2021.02.25

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2020年から2021年への"プラスワン"がアスリートたちにもたらしたものとは? 第7回「WHO I AM」フォーラムLIVE開催

2020年から2021年への

パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」発のトークイベント、「第7回WHO I AMフォーラム LIVE」が、東京パラリンピック開幕まで200日となった2月5日(金)に、WOWOW公式YouTube & Twitter、WOWOWオンデマンドでライブ配信された。

会場となった東京・豊洲エリアの「WHO I AM HOUSE Powered by TOKYO GAS」には、MCの松岡修造さんをはじめ、ゲストに同シリーズシーズン3に出演したパラ水泳の木村敬一選手、競泳オリンピックメダリストでスポーツジャーナリストの松田丈志さん、女優の髙橋ひかるさんが来場したほか、オンラインでカーティス・マグラス選手(オーストラリア/カヌー/シーズン4出演)、ダニエル・ディアス選手(ブラジル/水泳/シーズン1出演)が参戦。さらに「WHO I AM」シリーズのナビゲーター&ナレーターを務める西島秀俊さんもビデオでメッセージを寄せるなど、「~2020 私たちのこれまで」そして「2020+1 私たちのこれから」という2つのテーマで、約1時間半にわたって熱いトークが繰り広げられた。

アスリートたちはTOKYO 2020の1年延期をどのように受け止めたのか?

wai_①_N1_3113.jpg最初にあいさつに立ったWOWOWの田中晃 代表取締役社長執行役員は、今回のフォーラムのテーマとして「2020から2021へ、加算された"1"という数字の意味を考えてみたい」と提起。MCを務める"Mr. WHO I AM"こと松岡さんは「開幕まであと200日。"プラスワン"にする年はすでに始まっています。前向きに何かを加えていく"1"をみんなで探していきたいと思います」と熱く応える。

トークセッション第一部では「~2020私たちのこれまで」と題して、ゲストのアスリートたちが、コロナ禍に見舞われた2020年をどのように過ごし、東京オリンピック・パラリンピックの延期をどのように受け止めたのかなどを語り合った。

木村選手は、「WHO I AM」シーズン3でも取り上げられたように、拠点をアメリカに移してトレーニングを積んでいたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、帰国を余儀なくされた。パラリンピックの開催延期については「心の準備はできていました」と正式に決定が下される前から、延期の可能性を感じていたと述懐。「国内大会がなくなったり、アメリカでの生活が立ち行かなくなったりして、(開催は)厳しいのかなと」と振り返り、正式に延期が決定した際も「わりとすんなり理解し、受け入れました。『今年はないので、ゆっくりしようかな』と思いました」と当時の心境を明かした。

リオ金メダリストのカーティス「ないものを数えるのではなく、あるものを数えよう」

wai_②_N1_3393.jpgここから、トークセッションにリオ・パラリンピックの金メダリストであるカーティス・マグラス選手(オーストラリア/カヌー)も参加! カーティス選手は陸軍に入隊するも、2012年に派兵先のアフガニスタンで爆弾の爆発で両足を失い、リハビリを経てパラカヌーを始めた。松岡さんがカーティス選手に「両足を失っても、前向きに考えられるのはなぜ?」と尋ねると「ないものを数えるよりも、あるものを数えようという心情でした。幸運なことに家族や友人、仲間たちが全力で夢を叶えるサポートをしてくれました」と"幸運"という言葉さえ使って、自身の境遇を振り返る。

そのポジティブさに感銘を受けた髙橋さんは「そうやって、できることにフォーカスするというのはもともとの性格ですか?」と質問。カーティス選手は「堪えがたい現実でしたが、足を失ったという苦しみは、僕だけでなく僕の周囲の人々も抱えているものだと悟りました。家族や仲間、同じ苦難を抱えている人々をポジティブに変えて、新たな人生のスタートにすることで、周囲だけでなく知らない多くの人たちを勇気づけられるんじゃないかと思いました」と語った。

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そんなカーティス選手だけあって、パラリンピックの延期に関しても「最初は悲しかったけど、最終的には正しい決断だったと思う」と受け止めた。とはいえ「最初は気持ちをどう持っていけばいいか、分からない部分もありました」と正直な戸惑いも吐露した。

西島秀俊「どうなるか分からないもののために準備をする"モチベーション"の保ち方は?」

番組ナビゲーターを務める西島さんは、コロナ禍で撮影などの仕事が完全にストップする中で「生活を全部見直して、何が必要で、何が必要なかったかが見えました。家族と過ごしたり、楽器を持ち出して挑戦したり、卵焼きをきれいに作る練習をしたり、やれること、できること、好きなことを見つけてやっていました」と自粛期間中の生活を振り返る。

