2018.09.06

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「いま、この時代にやるべき作品」を追求したい―WOWOW FILMS『泣き虫しょったんの奇跡』プロデューサーインタビュー

事業局事業部 プロデューサー 大瀧亮

「いま、この時代にやるべき作品」を追求したい―WOWOW FILMS『泣き虫しょったんの奇跡』プロデューサーインタビュー

俳優・藤原竜也のマネージャーを長らく務めたのち、プロデューサーへと転身した大瀧亮が「作品づくりの入り口から出口まで、初めて担当した」と語る映画WOWOWFILMS『泣き虫しょったんの奇跡』がいよいよ9月7日に公開される。さまざまな出会いと偶然が重なり実現した本作の制作秘話をはじめ、転身へと背中を押してくれた藤原竜也との絆、そしてその絆がもたらした大型企画『太陽は動かない』について話を聞く。

「豊田監督と仕事がしたい」10年越しの思いが叶った『泣き虫しょったんの奇跡』

──9月7日公開の映画『泣き虫しょったんの奇跡』のプロデューサーを務める大瀧さん。
まず初めに、この作品との出会いについて教えてください。

じつは僕、前職がタレントのマネージャーで、藤原竜也を担当していたんです。そんななか、彼が主演の映画の企画がありまして、そこで初めて豊田(利晃)監督に出会ったんです。さまざまな事情があって企画は実現に至らなかったのですが、僕自身、学生時代から豊田監督の作品をよく観ていて、なかでも『青い春』は大好きでしたから、「いつかお仕事をご一緒したい」と思っていました。

──今回の『泣き虫しょったんの奇跡』で、その思いが実現したのですね。

そうですね。10年の時間を経て、マネージャーからプロデューサーへと立場は変わりましたが、だからこそ出会えた作品だと思います。

──関西の奨励会でプロ棋士を目指していた経験を持つ豊田監督が、プロ棋士・瀬川晶司さん『泣き虫しょったんの奇跡』を読んで企画を立ち上げ、賛同した森恭一プロデューサーが大瀧さんに提案を持ちかけたことで始まった......という経緯とのことですが。

森プロデューサーからお話をいただく前から、監督とも定期的に会っていて。そのなかで『泣き虫しょったんの奇跡』の話も伺っていたので、「それはうまくいってほしい」という願いはありましたが、まさか自分のところに話が来るとは思いませんでした(笑)。

──「やりましょう」とすぐに返事をされたそうで。

そうですね。週末にお話をいただいて、すぐに「やりたい」と当時の上司に伝えました。僕自身運命めいたものも感じましたし、豊田監督の作品を担当することは目標のひとつでもあったので、気持ちもぐっと入りました。

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──"将棋"という題材についてはどう感じましたか?

何年も前に豊田監督からこの企画を聞いたときは......たしかに当時は、将棋の世界が広く認知されていなかったかもしれませんが、個人的には「すごくいいストーリーだし、将棋を知らない人に向けても伝わる話だな」と思っていました。それから時間が経って、藤井聡太さんが出てきて、機は熟した感じがしましたね。むしろ、いまだからこそやったほうがいいと思いました。

それに、豊田監督ご自身がもともとプロ棋士を目指していたこともあって、そういった方が撮る将棋の映画というだけでも......そそられますよね(笑)。ですから、将棋という題材について、ネガティブな要素は全く感じなかったですね。

映画づくりの入り口から出口まで担当した、初めての作品

──『泣き虫しょったんの奇跡』を作るうえで、大瀧さんはプロデューサーとしてどのような役割を担ったのでしょうか?

今回に関して言えば、企画されたのは森プロデューサーですが、僕も企画に参加した時点から脚本の開発、キャスティング、製作委員会の組成などを担当していました。撮影中は特段何かをしなければいけないというよりは、何かトラブルがあった時の危機管理の為に帯同したり、俳優とコミュニケーションを取ったり、スタッフさんの手が足りないところをサポートしたり、ということで足繁く通いました。

──撮影後も、いろんな役割がありそうですね。

編集や音楽録りも、すべて立ち会っています。作品が完成してからも、配給を担当する東京テアトルさんとほぼ毎日連絡を取りながら、宣伝の方向性を確認していますね。ですから......作品づくりの全てにずっと関わっている感じです。そうやって担当する作品というのは僕は本作が初めてなので、改めて「長い時間がかかる仕事なんだな」と感じています。

公開した後も、テレビ放送や配信などの二次利用がありますからね。出資していただいた会社さんに対して、しっかりと還元していく。みなさんがリクープできるように考える、責任のある立場のプロデューサーなので......ずっとこの作品を我が子のように育てていく感じですね。

──公開直前となりましたが、これまで苦労した部分はどこでしょう?

