2019.11.27

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"奥渋"の名付け親アップリンク・浅井隆代表がWOWOWを斬る!!

アップリンク代表 浅井 隆/コンテンツ事業部チーフプロデューサー内野 敦史

WOWOWが海外のプロダクション、放送局と共同制作し、大きな反響を呼んだノンフィクションW『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』が11月29日(金)より劇場公開される。

同作の配給を担当するのは、近年“奥渋”という呼び名でにぎわいを見せる渋谷の片隅で、独自の嗅覚とセンスによる作品選定で存在感を発揮するミニシアター「アップリンク」。今回、アップリンク代表、浅井隆氏とノンフィクションWの内野敦史プロデューサーの対談が実現! ドキュメンタリーの在り方から、WOWOWの進むべき道まで、熱い提言満載のインタビューをお届けします。

WHO is 浅井隆? 配給、劇場運営に連ドラの演出も!?

――まずはおふたりのこれまでのキャリアについてお尋ねします。内野プロデューサーは2010年にWOWOWに入社されていますね。それ以前はラジオや地上波のディレクターをされていたと伺いました。
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内野 1991年に大学を卒業し、TOKYO FMグループの「ジャパンエフエムネットワーク」という制作会社に入社しました。ラジオのドキュメンタリーのディレクターをやっていまして、実はそのときに、今回の作品で取り上げたジャック・マイヨールに会ったことがあるんですよ。

浅井 そうなの?

内野 環境を考えるというコンセプトで番組を作ったらそれが意外と好評をいただいて、当時、ドキュメンタリー監督の龍村仁さんにお世話になりまして、龍村さんに「ラジオじゃなく映像でやってみたら?」と言われ、テレビ業界に転職しました。東京MXテレビの設立にビデオジャーナリストで入って、その後、2年半ほどアメリカ留学をしたんですが、当時、撮影した音楽ドキュメンタリー作品で浅井さんにもお世話になっているんですよね。

浅井 『DROPPIN' LYRICS』をDVD化したね。

※ヒップホップMCのShing02(シンゴツー)の世界観やバックグラウンドに迫るドキュメンタリー。

内野 本当にありがたかったです。その後、縁あって『報道ステーション』のスタッフに加わり、報道の現場で7年ほどやらせてもらって、その後、WOWOWにプロデューサーとして入社しました。当時、ノンフィクションWが始まったばかりでしたが、そこから『物言うパンクス!横山健 ~311、ハイスタ、その先に~』、『ブレードランナーの世界を創った男 シド・ミードが描く2042年』『デヴィッド・ボウイの愛した京都』『1984』などを担当しました。

――続いて浅井さんですが、映画の買い付けから配給、製作など、どこから紹介すればいいのか? というくらい、多岐にわたる活動をされていますが...。1987年にアップリンクを設立され、最初は配給会社としてデレク・ジャーマン監督の『エンジェリック・カンヴァセーション』を配給されたんですよね?
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浅井 そう、最初は配給で、それから出版や(『マルコムX自伝』などを出版)、『90日間トテナム・パブ』(フジテレビ)という坂井真紀さん主演のドラマのプロデュースをしたり。

内野 演出もですか?

浅井 バブル最後の時期の番組でした。僕の前に、高城剛(監督・脚本)の『バナナチップス・ラヴ』というニューヨークでロケをした作品があって、フジテレビとしては、次はロンドンでということで。ちょうど僕がデレク・ジャーマンを取材したりNONFIXを制作したばかりで、ロンドンに詳しいということでお話をいただいたんです。

――劇場としてのアップリンクを最初にオープンされたのが1995年ですね。

浅井 カフェ・シアター「UPLINK FACTORY」という形で、ライブハウスのようにドリンクを飲んでもらいながら映画を見てもらっていました。インディーズ作品は、アップリンクで配給する作品を見せたりしていました。

ミニシアター冬の時代にアップリンクが劇場を次々とオープンさせるワケ

――その後、現在の渋谷の宇田川町に移転され、カフェ「Tabela」が併設された劇場としてオープン。現在も「配給」と「劇場」の両輪で活動されています。

浅井 「配給」って食えないんです(苦笑)。なぜかというと、寿司屋ならその日、築地で仕入れた魚で寿司を売って、その場で現金が入ってくるけど、映画の場合、マーケットで作品を買い付けて、公開まで1年以上かかったりするんですよ。しかも公開前には、買い付け額よりも高い宣伝費もかかったりするし、公開後もすぐに劇場からお金が入ってくるわけじゃないんです。だから配給会社の継続って難しいんだよね。

