ゾンビ一体一体に設定を用意!ゾンビ愛あふれるスタッフ・キャストがそろった「連続ドラマW I, KILL」の舞台裏を大公開!
「連続ドラマW I, KILL」監督 ヤングポール
WOWOWドラマ制作部 チーフプロデューサー 山田雅樹
ゾンビデザイン・特殊スタイリスト 百武朋
ゾンビコーディネーター 川松尚良

ゾンビ×時代劇×サバイバルスリラーを描いた、WOWOWにて5月18日(日)から放送・配信される「連続ドラマW I, KILL」。
いかにして“群凶” が造られていったのか、タイトルにもある「生きる」というテーマとは。
作品への想いからこだわりぬいたゾンビの表現まで、本作のヤングポール監督と、WOWOWの山田雅樹プロデューサー、そしてゾンビデザイン・特殊スタイリストの百武朋、ゾンビコーディネーターの川松尚良に熱く語ってもらった。
「連続ドラマW I, KILL」5月18日(日)午後10:00スタート
日本独自のゾンビ表現に、スペシャリストたちが挑戦!
──「連続ドラマW I, KILL」は日本初のゾンビ×時代劇ということで、ゾンビデザイン・特殊スタイリストの百武さんにお声掛けされた経緯を教えてください。
ヤングポール(以下、ポール) 百武さんとは以前にもお仕事でご一緒していて、その仕事ぶりは十分理解していました。ゴア表現(血まみれのシーンや身体の損壊を伴う描写のこと)を露悪(ろあく)的に見せるのではなく、ゾンビの朽ちていく悲しさやはかなさを表現したかったので、グロテスクな中にも美を宿す百武さん独自の造形センスが本作には不可欠だと考えました。
──「ゾンビデザイン・特殊スタイリスト」とはどのようなお仕事なのでしょうか?
百武 単にゾンビのビジュアルをデザインするだけでなく、作品全体のトーンに合わせ、すべてのデザインに統一感を持たせることも重要な仕事です。ただ、お声掛けいただいた当初は「これまでと同じ感覚でゾンビを作ればいい」と思っていました。ところが、ポール監督のゾンビに対する思い入れが想像以上に強いことが分かって。ゾンビ一体一体を長期的な視点で設計する必要があると気付き、襟を正しました。そこで今回は、ゾンビを演じる役者さんが決まってからその個性に合わせたデザインを描くことから始め、死亡してゾンビ化してからの時間の経過に合わせて、4~6段階ほどのゾンビ設定を考えました。
死(心臓停止)を経過し、 群凶として復活直後~1日程度の群凶
群凶化2日目程度の群凶
群凶化5日目程度の群凶
群凶化して1週間以上経過した群凶
ポール 日本特有の温湿度も考慮し、時間経過に伴う腐敗の進行具合を緻密に計算しました。また、インパクトを与えたいシーンや控えめに見せたいシーンなど、脚本の要求に合わせたゾンビの演出も百武さんと一緒に検討しました。その上で、ゾンビのビジュアルだけでなく、その動きや所作を構想段階から一緒に作り上げてくれる人材が必要だと考え、百武さんに川松さんをご紹介いただきました。
──「ゾンビコーディネーター」とはどのようなお仕事なのでしょうか?
