2024.07.30

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「新しい学校のリーダーズ」日本武道館ライブ ドローンがメンバーの足元をくぐる演出はどう生まれた?

WOWOW音楽事業局 担当局長 音楽事業部 エグゼクティブ・プロデューサー 丸山明澄

「新しい学校のリーダーズ」日本武道館ライブ ドローンがメンバーの足元をくぐる演出はどう生まれた?

「第14回 衛星放送協会オリジナル番組アワード」において、2024年1月放送・配信の「生中継!新しい学校のリーダーズの初武道館『青春襲来』」が中継部門の最優秀賞およびグランプリを獲得した。熱狂のライブ中継はどのように生まれたのか? 数々の音楽番組を手掛けてきた丸山明澄エグゼクティブ・プロデューサーにWOWOWのライブ中継の神髄を語ってもらった(前後編の前編)。

自社でライブ中継を企画・プロデュースできるという強み!

――丸山さんが音楽番組の企画・制作に携わるようになったきっかけを教えてください。

幼少の頃から、ずっとクラシックピアノをやっていて、音楽には触れてきました。学生時代にTSUTAYAでずっとバイトをしており、映画や音楽などのエンターテインメントに触れる機会が増えたことで、将来的にはエンタメの世界で働いてみたいと思うようになりました。

最初に就職したのは、TSUTAYAの運営関連会社(現在のCCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ)で、当時はレンタルビデオ事業に関わることが多かったです。

次に転職した先が、スカパー!です。自主運営チャンネルのペイ・パー・ビュー放送をやっていた部門があり、「音楽ライブにチャレンジしてみたい」という想いがあったので、そこで初めて音楽のライブをTVで放送するという番組に携わるようになりました。

最初に担当したのは松田聖子さんで、他にも多くのアーティストの方々とお仕事をさせていただきました。

――2010年にWOWOWに入社されてから、担当された番組や、印象深いお仕事について教えてください。

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13年半、異動もなくずっと音楽番組を企画・制作していますが、やはり気持ちが入るのは、これをもって活動を休止したり、解散や引退をするアーティストの方、逆に久しぶりに活動を再開するアーティストの方とのお仕事ですね。2014年のTHE BOOM解散に伴う日本武道館ライブ、2016年の氷室京介さんライブ活動休止に伴う東京ドームライブ、安室奈美恵さん引退に伴う5大ドームツアー。それから2011年に21年ぶりに復活したCOMPLEXの東日本大震災の復興チャリティーライブ、プリンセス プリンセスやREBECCAの再結成、THE STREET SLIDERSの再集結やTHE YELLOW MONKEYの再始動といった仕事は記憶に残っています。

海外の由緒あるホールやアリーナから中継させてもらえるというのも、一つの醍醐味ですね。YOSHIKIさんのコンサートをニューヨークのカーネギーホールやロンドンのロイヤル・アルバート・ホールからも生中継させてもらいましたし、ロンドンのウェンブリー・アリーナでのX JAPANのライブを生中継したこともありました。

――スカパー!からWOWOWに移られて感じた最も大きな違いはどういう部分ですか?

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いちばん大きいのは、自社で収録制作ができるというところですね。現在は分社化していますが、僕が入社した当時、技術局の中に制作技術部という部署があり、自分たちだけで収録制作ができるということに衝撃を受けました。

スカパー!時代は自社での制作機能がないので、基本的にアーティストサイドが将来的なDVD&Blu-ray化などのために収録制作され、出来上がった作品を買わせていただくというスタンスでした。つくってもらったものを買うのか、自分たちで制作・プロデュースからやるのか? そこは圧倒的に違う部分でしたね。

――ちなみに丸山さん自身が個人的に好きだったり、よく聴かれるアーティストやジャンルは?
クラシックはずっと好きで、いつかクラシックでなんらかの仕事をしたいという想いもありました。その中で、今年4月に亡くなられたフジコ・ヘミングさんとはここ5年ほど、ライフワークのようにご一緒させていただきまして、最晩年の彼女とのお付き合いは非常に印象に残っているありがたい仕事でした。

360度センターステージで入れ替わるメンバーたちを全方位から捉えよ!

――今回、「生中継!新しい学校のリーダーズの初武道館『青春襲来』」が第14回 衛星放送協会オリジナル番組アワードの中継部門の最優秀賞ならびに番組部門6ジャンルの最優秀賞から選出されるグランプリを受賞されました。どのような点が評価されたと感じていますか?