映画のビジネスで、一番最初にお金が入ってくるのはどこかと言えば「劇場」。いまなら大人1900円。何事もお金の入口を押さえないとビジネスは継続できないと分かったので「映画館を持たないとダメだ」と思って劇場を始めました。

――いま、小さな映画館が次々と閉館している中で、アップリンクは昨年「アップリンク吉祥寺パルコ」をオープンし、来春には「アップリンク京都」もオープン予定です。なぜこの状況で劇場をオープンするのかをぜひお聞きしたかったんですが...。
dolphinman_uplink_kichijoji_0048.JPGdolphinman__uplink_kichijoji_0011.JPG(2枚とも)アップリンク吉祥寺パルコ (c) 村田雄彦

浅井 日銭が入る商売はつぶれにくいって言うでしょ?

「文化の場」を守るためには経済的に自立が必要!

――「文化の場を作りたい」という大義ではなく...?

浅井 それは大前提だけどキレイごとばかり言ってもしょうがないからね。最近の流行り言葉で言うと「サステナビリティ」――それは何かというと「経済的な持続」だよ。つまり会社やお店をつぶさないということ。「文化の場をなくさない」ということはもちろん大事。そのために、助成金などに頼らず、いかに経済的に自立するかってことが大事だよね。

――吉祥寺も京都も、成功する勝算があるから設立したということでしょうか?

浅井 何度も交渉し、試算し、ビジネスとして採算がとれるという目安がたったからです。最後は吉祥寺をオープンしたばかりで京都は開けるのは厳しいのではないかという社内を説得し、こんないい物件は二度とないと信じて決断しました。
映画業界の現状については、ちゃんと分析が必要だと思う。人々が映画を見なくなったわけではなく、映画館という空間の問題、90年代に隆盛したミニシアターは設備が古くなってもなかなか設備投資ができないという問題がある。資金的な余力がないからリニューアルもままならないわけです。カフェの世界に例えるなら、スターバックス上陸以前の"喫茶店"のままなんです。

でも、カフェ業界もスタバができたことで、同業他社がどんどんリニューアルをして盛り返したし、テイクアウトを活用して、席数にとらわれずに売り上げを伸ばせるようにもなってきたりした。映画館も同じで、いかに心地よい、ワクワクするようなオシャレな空間を作るかで、お客さんは来てくれるし、それは吉祥寺で実践できたと思います。そのために金融機関から最大限の融資を受け、パルコとの共同事業ということで実現させました。

――少し話がそれますが、アップリンクのあるエリアが、近年は「奥渋谷(オクシブ)」という呼び名でブランディングされ、人の流れが活発になってきたと言われていますが、アップリンクにもその影響はありますか?

浅井 というか「奥渋谷」って僕が最初に付けたんだよ(笑)。2012年に「奥渋谷MOVIE NIGHTS」という映画祭をウチで上映したんだよね。原宿には「裏原宿」があって、渋谷にもそういうのを付けられないかな? と思って、考えたのが「奥渋谷」だったの。それがいつのまにか定着したよね?3★810_MG_0142.jpg

内野 流行語大賞みたいですね。

浅井 当時はいまのストリートとは全然違ってアップリンクがポツンとあっただけだった。いまはブックカフェやナチュラルワインを扱うお店が増えて、人の流れができたよね。渋谷の駅からはちょっと離れているけど、そのまま歩けば代々木上原駅、代々木八幡駅まで歩いていけるから、そこをつなぐお店、人の流れができたわけだしね。

WOWOW×アップリンク初タッグ作品『もしも建物が話せたら』の大反響!

――続いてWOWOWとアップリンクのつながりについてもお聞きしていきます。アップリンクで最初に配給されたWOWOW作品が2016年公開の『もしも建物が話せたら』ですね? 

