登場人物全員が主役。俳優・石田ゆり子×脚本家・岡田惠和が語る、"人生を肯定する"愛おしくもおかしい群像劇「連続ドラマW マイ・スイート・ホーム」
10月31日に第1話の放送・配信がスタートした「連続ドラマW マイ・スイート・ホーム」。
これまで実直に生きてきた、学生時代からの友人である“アラ還”世代の女性3人が、人生を見つめ直すために“パートナーをシャッフルする”という冒険に打って出る…という驚きのストーリー。
脚本は、ドラマ「最後から二番目の恋」など、ヒューマンドラマの名手・岡田惠和。監督は、映画『傲慢と善良』(’24)など洗練された世界観を紡ぎ出す萩原健太郎。そして、ドラマを彩る俳優陣には、石田ゆり子、仲村トオル、中嶋朋子、三宅健、富田靖子、武田真治、坂井真紀、椎名桔平という豪華な面々が集結した。
今回は、専業主婦・上原春花役の石田ゆり子と、脚本・岡田惠和のスペシャルインタビューを敢行!脚本執筆時の想いや、岡田の描く世界観やせりふを表現する楽しさや難しさなど、ドラマ制作の裏側をたっぷり語ってもらった。
「連続ドラマW マイ・スイート・ホーム」毎週土曜 午後10:00(全6話)
映画を撮るように――WOWOWならではの贅沢な作り
――これまでもWOWOWドラマを支えてこられたお2人ですが、WOWOWドラマにどのような印象をお持ちですか?
岡田 全話の脚本を書き終えてから撮影に入るというスタイルは、日本の連続ドラマでは良い意味で珍しいですよね。しかも、映画を中心に撮っていらっしゃる監督が、全話の演出を担当する。かなりぜいたくな作りだと思います。
石田 これまでも何作品か出演させていただきましたが、とても自由に、思い切ったことができるという印象です。地上波ではできないジャンルにも挑戦できますし、CMが入らないので、ドラマといっても長い映画を撮っているような感覚で、気持ちが途切れることなくお芝居に向き合える環境がありがたいですね。
――今回の「マイ・スイート・ホーム」のお話を最初に聞いたときの感想を教えてください。
石田 岡田さんの大ファンなので、岡田さんが脚本を書かれるとお聞きして、「ぜひやりたい!」とすぐにお返事しました。岡田さんのせりふは、声に出すとワクワクするんです。登場人物全員に満遍なく愛情が注がれていて、誰かひとりの話ではなく「みんなの話」になっている。全員が主役なんですよね。
「マイ・スイート・ホーム」は、自分の世代のお話です。男女6人を中心とする群像劇で、この世代ならではの日々想うことなどが描かれていますが、そこに石を投げるというか、思いもよらないアイデアが投入されていて。いい大人たちがみんなでそれに乗っかっていくんです。演じる前から本当に楽しみでした。
岡田 最初は、竹内まりやさんの「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」という曲名を、仮タイトルにしていました。実はこの曲のミュージックビデオに、石田さんが出演されているんですよね。それも運命的と思っている中で、石田さんが出演を快諾してくださったのがうれしく、春花という役に自分が思う石田さんを投影しながら書きました。それが正解かどうかは分かりませんが、春花と石田さんご本人が溶け合っていく感覚があって、不思議な気持ちでしたね。また、竹内まりやさんに主題歌をお願いできたら...と考えていたので、書き下ろしで主題歌を担当してくださったのはありがたくうれしかったですね。
岡田惠和
「バカなことも楽しめる、大人のかわいさ」を描きたい
――「パートナーをシャッフルする」という設定を思い付いた背景をお聞かせください
岡田 まず、アラ還世代(60歳前後)の大人たちのドラマを書きたいと思ったんです。何か事件が起き、それによって人間が揺れるさまを描くものが「ドラマ」の作りとして一般的で、"アラ還"イコール「親の介護」「子どもとの確執」「仮面夫婦」...といった想像しやすいテーマではなく、何か別の視点からのアイデアはないだろうかと考えた時に、「パートナーをシャッフルする」ことを思い付きました。それをスキャンダラスに描くのではなく、「そんなバカなことも楽しめる、大人のかわいさ」のようなものを描きたいなと思ったんです。
石田 私も最初は、「パートナーをシャッフル!?え、本当ですか?」と思いました(笑)。でも、この発想こそが岡田さんの物語で、もちろん面白くて、早く台本の続きが読みたくて仕方なかったです!
