WOWOWライブ中継のすごさとは――?開局以来30年以上かけて積み重ねてきた経験値とノウハウをいかに継承するか
WOWOW音楽事業局 担当局長 音楽事業部 エグゼクティブ・プロデューサー 丸山明澄
「第14回 衛星放送協会オリジナル番組アワード」において、2024年1月放送・配信の「生中継!新しい学校のリーダーズの初武道館『青春襲来』」が中継部門の最優秀賞およびグランプリを獲得した。熱狂のライブ中継はどのように生まれたのか? 数々の音楽番組を手掛けてきた丸山明澄エグゼクティブ・プロデューサーにWOWOWのライブ中継の神髄を語ってもらった(前後編の後編)。
いかに経験の場を与えるか? "生"の現場での場数が成長を生む
――改めて、丸山さんが感じるWOWOWの生中継の強みはどこにあると思いますか?
生中継ということで言うと、経験値の蓄積――開局以来30年以上をかけてノウハウが蓄積され、継承されていく部分が大きいなと思います。どう撮るか? ということも大事ですが、生中継に関しては"スイッチャー"という職業が非常に重要であり、場数を踏まないと成長しづらいものなのかなと思います。何十台のカメラの映像の中から瞬時に最適な画を選んで押すというのは、特殊能力に近いものがありますが、経験を積むことでその技術は上がっていくものです。年間何本もそういう現場を経験することで、各スタッフが経験値を上げていっていると思います。
――先ほど、自社で制作する機能を有していることのすごさについても語っていただきましたが、やはりその部分も大きいのでしょうか?
そうですね。例えば、通常であればこの予算では20台しか有人カメラが入れられないというところに、融通を利かせて25台の有人カメラを入れる――ただし、そのうちの5人は本来、まだカメラマンを務められるレベルではない社内カメラアシスタントなんですが、今後のスキルアップのためにこちらで責任を持つので追加で入れさせてほしいとお願いすることがあるんですね。そうすると、そこまで使える画はないかもしれませんが、5人の新人カメラマンが現場を経験することで通常よりも早く成長することができるわけです。
先ほど話に出たスイッチャーに関しても、生中継ではない場合も入るんですが、アーティストサイドにも承諾を得た上で「しっかりと後から編集をしますので、練習でスイッチャー卓を押させてください」とお願いして、やらせていただいたりもします。こういうこともグループ内でやっているからこそだと思います。
ただ、なかなか難しい部分もあって、やはり「ここは外せない」「失敗できない」という現場に関しては、当然ですが一線級のベストのスタッフをそろえて送り込むことになるので、そうすると若いスタッフの育成が進まないという"スタッフ高齢化問題"が出てくるんですよね(苦笑)。育成がいちばん難しい課題ですね。
――丸山さんがお仕事をされる中で、やりがいを感じるのはどういう瞬間ですか?
いまの仕事ですと、最終的には番組として世の中に届けた際に、各方面の反響が良いことがやりがいにつながっていますね。オンエア中にSNSで「最高だった」「WOWOWさすがです」といった声がどんどん上がったり、オンエア後に出てくる数字が良かった時、アーティストの方やスタッフの方から「WOWOWでやってもらってよかった」「次回も頼みます」という声をいただいた時ですね。
――SNS上で、アーティストのファンが「#WOWOWさんありがとう」などと、WOWOWを擬人化するような投稿をされることが多々あるのはご存じですか?
わかります(笑)。DMを送ったり、リプライすることはしないですが、そうやって「WOWOWさんありがとう」と言っていただけることは励みになりますし、うれしいですね。次もそう言っていただけるように継続してやっていかないといけないと思います。すごくありがたいですし、スタッフ間でも「SNSで盛り上がってるね」という話になったりします。
音楽部から音楽事業部へ ライブ中継からいかに収益を生み出すか?
――現在WOWOWは、放送・配信にとどまらない多層的なサービス展開を目指しています。音楽事業部でも、今年4月のTHE YELLOW MONKEY東京ドームライブで、放送より先にWOWOWオンデマンドPPV(ペイ・パー・ビュー)にて番組個別課金によるライブ配信を実施するなど、さまざまな取り組みをされていますよね。今後どういったサービスを展開していきたいとお考えですか?
