歌手として、女優として、いま思うこと──。「歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子」収録現場レポート&スペシャルインタビュー
1978年に『野性の証明』で女優デビュー、1981年には『セーラー服と機関銃』の主題歌で歌手デビューをした薬師丸ひろ子。歌手活動40周年を迎える2021年、キリスト品川教会 グローリア・チャペルでの無観客によるWOWOWオリジナルコンサート「薬師丸ひろ子40th Anniversary Starting Special Concert presented by WOWOW」が、デビュー記念日である11月21日(日)に独占放送・配信される。コロナ禍で薬師丸とWOWOWが協議を重ね、なんとか歌を届けたいという彼女の想いが結実した今回のスペシャルコンサート。その直前の11月15日(月)から19日(金)にかけては、彼女が主演を務めた代表的な5作品の映画も合わせて特集。日本映画史を彩るレジェンドたちと作り上げた珠玉の映画作品の数々。各作品の冒頭には、彼女本人が監督や共演者との思い出を語り、見どころを解説するインタビューも放送。今回のFEATURESでは、コンサートと映画特集というWOWOWならではの特別プログラムの収録現場レポートとともに、歌手として、女優として、薬師丸ひろ子が「いま」思うことを語ったスペシャルインタビューの模様をお届けする。
数々の名曲から、朝ドラで話題となったあの曲まで―。薬師丸ひろ子の"いま"を凝縮したWOWOWオリジナルコンサート
キリスト品川教会 グローリア・チャペルにて、無観客で行なわれた薬師丸ひろ子のWOWOWオリジナルコンサート「薬師丸ひろ子 40th Anniversary Starting Special Concert presented by WOWOW」。2019年のコンサート以来約2年ぶりとなるステージは、ファンだけでなく彼女にとっても感慨深いものとなったようだ。コロナ禍で"歌を歌う"ことに関してなかなかエネルギーを割くことができなかった日々を経て、久しぶりに歌った曲の数々。リハーサルの時点から「自分の体の中から、こんな声が出てくるんだ。自分にはこういう世界もあったんだ」と実感する自分がいたという。
コンサートは「めぐり逢い」から始まる。2017年にリリースされた『Best Songs 1981-2017~Live in 春日大社~』にスペシャル・トラックとして収録され、「ステキな恋の忘れ方」以来32年ぶりに井上陽水が作詞・作曲を手掛け、薬師丸が歌った曲だ。当時の想いを井上陽水がヒアリングし作られたこの曲を、4年たったいま、彼女はどんな想いで歌っているのか――。一つ一つの言葉を丁寧にメロディーへと乗せていく姿が印象的だ。
2018年にリリースされた20年ぶりのオリジナルアルバム『エトワール』より、自身が作詞を手掛ける「アナタノコトバ」も披露された。「争いの無い世界なんてない。それでも今日を良く生きよう」と自分に言い聞かせるようなつもりで書いたというこの曲を今回セットリストに含めたのは、「私が今感じている、思っている"言葉"を聴いて下さる皆さんに届けたい」とのことから。年齢を重ねてきたからこそ届けられる想いもあるのだろう。
関内光子役を演じたNHK連続テレビ小説「エール」(2020年)第90話の独唱シーンは、記憶に新しい人も多いだろう。空襲で焼け落ちた自宅跡で、焼け残った歌集を膝の上に置いて光子が歌ったのは讃美歌「うるわしの白百合」。ステージ上で再び歌う彼女の姿を見ていると、苦境の中りんとたたずみ、強く生きようとする光子の姿に勇気をもらった「エール」放送当時を思い出す。
ほかにも、主演映画『セーラー服と機関銃』で初めて主題歌を歌い大ヒットとなった同名のデビュー曲をはじめ、「メイン・テーマ」、「探偵物語」、「Woman"Wの悲劇"より」といった出演作の主題歌も披露され、いまなお幅広い世代に歌われ、愛され続けている名曲の数々を心ゆくまで堪能できる贅沢な時間となった。コロナ禍で沈みがちな心を少しでも軽くできたら......と薬師丸とWOWOWがタッグを組んだ今回のコンサート。温かい雰囲気を醸し出す教会にマッチした彼女の清らかな歌声と、その魅力を存分に楽しんでほしい。