一方で「どうなるか分からないもののために、クランクインできるのか分からないと思いながら準備するのはきつかった」とも語り、西島さんはゲストのアスリート陣に「モチベーションが下がってしまった時、どう対処するか?」を質問。

髙橋さんは女優として、西島さんの言葉がよく理解できるようで「それ(=モチベーションを一定に保ち続けること)がすごく難しい(苦笑)」と語り、松田さんも「僕も西島さんと一緒で、いつやるか分からないことにモチベーションを保つのは苦手。(先が見えない中で)トレーニングを続けるのは大変だったと思う」と苦境に置かれたアスリートたちの心情をおもんばかる。

カーティス選手は「僕にとってもハードでした。でも、大事なのはそんな時こそ楽しい瞬間、達成感を感じたことを思い出し、複雑で困難な時期をポジティブに変換するようにしています」と自身なりの対処法を明かす。

木村敬一が自粛期間中に自問した「アスリートの価値ってなんだろう?」

wai_④_N1_3278.jpg木村選手は「(もともとモチベーションが)極端に上がったりも下がったりもしないんですよね......」と語ったが、その一方で「アスリートの価値ってなんだろう?」と考えさせられたという。そんな迷いを振り払うことができたのは、応援してくれる人々の存在だった。「試合がない中で、アスリートってなんのために存在しているのか――? と考えたけど、それでも、応援してくださる方たちが大会を楽しみにしていて、『再開するといいね』『早く試合ができるといいね』と言っていただけるだけで、自分を肯定できたし、選手をやっていていいんだと思えました」と振り返り、選手を応援する側にできることは何か? という問いかけに「ただ、スポーツを楽しみにしていただければいいと思います」と語った。

カーティス選手もあらためて周囲の人々の存在の大きさに言及。「特に家族のサポートはすごく重要で、それがモチベーションにつながっています。同時に、自分はなんのためにスポーツをやっているのか?自分の役割はなんなのか?ということを常に忘れないようにしていて、それが励みになるし、自分を"原点"へと戻してくれると思います」と力強く語っていた。

また、自粛期間中にトレーニング以外でチャレンジしたことについて、木村選手はアメリカ滞在中のことをつづったウェブメディア「note」の存在を挙げ「アメリカでの2年間が自分の財産になったんだなと誇れるようになりました」と精神的な部分でも執筆がプラスに作用していると明かす。とはいえ、筆が滑り過ぎてしまうこともあるようで「26回目の記事が非公開になってるんですが、アメリカの先生から『やりすぎ!』って連絡がありました(苦笑)。翻訳で読んでるんですね(笑)」と明かし、笑いを誘っていた。

カーティス選手は「オーストラリアではそこまで厳しいロックダウンはなく、庭でトレーニングをしたり、カヌーもそれなりにできました。コロナ禍で新しく始めたことは、もっと深く学びたいと思っていた航空関係や戦闘機などの勉強です。もともと、これらが専門なので」と自宅での時間を学びに当てていると明かしてくれた。

"金メダルコレクター"ダニエル・ディアス、東京での引退を決めた理由「人生にはサイクルがある」

続いてトークセッションの第二部は「2020+1 私たちのこれから」と題してのトークが繰り広げられ、パラスイマーとして幾多のメダルを獲得してきたダニエル・ディアス(ブラジル)もオンラインで参戦した。ダニエル選手はすでに東京パラリンピックをもって現役を引退することを表明しているが、この決断について「まったくブルーではなく、東京で皆さんとともに選手生活を終えられることを心からうれしく思っています」と語る。

同じスイマーとして木村選手は「ニュースで見ましたが、寂しいのが一番です。スーパースターですから」とダニエル選手の引退を惜しみつつ「でも、『ブルーじゃない』ということは、もう次に向けて走り出しているのかなと思います。最後のパラリンピックを僕らの国で迎えてもらえるというのは誇りです」と語る。

あらためて引退を決断した経緯についてダニエル選手は「人生にはサイクルがあると思います。難しい決断であり、決して楽天的なだけではないけど、これまで水泳であらゆる夢を叶えてきました。そう考えると、笑顔でグッバイをするのが一番だと思います。家族に目を向けたとき、僕には3人の子どもたちがいて、彼らの成長の過程でもう少し父親として一緒にいたいと思いました。これまで自分なりにスポーツに対して貢献できたと思いますし、やりきったという思いで引退し、これからはプライベート、家族を慈しんで、エンジョイしていけたらと思っています」と説明。カーティス選手は「家族のことを思い、『やりきった』と言えるのはすばらしいこと。すばらしい決断だと思います」とダニエル選手を称えた。

