2024.07.31

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「連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル」視聴者の声を続編制作に生かす取り組みとは

CX戦略部シニアプランナー・町田洋輔
ドラマ制作部チーフプロデューサー・井口正俊

「連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル」視聴者の声を続編制作に生かす取り組みとは

8月11日(日・祝)から放送・配信がスタートする「連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル」。シーズン1に引き続き、警察内の不正を取り締まるプロ集団・警視庁人事一課(通称:ジンイチ)が舞台。
実は本作では、続編制作に当たり、前作ファンの方々からアンケートや対面での座談会を通して貴重なご意見を頂き、それを番組制作に生かすという取り組みを行なった。今回は、シーズン1からのプロデューサー・井口正俊と、施策担当者・町田洋輔のお二人に、企画実現までの道のりと成果、ドラマに込める想いや見どころなどについて、たっぷりお話を伺った。
お客さまの期待を超えるために試行錯誤し続けている制作の裏側を知って頂き、作品をより深く楽しんで頂きたい。

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続編をより面白くしたい! お客さまの作品への愛着心を高めたいという想い

―シーズン2の制作に当たり、視聴者の声を反映させようと思ったきっかけを教えてください。

井口正俊(以下、井口)「連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル」は2021年に放送された作品で、"警察の中の警察"といわれる警視庁人事一課監察係にスポットを当てたハードボイルド・サスペンスです。視聴者の皆さんの反響が非常に大きかった作品なので、ぜひ続編を作りたいと思っていました。また、シーズン1の武田チーフプロデューサーと"前作のファンの方々により満足して頂ける内容にしたい"と話していたので、続編の企画書を作る際に、シーズン1を見た視聴者の期待を続編につなげられるような施策を合わせて提案したのが始まりです」

―企画が通った後は、どのように施策を形にしていったのでしょうか?

町田洋輔(以下、町田)「まずはシーズン1を視聴したことのあるお客さまにアンケートを送り、回答してくださった方をお呼びして制作陣との座談会を実施するという2段階の施策を企画させてもらいました」

―アンケート設計はどのように進めたのでしょうか?

井口「シーズン1の反響がとても良かったんですが、"それならシーズン2も同じように作りましょう!"というのは、作り手としてもお客さまへの向き合い方としても違うんじゃないかという気がして。"シーズン2ではここをこう変えましょう"という具体的な改善点を探したい、そのためにシーズン1を見た視聴者の意見を聞いてみたいと当初は意気込んでいました」

町田「とはいえ、シーズン1の放送は3年前。細かい部分まで視聴者が覚えているかといったら難しいですよね。ですので、まずは井口さんから続編に向けての課題感などをヒアリングした上で、3年たった今でも答えられそうな設問を2人で組み立てていきました」

井口「作り手としては、"あのシーン、どう思いましたか?"ってダイレクトに聞きたい部分がたくさんあったんですが、町田さんから"そんな聞き方をしたらお客さまは答えられないよ!"と叱られて(笑)。"お客さまはそんな視点でドラマを見ていない"という指摘にハッとさせられました」

町田「ピンポイントで質問してみたところで、"覚えていない"って言われたらおしまいじゃないですか。それ以上、深掘りしようにもできない。だから、"どんな感じでしたか?"と聞いてみるんです。そうすると、回答の裏側に秘められた思いが見えてきます」

"調査"と"対話"を融合させた座談会の形を探って

―座談会の参加者はどうやって募ったのでしょうか?

町田「アンケート回答者の中から、座談会に参加可能とお答え頂いた方にお声がけしました」

井口「居住地や職業などは考慮せずにお声がけしたんですが、ふたを開けてみたら全国各地から多様なバックグラウンドを持つ皆さんが集まってくださって......」

町田「職業も性別も本当にバラバラで。お住まいも関東近郊だけでなく、南は九州・北は北海道と、本当に全国から集まって頂きました」

井口「皆さん"ドラマ好き"という点だけは一致していたのが見事でしたね」

2407_features_mikkoku_sub01.jpg座談会に参加されたお客さま

―座談会に向けてどんな準備をされましたか?

町田「最大のポイントは、"何を聞けば、続編をより面白くできるヒントが得られるか"。調査という目的とお客さまとのコミュニケーションをいかに融合させた形が作れるかという点も、事前に何度も話し合いました」

井口「参加頂くのはWOWOWの大切なお客さまなので、聞きたいことだけ聞いて終わりという訳にはいきません。楽しかったと言って帰って頂けるよう工夫も凝らしました。例えば、シーズン1の映像を会場に流したり、シーズン1で実際に使用した台本を準備して、手に取って見て頂けるようにしたり。さらに、座談会に参加してくださった方のお名前をシーズン2のエンドクレジットに加えさせて頂くことにしました」

町田「WOWOWのグッズもお土産として用意しましたが、"クレジットの件が一番うれしかった"というお声が多かったですね。工夫して準備したかいがありました」

―座談会ではどのようなことをお聞きしたのでしょうか?