川松 まず台本を読み、ゾンビの設定やキャラクターを構想します。死後の経過時間や死因を想定した上で、役者選びから演技指導まで行ない、最終的に完成したゾンビを作品に提供するまでが仕事です。これまでもゾンビコーディネーターとしてさまざまな作品に携わってきましたが、「ゾンビはこの程度で十分です」と言われるのが常でした。ですから、「本格的なゾンビを求めている。腐敗の段階まで考慮したリアリティーのある動きにこだわりたい」とポール監督から伺った時は、「今回は本気を出せる!」と興奮しました(笑)。
ポール 普段はご自身の顔を見せることを売りにしている役者さんが、どこまでゾンビに成り切ってくれるか心配でしたが、川松さんのおかげで「ゾンビ役、楽しかった!」という声が続出しました。普段は見せない姿をさらけ出すことによる、一種のストレス解放効果があったのかもしれませんね。僕はこれを、"ゾンビは心のストレッチ"と呼んでいます(笑)。
一体一体に「人生」を感じる群凶たち
──百武さんと川松さんは、どんな点に苦労されましたか? こだわりのポイントも教えてください。
百武 ポール監督も川松さんも熱量が高く、話しているうちにイメージがどんどん広がっていくので、その期待を超えるものを作らなければというプレッシャーが強かったですね。リアリティーを追求するために医療の先生(群凶考証協力・菅原康志先生)から専門的な知識を学んだり、今回は松竹京都撮影所での撮影だったので、京都のメイクさんが使っている道具や衣装を事前に確認したりと、入念に準備を進めました。
川松 普段ゾンビ役をお願いしている東京の役者さんたちを京都に呼ぶわけにもいかず、オーディションから始めなければならないという難しさがありましたね。ゾンビの芝居には、体の柔らかさはもちろんのこと、パントマイムのような特殊な動きも求められます。ゾンビメイクをすれば誰でもできるというものではないんです。最終的に約300人の応募者を審査しましたが、結果的にその中から多くの才能ある人材を発掘できたのは幸運でした。
また、日本人の顔立ちがそもそもゾンビに向いていないという課題もありました。欧米人のような彫りの深い顔であれば、少しシャドウを入れるだけでゾンビらしくなるんですが、日本人特有の彫りの浅い顔に特殊メイクを施しても、あまりゾンビらしく見えなくて...。
百武 ハリウッドでは人工皮膚を前に出して目をくぼませる「足し算」でゾンビ感を演出しますが、日本人の顔立ちにそのやり方は合わないんですよね。ですので、今回は水疱ができて弾け、徐々に朽ちていくという「引き算」の発想で作り上げました。顔色もゾンビによくある灰色ではなく土色に。日本人の肌色には、この土色がよくなじみました。
山田 本作には、"力士ゾンビ"や"侍ゾンビ"など個性的なゾンビも登場しますが、そのメイクには実に4時間もかかっているんです。明け方3時から始めたメイクが完成するまでの様子を、タイムラプスで収める映像も撮りました。ここまでゾンビのデザインに力を入れた日本の作品は、かなり珍しいんじゃないでしょうか。
早朝から4時間かけて仕上げるゾンビメイクは必見!
──ポール監督はどんな点にこだわりましたか?
ポール 「こんな姿にはなりたくない」という惨めさを内包した、クラシックな「走らないゾンビ」に強いこだわりを持って臨みました。「今のは走って見える!」と何度もテイクを重ねたほどです。
川松 現場では「走ってる!」「走ってない!」と、ポール監督と何度も議論しましたよね(笑)。
ポール ただ、走らないゾンビではスピード感による恐怖演出ができず、日本の建築様式では密室による緊迫感も生みにくくて...。そこで、ゾンビと人間の動線や登場タイミングには神経を使いました。走れないゾンビを、いかに脅威として成立させるか。挑戦しがいがありましたね。また先ほどの話にも出た力士のゾンビなど、日本独自の個性的なキャラクターも登場するわけですが、B級感に陥らないよう"ケレン味"のバランスにも細心の注意を払いました。
山田 造形や動きだけでなく、ゾンビの内面にもこだわっていらっしゃいましたよね?
ポール そうですね。ゾンビを単なるホラーの一要素と捉えていません。生きていた人間が死んでゾンビになる、そこには生前の人生が必ず存在します。ですから、本作に登場するゾンビにはそれぞれ、職業、家族構成、死に至るシチュエーションまで、一体一体に設定を用意しました。例えば、水死したからずぶぬれ状態のゾンビがいたり。
百武 日本古来からある「餓鬼草紙」からイメージを膨らませ、お腹の膨らんでいる飢餓状態のゾンビもいたり。
川松 本来道具を使えないはずなのに刀を持つ"侍ゾンビ"を登場させるに当たっては、"戦場で刀を振るう機会のなかった江戸時代前期の侍の葛藤を表現するために刀が必要"と、きちんと理由付けまで考えています。ゾンビになる以前のそれぞれのバックストーリーを大切にすることで、ゾンビでありながらどこか生きている人間のようなリアリティーを感じられるよう工夫しています。
一体一体、群凶になった経緯や人物の背景が書かれた資料の一部
──完成したゾンビ(群凶)を見て、どうお感じになりましたか?
