2025.09.12

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監督・共同脚本とプロデューサーが語る「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」制作の舞台裏

「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」監督・脚本 森淳一氏
WOWOWドラマ制作部 プロデューサー 小髙史織

監督・共同脚本とプロデューサーが語る「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」制作の舞台裏

「この罪を、誰が責められるのか。」
WOWOWにて9月14日(日)から放送・配信される、慟哭の本格社会派ミステリー「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」。
本作は、第76回日本推理作家協会賞受賞作を映像化したもので、「WOWOWでこそ映像化するべきだ」と感じたプロデューサーと、その想いをくみ取った監督が、覚悟を持って制作した作品である。最終話から逆算して綿密に構成を練ったという本作では、思いも寄らぬ“社会の闇”が浮き彫りになる。
重大な社会問題を扱っている本作を、どのように作り上げていったのか。本作の監督・共同脚本を務めた森淳一監督と、本作を企画・プロデュースしたWOWOW・小髙史織の、想いの強さが伝わる対談をお届けする。

2509_features_yorunodohyo_sub01_w810.jpg「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」9月14日(日)午後10:00スタート

WOWOWだからこそ実現可能」と信じて進めた企画

── 森監督はこれまでもWOWOWのドラマを多く手掛けていらっしゃいますが、WOWOWドラマに対してどのような印象をお持ちですか?

TVドラマと映画の中間の位置付けという印象です。作家性をきちんと認めていただける一方で、プロットや脚本作り、演出について、プロデューサーとしっかり相談しながら進めるスタイルに好感を抱いています。画作りやテンポ感にも特徴があり、比較的テンポが速い地上波ドラマと、ゆったりした日本映画のちょうど中間くらいでしょうか。それが自分が目指すものと合致しているので、思い描く表現をストレートに形にできる貴重な場と捉えています。

── 今回、芦沢央さんの原作をドラマ化するに至った経緯を教えてください。

小髙:「夜の道標」の単行本が出版された3年前、発売から2週間ほどで手に取りました。原作は4人の視点から描く群像劇的な構造で、個人的に好きなタイプの作品でしたが、読了後は想像もしていなかった衝撃的な結末にがくぜんとしました。その時、おこがましいながらも「WOWOWで映像化できないと悔しい!」と強く感じました。それくらい心を動かされた、本当にすばらしい作品でした。

ただ、非常にセンシティブで難しい題材を扱う作品ということもあり、安楽死をテーマにした「連続ドラマW 神の手」でAP時代にお世話になった野村敏哉プロデューサーに相談し、2人で企画を立ち上げました。

── 森監督に監督をお願いした理由と、森監督が引き受けられた理由をお聞かせください。

小髙:学生時代から森監督の作品のファンだったんです。『Laundry ランドリー』('01)や『重力ピエロ』('09)など好きな作品が多くて。森監督なら、サスペンス、ヒューマン、社会派という要素を的確に描いてくださると思い、お願いしました。

:もともと社会派ミステリーというジャンルに興味があり、いつか挑戦したいと思っていたんです。自分でも題材を探す中でこのお話をいただき、「ぜひやりたい!」と二つ返事でお引き受けしました。

2509_features_yorunodohyo_sub02_w810.jpg監督・共同脚本の森淳一

ドラマならではの魅力を生み出すために――。構成も映像もとことんこだわる

── ドラマ化に当たり、構成で工夫されたポイントを教えてください。

小髙:難しい題材を扱う作品ということもあり、実は社内で企画を通すのには少し時間がかかりました。原作は章ごとに人物の視点が入れ替わる群像劇なのですが、ドラマ化に当たってどう構成するのがベストか、どうしたらきちんとテーマを深堀りできるか。それを探った結果、ドラマでは刑事・平良を主人公に据え、その視点を軸とすることにしました。刑事ものやサスペンスはWOWOWの視聴者の方に支持されているジャンルですし、視点の軸を定めた方がドラマとして見やすいだろうという判断です。原作で描かれていた、犯人をかくまう女性や小学生の子ども2人の視点は、平良中心の物語に絡める形にしています。

