2026.09.03

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香取慎吾主演で東野圭吾が託した「答えのない問い」に挑む―― 瀬々敬久監督×プロデューサー陣が語る、「連続ドラマW 東野圭吾『虚ろな十字架』」に込めた覚悟

瀬々敬久氏(監督)
下田淳行氏(ツインズジャパン代表取締役 プロデューサー)
松本太一(WOWOW ドラマ制作部 プロデューサー)

香取慎吾主演で東野圭吾が託した「答えのない問い」に挑む―― 瀬々敬久監督×プロデューサー陣が語る、「連続ドラマW 東野圭吾『虚ろな十字架』」に込めた覚悟

東野圭吾が「死刑制度」という重厚なテーマに真正面から斬り込んだ「虚ろな十字架」。WOWOW×東野圭吾原作の10作目として、なぜ本作を映像化することにしたのか。また、主演に香取慎吾を迎え、どのように原作者・東野圭吾の想いに映像で応えようとしたのか。 数多くのWOWOW作品を手掛け、長年の信頼関係で結ばれている瀬々敬久監督と下田淳行プロデューサー(ツインズジャパン)に加え、松本太一プロデューサー(WOWOW)を交えた3人に、9月6日(日)の「連続ドラマW 東野圭吾『虚ろな十字架』」が放送・配信開始を控えるなか、制作の裏側を語ってもらった。

「答えのない問い」を圧倒的な密度で描く挑戦

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――東野圭吾原作ドラマの10作目として、「虚ろな十字架」を選んだ経緯を教えてください。
松本 この原作が出版されたとき、僕はまだ大学生だったんです。その頃に読み、胸に深く突き刺さりました。WOWOWに入社してからも歴代のプロデューサーたちが東野先生の素晴らしい作品を次々と手掛けていくのを見ていて、いつか自分もこの作品をやりたいと思っていたんです。原作出版社の光文社さん、そして東野圭吾先生に宛てた企画書を作り、幸運にも原作を預かることができ、企画を進めることになりました。

――瀬々監督と下田プロデューサーという座組はどのように実現したのですか?
松本 内容が死刑制度を扱う非常に重いものだったので、『ヘヴンズ ストーリー』('10)を撮られた瀬々監督にぜひお願いしたいと考えました。そんな中、瀬々監督と30年来のお付き合いがある下田さんを、『友罪』('18)「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」等で過去にご一緒し、現在プロダクション事業部長を務める武田部長から紹介してもらう機会に恵まれ、下田さんを通して瀬々監督にお声を掛けていただきました。

2609_features_utsurona_sub02_w810.jpg松本太一(WOWOW ドラマ制作部 プロデューサー)

――「虚ろな十字架」の映像化と聞いて、どう思いましたか?
下田 正直に言うと、「映像化が難しそうな作品」というのが第一印象でした。小説としての読み応えがある一方で、映像化するときに説明っぽくならないようにするのが非常に難しい内容だなと思いました。死刑制度という、簡単に結論を出しにくい題材を扱っているので、映像化に際しても安易に答えを出さないようにしたいと考えました。

瀬々 東野先生は、ある時期から「手紙」や「さまよう刃」のように、自分のテーマ性をどんどん前に出すようになってきたように感じます。今回の「虚ろな十字架」も、まさにその「テーマ主義」が全面に出ている作品だと思います。原作を読んだとき、答えのない問いをそのまま読者にぶつけていると感じました。おそらく、東野先生自身が"素直"に書いた小説なんだろうなと思いました。だからこそ、僕らが映像でどう応えていくか、そこが勝負所だと思いましたね。

香取慎吾という「スター」の芝居にキャスト陣が共鳴

――主演の香取慎吾さんの起用理由について教えてください。
松本 主人公の中原はある悲劇に見舞われた後、ペット葬儀社で働くようになりましたが、もともとは広告代理店の社員。本来は「陽」のオーラを持つ人間です。ですので、「もともと"陽"の香りがある人がいいんじゃないか」という話の中で、瀬々監督から香取さんの名前が挙がったんです。