ポール 百武さん、川松さんとご一緒できて本当に良かったと思いました。本作の「群凶」には、誰もがゾンビに抱く共通イメージを覆す新規性があります。時代劇という設定も相まって、美しさともの悲しさが同居する日本の怪談のような雰囲気も感じられて。ゾンビ愛好家として、斬新なゾンビを生み出すことができてうれしく思います。
百武 ポール監督や川松さん、医療監修の先生方をはじめ、スタッフ全員で徹底的に考え抜いたことで、自分ひとりでは生み出せなかったゾンビを形にできたと感じています。川松さんとは何度もぶつかりましたが(笑)、すべてが貴重な経験になりました。
川松 これまで数々のゾンビ作品に携わってきましたが、ここまでゾンビ愛あふれる監督と仕事をしたのは初めてでしたし、ゾンビを愛するスタッフやキャストがそろっているなんて奇跡的。そんな環境だったからこそ、「実は私もゾンビ好きで...」と隠れファンたちが次々に名乗りを上げ、新たにゾンビの魅力に目覚める人も現われました。時代劇に精通した松竹スタッフの方々も、次第にゾンビ表現にやりがいを感じてくださって。その熱量の高まりが「群凶」の完成度に表われていると感じています。
撮影現場ではゾンビファンが増殖!
──撮影現場で印象に残っていることがあれば教えてください。
川松 第1話に出てくるお救い小屋(江戸時代に災害による窮民を救済するために建てられた小屋)のシーンの撮影直前に、木村(文乃)さんから「群凶に初めて接する人間はリアルにどんな反応をすると思いますか?」と質問されたんです。「死者とは思わず、まず腐敗臭にゾッとするのでは」と答えたところ、そのイメージを木村さんがしっかり咀嚼し、芝居に落とし込んでくれたんです。あの迫真の演技は忘れられませんね。また、倒れてすぐには起き上がれないゾンビたちの動きを見て、木村さんがふと「ゾンビってかわいいですね」と漏らしたことも印象に残っています。
ポール 「群凶それぞれの背景が見えて、かつて人間だった群凶と戦ったり斬ったりするのがつらい」という木村さんの言葉も心に響きました。この木村さんの感情は、本作のテーマそのものに直結していると思います。"半群凶"の士郎を演じる田中(樹)さんと、表現について徹底的に議論したこともよく覚えています。普通の人間のように感情の起伏がなく、スローな時間軸を生きる異質な存在が群凶。しかしながら、"半群凶"の士郎には、生身の人間と対峙したときに湧き上がるある種の感情もある――。自身の中に停留しているかのようなその感情をどう表現するか。時に強いエネルギーを発することがあっても、それは人間の生体反応とは異なるものであり、死体でもないし人間でもない、そのバランスをどう取るのか。シーンごとに丁寧に相談しながら進めました。
また、撮影が進むにつれて、現場内でゾンビファンがどんどん増えていったのも興味深かったですね。中にはアイドル的人気を博したゾンビキャラもいて(笑)。ゾンビとツーショット写真を撮る人も続出しました。
ゾンビ(左)とポール監督(右)のツーショット写真
松竹京都撮影所の環境が、本作のリアリティーと独自性の礎(いしずえ)に
──松竹京都撮影所で撮影したからこそ実現したことはありますか?
ポール 自然豊かな京都のロケーションがとにかく最高でした。美しい景色とゾンビの絶妙なコントラストを、時代劇撮影のスペシャリストである森口大督カメラマンがみごとに捉えてくれて感謝しています。
山田 美術を担当するのは、日本アカデミー賞で幾度も受賞歴がある原田哲男さんです。原田さんが松竹京都撮影所を舞台に作り出す世界観と、ゾンビとの化学反応も見ものですね。
また、ゾンビサバイバルらしくも、"魅せる"というよりは"生き残るために戦う"という新しいアクションと、時代劇らしい殺陣の型の融合も必見です。あの時代にゾンビが現われたら、刀を持った人間はどう戦うのか。松竹京都撮影所だからこそ実現できた、リアリティーあふれる格闘シーンも大きな見どころです。
士郎役の田中樹
川松 "侍ゾンビ"の立ち回りにも、松竹さんが提供してくださった本格的な小道具が一役買っていると思います。
山田 松竹さんの小道具には、本当に助けられましたよね。ゾンビ作品の特性上、撮影現場をどうしても汚してしまうことになりますが、松竹京都撮影所を貸し切りにしてもらえたおかげで、血しぶきも遠慮せずに飛ばすことができました(笑)。ぜいたくな環境で撮影させてもらえて、本当に感謝しています。
さらに松竹さんとのご縁のおかげで、3話、4話を人気時代劇の演出家の服部大二監督にお願いできたのもありがたかったです。時代劇のエキスパートがゾンビドラマを撮るとどうなるのか、1話、2話、5話、6話を担当したポール監督とのアプローチの違いを楽しんでいただけると思います。
ゾンビファンにも、時代劇ファンにも、そうでない方にも観てほしい!