:ただ、原作での平良の視点パートはあまり多くはないので、平良を主人公にするに当たっては、彼の家族の問題といったバックボーンを新たに追加しました。

原作がある作品は、基本的には原作を忠実に再現したいと思っていますが、やはり小説とドラマでは尺が違います。また、連続ドラマの場合は次週も見たいと思わせる"引き"が求められるので、原作に書かれてない部分もプラスしながら、1話ごとに盛り上がりを意識して組み立てました。この作業にはかなり苦労しましたね。

小髙:ほかにも細かいところですが、ドラマでは平良が別の所轄から異動してきたという設定にしています。視聴者が平良とともに一から事件を追える形にすることで、物語に没入しやすくするのが狙いです。また、阿久津という人物の特性を分かりやすく表現するため、監督のアイデアで、原作にはない彼のある行動も追加しました。

:小説では伝わっても、映像では伝わりにくい部分がありますからね。具体的な行動や行為を追加することで、「この人はこういう人なんだ」と分かりやすく伝えることも必要になりますね。

2509_features_yorunodohyo_sub03_w810.jpg平良(吉岡秀隆)の家族はある悩みを抱えていて──

── 原作者の芦沢先生とも意見交換されたのでしょうか?

小髙:はい。「それぞれのキャラクターの芯からはみ出さないセリフにしてほしい」という芦沢先生のご意向を踏まえ、プロットの段階からご確認いただきつつ、脚本も毎話お渡ししていました。「とても良いと思います」とのお言葉をいただいたので安心して進められましたし、最終話まで台本ができたタイミングでは先生と直接お会いして、細かい部分まで相談させていただきました。

:ドラマの中には、原作では直接描かれていないシーンもあるので、先生がどうお考えになられたか、原作ではあえて描かれていないシーンの、世に出ていない先生の下書きの原稿を見せていただいたりしながら脚本を完成させました。先生の頭の中にあったものを、ドラマ化の脚本作りの中で答え合わせしたような感覚です。

小髙:また、先生からは「阿久津の障害の診断名を明らかにしないでほしい」というご要望をいただいていました。診断名を示すことで、その障害のある方に偏見の目を向けてほしくないというお考えからで、ドラマでも「軽度の精神障害」という表現にとどめています。さまざまな特性が複合的に組み合わさって阿久津という人物が形作られているという視点に立ち、精神医療監修の三木崇弘先生にも相談しながら演出案を監督に考えていただきました。

2509_features_yorunodohyo_sub04_w810.jpg阿久津弦役の野田洋次郎

── ドラマ化に当たり特に苦労されたことやこだわった点を教えてください。

:阿久津が豊子にかくまわれている空間については、限られた予算の中でどこまで原作に忠実に具現化できるか、スタッフと議論を重ねました。最終的には、スタッフが良いロケ地を探してくれ、部分的にセットも組み合わせつつ違和感のないよう仕上げています。

小髙:時代設定が1998年なので、その時代には存在しないものが映り込んでしまうことが多々あって。例えば、走行する車の車種一つとっても今とは異なります。必要に応じてCGで処理するなど、時代ものならではの苦労がありましたね。

:衣装、メイク、美術、制作部のスタッフは本当に大変だったと思います。昭和なら分かりやすいですが、1998年という微妙な年代はかえって難しい。みんな本当に頑張ってくれたと思います。

映像面では、1998年という時代を表現するため、トーンをやや非現実的に仕上げています。ただ彩度を落とすだけでは地味になってしまうので、ブルー系を基調にしつつ、芳醇で濃密なトーンを目指しました。また、撮影では手前と奥のピントを調整することで、映像に奥行きを持たせる工夫も凝らしています。

小髙:ちなみに、音楽はアーティストのJun Futamataさんにお願いしました。以前から「いつか劇伴をお願いしたい」と思っていた方のおひとりでした。

:劇伴作家の方はたくさんいらっしゃいますが、Junさんには声(ボイス)をメインに使うという独自のスタイルがあり、突出した個性を感じましたね。このドラマにはそのボイスが必要だと考えてお願いしました。

