める人までいると思いますが、どんな方にも「観てよかった」と思っていただくためにはどうすればいいかを、すごく考えています。

数学が苦手でも、少しだけわかった気になる。「あ、そういうことなのね、解けないけど」みたいな(笑)喜びやちょっと得した気分を味わっていただけるといいなと思っています。30分の番組の中では難しいかもしれませんが、番組が終わった後に解いてみるのも楽しみ方の一つになると思います。

──実際のところ、どれぐらいの難しさなのでしょう?

改題をしないとまったく解けない、大学以上のレベルの問題もあります。ただ、今回番組で想定したのは現役の中学生が解けるレベルなんですが......はるか昔に中学を卒業した私にははなかなか解けなくて(笑)。「中高生の自分なら解けたはず」と思いながら作っています。

──ヨーロッパ企画のみなさんも、かなり解答に苦労されているようですが?

そうですね。実際に解いていただいているので(笑)。最初にみなさんにお集まりいただいて番組の説明をしたときに、「番組のなかで、実際に問題を解いていただきます」とお伝えしたらシーンとしちゃったんですが(笑)、みなさん真剣に取り組んでくださっています。

──番組をご覧になられる方に、オススメの見方やポイントなどを教えていただけますか。

算額というのは、問題を作って解いた人が「ありがとうございます。これからも頑張ります」と、感謝するために奉納したと言われているんですが、盛んだった江戸中期から明治初期ぐらいの人たちがそうやって一生懸命解いたものを、現代の私たちも同じように解いて楽しめるのが面白いですよね。

何百年も前に生きていた人たちと同じように問題に取り組んで、「解けた! 嬉しい!」と喜ぶ気持ちは今も昔も同じかもしれないですよね。そんな想像もできる楽しさを、視聴者のみなさまにも感じていただたら嬉しいです。

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──たしかに、解けたときの喜びはいつの時代も同じのような気がします。

そうなんですよね。なんだか不思議ですよね。和算や算額について研究している人たちが海外には多くいるそうです。当時は、学者たちだけではなく、色々な身分、さまざまな年代の人たちが、現在のクイズ感覚で楽しく解いていたんですね。

「和算家」という人たちもいて、各流派に入門して、その流派の解き方を外で明かしてはならない、誓約書があったりとか。そういった背景も非常に興味深いです。

──「こういう文化があったんだ」と知ることができるだけでも面白い番組だと思ったのですが、宣伝の観点ではなかなか扱いが難しいような気もします。

そうですね。珍しすぎて、既存ジャンルに当てはまらないので......あえて言うなら旅番組か歴史番組といった感じで(笑)。アピールの方法は模索しています。

──WOWOWのM-25旗印では「偏愛」をキーワードとしていますが、ご自身にとって番組を作るうえでの「偏愛」や「こだわり」とは?

スポーツも算額もそうですが......ジャンルに関係なく、ひとりでも多くのお客様に喜んでいただけるような番組作りをして、それを"良い形で"お届けすることを常に意識しています。

──「良い形で」とは?

番組に期待していただく。誤解なく、見た方に「期待通りだったね。面白かった」と言っていただけるような伝え方を常に意識しています。
番組が持つ本質、良さを十分期待させるプロモーションも大切にしています。

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取材・文/とみたまい  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.