瀬々 香取さんの芝居は、面白いですよ。こういう言い方が正しいかどうかわかりませんが「スターの芝居」なんです。最近の若い俳優さんはみんな演技派を目指して、細かく作り込んだ"自然"な芝居をしようとしますが、香取さんはひと味違う。勝新太郎さんや田宮二郎さん、石原裕次郎さんといった往年の大スターのよう。そこに立っているだけで周囲の空気を変え、相手の俳優とコール・アンド・レスポンスを重ねながら、その場で感情を立ち上げていくんです。スターのお芝居の基本は「受け」なんですよね。香取さんにはその「受けの芝居」の圧倒的な強さがある。今回の受動的な中原という役柄に、そんな香取さんのスター性が完璧にマッチしていたと思います。

2609_features_utsurona_sub03_w810.jpg瀬々敬久氏(監督)

下田 本当に存在感が"太い"ですよね。

松本 香取さんはほかのキャストの皆さんより少し遅れて撮影に合流したんですが、初めて香取さんが現場に入ってきたとき、「いよいよドラマが始まった」という空気がスタッフ全員に伝わりました。あの存在感は、やはり唯一無二ですね。

――現場での香取さんの様子はいかがでしたか?

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瀬々 苦悩していたと思いますよ。これまであまり演じてこなかったタイプの役柄だから。

松本 後から聞いた話ですが、共演の赤楚衛二さんとも、意識的に話さないようにされていたそうですね。

下田 休憩中も共演者の方々と敢えて距離を置いて、ひとりでポツンと座っていた姿が目に焼き付いています。寄せ付けない雰囲気ではなく、準備中のスタッフを少し離れた場所からぼんやりと眺めていましたね。

――中原と対峙する仁科史也を演じた赤楚衛二さんについてはいかがでしょうか。

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松本 香取さんと対峙しても、しっかりと存在感を発揮できる俳優さんがいいと思い、史也役を赤楚さんにお願いしました。今回赤楚さんは、「罪の意識」をずっと引きずって生きている史也というキャラクターに、ものすごく真摯に向き合ってくれました。撮影中も、ずっとその重荷を背負っているような苦しさがあったと話していたのが印象的でしたね。

瀬々 赤楚くんにとってもあまり演じた経験のない役柄だったと思いますが、香取さんとはまた違う意味で面白かったですね。端正な顔立ちとは裏腹に、内側に秘めた感情が沸点に到達し、それをバーンと爆発させるような瞬間があって。香取さんとはまた違うアプローチで感情をぶつける。赤楚さんの"攻め"は、とてもしびれました。

下田 器用にこなすというよりは、すごく役に真面目に向き合うタイプの役者さんなんだと感じました。

――ほかにも、印象深いキャラクターが続々と登場しますが...。
下田 宇崎竜童さんが演じる中原の伯父・竹井が、すごく雰囲気があって良かったですね。昔から宇崎さんに憧れていたので、現場でお会いできて光栄でした。現場の宇崎さんは、モーガン・フリーマンのような重厚な存在感を発揮されていましたよ(笑)。

瀬々 僕が思うに、中原の元妻の小夜子(鈴木杏)は「裏の主人公」ですね。小夜子は物語の冒頭で亡くなるわけですが、彼女が遺した言葉や想いが、生きている人間たちを動かしていく。小夜子を演じる杏さんは、「バットマンのような、邪悪なものを背負いながら生きるアンチヒーロー、ダークヒーローだと思って演じたい」と言っていました。その力強さがあるからこそ、香取さんや赤楚さんの芝居がより輝いて見える。杏さんの功績は大きいですね。

松本 小夜子の父親役の小倉蒼蛙さんのお芝居も好きでしたね。普段の明るいイメージとは異なり、娘を失った父親の弱々しさやリアリティを見事に演じてくださって。

瀬々 小倉さんのシーン、本当に良かったよね。実は僕、小倉さんの大ファンなんですよ。小倉さんが出演されている『股旅』('73)のDVDを持って行って、現場でサインをもらいました(笑)。

視聴者との信頼関係が広げる「WOWOW」というプラットフォームの可能性

――瀬々監督、下田プロデューサーには、『友罪』、「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」をはじめ数々のWOWOW作品をご一緒いただいていますが、WOWOWのドラマをどう捉えていらっしゃいますか?
下田 映画に近い感覚ですよね。全話の脚本をじっくり練り上げ、準備を整えてから撮影に入るというプロセスはやりやすいです。もっと無茶なことに挑戦させてもらってもいいのかもしれませんね(笑)。