2509_features_yorunodohyo_sub05_w810.jpg長尾豊子(瀧内公美)は阿久津をある場所にかくまう

実力派キャストの共演が生んだ絶妙な化学反応

── 平良役の吉岡秀隆さん、阿久津役の野田洋次郎さん(RADWIMPS)をはじめ、キャスティングのこだわりについても教えてください。

小髙:原作の平良はフラットな印象ですが、ドラマでもフラットではありつつ、容疑者の阿久津に心を寄せながら捜査を進める刑事として、その奥底にある温かみを表現できる方にお願いしたいと思いました。そこで、人の寂しさに寄り添うような雰囲気をお持ちの吉岡秀隆さんがピッタリだと思ったんです。また、「連続ドラマW CO 移植コーディネーター」や「連続ドラマW トクソウ」などWOWOWドラマでの主演経験もあり、WOWOW視聴者からの信頼が厚い点も決め手でした。

阿久津役の野田さんについては、NHKドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」などを拝見して、感情が表に出にくい役でありながら、声から伝わる感情のグラデーションが非常に豊かな方だと感じていました。野田さんの繊細なお芝居は、原作の阿久津のイメージに合うと思いオファーしました。

:平良とバディを組む若手刑事・大矢役の高杉真宙さんとは、『見えない目撃者』('19)でご一緒していて、どんなお芝居をされるか様子も分かっていたので心強かったですね。初日は気合が入っていたのか若干表現が強めでしたが、もう少し和らげるようリクエストしたくらいで、安心してお任せできました。

2509_features_yorunodohyo_sub06_w810.jpg(右)大矢役の高杉真宙

── 子役の2人やキムラ緑子さん、波留の父親役の吉岡睦雄さんの演技も印象的でした。

:阿久津と知り合う小学生、波留役の小谷興会くんと、波留の同級生でバスケ仲間の桜介役の小林優仁くんの2人の子役はオーディションで決めました。ほかキャストとの全体的なバランスが一番良かったのが決め手です。バスケのシーンがあるので、バスケ経験者の小林くんとは異なり未経験の小谷くんには、3カ月ほど特訓をしてもらいました。小谷くんは東京在住ではないので、地元と東京を行き来しながらの練習や撮影は本当に大変だったと思います。

小髙:阿久津の母親・栄子役のキムラ緑子さんの演技はすごかったですよね。その演技の幅に圧倒されました。

:そうですね。完全に信頼していたので、緑子さんには思うままに演じていただき、こちらはその良さを消さないことに注力しました。

2509_features_yorunodohyo_sub07_w810.jpg(左)阿久津の母親・栄子役のキムラ緑子

:波留の父親・太洋役の吉岡睦雄さんは、今回初めてご一緒したんですが、僕が思い描くイメージよりも激しいお芝居をされていて...。最初は「もう少し抑えてほしい」とお伝えしましたが、その言葉はきかず...(笑)。

小髙:でも衣装合わせのとき、監督が睦雄さんに「父親は極悪人なんで、ちょっとでもいいところを見せようなんて思わないでくださいね」と言っていたのが、私は印象に残っています(笑)。

:確かに、僕が火を付けてしまったのかもしれませんね(笑)。ただ、最終的には「この表現もありだな」と僕の方が彼の演技に納得させられました。

当初のイメージと違うという点では、豊子役の瀧内公美さんもそうでしたね。もう少し地味で控えめな豊子像をイメージしていましたが、瀧内さんは内から出る感情を表現される方で。瀧内さんにも演技を少し抑えてほしいとお願いしたものの、視聴者の皆さんに全話を楽しんでもらうためには、それぞれのキャラクターの個性が際立っていた方が良いと思い直し、途中で考えを改めました。

吉岡(睦雄)さんも瀧内さんも、従来の脚本にはなかったエッセンスを加えてくださって感謝しています。おかげで阿久津の"静"と太洋や豊子の"動"のコントラストが生まれ、物語に厚みが出たと感じています。

2509_features_yorunodohyo_sub08_w810.jpg(左から)波留の父親役の吉岡睦雄、波留役の小谷興会

── 撮影現場で印象に残っているエピソードはありますか?