井口「最初はWOWOWの作品に限らず、好きなドラマは何かお聞きしました。ドラマ好きの皆さんが集まっているので、国内ドラマから海外ドラマまで、時代も千差万別で多様なドラマの名前が挙がって。参加者の皆さん同士で"分かる! 分かる!"と共感し合う場面もあり、なかなか盛り上がりました」

町田「その後は、事前のアンケートでお答え頂いたことを深掘りしていく感じでしたね。アンケート結果も重要なデータであることは間違いないんですが、"はい""いいえ"で回答を求めると、どうしても"多い""少ない"という数字でしか見えてこない部分があって。その背景を深掘りしていくと、"はい""いいえ"の間のグラデーションが見えてきます」

井口「例えば、"残虐シーンについてどう感じましたか"という質問については、"もっと攻めた描写があっても良い"とか、"必要だけれど、時間的にはもっと短くていいのでは"など、"はい"の裏側にある皆さんの思いが見えてきました」

町田「"WOWOWは地上波放送でも公共放送でもない有料チャンネルなので、作品作りにおいては視聴者に過大な配慮をしないでほしい"というお声もありましたね」

井口「皆さんお一人お一人の感じ方が本当にさまざまで、それぞれの濃淡もあったので、"良い""悪い"といった二極化の判断をして"改善点"を決めるのは非常に難しいなと感じました。一方で、"この作品のどこが好きですか?"といった質問をすると、不思議と共通項が見えてきて。AかBか選んで頂くよりも、お客さまが惹かれている共通のポイントや価値観を探っていく方が今回のアプローチとしては建設的だと座談会を通して実感しました」

町田「不満やクレームのようにネガティブな意見は作り手側に届きやすいですが、今回の座談会ではポジティブなご意見もたくさんお聞きできてありがたかったです」

2407_features_mikkoku_sub02.jpgドラマ制作部チーフプロデューサー・井口正俊

ドラマ作りの基軸と新たな視点を示してくれた"視聴者の声"

―シーズン1について、参加者の皆さんはどんな点に魅力を感じていらっしゃったのでしょうか?

井口「大きく3つですね。1つは、魅力的なキャラクター。監察係というこれまでのドラマにはあまり出てこなかった職種と、キャラクターそれぞれの個性を面白がってくださったようで、主人公・佐良正輝(松岡昌宏)の上司の能馬慶一郎(仲村トオル)や須賀透(池田鉄洋)も人気でした。彼らのその後をもっと見てみたいという声が多かったです」

町田「2つ目は、リアリティ。監察係の世界を実際に見たことがないのに、それでもリアリティを感じていらっしゃるところが、調査担当としては興味深かったです。実際に見たことがないものもリアルに見せる、まさに演出の力ですね。新鮮なテーマ、設定だったからこそ、先入観なく受け止めて物語に没入できる部分があったのかもしれません」

井口「3つ目は、スリルや緊迫感。コウカク(行動確認、いわゆる尾行)のシーンを気に入ってくださった方も多かったようです」

町田「カメラの揺れ具合や、視覚を狭めた撮り方が印象的だったんじゃないかな? 佐良と係長の須賀とのやりとりも緊迫感たっぷりでしたよね。須賀の言い方がとにかくキツいんですが、犯罪、場合によってはそれが人の生死に関わるということになれば、あのくらいキツくて当然なはずですし」

井口「シーズン1の演出について、"こういう意図ですか?"と監督に質問されている参加者の方もいましたね。"おっしゃる通りです"と応じる監督とのやりとりを聞いて、制作サイドの意図がちゃんと視聴者側に伝わっていたことが分かり、答え合わせみたいで面白かったです」

―座談会を通して、どんな収穫があったか教えてください。

井口「自分の中で続編制作に向けての指針というか、基軸を確認できたのが最大の収穫でした。当初は、"続編を作るのなら、何かを改善してステップアップさせなくちゃいけない"という気負いが強かったんです。でも、シーズン1でお客さまが魅力的だと思ってくださった点をとにかく大事に、さらに太くしていくことが大切だと気付きました」

町田「僕は異業種から転職してWOWOWに入社したので、ドラマ制作のことはまったく知らなかったんです。だからこそ、どうすれば制作側とドラマ好きなお客さまの間に立って上手な"通訳"ができるのか、そこに挑戦できてとても勉強になりました。この施策がきっかけで、ドラマの制作現場を見学させてもらえたのもすごく良い経験でしたね」

井口「制作側からしてみれば、調査やお客さまとの対話というプロセスには触れる機会がなかったので、WOWOWのドラマ制作の新たなアプローチを見つけたうれしさもありました。これまで自分たちが勝手に"お客さまはこういうものが好きだろう"と想像していたものが、必ずしも現実と一致しないこともあると知る機会にもなりました。視点を広げて頂いた気がします」

町田「なるほど。僕の場合は仕事柄、お客さま側の視点に立って考えることが多いんですが、作り手側の現場を知ったことで、今後、見えてくる景色が違ってくるだろうなと感じました。自分自身の仕事の精度を上げていく上でも、両者の立場を知ることができて良かったと思っています」

―座談会での参加者の意見が、具体的にドラマの内容に反映された部分もありましたか?

