「事業性がありそう」から始まった、サウナ×イケメン企画『サウナーーーズ ~磯村勇斗とサウナを愛する男たち~』
飯干紗妃(現:ビジネス法務部)×池田修司(コンテンツ事業部)×射場好昭(制作部)
『2.5次元男子推しTV』や『虫籠の錠前』など、プロデューサーとしてWOWOWに新しい風をもたらしてきた飯干紗妃が次に目をつけたのが「サウナ×イケメン」企画。「最初はサウナにはそれほど興味がなかったけれど、裸のイケメンが汗を流す姿にはすごく興味があった」とは、まさに彼女らしい発想だ。
飯干とともに『2.5次元男子推しTV』を“売れるコンテンツ”として育ててきたコンテンツ事業部・池田修司は、今回の企画についても早くから「事業性がある」と踏んでいた。さらに、飯干の元上司である制作部・射場好昭も彼女のビジネスマインドの高さを評価していたからこそ、制作部サイドのプロデューサーの役を買って出たという。そうして3人体制でスタートした“事業主導の番組作り”とは?
コンテンツ事業部が全会一致で「事業性がある」と判断した企画
──3月20日から放送開始の『サウナーーーズ ~磯村勇斗とサウナを愛する男たち~』ですが、企画の経緯について教えてください。
飯干 テレビドラマ『サ道』にご出演されたことをきっかけに、磯村勇斗さんがサウナにハマっていらっしゃるということをマネージャーさんに伺ったんです。正直なところ、当時の私はサウナにそれほど興味がなかったのですが、「顔がキレイな人や鍛えられた肉体の人が裸で汗を流している映像と考えるとすごく興味がある」と思って(笑)マネージャーさんとサウナ番組をやりましょう、とお話しして企画を書いたのがきっかけです。
──その企画をWOWOWの番組企画の社内公募に出したとのことですが?
飯干 そうなんです。番組社内公募では落選しましたが、「事業性がありそう」と、池田さんが所属するコンテンツ事業部が興味を持ってくれました。
池田 公募にあがった企画をコンテンツ事業部の全員で読んで、「どの企画が事業化できそうか」と挙げたところ、全員が全員、ひとつの企画だけを選んだんです。それがこのサウナの企画でした。
飯干 池田さんは私が以前担当していた『2.5次元男子推しTV』でも一緒に仕事をしたので、今回の企画についても公募に出す前からいろいろと相談していたんです。それで、この企画は"作って放送する"ということよりも......もちろん放送もしますが、収益化を目指すことができるのではないかと、一緒に企画を進めていくところから始まったんです。
──射場さんはどの時期から参加されたのでしょうか?
飯干 昨年の6月に企画が通ったタイミングで、私が制作部からビジネス法務部へ異動が決まったんです。異動しても引き続き番組制作には携わらせてもらえることになったのですが、社内の手続き上、制作部に"受けP"と呼ばれる担当プロデューサーを立てなくてはいけなかったので、射場さんにご協力いただきました。そこから射場さん、池田さん、私の3人体制で作っている感じです。
射場 僕が飯干の上司だったこともあって、"稼ぐコンテンツ"を作る飯干の独特な才能は知っていました。WOWOWにはあまりいないタイプの、ビジネスマインドが高いプロデューサーなんです。「良い番組を作ればいい」というのではなく、ちゃんとお金を積み上げてくる。
池田 『2.5次元男子推しTV』の時も、有料イベントを行なったり、コラボカフェを実現したりと、それまでWOWOWではやっていなかったことを率先して企画し、成功させていました。そんな飯干が「やる」と言った企画ですから、今回も面白いものだろうなと思って聞いてみたら、「サウナ×イケメン」ということで......飯干っぽいなあと(笑)。サウナブームのいま、サウナの番組やコンテンツはいろいろありますが、それらとはまた違った視点のものができそうだなと思いました。
──ほかの番組やコンテンツとの差別化について、どのようなところを意識しましたか?
飯干 日本国内の有名サウナを取り扱った番組が多い印象だったので、差別化としては「サウナの聖地であるフィンランドに行く」というのが大きいですね。とはいえ、フィンランドのサウナを紹介するだけですと、日本国内で番組を観てくださる視聴者の方に身近に感じていただけないんじゃないか? という懸念もありました。ですから、「あまり"遠い世界の話"にならないように、フィンランドと日本を繋ぐような構成にしたいね」と話していました。
──それで、前半4話がフィンランドパート、後半2話が日本パートとなったのですね。
飯干 そうですね。磯村さんにフィンランドのサウナを体験していただき、「その雰囲気を日本でもみんなで楽しもう」みたいな、ブリッジの構成にしています。
本当にサウナが好きな人たちが集まって作った番組になった
──視聴者のターゲットとしてはどのあたりを狙ったのでしょうか?