小髙:終盤の栄子と平良、大矢の3人が対峙するシーンは見応えがありましたね。

:吉岡(秀隆)さんは、相手の芝居を受けて自分の芝居を変えるタイプなので、緑子さんの演技にどう返すか、すごく悩んでいたようです。結果的には、絶妙な化学反応が生まれました。あの演技合戦を間近で見られて、監督冥利に尽きました。

小髙:野田さんはRADWIMPSのボーカルとして""で勝負されている方なので、やはり""の表現力がすばらしかったですね。現場の段取りで、場所的に姿が見えずイヤホンを通して野田さんのセリフだけを聞く瞬間がありましたが、その声だけで涙があふれてきました。

:本読みの段階から、野田さんはすでに"阿久津"でしたよね。

── ほかに、撮影時に大変だったことはありますか?

小髙:実力のある役者さんばかりだったので撮影はおおむね順調でしたが、最後の撮影では大雪に見舞われて大変でした。雪を避けるためにロケ地に選んだはずだったのに(笑)。みんなで雪かきしながら撮影しましたよね?

:雪と雨のせいで撮影がかなり押してしまい、このままではすべてのシーンを撮り切れないという危機的状況に陥ったんです。とあるシーンをカットすることも考えましたが、波留役の小谷くんの「このシーンのために僕たちは頑張ってきたんだ」という一言に動かされて、スタッフ全員一丸となって撮影を決行した思い出があります。

小髙:ネタバレになるので詳しく語れないのが残念ですが、そのシーンのために野田さんもいろいろと準備してくださって。皆さんの協力のおかげで撮り切ることができて感謝しています。

2509_features_yorunodohyo_sub09_w810.jpg企画・プロデュースの小髙史織

エンターテインメントの先にある社会問題を見つめて

── 最後に視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします!

小髙:地道な捜査の末、バラバラに思えた点と点がつながった時、思いも寄らぬ真実が浮かび上がる、そんな本格社会派ミステリーです。ぜひ最終話まで見届けていただき、序盤からの出来事が最後にどうつながるのかを確かめていただければと思います。

重大な社会問題を扱った作品ではありますが、まずはエンターテインメントとして純粋に楽しんでください。そして、この世の中にはこのような社会問題もあるという事実を知っていただきたいです。私自身、原作を読んで初めて知った事実があり、それ以来ニュースの見方が変わりました。ドラマの中で描かれているのは90年代の出来事ですが、その背後にある思想や価値観は今もなお息づいています。エンターテインメントとして作品を楽しんだ先に、視聴者の皆さんの新たな気付きがあればうれしく思います。

:最終話から逆算して、第1話から綿密に構成を練り上げた作品なので、ぜひ全話最後まで見ていただきたいです。「夜の道標」というこの作品のタイトルの意味も、最終話のラストシーンまで見ることでようやくふに落ちるかと思います。

また、普段は映画を手掛けるスタッフがこだわり抜いて作った映像美と、細やかな心の機微まで表現する豪華実力派俳優陣の渾身の演技にも注目してほしいです。

小髙さんもおっしゃっているように、ドラマはエンターテインメントですが、その背景には日本で実際に起きた出来事や、それに関わる問題があります。劇中で豊子が「それは、今まで私が見向きもせずに通り過ぎてきたことでした」と語る場面がありますが、実は私自身も豊子と同じでした。この作品を通して、視聴者の皆さんがこれまで触れてこなかった世界に目を向けて考えてくださることを願っています。

2509_features_yorunodohyo_sub10_w810.jpg「ぜひ最終話のラストシーンまでご覧ください!」

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<プロフィール>

監督・共同脚本:森淳一

TVドラマの助監督を経て映画監督に。2000年、自身で脚本を執筆した『Laundry』がサンダンス・NHK国際映像作家賞 日本部門を受賞。これを自ら監督として映画化し、劇場デビューを飾る。『重力ピエロ』('09)や『見えない目撃者』('19)などでメガホンを取る一方、「ドラマW 蛇のひと」「連続ドラマW イアリー 見えない顔」などWOWOWドラマも数多く手掛ける。

企画・プロデュース:小髙史織

東映株式会社に新卒で入社後、特撮番組のAPを経て「特捜9」など刑事ドラマのプロデューサーを担当。2018年にWOWOWドラマ制作部に入社。主なプロデュース作品に「ながたんと青と-いちかの料理帖-」や「鵜頭川村事件」など。

取材・文=柳田留美

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