●薬師丸ひろ子 40th Anniversary Starting Special Concert presented by WOWOW
11月21日(日)よる7:30 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
2021年に歌手活動40周年を迎える薬師丸ひろ子。キリスト品川教会 グローリア・チャペルで行なわれたWOWOWオリジナルコンサートの模様をデビュー日である11月21日に独占放送・配信。
相米慎二、松田優作、澤井信一郎、山田洋次、渥美清―。レジェンドたちとの仕事を通して、女優・薬師丸ひろ子の軌跡をたどる
スペシャルコンサートの直前、11月15日から19日にかけて放送される、彼女が主演を務めた代表的な映画5作品の特集。各作品の冒頭には薬師丸ひろ子本人が監督や共演者との思い出を語るインタビューも放送される。その一部を紹介しつつ、ラインナップを見ていこう。
●『翔んだカップル オリジナル版』(1983年)
「翔んだカップル オリジナル版」(C)東宝
11月15日(月)よる6:45 [WOWOWシネマ][WOWOWオンデマンド]
柳沢きみおの同名コミックを、映画初主演となる薬師丸ひろ子と鶴見辰吾の共演で映画化。日本映画界屈指の異才・相米慎二が監督デビューを果たした青春ラブコメディ。
1シーンの撮影が長く、指示をほとんど出さないまま、自分が納得いくまで何度も役者に演じ直しをさせることで有名な相米監督との初仕事は、「つねに自分で考えること」をたたき込まれた現場だったという。
●『セーラー服と機関銃 完璧版』(1982年)
「セーラー服と機関銃 完璧版」(C)KADOKAWA 1981
11月16日(火)よる6:45 [WOWOWシネマ][WOWOWオンデマンド]
女子高生がヤクザの組長に!? 赤川次郎による原作を、薬師丸ひろ子主演で相米慎二監督が映画化。映画も同名主題歌も大ヒットし、薬師丸の人気を決定づけた伝説的アイドル映画。
再びの相米組で、前回以上に厳しい現場だったそうだ。監督が納得いくような芝居がなかなかできず、大先輩たちを巻き込み膨大な時間をかけてしまったが、怒って帰るような人は誰ひとりいなかったという。公開から40年近くたったいまでも、地方ロケなどに行くと本作について声をかけられることも多く、「皆さんの記憶に残る作品に出演できたことが本当に幸せ」と語る。
●『探偵物語(1983)』(1983年)
「探偵物語(1983) 」(C)KADOKAWA 1983
11月17日(水)よる7:00 [WOWOWシネマ][WOWOWオンデマンド]
『セーラー服と機関銃』出演後、休業期間を経てカムバックした薬師丸ひろ子が伝説の男優・松田優作と共演。薬師丸が自身と同じ女子大生役を演じた大ヒット作。
いつも真剣で、適当なことを絶対に許さなかった松田優作。彼が撮影に入る日は必ず朝にミーティングを行ない、その日の撮影内容や芝居の方向性について、監督を含め徹底的に話し合ったとのこと。監督と松田の意見が分かれた際には「ひろ子はどう思う?」と意見を求められることもあったという。
●『Wの悲劇』(1984年)
「Wの悲劇」(C)KADOKAWA 1984
11月18日(木)よる7:00 [WOWOWシネマ][WOWOWオンデマンド]
舞台での役と引き換えに、看板女優のスキャンダルを肩代わりすることになる劇団研究生を20歳の薬師丸ひろ子が熱演し、女優に開眼した。
相米監督から「自分で考えること」をたたき込まれていた薬師丸にとって、一つ一つ丁寧に指示を与え、「OK!」と言ってくれる澤井信一郎監督の現場は刺激的だった。しかし、最後のシーンだけは「もう1回」や「もっと」しか言われず、自分の中にあるものを出し果て空っぽになったことがいまでも強く心に残っているようだ。