映画って、ドラマのように予算や枠が既にあるものではなく、いろんな会社さんから出資していただいて「製作委員会」という共同事業体で作ることが大半です。今回はWOWOWが主幹事をつとめています。そういった意味では、いちばん中心にいるのがWOWOWのプロデューサーなので、全社さんの意見や考え方を集約して1つの柱を作っていくことが大切です。
ただ、最終的に決めないといけないのは自分なので、そこはブレずにいようと思っています。

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──ブレないための基準というのは、具体的にどういったところにあるのでしょう?

「自分がこの作品を、お客さんとして観たときにどう思うか」というのを、まず念頭に置きます。作品の編集段階はもちろん、ポスターや予告編を作るときも、プロデューサーとしてではなく、お客さんの視点で観るようにします。例えば、「このシーンはちょっとわかりにくいから、このカットは入れておいたほうがいいんじゃないですか?」とか「この説明をアフレコで足したほうがいいんじゃないですか?」といったところですね。

プロデューサーとして作品の頭から関わっていると......台本を何百回と読んでいますし、編集中には何回も試写で観ますので次に来るシーンやカットが、わかっていたりするんですよね(笑)。そうなると冷静に観られなくなってしまうので、「とにかく一度、全部リセットして観よう」というのは毎回心がけています。

これまでの将棋映画と一線を画す、対局シーンのカメラワーク

──将棋を扱う映画は過去にもいくつかありましたが、『泣き虫しょったんの奇跡』ならではの特徴的な部分はどこにあると思いますか?

ほかと圧倒的に違うのは、将棋を指すシーンの撮影の仕方だと思います。例えば対局シーンの撮影でも......これまでの作品は将棋会館の対局室で撮影されていることが多いですが、本作では外観のみ将棋会館を使って、対局室は東宝スタジオにセットを組みました。原作の瀬川さんも「びっくりするくらい再現されていますね。将棋会館の対局室そのままです」とおっしゃるくらい、美術部が頑張ってくれたんです。

──なぜそのようにしたのでしょう?

スタジオにセットを組むことで、カメラが自由に動けるんです。対局しているふたりに上からグッと迫ったり、円形レールを敷いて回ったり。対局シーンのカメラワークのバリエーションは、過去作と比べても圧倒的に多いと思います。それでも豊田監督は「やっぱり撮り方が全部一緒になってきちゃうな」と、悩まれていました。

そこで考えられたのが、芝居を撮った後に手元だけを撮るということです。将棋の盤面をメインに、手元だけにフォーカスして撮る時間もしっかり設けたことも特徴ですね。

──そういった工夫は、どのような効果をもたらしましたか?

ダイナミックな対局シーンになったので、将棋がわからない人でもスポーツのように観ることができるし、形勢がわからなくても「ここが勝負の一手だったんだな」と、感覚として理解できるような演出になりました。

それでも豊田監督は満足せずに、編集段階で改めて瀬川さんと一緒に録音スタジオにいらっしゃって、将棋の駒をパチッと指す音だけ録ったんです。それをいろんなシーンにまぶしました。駒音を監督がすごく大事にされていて......駒音がまるで銃声音のように、攻撃のひとつとして鳴るようなイメージですよね。地味になってしまいがちな対局シーンだからこそ、監督の演出のこだわりはすごかったです。

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──冒頭のシーンは瀬川さん、ラストのシーンは豊田監督が実際に駒を指したということですが。

そうなんです! 最初と最後に盤面と手元が映りますが、冒頭の一枚一枚駒を並べていくのが瀬川晶司さんの手で、エンドクレジットのラストワンカット、パチって指すのが監督の手という......そういう遊びもきかせました。

「自分にとって、この作品は人生なんだ」豊田監督が作品にかける思い

──今回豊田監督とお仕事をされてみて、改めてどんな方だと感じましたか?