実は、シャッフルする前の本来の夫婦生活があまり描かれていないまま物語が始まるんです。春花の夫・修平役の仲村トオルさんよりも、夏希(坂井真紀)の夫・潤一郎役の椎名桔平さんとのシーンのほうが多かったくらい。台本は読んでいても、ほかのカップルのお芝居がどうなっているか、撮影時は知らなかったので、学生時代の回想シーンも組み合わさった完成した全6話を通して見た時は、「すごく面白い!」と感動しましたし、とても幸せな気持ちになりました。ネタバレになってしまうので全部言えないのが残念(笑)!
石田ゆり子
――女性同士だけでなく、男性同士にも絆があるという設定についてお聞かせください
岡田 彼女たちの関係は、それぞれのパートナー同士が仲良くしているからこそ成立しているというのも一理ありますよね。現実では、なかなかないことかもしれませんが、個人的には男性が女性に合わせれば、世の中の7割ぐらいはうまくいくんじゃないかと思っているんです(笑)。実はもともと、男性同士の関係性を描くのは得意な方ではないのですが、このドラマでは争いはなく、楽しそうな男性陣を描けたのがうれしかったですね。
石田 私も、「これが現実にあったら幸せだろうな」と思いましたし、この関係が成立するには男性側の協力が大事だと思いました。少し話は逸れますが、このドラマでは、経済的に恵まれた人を描いているのもポイントだと思っています。
岡田 そうなんです。裕福な人を描いたドラマや物語は、その人が「悪い感じ」になることが多いじゃないですか(笑)。夫婦間もギスギスしていたり。でも実際はそんなことはない、と思っていて。恵まれている環境で過ごしているからこその優しさや温かさがあるはず。なかなかドラマでは描かれないそういう部分を、今回は描きたいという想いもありましたね。一方で、彼らと対立的する存在として、冬美(富田靖子)の元夫・田口(武田真治)がいます。彼は裕福な人たちのことをひどく嫌っていますが、その見方も一つの真実だと思っています。
――3夫婦が暮らす東京、葉山、軽井沢のロケーションも印象的でした。
岡田 豊かさのタイプが違う場所を選んで、3通りの「幸せの形」を描きたかったんです。
石田 どこも素敵ですが、私は秋絵(中嶋朋子)と佳彦(三宅健)夫婦の軽井沢の生活がいいなと思いました。実は、春花ではなく秋絵のキャラクターが、一番自分に近いと感じていて。私は秋絵ほど突出していませんが、ひとりで絵を描いたり、アートや文化的な活動をしたり、都会より自然が好きなところがあるので、秋絵にすごくシンパシーを感じました。...余談ですが、その離れた3カ所での撮影だったので、移動がけっこう大変だったんです(笑)。これまでの俳優人生の中でも、一生忘れられないくらいの「超移動」の日々でした!

岡田作品はオーケストラ。まとめ役の春花が誰よりも暴走...!?
――石田さん演じる春花というキャラクターは、どのように生まれたのでしょうか?