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国際共同制作プロジェクト『もしも建物が話せたら』(c)Wim Wenders 2013

内野 当時、WOWOWが海外のパートナーと組んで、スキルをアップしていこうという流れがあり、その一環としてノンフィクションWの枠で「国際共同制作」という手法を取り入れていたんですね。

浅井 最初に見たのが東京国際映画祭かな? すごく好きな作品で、タイトルも洒落ていていいなと思ったんだよね。自分で映画館やカフェをやっていて、建築による空間というのが、人に与える影響の大きさというのは感じていたから。ちょっとしたデザインや色で人の気持ちを変えられるんだって。

この映画も、扱っている建物はポンピドゥー・センターだったりベルリン・フィルハーモニーだったり、建物の規模は大きいんだけど、作り手のポリシーがしっかりしてて面白いなと。それでウチでやりたいってお伝えしたんです。

――アップリンクでの公開時の反響はいかがでしたか?
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浅井 大きかったですね。建築ファンって潜在的にすごく多いんだなということを感じました。普段のいわゆる"映画ファン"とは確実に違う層が来ているなと。もちろん製作総指揮のヴィム・ヴェンダース、(6編のうちの1本を監督した)ロバート・レッドフォードの作品を目当てに来る映画ファンも何割かはいたけど、7割くらいは建築ファンだったんじゃないかな?

名作『グラン・ブルー』×フリーダイビング×スピリチュアルの三本柱で『ドルフィン・マン』に勝算!

――続いて、今回の『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』の制作の経緯について教えてください。日本でも大ヒットしたリュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』の主人公のモデルとなったフリーダイバー、ジャック・マイヨールの人生に迫ったドキュメンタリーですね。

内野 先ほども申し上げました「国際共同制作」という枠組みで、海外のチームと組んでスキルを上げていこうという流れの延長ですね。「Tokyo Docs」というドキュメンタリーのためのフォーラムがあるんですが、その「Tokyo Docs」と組んで、世界に企画を募集しましょうということを考えたんです。しかも、この時は日本国内ではなく、世界に向けて公募しましょうというチャレンジを行なったんですね。
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まず2016年の「Tokyo Docs」で概要をプレゼンしまして、その後、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)という世界最大のドキュメンタリーのマーケットで またプレゼンをやり「世界中から企画を募集します」と伝えたところ50くらいの企画が届いたんです。そのうちのひとつがこの『ドルフィン・マン』でした。
ギリシャの夫婦でやられている小さなプロダクションが、「ARTE(アルテ)」という独仏共同出資の放送局を通じて応募してくださったんです。何よりも僕がこの企画を「ぜひやるべき」と推したのは、『グラン・ブルー』のモデルになったジャック・マイヨールは日本に深いフックを持っているという点。ご本人がその後、自殺をされたことは本で読んで知ってましたが、映像でそのことが語られるのを見たことがなかったんですね。

dolphinman_jackmaiyoru.jpgジャック・マイヨール(C)Mayol family archive

映画の中でマイヨールと日本のつながりについても語られますが、そういう意味でもWOWOWが関わる意味があると思いました。当時はその日本のパートに関しては全く手がつけられていなかった状況でしたが、ものすごく詳細かつ深くリサーチされていることを知り、「この人たちと組めば面白いものができるだろうな」と思い、ぜひ一緒にやらせてくださいとお願いしました。

浅井 「Tokyo Docs」も「IDFA」も基本的にはテレビ局のためのドキュメンタリー・マーケットでしょ? 彼らは当初、あくまでもテレビ番組として作りたかったの?

内野 企画書の段階で「90分サイズの映画版と50分サイズのテレビ版の2本を作る」と書いてあったんですね。契約の段階で、どちらも受け取るけど、どちらを使うかはこちらの自由にさせてほしいと伝えました。結果的に、WOWOWで放送する際も、今回の劇場版と同じ90分サイズのほうを使うことになりました。もちろん、両方のバージョンを見ましたけど、放送でも90分版でいけると思ったんです。無駄にダラダラしていなくて、全てを表現してくれているし、作品の特性としてゆったり見てもらいたかったので。

浅井 なぜ日本のテレビ局は90分のドキュメンタリーの枠を積極的に作らないのかな。60分以上の長さの作品も多いと思うけど。

内野 明確な答えはわかりませんが、長年のテレビ業界のやり方として、60分の枠に対して本編は50分~52分だと、CMを4回くらい入れられて、喜んでもらえるというのがあるんですよね。要は使い勝手がいいと。

浅井 プラットフォーム自体を変えようって動きはないの?

――テレビでドキュメンタリーを見るなら、60分枠ならいいけど、90分だと長すぎるというイメージがあるんですかね?

内野 スタンダードな枠としてそういう流れが続いているというのがあるんでしょうね。

浅井 そんな視聴習慣の統計はあるのかな。

内野 ただここ数年で言うと、デジタルプラットフォームで視聴する人が圧倒的に増えていて、15分、30分という短い時間でコンテンツを見る人が多いんですね。
そういう意味で、より短く、シリーズで見られるものを...という傾向は、ドキュメンタリーに限らず増えていくのかなとは思いますね。

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浅井 逆に短くなってるんだ!?