飯干 もちろんサウナ好きの方にも観ていただけると嬉しいのですが、磯村さんにご出演いただけるので、これまでサウナに興味がなかった若い女性にも観ていただきたいなと思って企画していました。
射場 これまでの日本は、サウナといえば"おじさんが汗を流すところ"といったイメージがありますが、フィンランドのサウナ文化はもう少しスッキリしていて、デザインなども良いんです。そういった文化に触れに行き、日本に戻ってきて実践してみるというのはWOWOWらしいというか、「WOWOWっぽいところに着地できそうだな」と思いました。
──キャストの人選についてですが、先ほどおっしゃったように、そもそも磯村さんありきの企画ということですよね。
飯干 そうですね。最初は磯村さんのフィンランド一人旅にしようと思っていたのですが、フィンランドにおけるサウナは交流の場でもあって"裸の付き合い"のような楽しい雰囲気があります。であれば、誰かと一緒に行ったほうが、よりフィンランドのサウナを現地の雰囲気で楽しめるのではないかと思って、フィンランドパートではやついいちろうさんにゲスト出演していただきました。
──やついさんは温泉・銭湯のコラムも執筆されていますね。
飯干 そうなんです。もともとサウナ好きで、磯村さんとも共演されているので、おふたりでサウナを純粋に楽しんでいただけるのではないかと思いお声がけしました。
──日本パートではゲストとして稲葉友さんと鈴木伸之さんが登場し、番組のナレーションは北村匠海さんが担当されています。
飯干 これまでサウナに触れてこなかった女性たちにも観ていただきたいと思ったので、磯村さんと同世代の方たちに出演いただきたいなと考えていたんです。そのタイミングで偶然にも磯村さんから「俳優&サウナ仲間のこういった人たちを番組に呼びたいんです」といった提案をいただいたので「ぜひ!」と。ですから、出演者の方々やスタッフを含めて"サウナを愛する男たち"がたくさん集まってくださった感じです。
──番組についてのリリースを出した際には、サウナ好きのみなさんが反応されていたようで。
飯干 『サ道』の原作者・タナカカツキさんも「連れてってよ~~!」ってツイートしてくださいました(笑)
射場 そうやって、この番組がサウナ好きに伝播していけば嬉しいなあ。
池田 そうしたらシーズンを重ねることができるかもしれないですし、その場合にはほかの方たちにも出演いただけますからね。
飯干 サウナ好きの方たちのネットワークって本当にすごくて、この番組を作っていくなかで「"サウナ人脈"ってすごい!」と実感することが多かったです。
射場 サウナ好きのみなさんが味方になってくれて、どんどん繋がっていって、その先の人たちも味方になってくれるっていうのがあったよね。
飯干 そうなんです。そんななか、私と池田さんだけサウナ初心者でしたが(笑)、いまや行くようになって。
池田 僕は昨日も行きました。
飯干 私も週末行きました(笑)。最初はサウナの入り方があることすら知らなかったんですが、番組スタッフから色々教えてもらったり、自分でも調べていくうちに「一度やってみようかな?」と思うようになりました。サウナ施設もどんどん進化しているようで、とてもキレイな施設もありますし、女性も楽しめるような工夫がたくさんされているので、行ってみたらイメージが変わりました。
射場 いま、サウナ自体が時代の変わり目にあるんですよね。メンズカルチャーだったけれども、それに女性も注目し始めていて。だからこそ、この番組も「おじさん向けではなくて、女性だけに観てほしいです」と言う必要もないと思っています。反対に「サウナ番組なんて、おじさん向けだよね」と言われたら、「いえいえ、そんなことはないですよ」って。それで実際に観てもらって「あ、こんなにオシャレなんだ」と認識してもらえればいいかなと思います。
サウナで身も心も裸になった"素の磯村勇斗"が観られる
──番組を作っていくなかで、意識した点はありますか?