岡田 春花は完璧な専業主婦で、いわば優等生的キャラクターです。夏希と秋絵が個性的で少し手のかかるキャラクターなので、春花はそのまとめ役という立場ですが、そのバランスをどうにかして崩せないかなと思ったんです。そこで、「時々暴走する」「実は誰よりもとんでもないことを平気でやってしまう」という要素を加えました。春花は書いていて楽しかったキャラクターですね。全編を通して、「春花が言った/提案した」ということが、ほかのみんなにとっての免罪符になります。「私が言ったんじゃないから」って(笑)。
石田 春花は、唯一仕事を持っていない人物なんですよね。主婦業に対するプライドはあるけれど、社会に出ていないことへのコンプレックスもある。そして、自分が恵まれているという自覚もあるんです。かわいがられてきたことや、怠けてしまったことも。でも、本当に頑張っているところもあって。私は春花とは立場が違うけれど、その揺れる気持ちは分かります。「春花が一番変わっている」と言われると、ちょっとうれしかったり。共感できるところと、まったく違うところを擦り合わせていく作業は大変でしたが、楽しかったですね。
石田ゆり子演じる上原春花
――岡田さんは脚本を書くに当たってこだわったところを、石田さんは春花の役作りについてのこだわりを教えてください。
岡田 「説明し過ぎない」ことを意識しました。今回のキャラクターたちは「初めまして」の関係ではないので、お互いを知っている者同士の会話を通して、そのキャラクターがどういう人なのかを分からせるつくりにしました。せりふで語られることしか伝わらない、ちょっと演劇のような感じで、そのさじ加減にはすごく気を使いましたね。自己紹介のシーンもなく難しかったですが、「WOWOWの目の肥えた視聴者の方なら分かっていただけるはず」と信じて挑戦させてもらいました。
石田 役作りについては、結構細かいことまで考えて撮影に臨みました。台本の第1話の最初のシーンのところに、「明るく、声が通る/意外と姉御肌/口角を上げて/眉間を開いて/笑い方、口が大きい/育ちの良さ/懐の深さ/主婦特有の雰囲気」と、春花のイメージを書き連ねたりして。相手の出方に合わせてお芝居は変わるものですが、こういったイメージを作り上げる作業をしています。
――岡田さんの「長ぜりふ」を、自分の中に落とし込む秘訣はありますか?
石田 岡田さんの作品は、オーケストラのようだなと思います。「自分は、この中でどのパートなんだろう?」と考えるんです。ピアノなのか、第一バイオリンなのか。それぞれがソロを弾く時もあれば、聴いている時もある。止まらない即興曲のようでもあって。同じことを言うにしても、その表現がキャラクターによって微妙に違うんです。
「生身の人間がしゃべると、こういう言い方になるよね」というせりふが多くて、1文字間違うと次の言葉が出てこなくなることもあります。受験勉強みたいにせりふを書き出して覚えたこともありましたね。「どうしても岡田さんの書かれたせりふのまま言いたい!」という想いが、私だけでなくほかのキャストの皆さんにもありました。
岡田 そうなんですね。こちらとしては、変えてもらって構わないと思っています。基本的に脚本家は、監督や俳優さんたちに委ねる仕事だと思っていますから。
豪華キャスト×萩原健太郎監督が奏でる絶妙なアンサンブル
――ほかのキャストの印象や撮影のエピソードがあれば教えてください。
岡田 「俳優さんのお芝居が命」の台本なので、力のある方が集まってくださって幸せです。中嶋朋子さんとは初めてご一緒させていただけて光栄でした。「将来、中嶋さんのせりふを書ける日が来るぞ!」ということを、昔の作家志望だった自分に言いたいくらいでしたね(笑)。坂井真紀さんとは久しぶりでしたが、近年の活躍を拝見していたので、ここでもう一度巡り合えて良かったと思いました。三宅健さんとご一緒するのは今回で2度目でしたが、完成した映像を見た時には何度も一緒に仕事をしてきた方に思えました。仲村トオルさん、椎名桔平さんとも何度かお仕事してきましたが、「このまま別れてしまうのが惜しい!」と思えるいい出会いに恵まれたと思っています。
石田 皆さん全員、本当にすばらしかったです!一人ひとりがものすごく"大人"でとても穏やかで。長ぜりふの繰り返しで物語がどんどん展開していくので、役者の力量が問われるところもあって、みんな自分の役のイメージをかなり鮮明に思い描きながら演じていた印象でした。
――萩原健太郎監督の演出で印象的だったことは?