もちろん僕らも真剣に取り組んでいますし、作品のことを一番に考えてはいますが、監督はそんな僕らの遥か上を行くくらい、ストイックに作品のことを考えていらっしゃる......監督ご自身がおっしゃっていましたが、「自分にとって、この作品は人生なんだ。自分には今これしかないんだ」と覚悟を決めている。そういった監督の姿勢や佇まいが、現場の役者やスタッフたちに伝播していくことで、みんなすごい緊張感を持って作品づくりに臨めるんです。

一方で、監督は現場を俯瞰して見ているので、ときには場の空気を和ませたりもするんです。その緩急のつけ方がすごくて、そうやって監督はすべてをコントロールしているんだなと実感しました。そんな監督だからこそ、年配のスタッフさんたちも「豊田を信じて、豊田のために一肌脱ごう。限界を超えてみよう」って思うんでしょうね。それこそ......まるで棋士のように、一手一手駒を配して攻めていく。そこは天性の才能だと思いました。

──松田龍平さんについては、どのように感じましたか?

物静かで、飄々としていて、何を考えているのかわからない不思議な感じというのがパブリックイメージかと思いますが、じつはすごく熱量のある方なんですよね。特に今回すごいなと思ったのは......撮影からしばらく経って、宣伝の打ち合わせで久々にお会いしたんですね。

映画の宣伝に関して、「宣伝会社が考えたコンセプトに沿いますよ」という役者さんが多いなか、松田さんは『泣き虫しょったんの奇跡』の作品性をふまえて、いまの邦画界における立ち位置・セールスポイントといったものをご自身から提案されたんです。そうやって撮影後のことまで考えてくださっている姿勢に、人間味というか、熱量をすごく感じました。

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──みなさんの思いが詰まった『泣き虫しょったんの奇跡』は、9月7日からいよいよ公開です。

将棋を題材にした話ではありますが、誰もが経験するような"挫折からの再チャレンジ"や"夢への挑戦"が描かれていて、普遍的なお話でもあります。また"人との出会いが生んでくれた奇跡"が沢山詰まった作品です。観終わったときにスカッと気持ちよく劇場を出て、明日に向けて勇気と希望をもらえるような作品になっていますので、幅広い層に観ていただければと思います。

いままさに夢を目指している方には、諦めないことの素晴らしさや、周りの人たちのありがたさ、真摯に夢と向き合うことの大切さなども感じていただきたい......ですが、やっぱり明日への活力みたいなものを感じていただけるのが一番ですね。

WOWOWは多面的に映画に関わることができる、フットワークの良い会社

──WOWOW FILMSはWOWOWが2007年に立ち上げた映画レーベルということで、どんな印象を持っていましたか?

ホリプロのマネージャーをやっていた当時思っていたのは......2004年くらいから『世界の中心で、愛をさけぶ』や『いま、会いにゆきます』など、邦画が再び盛り上がってきた時代だったので、地上波のキー局が主導して作る映画が増えていたんですね。

そんななか、WOWOWもほかに負けないように、オリジナルのコンテンツを作っていこうと映画のレーベルを立ち上げて......でも、映画づくりのノウハウやメディアの持つ力という観点では、やっぱり地上波には敵わない部分があったんだと思うんです。そんななかでWOWOWは、企画性に富んだエッジの効いた作品を扱うことからスタートしたような印象でした。

──2010年に公開された、WOWOW FILMSの映画『パレード』には、当時大瀧さんがマネージャーを務めていた藤原竜也さんが主演されています。

マネージャーとしては、メジャーな作品にもどんどん出していきたいけれど、俳優にとってステップアップになるような、演技力や俳優としての評価が上がっていくものも入れていきたいと思っていたんです。『パレード』は現代の若者のディスコミュニーションから見える闇を描く作品でもあったので......そういった企画を映画で扱えるって貴重なことなんですよね。そこにすごく価値を感じていて、「WOWOWが作る映画って面白いな」というのを肌で感じていましたね。

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WOWOW FILMS 『パレード』

──WOWOWに転職してからはいかがでしょう?

僕が入社したのが2015年で、ちょうどWOWOWの映画事業も変遷を迎える時期だった。『予告犯』や『劇場版 MOZU』など、メジャー配給会社やキー局とがっつり組んだ作品が増えてきて......10年近く積み上げてきた映画事業の経験値やノウハウを、さらに大きなところで活かそうとステップアップしている時期だったので、すごくいいタイミングで入れたなと思いました。

──映画の製作委員会にも、WOWOWは早くから参加していますからね。

そうですね。2003年くらいから製作委員会に参加していて、もう15、6年続いていますし。
そういう意味でもWOWOWって、いろんなカタチで邦画界に関わってきている。あるときは製作委員会の一社として、あるときは製作委員会の幹事会社として、あるときは映画を放送する局として......多面的に映画に関わることができる、フットワークの良い会社だと思います。

──『泣き虫しょったんの奇跡』は企画が持ち込まれたケースですが、大瀧さんがゼロから企画して作品を作るケースもあるのでしょうか?