飯干 旅番組感をあまり出さないようにしたことでしょうか。
射場 旅番組感が出すぎると、結局おじさん文化の文脈に戻ってしまうから。"スタイリッシュなライフスタイル"のような北欧のカラーは大事にするけれど、北欧のベタな旅番組にはならないように意識しました。
飯干 「フィンランドの人たちは、サウナをどう楽しんでいるか」というところですよね。北欧で撮影してはいるものの、サウナの楽しさをベースにはしたいと思っていました。
──1話でサウナからあがった磯村さんが、ぼーっと街を眺めているシーンがわりと長かったのはそういう観点からなんですね。
池田 そうですね。大切なシーンです。
射場 普通はああいうシーンを端折って、説明で軽く流してしまうようなところを、じっくり見せる。
──その場の空気を届ける、みたいな感じですよね。
射場 そうです。それがやっぱり"WOWOWっぽい"ところで、かつ、WOWOWが得意としているところです。
池田 それに、飯干企画って......『2.5次元男子推しTV』でもそうでしたが"俳優さんの素を見せる"ことを考えていると思うんです。サウナは身も心も裸になりますから、ドラマで観る磯村さんではなく"素の磯村勇斗"が観られる。そういう意味でもサウナは有効だと思いました。ありがちな旅番組にするのではなく、本当に好きなサウナを純粋に楽しんでいる磯村さんをただ撮っていく。それって大切なことだと思うんです。
射場 「愛がある・好きでいる」っていうことをそのまま、ごちゃごちゃいじらずに撮る。
池田 だから......今回の番組の磯村さん、めちゃくちゃ良かったですよね?(笑)
射場 良いよね~(笑)。サウナに入って出てくると、やっぱりいい顔してるんだよね。サウナが好きな人ってサウナで何かが解放されるから、ふにゃあっと、にこーっとして出てくるんですよ。それを撮るだけでいいんです。
──サウナ後の食事も美味しそうでした。
飯干 旅番組にはしたくないけれど、"サウナ飯"は紹介したかったんです。日本のサウナ施設にも、ご飯が食べられるところが併設されていたりするので、フィンランドのサウナ飯として紹介したいと思いました。
射場 地元の人も食べるサウナ後の料理を、実際にサウナに入った後に体験してみることで、サウナを含めたフィンランドの人たちのライフスタイルがより理解できるのではないかと思いました。観光名所にはひとつも行かず、地元の人に「こういうサウナに行って、その後はこういうご飯を食べるんだ」と教えてもらうイメージです。
「事業系の番組にしていこう」と始まった企画だからこそできること
──今回の番組はみなさんが部署を越えて連携して作られていますが、そのメリットはどこにあったと思いますか?
射場 制作側が「番組を作りました」と出したものを、「じゃあ売ってきます」と持っていき、「売ってきました。」というのが少し前までの状況でしたが、いまは放送ファーストでもなく、売りファーストでもなくて、両方とも同時にやっていく必要があります。
池田 例えば番組に使う音楽に関しても「クオリティを求めるんだったらこっちを使うけれども、売るんだったら安く使えるものにしてください」というお願いをしないといけない。そこの連携がとれていないと「作ったはいいけれど、売れない」ということが往々にして発生するんです。あるいは「これはすごく売りたいな」と思って(制作側に)言いに行っても、いろんな障害があって売れないことが多いんです。なので、最初から連携していかないといけないんです。
射場 そういう意味では、今回みたいなユニットを組むのは、すごく良いカタチだと思いますね。
飯干 最初から「事業系の(外販していく)番組にしていく」というところからこの企画が始まっているから、二次利用する際の障害を少なく作っていくことは前提にありました。複数の部署が連携することは多分それほど難しくなく、どちらかというとプロデューサーの意識が重要になってくる気がします。
池田 今回のように、それが最初からできているとスムーズにいくんですよね。プロデューサーが「これは外にも売れるはずだから、売りたい」と思っていないと、例えば放送までのスケジュールの制約で「このキャストを断念しよう」といったことになってしまいます。最初の前提が崩れてしまうと、僕らとしてはもう売れなくなるんです。飯干は売るための意識がしっかりあるので、売るために必要なことを妥協せずに遂行する。それができているから僕らは売ることができるんです。
飯干 でも、プロデューサーとしては......それだけが良いということでもないと思います。放送局としてのWOWOWは"良い番組ありき"ですから、全ての番組が売れなければならないというわけでもないと思っています。
池田 たしかにそうですね。特にドラマがわかりやすい例ですが、しっかりとしたブランド力のあるドラマ・ラインナップがあるから、ちょっと毛色の違うものや、売ることを考えたものも作るチャレンジができる。両軸ですね。
──そういう意味で、今回の番組はWOWOWにどんなメリットをもたらすと想定されますか?