●『ダウンタウン・ヒーローズ』(1988年)
「ダウンタウンヒーローズ」(C)1988 松竹株式会社
11月19日(金)よる6:45 [WOWOWシネマ][WOWOWオンデマンド]
戦後すぐの愛媛県松山の旧制高校を舞台に、バンカラ学生たちが恋に友情に心を熱く燃やすさまを、早坂暁の原作小説をもとに山田洋次監督がすがすがしく描いた青春群像劇。
山田洋次監督のもと、若い役者たちが集まり合宿のように生活しながら撮った作品。三代目中村橋之助(現・中村芝翫)をはじめ、いまでも共演することのある仲間たちだが、当時の輝きは一生に一度しか見られないものだったと振り返る。渥美清と初めて共演し、一瞬にして周囲の空気を自分色に染めていく姿に感銘を受けたことも強烈な思い出だという。
それぞれの作品について、30年以上たったいまでもたくさんの思い出があふれてくる。「言えないことが多くて」と笑いながら、当時を懐かしそうに振り返る姿が印象的だった。
"いつも変わらずそこに居る人"でありたい―。薬師丸ひろ子スペシャルインタビュー
──あらためて、歌手活動40周年を振り返ってのお気持ちは?
歌うことは好きですが、40年間ずっと"歌手"として歌い続けてきたかというと、そうではなくて。演じる仕事の中で、歌わせていただける機会がありましたから。それらは難しくも楽しい経験でしたし、そうやっていろいろな形で歌うことを続けていられるのは、とても幸せなことだと思っています。
──薬師丸さんにとって、歌うことの意味とは?
これまで歌ってきた数々の曲は、自分にとっての宝物でもありますし、聴く方にとっての想い出でもあると思っているんです。普段は聴いていなくても、ふとどこかでその曲が流れてきたときに「あ~、懐かしいな」と思ったり、「これを聴いていたころ、あの人のことが好きだったな」と、ご自分の想い出を振り返っていただけるような瞬間があったらいいなと思います。これからも皆さんの耳に私の歌が届く機会があったらうれしいです。
──歌もお芝居も「何度もやめようと思った」とのことですが、それでも長く続けてこられた理由は何だと思いますか?
映画にしてもそうですが、本当に劣等生に近いような感じで若いころから監督にしごかれてきましたから(笑)、そういった経験がずっと身に染みているんでしょうね。「自分はうまくてこの仕事をしているわけじゃない」という想いが常に前提としてあるんですが、それでも「また一緒に仕事をしませんか?」と誘って下さる方がいる。
そうやって、一つ一つの仕事が名刺代わりになっていく。それが40年続いてきた理由なんじゃないかなと思うんです。名刺として並ぶ作品の数は決して多くありませんが、それらが私の明かりをともしてくれて......途中にお休み期間があろうと、40年続けることができたんだと思います。
──「オールタイムベストアルバム『Indian Summer』には、薬師丸ひろ子という人間が成長してきた過程が表われている」ともおっしゃっていましたが、いまの薬師丸さんにとって、歌手としての成長とは何を指すのでしょうか?
若いころの私は自由な気持ちで感じたままに歌っていたと思うんです。でも、年齢を重ねていくと色々と考えるようになるんですね。いかに自分という個性を打ち出しながら、皆さんに理解していただけるものを作っていけるか。
それから、単純に肉体的な問題もありますよね。私の場合、歌を歌うというのは非常にエネルギーが必要で朝起きたときから高い声を出せるわけでもないので(笑)。年齢を重ねる中で心がけているのは、音色が変わらないこと。それは単にキーだけの問題じゃありません。
特にヒット曲なんかは、何十年もたっているので私からは離れていて......私の歌というより、皆さんの歌になっているんですよね。それを私が勝手にいじったり、壊してはいけないと思っているんです。いまの私が歌っても、皆さんが初めてその曲を受け取ったときと同じような感覚で聴いていただけるように。それはきっと、私の普段の心がけ次第なんじゃないかと思っているんです。
── 一方で、役者としての成長は何を指すと思いますか?