もちろんありますし、いまも進行しています。テーマの選出は......原作を読むパターンもありますし、クリエイターの方と「いまの時代には、何を打ち出すのがいいんだろう?」と雑談しているなかで生まれることもあります。

──『泣き虫しょったんの奇跡』のお話を伺うかぎり、大瀧さんは自分ひとりで考えるタイプではなく、周りの人と相談しながら作っていくタイプのような気がしました。

おっしゃる通り、自分ひとりで突っ走るタイプではないと思います。なぜなら、僕は「自分は絶対にプロデューサーに向いている!」と思って転職したわけではなく、「ダメかもしれないけれど、やってみたい、挑戦してみたい」と思って入ったので、自分のクリエイティビティを100%信じてはいないんです。芯は持ちつつも賛否それぞれ意見も聞いたうえで、精度を高めていきたいと思っています。

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「絶対に藤原竜也主演の映画を作る」ようやく実った『太陽は動かない』

──そもそもの話になりますが、タレントのマネージャーから映画のプロデューサーに転身した理由はなんだったのでしょう?

それもWOWOWが関わっていて(笑)。冒頭にお話しした、監督・豊田利晃、主演・藤原竜也で企画されていた映画が実現に至らなかったので、「何かリベンジしたいですね」と3人でずっと言っていたんです。それが6年越しで実現したのが『I'M FLASH!』という映画で......ホリプロが幹事で、WOWOWは出資で入っていました。

その作品で僕、プロデューサー的な役割を担うことになって。というのも、今度は絶対にカタチにしたかったので、会社の説得から始まり、脚本の開発やキャスティングも豊田監督と一緒にやりました。現場では"藤原竜也のマネージャー"ではなく、制作スタッフのひとりとして参加して、駆け回っていました。

──その経験が、転身したいという思いにつながったのでしょうか?

そうですね。『I'M FLASH!』に関わらせていただいたことで、作る側の楽しさを知って......もちろん、藤原竜也のマネージャーを任せていただけるなんて、そんなにありがたいことはないと重々思ってはいましたが、「一回だけの人生だから、どこかのタイミングで今後について決めないといけない」とずっと思っていました。

それで、ちょうど30歳になる年に、「ここで決めないと次の10年があっという間に過ぎてしまうのでは」と思い、一念発起して転職を決意しました。

──8年も担当されていた藤原竜也さんは、大瀧さんの決意にどんな反応だったのでしょう?

第一声はもの凄く驚いていました。ただ、ふたを開けてみれば「びっくりはしたけれど、このタイミングでそういった決断ができるのは、かっこいいことだと思う」というようなことを言ってくれて後押ししてくれました。「また一緒に仕事しような」と...。

──藤原さんならば、そうおっしゃるような気がします。

そうなんですよね。とても嬉しかったです。今も関係性はそう変わらず、定期的に連絡も取りますし、いちファンとして活躍を拝見しています。
一方で、「泣き虫しょったんの奇跡」にも1シーンだけお願いして出てもらったりもしました(笑)。

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──まさに先日、そんな藤原竜也さん主演で、原作・吉田修一、監督・羽住英一郎のスパイアクションエンターテインメント『太陽は動かない』のWOWOW FILMS&連続ドラマW化が発表されました。

WOWOWに入ったときに絶対やりたいと自分のなかで思っていたのが「藤原竜也主演の映画を作る」ということだったので、ようやく実りました。WOWOWのドラマや映画で諸先輩方がこれまで脈々と積み上げてくださったものがあったからこそ、実現した企画です。

というのも、これまでに多数の会社が『太陽は動かない』の映像化企画を立ち上げてきましたがそのスケールの大きさや原作で扱われている題材の社会的背景、そして原作はシリーズ化していることもあり吉田先生の様々なご意向もあってなかなか実現までに至らなかったようで。
そんななか、吉田先生ご自身がたまたま『MOZU』を観られて、「羽住監督ならば、『太陽は動かない』の世界観を表現できるんじゃないか」と思われたそうです。
ということで、出版社からROBOTに、そしてWOWOWにとお話が来た経緯なんですね。「MOZU」の劇場版から加わっていた現ドラマ制作部の武田チーフプロデューサーと共に私も開発に着手させていただいた次第です。

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──主演のキャスティングはどのようにされたのでしょう?

