ゴルフファンの声を聞きながら――「LPGA女子ゴルフツアー」担当プロデューサーに番組への想いとこれからの展望を聞いた(前編)
スポーツ部 戸田 祐子
長年、多くのゴルフファンから支持されている「LPGA女子ゴルフツアー」。2012年の本格放送開始当初から番組制作に携わり、新しいゴルフ中継の試みとしてWOWOWオンデマンドで始まった、配信限定の「日本人選手専用カメラ」立ち上げにも尽力した、戸田祐子プロデューサーに話を聞いた。
変化と拡大を続けているLPGA女子ゴルフツアー
――まずは戸田さんの簡単な経歴を教えてください。
WOWOWに入社後、最初に配属されたのは管理部門の部署でした。その後、音楽部、編成部などを経て、2009年にスポーツ部の所属になりました。最初はテニスに携わっていましたが、2010年と2011年に1大会のみ、「エビアンマスターズ」(現在の「アムンディ・エビアン・チャンピオンシップ」)の放送があり、そこからゴルフに携わるようになりました。
翌2012年から本格的に「LPGA女子ゴルフツアー」の放送がスタートしたんですが、その交渉では現地まで飛んで、「日本でLPGA女子ゴルフツアーの魅力を多くの方に伝えます!」って熱意をもって放送権交渉をしましたね。それ以来ずっとゴルフを担当しています。
大学時代にゴルフ部に所属していたので、もともとゴルフは好きだったんですが、私が入社した当時のWOWOWはゴルフをほとんど放送していなかったですし、自分がゴルフの担当になるとは思ってもみなかったですね。
――WOWOWと「LPGA女子ゴルフツアー」の歴史について教えてください。
WOWOWゴルフの初期は、1997年の「全米プロゴルフ選手権」や1999年の「ライダーカップ」など男子の大会を放送し、女子の大会も数大会をダイジェストのような形で放送していました。その後、先ほどお話しした通り2010年と2011年に女子の「エビアンマスターズ」をお届けして、2012年から本格スタート。最初の頃はCSチャンネルの「ゴルフネットワーク」と半々くらいの割合で大会を放送していましたね。今季2023年シーズンでLPGAの放送は12年目となります。
――戸田さんを含むWOWOWゴルフ班のお仕事の内容を教えてください。
実際の放送に当たっては、各大会が開催される会場に現地在住のカメラマンを派遣して日本人選手のプレーを撮影してもらい、その映像をLPGAの主催者側から提供される国際映像に織り込んでいく、という作業を行なっています。国際映像は日本人選手がたくさん映るということは少ないのでWOWOW独自のカメラを手配しているんです。これによって視聴者の皆さんに、より多くの日本人選手のプレーを観ていただけるように調整しています。「日本人選手専用カメラ」の映像の多くは、このWOWOW独自のカメラからの映像となります。
2023年 配信用サブ・コントロールルームの様子
現在、WOWOWゴルフ班には私を含めて8人いるんですが、メジャー大会は必ずプロデューサーが1人、現地に出張しています。LPGAは年々大会が増えていて、シーズン中は毎週のように大会があり、さらに海外からの中継なので、東京のスタッフは昼夜逆転の勤務になることも多いです。タイトなスケジュールに加えて身体的な大変さもありますが、視聴者の皆さんに満足いただける番組をお届けするべく、スタッフみんなで力を合わせて日夜頑張っています。
――「LPGA」に携わってからの年月で感じる変化はありますか。
大会数も増加していますし、各大会を個々に見てもツアー全体を見ても賞金総額が増えていて、それに伴って選手層も厚くなってきていると感じます。日本人選手もWOWOWが放送を始めた当初から宮里藍選手をはじめ、上田桃子選手、宮里美香選手らが参戦していましたが、今季は畑岡奈紗選手、古江彩佳選手、笹生優花選手、渋野日向子選手にルーキーの勝みなみ選手、西村優菜選手を加え、実に6人もの選手がレギュラー参戦していて、日本人選手の層の厚さを感じていますね。
2000年代初頭にLPGAを席巻したパク・セリ選手や、彼女に影響を受けた"パク・セリキッズ"と呼ばれるユ・ソヨン選手ら韓国勢が躍進した時期を経て、最近はタイやヨーロッパなどの選手も増えていて、より国際色が豊かになってきている印象です。また、長く活躍するスター選手も多いLPGAですが、若い世代の選手の台頭も目立ちますね。
生涯忘れない宮里藍選手のラストプレー
――印象に残っている大会や選手をお聞かせください。