まさにこの4月に音楽部から音楽事業部へという組織改編があって、これまでは番組を制作して、数字が良ければOKという、お金を使う部署だったんですけど、"事業"という言葉が入ったように、事業収益化も目指してやっていく方向になりました。
サブスクリプションで月額2,530円を払って見ていただくだけではないサービスとして、ペイ・パー・ビューによる個別課金での配信を行なったり、放送・配信終了後に再編集したものを劇場作品として公開するという展開などを考えるようになりました。他にも、これまでであれば放送・配信が終わったら、アーティストサイドに収録素材の権利をお譲りして「あとはご自由にDVD&Blu-rayにしてください」とする場合が音楽関連に関しては多かったんですが、今後はWOWOWにも権利の一部を保有させていただいて、DVD&Blu-ray化する際に、WOWOWも責任をもってそこに携わらせてもらって、売り上げの一部を分配してもらうなどして、事業収益化を考えています。
あとは、これまでは決まっているライブに収録制作で入らせていただくことが多かったのですが、ライブをするということが決まったタイミングから、われわれも公演に出資をさせていただいたり、出資や主催は難しくても、後援名義という形で券売プロモーションに関わらせてもらったり、会場での物販で、コラボアイテムをつくって売らせてもらったりするなど、いろんなことをビジネスとしてやっていかないといけないし、少しずつさまざまな取り組みが進み始めています。
――今後、放送・配信される丸山さんの担当番組について、ぜひお客さまに見てほしいポイントなどがあればお願いします。
COMPLEXの東京ドームライブ(「COMPLEX 東京ドームLIVE 2024 ~日本一心~」)が8月3日(土)にオンエアされます。令和6年能登半島地震の被災地の復旧・復興支援として開催されたライブですが、吉川晃司さんと布袋寅泰さんが2011年の東日本大震災復興チャリティーライブから13年ぶりにCOMPLEXを始動されて、WOWOWとしてもできることはなんなのか?と考えて、放映権料の一部を義援金にしていただくご提案なども含め、少しでも被災地の支援になればという想いでご一緒させていただきました。5月15日、16日の2日間で行なわれ、現在絶賛編集中ですが、本当に別格と言えるライブとなっていますので、ぜひお二人やスタッフ、会場のオーディエンスの想いとともに見ていただければと思います。
COMPLEX 東京ドームLIVE 2024 ~日本一心~ 8月3日(土)午後7:00 【WOWOWプライム】【WOWOWオンデマンド】
また、「3カ月連続 COMPLEX WOWOW特集」ということで、9月には2011年の東京ドームライブ(「COMPLEX 20110730 日本一心」)、10月には1990年の東京ドームライブ(「COMPLEX 19901108」)も放送・配信しますので、ぜひお楽しみいただければと思います。
COMPLEX 20110730 日本一心
COMPLEX 19901108
――今後、丸山さんがチャレンジしたいことはどんなことですか?
13年半もWOWOWで音楽番組の企画・制作をやっているわりにはまだまだ飽きず、モチベーションが下がることなく「次は何をしようか?」「どんなアーティストと何を仕掛けようか?」ということを考えています。そこをさらに突き詰めていきたいと思います。
それ以外では、例えば昨年のフジコ・ヘミングさんのコンサートでは、WOWOW主催のコンサートとしていわゆるステージ側のプロデュースからやらせていただいたのですが、今後もそういうことをより踏み込んで、興行・コンサートプロデュースの部分から番組のオンエアまで一つにまとめてやっていきたいですね。
それから、最終的に映画がゴールということを最初の時点で決めて、映画をつくってみたいです。現在は番組ベースで、放送・配信終了後にそれを劇場で上映するということはありますが、本気でドキュメンタリー映画として制作・上映し、それを後から放送・配信するような形で、アーティストさんと何か企画できたら面白いですね。
取材・文/黒豆直樹 撮影/祭貴義道