僕は最初から「絶対に藤原竜也がいい」と思っていましたが、あまり前のめりに言い過ぎて私情が入っていると思われたら嫌だったので(笑)しばらくキャスティング会議の様子を見ていました(笑)。それでもやっぱり、この規模感のスパイアクションエンターテインメントを任せられる俳優はそう何人もいないので、必然的に絞られていくなかで、全会一致で藤原竜也ということになったんですね。

一方で、彼の出演作をずっと観てきたなかで、じつはこういった硬派な、キャラ化されたものではない、現代劇でのアクションエンターテインメントってやっていないなという思いもありました。なので、いま彼は36歳ですが、これから40歳に向けて、さらに俳優として厚みを増していくための大きな一歩になるんじゃないかという思いもあって、オファーしたという側面もあります。

──大型な企画ということで、プレッシャーもあると思いますが。

最初に脚本があがってきたときに、「本当にこれ、できるのか?」とも思いましたが(笑)、ただ、最初から弱気になっていろんなものを削いでいってしまうと、この原作を映画化する意味がなくなってしまうので、羽住監督や脚本の林民夫さんとも「まずはフルスロットルで作る」という共通認識で脚本作りをしています。

──連続ドラマWもあります。

ドラマ版も主要キャストが完全に連動する形で、かつオリジナル脚本で挑みます。吉田先生もすごく楽しみに待ってくださっているようです。まだ発表にはなっていませんが、びっくりするキャスティングにもなっていますのでご期待頂ければと思います。

──最後に、ご自身にとって映画を作るうえでの「偏愛」や「こだわり」について聞かせてください。

日々変わっていく時代の趨勢のなかで、その時代にあったもの、タイミングもあったものを打ち出していきたいと思っているので、「ここにこだわっています」といったことを敢えて決めていないんです。昨今の邦画界はメジャーもインディーも沢山映画が作られているなかで、いいものを作るというのは大前提としても、それだけでは観てもらえない。そこにもうひとつ、「いま、この時
代にやるべき作品なんだ」という付加価値があれば、お客さんも観に行く動機になるんじゃないのかなと思うんです。

そういう意味で、『泣き虫しょったんの奇跡』はいまの時代にマッチすると思っています。
"将棋"というテーマがいままさにアツい。それに加えて、プロ棋士への夢を断念した過去を持つ映画監督が、同じく一度はプロ棋士になることを諦め、でもやっぱり将棋を愛してプロ棋士になった人の話を撮るという"奇跡"ですよね。しかも、彼らの同世代にはあの羽生竜王がいる......そういったいろんな背景が掛け合うことで、いまの時代に刺さるんじゃないか。単純に作品として面白い・面白くないはもちろんありますが、そういった背景も大事にしたいと思っています。

──さらには、時代に合ったテーマではありますが、普遍的なメッセージも含まれている。

そうなんですよね。誰もが観られるもの、誰もがわかるものをやっていきたいです。そこにはこだわりたいですね。

──それらの実現には、出会いやタイミングなどの偶然が重なる必要もあるので、難しいとは思いますが......大瀧さんは運があるような気がします(笑)。

人生をトータルで見たら、あるのかもしれないですね。
1日1日はすごく大変でツラいことも多いですが(笑)。正直なところ、「プロデューサーって、こんなに大変なんだ!」と思い知らされていますし(笑)。
でも、転職して、『泣き虫しょったんの奇跡』という作品に出会い、次に藤原竜也と映画を作ることができるというのは、なにか巡り合わせを感じますし、すごくありがたいことだなと思います。

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WOWOW FILMS 『泣き虫しょったんの奇跡』
2018年9月7日(金)全国ロードショー

原作:瀬川晶司「泣き虫しょったんの奇跡」(講談社文庫刊)
監督・脚本:豊田利晃
音楽:照井利幸
出演:松田龍平 野田洋次郎 永山絢斗 染谷将太 妻夫木聡 松たか子 イッセー尾形 
小林薫 國村隼

(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社


撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.