内野 わざと細切れにしてシリーズにしたりするわけです。

――そんな世の中の流れと逆行するかのように、本作は90分枠でWOWOWで放送されたわけですが、反響はいかがでしたか?

内野 よかったですね。そもそもこの作品がWOWOWライクな作品かというと...海やダイバーを扱っていて、出てくる有名人はジャック・マイヨール。でも彼がエンターテイナーかというとそうじゃない。とはいえ、『グラン・ブルー』という絶対的な強みがあったので、シネマチャンネルとの相互作用も必ずあるだろうと思っていました。映画部と相談をして、その日は『グラン・ブルー』も放送して"『ドルフィン・マン』祭り"として盛り上がりましたね。

grand bleu main[2].jpg「グラン・ブルー」11/22~アップリンク吉祥寺にて期間限定公開 © 1988 GAUMONT

――そして放送に続いて、アップリンクで劇場公開されることになった経緯は?

浅井 これも『もしも建物が話せたら』と同じように東京国際映画祭ですね。作品の内容的に素晴らしいなと。テレビで放送されたものとはいえ、映画館にお客さんがお金を払って見に来るポテンシャルを持っている作品だなと思いました。見てすぐに話しましたね。宣伝的な部分で言うと、まず日本で大ヒットした『グラン・ブルー』というものがひとつあって、加えてフリーダイビングや、海好きの層、それからジャック・マイヨールが傾倒したヨガやスピリチュアルというのも宣伝の柱にできるなと思いました。

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810dolphinman_elevator.jpgアップリンク吉祥寺が「ドルフィン・マン」一色に

プラットフォームのルールが崩れた2019年 WOWOWの今後は...?

――ここからさらに、浅井さんの目から見たWOWOWという会社のイメージ、WOWOWの番組作りや映画への取り組みなどについてお伺いしたいと思います。

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浅井 アップリンクで今年、ネットフリックスの『ROMA/ローマ』の劇場公開をしたんですね。それ以外にも、『キング』も『アースクエイクバード』も『アイリッシュマン』も同様に劇場で、配信開始の1~2週間前に公開しました。そうすると各所から「いやいや、公開のウィンドウの順番があるんじゃないか? ネットフリックスの配信の宣伝に劇場というプラットフォームを使うのはどうなんだ?」という声があがるわけです。何が言いたいかというと、映画を観るプラットフォームの話で、劇場、テレビ、ネットのどの順番に、観せていくかという問題が今年勃発したわけです。ちなみに海外ではすでにルールが存在してて、劇場公開とオンデマンドの間をフランスだと「3年空けなくてはいけない」とか決まっているんです。その為、カンヌ国際映画祭では3年前にネットフリックスの『オクジャ』をコンペで上映した際、フランスの興行組合が、カンヌ上映後、すぐに配信され、映画館で上映しない作品をなぜコンペで上映するのかと問題になり、翌年からはカンヌ映画祭のコンペからはネット配信しかしない作品を締め出しました。アメリカでは、「シアトリカル・ウィンドウ」として劇場公開からネット配信までの期間を公開後72日間、場合によっては最大90日間と定めています。アメリカの大手シネコンは、『アイリッシュマン』のためにネットフリックスに60日という譲歩案を提示し上映の交渉をしたけど、ネットフリックス側は45日を超えることはないと回答し、全米公開に至らなかったのです。そこで、ネットフリックスは、劇場を自前で借りて上映するという形をとったんです。この2019年、映画を見るプラットフォームの考え方が世界中で崩れてきている。まあ、そのあたりに関して日本は、なにも決め事がない。

で、WOWOWは今後、どうしていくのか? 
僕自身、WOWOWに個人で加入はしてないんだけど、じゃあWOWOW作品をどこで見ているかといったら、配信系のサービスでドラマWを見て、「あぁ、三上博史がWOWOWドラマにいる!」って(笑)。

8★810_MG_0175.jpg浅井 昔、天井桟敷にいた時、寺山修司が『草迷宮』という映画を監督する時、三上博史がキャスティングされていた縁もあり、気にしていましたが、WOWOWに出ずっぱりじゃないか! って(笑)。いま、WOWOWで放送されてから、他社の配信メディアで配信されるのは...?