──最後に、あらためて本作の見どころを教えてください!
百武 タイトルに込められているように、本作のテーマは「生きる」(I kill/斬る)です。このテーマに対して、スタッフ、キャスト全員が真剣に向き合いながら制作しました。対極にある「死」をあえて描くことで、「生きる」ということの本質を問う作品となっています。明日をより良く「生きる」ためのヒントを、この作品から感じ取っていただけたらうれしい限りです。
また、ゾンビのデザインには、ポール監督が求めるある種のもの悲しさを込めたつもりです。史実や生前の人生を反映し、一体一体に異なるキャラクター設定を施したこだわりのゾンビにもぜひご注目ください!
川松 ゾンビファンも時代劇ファンもがっかりさせないクオリティーを目指し、両ジャンルの意外な共通点を探りながら、世界に届ける作品を作ろうと最後まで走り抜けました。ポール監督が"歩くゾンビ"の設定を大事にされたことで、芝居シーンと恐怖シーンが水と油のように分離せずうまく溶け合い、ジャンルの垣根を越えたドラマに仕上がっていると思います。ゾンビ(群凶)がゆっくりと歩いて向かってくる姿には、彼らもかつては生きていた人間だったという悲しみがにじみ、単なる敵としては割り切れない存在感が漂います。人間vsゾンビの戦いの行く末も見ものですが、そのゆっくりと迫る時間の中で、彼らが背負ってきた物語にも思いを寄せていただけたらありがたいです。「え!? これがあの役者さん!?」と驚くような、名だたる俳優陣が見せるゾンビの演技もお見逃しなく!
ポール "本気"の人間が異常なまでに集まって、想像できないような熱量で作り上げました。時代劇の懐の深さ、アトラクション性、さらには人間ドラマの魅力が融合し、ゾンビファン向けにとどまらない間口の広い作品に仕上がったと思います。なおかつ、今まで見たことがない新規性もあるので、ぜひひとりでも多くの方に見ていただきたいです。
山田 ポール監督、百武さん、川松さんをはじめとするスタッフの皆さんの熱量のおかげで、日本でトップクラスのゾンビ作品が完成したと自負しています。ポール監督もおっしゃっていますが、深みのある人間ドラマとしての魅力も詰め込みました。ゾンビ作品でありながら恐怖描写もどこか上品で、グロテスクなものが苦手な方や従来のWOWOWのドラマファンにも十分楽しんでいただける作品に仕上がっています。「ゾンビ!?」と身構えず、ぜひご覧ください!
人間vsゾンビの戦いの行く末はいかに...!?
【プロフィール】
監督:ヤングポール
レインダンス国際映画祭「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」に選出。TSUTAYA CREATORS' PROGRAM 2016にて準グランプリ受賞。長編監督デビュー作の『ゴーストマスター』('19)で、ポルト国際映画祭最優秀作品賞を受賞(日本の新人監督初)。「連続ドラマW インフルエンス」などドラマでもメガホンを執る。
プロデューサー:山田雅樹
WOWOWに中途入社後、宣伝部からドラマ制作部に異動し、ドラマプロデューサーとして活躍。主なプロデュース作品は、「異世界居酒屋『のぶ』」シリーズ、「連続ドラマW インフルエンス」「DORONJO/ドロンジョ」「ドロップ」など。6月に放送する「ドラマW 三谷幸喜『おい、太宰』」でもプロデューサーを務める。
ゾンビデザイン・特殊スタイリスト:百武朋
1995年に独立。2004年に株式会社百武スタジオを設立。参加作品は、『妖怪大戦争』('05)、『こどもつかい』('17)、『映画刀剣乱舞』('19)、『ゴールデンカムイ』('23)、『室町無頼』('25)、『レイブンズ』('25)、『宝島』('25)。MILLENNIUM PARADEのマスク制作、ウルトラマンシリーズの怪獣デザインなど多数。
ゾンビコーディネーター:川松尚良
長編ホラー『マクト』で2002年度ひろしま学生キネマ祭グランプリを受賞。『葬儀人アンダーテイカー』で監督・脚本デビュー。ゾンビコーディネーターとしてさまざまな映画、CM等に参加する一方、清水崇監督率いる映画制作チーム「清水組」のホラー担当助監督としても活躍。『あのコはだぁれ?』('24)でもホラー演出を担当。
取材・文=柳田留美
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