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そもそものライブのパフォーマンスの素晴らしさがあったと思います。僕らは本番中、会場内ではなく中継車の中で見ているんですけど、その段階で「今日のライブはすごいぞ」というのをスタッフ全員が感じていました。これまで数多くライブを見てきましたが、パフォーマンス、ステージ演出、オーディエンスの熱狂......いずれもすごかったです。

加えて、事前にライブ制作のスタッフ、メンバー、演出家のみなさんと「こういうことをやろうと思っています」ということを入念に話し合い、ご協力もいただけました。狙い通りに撮れた部分、ギリギリまで演出プランが変更され、追いかけるのが大変だった部分もありましたが、互いの協力で良い生中継ができたと思います。

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――具体的に今回のライブ中継の演出の狙いや重視した部分などがあれば教えてください。

会場が360度を客席に囲まれたセンターステージだったので、全方位から狙うということが前提としてありました。曲によってメンバーの位置もフォーメーションも変わっていくんですが、それをいかに狙って収められるかというのは事前のリハーサルの段階からスタッフ全員が入念に詰めていきました。

マイクロドローンも効果的に使えたと思います。印象的な部分で、メンバーたちが縦列に並んで、スカートの下をドローンがくぐっていくという演出をやらせてほしいというお願いをこちらからしました。最初は難しいんじゃないかという話もあり、ライブ当日のリハーサルでは低く飛び過ぎて床にバウンドしてしまったんですが、本番は修正して成功させることができました。メンバーからも、振り付けの中に、ああいうシーンをつくり込むというのは、なかなかない経験だったと言われました。

――中継が決まってから、アーティスト側に「こういう画を撮りたいので、こういう動きをしてほしい」という映像演出の提案・リクエストをすることは多々あるんですか?

それを密にやれる場合もあれば、「こちらがやっていることを撮ってもらえたらいいので、ステージ演出は変えません」という現場もあるので、ケースバイケースです。ですが、「ここにカメラを置かせてもらえば、こんなおもしろい画が撮れます」という提案は、なるべくさせていただきます。

――音楽ライブの生中継を行なう場合、どれくらいの規模のチーム体制で、どれくらいの準備期間をかけて、どのように進めていくのでしょうか?

今回の「新しい学校のリーダーズの初武道館『青春襲来』」では、編成や宣伝などのスタッフをのぞく収録制作技術スタッフは約150人、有人カメラ台数は37台です。

ライブ興行というのは本番の1年くらい前には決まっていることが多く、カメラ用の席を押さえておく必要があるため、チケット販売前、遅くとも本番の3カ月前にはWOWOWで中継することが決まっていることが多いです。

WOWOWで収録制作する場合、技術的な部分はグループ会社のWOWOWエンタテインメントが動くので、まず全体を見るテクニカルマネージャーを立ててもらいます。演出部分は外部の制作会社にお願することが多いですが、ディレクターをはじめ、スタッフのコアメンバーを決めていき、ある程度絞り込んだ段階で、アーティストの方、マネジメントおよびライブ制作を行なう方々と話し合いの場を設けて、どういうステージ演出を行なうのかという情報をお聞きし「いまの段階でこういう撮り方をしようと思います」というプランを提出します。

もしツアーであれば、コアメンバーのスタッフと初日から足を運んで、実際にどういうライブになっているのかを見に行くこともあります。

一夜限りの一発勝負の場合は、事前のリハーサルスタジオや本番前のゲネプロで、どんな動きをするのかといったことを確認して本番に臨みます。

コミュニケーションのコツは「アーティストとは直接話さない」?

――丸山さんが考える"プロデューサー"の役割とはどういうものですか?

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番組を事故なく放送・配信し、良いものを届けるために全体を見るというのが、仕事の根幹、軸だと思います。

アーティストやマネジメント・レーベルサイド、イベントプロモーターはもちろん、制作会社や技術スタッフ、社内の編成や宣伝、契約関連部署など全方位を見て、どこも事故なく、順調に進むように立ち振る舞うことがプロデューサーの役割なのかなと思います。

――アーティストの方とのコミュニケーションの部分で大切にされていることなどはありますか?

意外に思われるかもしれませんが、僕自身がアーティストの方と直接コミュニケーションをとることはほぼないんです。

もちろんあいさつはします。でも、直接的な会話は意識的にしないようにしていて、僕が「こういうことをしたいと思っています」とお話しするのは、基本的にマネジャーやレコード会社の制作担当、イベントプロモーター、コンサート制作の総合演出や舞台監督、そして番組制作の演出や技術スタッフといった人たちです。

なぜかと言われると、そこから先は、その人たちがアーティストに説明をするものだと思うからです。僕が直接「こういうことをしてほしい」と言うのではなく、一歩引いた俯瞰(ふかん)の位置で見るようにしています。先ほどのドローンの演出などに関しても、僕から言うよりも百戦錬磨の撮影監督や技術スタッフから「ここはできます」と伝えてもらったほうが、説得力があるのではないかと思います。

後編に続く

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道