石田 萩原監督は45歳とお若いので、「還暦間近の女性の気持ちを分かっていただけますか?」と、女性陣が監督を囲んで、いろいろ話しました(笑)。私と(坂井)真紀ちゃんと(中嶋)朋子ちゃんの3人は、「マイ・スイート・ホーム」というタイトル通り、「家」もまた主役だと考えていて。子どもの成長の記録や、使い込まれた家具のヴィンテージ感などが家の中に刻み込まれていることが大事なんじゃないかと。そのためには、どんなシーンや小道具が必要か一生懸命考えていましたが、監督の描きたいことはもっと映像的で。みんなが納得するまで、すごく話し合いましたね。
撮影前には、夫婦ごとに監督と3人だけでミーティングをしました。プロデューサーの皆さんもそこに同席せず、何を話したかはそれぞれの夫婦と監督しか知りません。私たちのミーティングでは、監督が「物事を細胞レベルの近さから宇宙空間ぐらいまで引いて見る」といった話をされていました。いろいろな角度から物事を見るのが重要ということだと思うんですけど、すごく哲学的でしたね。今思えば、このパートナーシャッフルも、「視点を変えてみる」ということが大きなテーマですよね。監督が描きたい世界を理解するのが難しい時もありましたが、とても繊細に伝えてくださっていたなと思います。
岡田 僕からは「豊かな暮らしをしている人を、ちゃんと肯定したい」という話をしましたが、演出についてリクエストしたことはないですね。若い監督に伸び伸びと撮ってもらいたいと思ったので。こちらからすれば、20歳ほど離れた演出家と組めるなんて幸せなこと。それがいい形で結実したと思います。監督にしてみれば全員が先輩のような感じで大変だったと思いますが、結果的にはすごくいいバランスで仕上がって良かったです。
石田 全話通して見て、思っていた以上に心の奥を掘り起こされましたし、「萩原監督の演出だからこその軽やかさ」に気付きました。例えば、もし同世代の女性監督が撮っていたら、もっとベタッと重くなっていたかもしれない。45歳の男性から見た未来の群像劇は意外とポップで、「こういうふうに見えているのね」という面白さもありました。
「そのままでいい」――大人にささげる人生賛歌
――「ここはぜひ見てほしい!」というおすすめのポイントを教えてください。
岡田 とにかく、俳優の皆さんのお芝居を堪能していただきたいと思います。脚本はそのための装置なので。あと、ネタバレになるので詳しく話せませんが、ラストシーンも自信があるので、ぜひ楽しみにしてください。ラストシーンの石田さん、とてもかわいいです!
石田 ありがとうございます。岡田さんの脚本ありきですから。岡田さんの描いた世界の中で、私たちはいろいろな人生を経験させてもらえて、本当に役者冥利に尽きるというか、幸せな時間だったなと思います。ほかのみんなも、すごくお芝居が細やかで、ちょっとした仕草や表情の応酬が面白いんです。例えば、春花のあるせりふにちょっと傷ついた顔をする潤一郎さんの表情とか。みんな優しいながらも、チクチク痛いせりふもあって、その時の微妙な表情を楽しみながら見てください(笑)。
個人的には、春花が酔っぱらってパートナーシャッフルを提案するシーンは見逃さないでほしいです。ハイテンションでやらなければならなかったので、「座ったままじゃできない!」と演出を変えさせてもらうほど、気合が入っています(笑)。
また、パートナーシャッフル後の「就寝シーン」にも注目していただきたいです。現場で出てきたアイデアが生かされたシーンで、とても面白い仕上がりになっています。
――最後に、視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします!
岡田 登場人物たちは、「変わっている」と言われて喜びを感じる部分はあるものの、個性的であることにそれぞれ少し苦しんでいるところもあります。「ナンバーワンよりオンリーワン」とよく言いますが、実はオンリーワンになる方がきついんじゃないかとも思うんです。「自分を変える/変わった方がいい」ということではなく、自分を肯定するために時には回り道をしたり、角度を変えてみたり......そういう物語です。「変わらなくていい/そのままでいい」ということが、見ている人に伝わるといいなと思っています。いい年をした大人たちのかわいいお話なので、あまり構えず「バカだね」と思いながら楽しんで見ていただけたらと思います。
石田 自分自身のまま、自分の人生を違う角度から見てみたら幸せは身近なところにあった...そういうことだと思うんです。常に、何でもないことを見ていてくれる人がいるとか、何があっても「このままでいいと思っている」と言い合えるとか。そこに気付けるかが、幸せの鍵なんじゃないかなと思います。
「自分も登場人物たちのようにほかの誰かの人生を経験してみたらどうなるんだろう?」と、誰かと感想を言い合いながら、平穏な日々に石を投げ入れた感覚を軽やかに楽しんでいただきたいです。大人たちのポップでかわいいファンタジー、その中に流れているちょっと深いテーマも感じ取っていただけたらうれしいです。

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取材・文/柳田留美 撮影/中川容邦