宮里藍選手の引退試合となった2017年の「エビアン・チャンピオンシップ」は生涯忘れることはないと思います。「エビアン」は宮里選手が2009年にLPGA初優勝を飾り、WOWOWが放送した2011年大会でも優勝するなどゆかりの深い大会。2017年大会は現地で宮里選手の最後のプレーを見ることができて、本当に素晴らしい経験ができました。宮里選手の活躍を改めて思い出しながら、気持ちを込めて中継作りをしました。
2017年9月14日「エビアン・チャンピオンシップ」の現地WOWOWスタジオの様子
さらにこの時は、現地のスタジオゲストとしてレジェンド、LPGA72勝のアニカ・ソレンスタムさんに来ていただいたことも忘れられない思い出の一つです。
また、近年では笹生優花選手が優勝した2021年の「全米女子オープン」ですね。アメリカのレクシー・トンプソン選手らと首位を争い、畑岡奈紗選手と笹生選手がプレーオフに進出。メジャー大会で日本人選手同士の優勝争いを届けられるなんて、夢みたいでした。最終的に笹生選手が勝利しました。 2019年の「全英AIG女子オープン」の渋野日向子選手もそうですが、自分が担当している間に複数の日本人選手がメジャー大会を制覇する時代が来るなんて! と感慨深いものがありました。
2021年「全米女子オープン」を制した笹生優花選手/Getty Images
選手をより身近に感じられる「日本人選手専用カメラ」
――WOWOWオンデマンドでは、日本人選手の映像をライブ配信する「日本人選手専用カメラ」を導入されています。導入のきっかけをお聞かせください。
LPGAの放送に当たってWOWOWは、自前のカメラを用意して日本人選手を追っているのですが、これまで日本人選手の映像だけを放送・配信する、ということはありませんでした。「日本人選手専用カメラ」を始めたきっかけは、2016年、2017年の畑岡奈紗選手の「最終予選会」です。翌シーズンのLPGA出場資格を巡る、畑岡選手にとっても人生が懸かった大会の模様をリアルタイムで配信しました。ひた向きにプレーする畑岡選手の表情を捉えた映像を通して、視聴者の皆さんに大会の特別な緊張感をお伝えすることができたこの配信が視聴者の皆さんからの反応も良く、企画を継続していくきっかけになりました。
2016年12月4日 畑岡奈紗選手&現地スタッフのみんなと
その後は2017年に「イ・ボミ専用カメラ」という企画も実施しています。これは韓国のイ・ボミ選手が2015年、2016年に日本女子ツアーで2年連続賞金女王になって話題を集めていた時の企画で、LPGAの「ANAインスピレーション」(現在の「シェブロン・チャンピオンシップ」)に参戦するイ・ボミ選手のプレーを、ライブで1番から18番まで全ホール見せるという趣向でした。
これらの試みは視聴者の皆さんからも好評で、ご要望に応える形で2019年には全英覇者の渋野日向子選手のスポット参戦となった「スインギング・スカーツLPGA台湾選手権」を、2020年、2021年は注目大会やメジャー大会限定で「日本人選手専用カメラ」を実施 。渋野選手と古江彩佳選手が出場した2021年の「最終予選会」の模様もライブ配信しました。 そしてレギュラー企画となったのは2022年シーズンからで、前半の数試合を除き、日本人選手が出場する試合で毎回実施するようになって現在に至ります。
――「日本人選手専用カメラ」の見どころを教えてください。
提供される国際映像は放送時間が限られており、選手の様子はショットの少し前くらいからしか見られないんですが、「日本人選手専用カメラ」では、選手がショットやパットを打つ前のルーティンや、コースを歩いているときの様子、表情の変化などもしっかりと捉えていますので、選手についての新たな発見があったり、コースで観戦しているかのように選手を身近に感じられたりして、ゴルフファンにはたまらないと思います。
2022年10月の「BMW女子選手権」での渋野選手のホールインワンや、今年3月の「ドライブオン選手権」で笹生選手がアルバトロスを達成した瞬間など、スーパープレーをリアルタイムで見られる可能性があるのも「日本人選手専用カメラ」ならではですね。私たちが捉えたこういった特別なプレーの映像は、逆に国際映像側に提供することもあるんですよ。試合後のインタビューもフル尺の完全版でお届けしていますので、選手たちの言葉もじっくりと聞いていただけると私たちもうれしいです。 選手たちもWOWOW独自のカメラが入っていることは分かっていますし、「自分のプレーを見てほしい! 日本に届けたい!」と思っているはずなので、ぜひ選手たちの頑張りを「日本人選手専用カメラ」で見届けていただきたいなと思います。
ちなみに、「日本人選手専用カメラ」に出演している解説者同士のトークも面白いですよ。それぞれに異なる個性がある解説者たちが、ゆったりとゴルフに関するトークを展開しているので、ラジオを聴くような感覚で楽しんでいただけると思います。