池田 売る側としてはドラマがメイン商材なんですが、それだけですと社会における世情を出しきれていない気がしていて。でも、こういった番組ができて、それがどんどん外に出ていくようになると、「いま」を取り込んで発信していける。今回の番組に関して言えば、ブームがきているサウナを取り込んで発信することで、WOWOWを広めることができる。そういったことが期待できるのではないかと思います。
射場 WOWOWでは旗印として"偏愛"を掲げていますが、ドラマで偏愛は難しい。でも、サウナ=偏愛っていうのはすごくわかりやすいですよね。似たような感じで猫の番組『ねこが笑えば』やスニーカーの番組『スニーカータイムズ ~Sneaker Timez~』がありますが、それらもやはり偏愛をベースとした企画なんです。出演している人も、作っている人も好きなものを番組にする。それを観た人に「サウナってそんなに興味なかったけれど、なんかこの"みんなが偏愛している感じ"がいいなあ」と思ってもらえればいいですよね。多少変わっていても、すごくコアなジャンルでも、好きな人が集まって作ったら商品としても面白いものができるんじゃないかな。『サウナーズ』はそれを上手くやっていると思います。
──『サウナーーーズ ~磯村勇斗とサウナを愛する"男たち"~』の今後の展開についても教えてください。
池田 現在決まっていることとしては、WOWOW放送直後に「ひかりTV」で毎話配信します。
飯干 これも事業主体の企画だから縛りが少なくできることかと思います。ほかのプラットフォームでもこの番組が見られることにより、WOWOW加入者ではない方たちにも観ていただけて、可能性も広がると思います。
池田 WOWOWトラベルのツアーとのタイアップやグッズ展開なども考えています。それに、企画当初から飯干は「サウナフェスをやりたい」とずっと言っていて......。
飯干 女性が来られるサウナのイベントをやりたいなあって、企画当初からぼんやりと思っていました。初心者がひとりでサウナに行くのはハードルが高いと思うので、番組のイベントに参加する時に、イベント会場で手軽にサウナ体験ができたらいいなあ、と。女性とサウナを繋げるようなことを少しでもできたらいいですよね。
──それぞれ、お仕事をされるうえでの「偏愛」や「大切にしていること」を教えてください。
射場 「テレビの良さをWOWOWで、どう打ち出していくか」は考えています。テレビは「今日あったこと・昨日あったこと・いまの時代」といったことをすぐに反映できるメディアだと思うんですが、WOWOWはいまの時代の空気をちゃんと吸っていない感じもしていて。ニュースもやっていないですし、過去の映画作品を放送していますし、撮ったものを寝かせてから出したりもしています。もっと「いま」の空気をたくさん吸って、番組にしたいなと思うんです。そういう意味で『サウナーズ』は「いま」の空気を吸っていますし、むしろちょっと先を行ってる感じもするので、テレビとしてもすごく楽しくできるんじゃないかなと思います。
池田 僕は「偏愛している人を偏愛する」ところがあるんです(笑)。射場や飯干もそうですけど、ほかにも社内に変な人がたくさんいて(笑)、そういう人たちが企画を作ると......偏愛していることだから、面白いものができるんです。それらをなるべく拾うようにして、サポートして、カタチにする。そしてもちろん、可能ならば僕らのほうで社外に売れる事業にしていきたい。でもまずは、好きなものがある人たちが埋もれていかないようにしたいと考えています。たぶん僕は、自分が持っていないものを持っている人たちが好きなんでしょうね。
飯干 私はあんまり"WOWOWらしさ"を考えないことですかね。「WOWOWに合う番組にしよう」というのは考えないようにしています。WOWOWに加入してくださっている方たちは、そういった"WOWOWらしい番組"をお好きでいてくださっているとは思いますし、会社として大切にしなければならない良さではありますが、そこにあんまり囚われないプロデューサーがいてもいいのかなと思っていて。
──"WOWOWらしさ"よりもご自身のアンテナを意識している?
飯干 そうですね。「これは面白いかな?」って自分のアンテナに引っかかるかどうか。サウナは元々自分のアンテナに引っかかっていたものではないけれど、全然違うコミュニティで話題になっていたので「じゃあ、自分だったらサウナをどうやって観たいか」って発想する......それで「裸のイケメン」に行き着いたわけですが(笑)。
射場 それが飯干の良さなんだと思います。コアなところしか見ていないけれど、「これが面白い」って強く言える。周りを見て「こういうのかな?」とせずに、好きなものを見て「これがいい」ってね。
池田 WOWOWにとってはきっと"新しい風"だったと思います。
射場 とはいえ、ビジネスマインドは絶対に大事なわけですよ。飯干は「私はこれが好き」と思っていても、お金にならなそうなものは自分でちゃんとハネるんです。そうやって客観視できるのは大きいですよね。コアなところしか見ていないけれど「これは確実にお客さんがいますよ」と断言できる。飯干自身が一番それをわかっているからなんです。
『サウナーーーズ ~磯村勇斗とサウナを愛する男たち~』(全6回)は3月20日(金・祝)より放送開始 毎週金曜午後11:30~
取材・文/とみたまい 撮影/祭貴義道 制作/iD inc.