2609_features_utsurona_sub06_w810.jpg下田淳行氏(ツインズジャパン代表取締役 プロデューサー)

瀬々 自由度は非常に高いと感じます。たとえば、今回のような加害者への報復感情といったセンシティブな題材は、地上波では敬遠されがちです。一方でWOWOWは、視聴者の方々が自分で選んで、お金を払って見る。そこには「見る側の責任」もあり、作り手との間には信頼関係があります。だからこそ、より深く、鋭いテーマに踏み込んでいける部分はありますね。作る側と見る側のある種の丁々発止がうまく機能し、作品のクオリティーを高めているんじゃないでしょうか。

――ちなみに、WOWOWが手掛けた東野圭吾原作のドラマで印象深いものはありますか?
瀬々 「連続ドラマW 東野圭吾『さまよう刃』」ですね。最近ではNetflixの配信ドラマ「ガス人間」でも話題を集める片山慎三監督を起用した点も「鼻が利くな!」と思いましたね(笑)。そして既に映画化されている原作を、あらためてドラマ化するのも勇気がいることだと感心しました。

松本 僕も「さまよう刃」が印象に残っていて、初めて見たときはその生々しさに衝撃を受けました。「これが受け入れられるだろうか」と思いましたが、視聴者からも熱烈な支持があった作品と聞きました。しっかりした作品を作れば想いは届くんだと勉強になりましたね。

下田 「連続ドラマW 東野圭吾『変身』」が印象に残っていますね。なぜって、僕がやりたかった原作なんですよ。SF要素のある、当時の日本にはなかなかなかったタイプの小説で。実は、主人公を女性に置き換えて映像化したいと、東野先生に相談しに行ったことがあるんです。

■WOWOW×東野圭吾 歴代作品はWOWOWオンデマンドで配信中
WOWOW×東野圭吾オリジナルドラマ10作品 | WOWOWオンデマンドで見る

――最後に、これから作品をご覧になる方へメッセージをお願いします。
下田 この物語の中には、人間の「矛盾」がたくさん描かれています。とあるパートでは、あるキャラクターが非常に重苦しいシチュエーションで「鰻を食べる」という場面があるんです。最初は「なぜここで鰻?」と思いましたが、映像にしてみると、その人間の矛盾こそが、言いようのないチャーミングさにつながっていることに気づきました。ぜひご注目いただきたいです。

瀬々 東野先生からいただいた「安易な結論を出さない」という教えを、最後まで貫きました。人間は、どうしようもない悲劇や闇に立ち向かいながらそれでも答えの出ない問いを抱え続けて生きていかなければならない。この作品が観てくださる方々にとって、「抱えながら生きる」ための力や、何らかの思考のきっかけになればうれしいです。

松本 死刑制度という難しいテーマを題材にしていますが、東野圭吾先生の原作映像化作品らしく、サスペンスドラマとしても人間ドラマとしても面白く仕上がっていると思います。まずはサスペンスドラマとしてぜひ楽しんでください。

連続ドラマW 東野圭吾「虚ろな十字架」
9月6日(日)WOWOWにて放送・配信スタート(全4話) ※第1話無料放送・配信
https://www.wowow.co.jp/drama/original/utsuronajujika/

監督:瀬々敬久
大学卒業後、助監督を経て『課外授業 暴行』('89)で監督デビュー。『64-ロクヨン- 前編/後編』('16)、『糸』('20)、『ラーゲリより愛を込めて』('22)など大ヒット作を次々と手掛ける。WOWOWでは『友罪』('18)、「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」などで監督を務める。

プロデューサー:下田淳行(ツインズジャパン)
映画・ドラマプロデューサー。ツインズジャパン代表取締役。『友罪』('18)、『ラーゲリより愛を込めて』('22)をはじめ瀬々監督作品を多数プロデュース。「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」「連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル」シリーズなどWOWOWドラマも数多く手掛ける。

プロデューサー:松本太一(WOWOW)
2021年WOWOWにキャリア採用にて入社。過去に手掛けた作品には、ドラマL「それでも愛を誓いますか?」(EX)、「連続ドラマW 怪物」、WOWOWがプロダクション業務を担った「八月の声を運ぶ男」(NHK)、NHK夜ドラ「ミッドナイトタクシー」などがある。

取材・文/柳田留美 撮影/中川容邦