井口「はい。どの意見をどこにどう反映したか、具体的なお話はここでは伏せておきますが、脚本を作ったりプロデューサーとして判断をしたりするうえで、先ほどお話しした"指針"は常に意識しました。たとえば、皆さんがシーズン1の魅力として挙げてくださった"リアリティ"。派手な展開を求めると逆にリアリティを失ってしまう、ということがよくあるのですが、そうならないように、慎重に議論をして脚本を制作しました。お客さまとの対話を通じて、自分の立ち位置を見つめ直すきっかけを頂いたと感じています」

町田「座談会に同席していた監督や脚本家にとっても、生のお客さまの声だからこそ響いた部分が随所にあったと思います」

井口「プロデューサー、監督、脚本といったスタッフがチームを組んで一つの作品を制作していくので、"お客さまがどう感じるか"に耳を傾ける経験をクリエイターの皆さんと共有できたことの意義は大きかったと思います」

―今回の座談会は、今後の作品作りのヒントにもなりそうですか?

井口「もちろんです。制作の過程で何かを決めるときに判断する立場にあるプロデューサーとしては、スパッと二極化した答えは出せないということを改めて思い知り、良い意味で悩みが深まりました。ドラマ作りって、ユーザーが求める機能をどんどん足していく製品とはやはり違うと思うんですよね。お客さまが求めるままに作ったら、きっと期待を超えるものは生まれなくなってしまう。だからこそ、お客さまの意見をポジティブなエネルギーにつなげるための活用の仕方については、今後も引き続き模索していきたいと考えています」

町田「調査の結果を100%生かしたドラマ作りって、現実的じゃないと僕も思います。過去にWOWOWで一番数字が取れたドラマが正解だと言い切って、同じようなドラマを作ってもちっともクリエイティブじゃないし、結局、お客さまにも飽きられてしまうと思うんですよね。ある種の作り手のエゴがブレンドされていないと、面白い作品にはなりません。とはいえ、今回の座談会でお客さまの真意に触れたことは非常に意義深いことです。それを経験したことがある人間と、経験したことがない人間とでは、アウトプットがきっと変わってくるはずですから」

―今後も今回のような施策を実施したいと思いますか?

井口「今回のように、調査という手法を用いれば、たとえばこれまでWOWOWの作品でまったく取り上げたことがないタイプのジャンルでお客さまが求めているものを引き出す、といったこともできるのではないか、と可能性を感じました」

町田「今提供していないものを欲しいという人はきっと少数だけど、実際提供してみると爆発的にヒットすることもある。そこに可能性があるかもしれないですよね。調査でマイノリティー側の意見をうまく拾えたら、さらに面白いことができるかもしれないですね」

井口「社内でも、今回の施策に興味を抱いて話を聞きたいと言ってきてくれた人もいました。調査結果の通りに制作するのが必ずしも正解とは限らないですが、今回の施策が今後のドラマ制作の可能性を広げたのは間違いありません。特に、『密告はうたう』のように、前作を受けて続編の最適化を探るといったケースでは非常に有効だと感じています」

2407_features_mikkoku_sub03.jpgCX戦略部シニアプランナー・町田洋輔

リアリティや緊迫感もスケールアップ! より重層的で力強いシーズン2にご期待を!

―最後に、そんな視聴者の皆さんの意見を受けて制作された、シーズン2の見どころをお聞かせください!

井口「シーズン1は、主人公の佐良が一人で壁を乗り越えていく物語でしたが、シーズン2では佐良を含めたチーム全体の活躍がより際立ってきます。シーズン1では監察対象だった皆口菜子(泉里香)がチームに加わり、毛利洋平(浜中文一)というルーキーがサイバーセキュリティ対策本部から異動してきます。原西道男(マキタスポーツ)という班長も登場し、重層的な力強い物語に仕上がっています」

町田「お客さまが求めるキャラクターの魅力やリアリティ、緊迫感、すべてが備わっていますよね」

井口「はい。コウカクのシーンも、シーズン1以上にドキドキハラハラ感がスケールアップしています。カメラワークも工夫していますし、チーム戦で挑むコウカクは、ほかのドラマにはない見どころだと思います。役者さんたちの演技も素晴らしいです」

町田「刑事ドラマはたくさんありますが、謎解きでもアクションでもなくコウカクが見どころっていうドラマは珍しいですよね(笑)。シーズン1を見ていなくても楽しめる作りになっているところもいいですよね」

井口「ただ、シーズン1を見て頂くと、シーズン2へのつながりが分かるのでより楽しんで頂けると思います。お時間があれば、シーズン1のリピート放送もありますし、WOWOWオンデマンドでは全話一挙配信もしているので、ぜひご覧頂ければと思います」

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取材・文=柳田留美

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