コロナ禍がもたらした多角的な視点、出会い、学びの機会

またトークのテーマでもある"プラスワン"に関しては、ゲスト陣それぞれ、大会の延期によって新たな視点、学びの機会がもたらされたとも。ダニエル選手は「(延期の決定は)学びの側面が大きかったです。私は、身の上に起こるすべてを学びのきっかけとして捉えています。何が大切で、何がそうじゃないか?どこに成長のチャンスがあり、どうすれば今よりも強くなれるか?ということを考えて過ごしてきました」と語り、カーティス選手も「大変な部分もあったけど、強く自分を持ち、さまざまな角度で物事を見るということを学びました」と述懐する。木村選手も「コロナがなかったら出会わなかっただろう人とも出会えたし、これまでとは全然違う時間が降ってきました。捉えようによっては(この1年は)余分な1年だけど、それをプラスに捉える――ひとつの物事も、捉え方次第でいくつもの側面があると学びました」とそれぞれこの1年を自身の成長につなげることができたと語る。

wai_⑤_N1_3191.jpgもちろんそれは、現役アスリートだけにとどまらない。2児の父である松田さんは「子どもたちと毎日一緒で、髪を結ったりお風呂に入ったり、ご飯を食べさせたり、父親として成長できました。今後の人生を真剣に考える時間もできて、『スポーツ界に貢献したい』とあらためて自分の原点を見直す時間になりました」と充実した表情で語り、松岡さんも「親は子どもに育てられると実感しています」と深く同意。

髙橋さんは「人とのつながりの大切さをあらためて実感しました。TVでの活動がストップして、今までと違う活動になる中で無力さも感じたし、どうしたらいいんだろう? という想いもありましたが、インスタライブやSNS配信といった新しいことを始めたことで、まだ挑戦できることがあるんだと思えました」とコロナ禍が自身の新たな可能性を探すきっかけになったと語った。

「常に笑顔を」――トップパラリンピアンたちはなぜ過酷な状況を乗り越えてこれたのか?

ダニエル選手はあらためて、自身の座右の銘として「常に笑顔を」という言葉を紹介。「今のようなつらい時期を経験している時、心の底から笑うことで物事が軽くなる気がして、それを子どものころから実践してきました。笑顔だけで1日、1年が変えられるし、周りをも幸せにできると常に感じています」と厳しい状況の時こそ"笑顔"が大切であると説いた。

トークセッションの最後に、パラリンピックに向けての想いを尋ねると、ダニエル選手は「興奮と感動でいっぱいの大会になることと思います。メダルも大切ですが、こういう時期ですから何よりも皆さんに笑顔をもたらせる、希望を感じられる大会になればと思っています」と語り、カーティス選手は「国のため、そして日本の人々のために頑張ります。金メダルを目指してトレーニングを積みたいと思います」と意気込みを語った。

木村選手は「もし開催にこぎつけることができたら、それは社会が平和になって、何かを取り戻している最中であり、立ち上がろうとするきっかけであろうと思います。それを自分たちの国で迎えられるのは名誉なことだと思いますし、ひとりの日本人としてうれしい瞬間に立ち会いたいし、なおかつそこに選手として関われるというのはこれ以上ない喜び。最高の結果である金メダルを獲って、最高の舞台に花を添えたいと思っています」と日本人、そしてアスリートとして語る。

開催に向けて「僕らが信じなければ、信じる人はいない」

新型コロナウイルス感染症の収束が今なお見通せない中で「開催が危ぶまれていることは承知していますし、このまま感染拡大が収まらないのであれば、やるべきではないと、僕らも思っています」と、決してやみくもに開催を主張するのではなく、不安視する世間の声を深く理解した上で「ただ、僕ら選手が信じなければ、それ以上に信じる人はいないと思います。選手たちはパラリンピックに出たいとかメダルを獲りたいとか、できるかどうか分からないことを信じてやり続けてきた人生を送ってきました。だから(開催を)信じるぐらいのことはしてもいいんじゃないかと思います」とあらためてパラリンピックへの強い想いを口にした。

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松岡さんは「プラスワンの"1"と『WHO I AM』の"I"は同じ。自分はなんなのか?ということをプラスしていくということ、それをつなげていくことが本当の意味での『WHO I AM』に結び付いていくと思う」とトークセッションを通して得た気付きを語ってくれた。

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取材・文/黒豆直樹

WHO I AM 公式サイト         :http://wowow.bs/whoiam
WHO I AM 公式Twitter & Instagram :@WOWOWParalympic #WhoIAm
WHO I AM PROJECTサイト      :https://corporate.wowow.co.jp/whoiam/

「第7回 WHO I AM フォーラムLIVE」ハイライト動画は コチラ