内野 ケースバイケースですが他社メディアで配信されるまでには間隔はあきますね。

浅井 間隔があくということは、自分はWOWOWのドラマをいつも遅れて見ている状況ですね。ネットフリックスのオリジナル作品がプラットフォームを横断し始めているいまの時代、さらには今度、ディズニーもAppleも配信を始めるし、有名な監督をどんどん引き入れて、予算をかけてオリジナル作品を作るようになる。そんな時代にWOWOWも劇場公開を視野に入れたドラマをもっと製作してもいいのではないか。WOWOW製作のいい作品が多いのに、正直、多くの人は知らない! それは本当にもったいないよね。それこそ東京国際映画祭でネットフリックスの作品の俳優たちがレッドカーペットを歩いて、あれだけニュースになってるんだから、WOWOWは質の高い作品を作って、映画祭のコンペに出して...という戦略をもっとやったらいいと思います。大林宣彦監督のWOWOW製作のドキュメンタリーは今年のTIFFにも出ていましたよね。是非ドラマも!

部下よりもミーハーであれ!

――アップリンクでは、グザヴィエ・ドラン監督の作品が国内外で大きな話題となるより前のかなり初期の段階から公開するなどしていますが、浅井さんの作品選びの基準についてもお聞かせいただけますか?

浅井 それはさっきの映画館の話と同じで、基本的に基準の9割は、かかった経費に見合う売り上げがあるかどうか、というところです。宣伝費をきちんと回収することができるのか? それができなきゃ会社が継続できない。その"目利き"の部分はなかなか説明するのは難しいけど「どれだけミーハーになれるか?」かな? うちの社員よりもミーハーじゃないと決定できないと自分に言い聞かせている。社員のほうが案外、保守的だったりするので。

――決定自体は、編成会議で決めるんですか?

浅井 買い付け作品も上映作品も毎回、必ず会議はします。社員の意見を聞いてやめといたら、よそが買い、その作品がヒットしたこともあったけど(笑)

内野 先ほど「どこまでミーハーに」っておっしゃってましたけど、浅井さん自身、ジェネレーションとか関係なく勝負しているからこそ、スタッフと同じ目線で話せるんでしょうね。それはすごいことですよね。

浅井 逆に僕はアニメには疎いので、スタッフから「"アニメ"という言葉でひとくくりにするな!」って怒られたりもしてます(笑)。時間がある限り、いろんなアニメを見て研究しなきゃって思ってるんだけど...。

――そもそも浅井さんがドラマWを見ているってことが意外でした...。

浅井 いやいや、俺は『バチェラー』だってシーズン3まで全部見てるからね(笑)。

※一同、驚愕!

浅井 だって『バチェラー』だってドキュメンタリーの一種だよ。自分のミーハー度を調整しないとね。シーズン3の『バチェラー』は、ローズセレモニーで断れるかもしれないけど、なぜ自分が好きな人に指名しなかったのか。そこで断られて恥かいても、その後、収録後に交際を真剣に申し込んで、エピローグで結ばれましたということになれば全てハッピーエンドではないかと、凄く今回のバチュラーに不満はありましたね(笑)。

内野 僕はちゃんと全部は見てないです(苦笑)。

浅井 ちょっとちょっと! コンテンツビジネスに関わる人間で、『バチェラー3』を見ていない人間がいるなんて考えられないな(笑)。それこそすごい量のテレビスポットを流して、駅や電車での広告もすごかったよね。

内野 勉強になります(笑)。

――最後に浅井さんの「偏愛」、仕事で大切にしていることは何ですか?

浅井 映画の買い付けって個人単位で言うとすごく高い買い物ですよ。しかも、契約期間があって、7年とか10年とか、その作品を自分が日本でハンドリングできる期間が決まっているわけです。そういう意味で、生みの親から養子を預かるような気持ちがあります。そういう意味で「偏愛」ということを言うなら、どこまで自分のところで配給する作品に関しては、いいところも悪いところも含めて、この作品に憑依し、どれだけ圧倒的に愛情を込められるか? というのが大事であり、その偏愛をどうビジネスにするかだと思う。繰り返しになるけど、最終的に会社が生き残らなきゃダメなんで、ビジネスにつなげなきゃいけないし「いいものだけど売れない」じゃダメなんだよね。「いいんだったら、売れ!」でしかない。
『ドルフィン・マン』はいい作品なので売りましょう(笑)!

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『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』は、
2019年11月29日(金)より、新宿ピカデリー、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開https://www.uplink.co.jp/dolphinman/


取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.