長年考えているぶん、少しはアイデアが多くなってきているんじゃないかと思います。とはいえ、ちぐはぐなことを言ったら監督からOKは出ませんから......
考えたアイデアに対して、「そういう考え方もありますね」と監督に納得してもらえるような、経験の中で培った裏付けのあるカードを提示しそれが上手くいった時、幸せな瞬間です。成長と言えるかわかりませんが。
──コロナ禍のいま、ご自身の音楽や映像作品を通じて届けたい想いは?
私自身もこれだけ生きているといろいろなことがあるわけですが、皆さんが見てくださったときに「なんか、いつもマイペースで変わらないね」と思っていただけるような(笑)......"いつも変わらずそこに居る人"でありたいと思っているんです。
喜怒哀楽のような激しい感情は、役の上で表現すればいいことであって。無理に自分を作ったりせず、普段のままで居る私を見て、皆さんが「この人いつもこんな感じだよね」と思ってくださるような人でありたい。そのついでに「次はどんなことをするのかな?」とちょっとだけ気にかけていただけるような人でありたいと思います。
──今回、『歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子』特集としてご一緒させていただいたWOWOWに、どのような印象をお持ちですか?
このような形でコンサートを実現してくださって......きっと「ヒット曲を歌ってください」という要望も強かったかと思いますが(笑)、最近の曲も取り入れていただいたことで、"いまの私"が表現できたことに感謝しています。
歌に振り付けがない中、私の表現しようとしていることをくみ取っていただき、会場や照明、カメラワークなどについても非常に熱心に考えていただきました。歌い手・薬師丸ひろ子をとても大切にしていただいたと強く感じています。
──ちなみに、WOWOWの番組で気になるものはありますか?
小山薫堂さんが司会をされている「W座からの招待状」はよく観ています。普段の自分だったら見落としてしまうような映画に出会わせてくれる番組で......メジャーからマイナーまで、映画のセレクトがすごいんです。小山さんもすべてをご存知なわけではなくて、「初めて観た作品なんだけど」とご紹介されているのも、また良いんですよね(笑)。皆さんが初めて観てどう思ったのか、それぞれの感想を聞いて「そういう風に感じることもあるんだな」と刺激をいただきます。
また、『ローサは密告された』(2016年)というフィリピン映画が放送されたときは、ちょっとビックリしました。主人公を演じるジャクリン・ホセさんはカンヌ国際映画祭で女優賞を取った方なんですが......画面を観ていても、誰が主演女優なのか分からないんです。街の人の中に溶け込み過ぎていて、「どの人に焦点を当てて観たらいいんだろう?」と最初は分からなかったくらいですから。でも、どんどん引き込まれていって......とても力のある映画でした。
──それでは最後に、『歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子』をご覧になる方へ向けて、メッセージをお願いいたします。
コンサートについては、いまの私からのメッセージだと思っていただければうれしいです。いまの年齢だからこそ感じることのできるいろいろな想いがあって、そういったものが皆さんに伝わればいいなと思っています。
映画5作品は、当時の若手監督からベテランの監督まで、それぞれが「絶対に良いものを撮ってやる」と必死にもがいてできた作品だと思っています。ただ古い映画というのではなく、いまの若い方が観たら逆に新しく映るんじゃないかというぐらい......。あの時代だからこそ成立したシーンもたくさんあるので、そういった部分も楽しんでいただけると幸いです。
文/とみたまい コンサート写真/撮影:田中聖太郎
歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子
《番組サイト》 https://www.wowow.co.jp/yakushimaru-hiroko/