『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』公演直前! 担当プロデューサーに聞く「ディズニーコンサートができるまで」
事業部松本有希子プロデューサー
パシフィコ横浜 国立大ホールにて、1月31日(木)と2月1日(金)の2日間にわたって開催される『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』。これまでボストンシンフォニーホール(米)とロイヤルアルバートホール(英)で1度ずつしか上演されていない希少なコンサートが日本にいよいよ上陸する。NYブロードウェイの“ディズニーミュージカル”からオリジナルキャストを迎え、この公演のためだけに結成されたオーケストラで挑む珠玉の2日間。WOWOWにとっても初の試みとなる本企画の経緯や見どころについて、松本有希子プロデューサーに話を聞いた
日本で初開催の『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』
──まず初めに、松本さんの普段のお仕事内容について教えていただけますか。
WOWOWの事業部は映画とイベントの2チームに分かれているのですが、私はイベントのほうに所属していて、おもに舞台や美術展などのイベントを担当しています。
WOWOWがイベントに関わる際の関わり方は大きく3つに分かれていて、1つ目はゼロからすべてオリジナルで行っていく形式、2つ目はほかの会社さんが幹事をしているものに出資する形式、3つ目は宣伝費用をいただいてWOWOWのなかで宣伝していく形式となるのですが、そういった色んな関わり方をしているものを年間約20本やっています。
──そんななかで、今回開催される『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』はWOWOWとしても初めての試みとなりますが、企画の経緯について教えてください。
『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』は、いま言った"関わり方"としてはオリジナルのものになるのですが......きっかけとしては、やはり「WOWOWのオリジナルのイベントを作っていこう」という流れが部内にあったんですね。リスクを背負うことにはなりますが、成功した際は、そのぶん利益は大きいですし、オリジナルイベントを作っていける力を部員それぞれがつけていくべきだと。
「じゃあ、WOWOWのオリジナルイベントってどんなものが適しているんだろう?」と考えたときに、まず第一に思い浮かぶのが"WOWOWの既存のコンテンツに絡んだもの"でした。それで「あ、WOWOWは毎年『大型のディズニー映画特集』をやっている」と思いついて、ディズニーさんにアプローチをしました。そこで『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』に似た企画を提案したのですが、「これに似た企画をすでにアメリカで1回やっていますよ。日本でやったことがないので、やってみますか?」と話が始まった感じです。
日本初開催となるディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ(1月31日、2月1日)
──『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』の企画を進めていくなかで、とくに難しさを感じているのはどこでしょう?
これはどの興行でもそうですが、会場を抑えるところですね。会場が成功を左右してしまう場合もありますから。人気の会場は2年後ぐらいまで埋まっていたりするので、調整は大変でしたね。その調整だけで、1年ぐらいかかってるんじゃないかなと(笑)。
あと、今回は「ディズニーと仕事をするって、こういうことだったんだ」と非常に勉強になることが多かったのが印象的でした。「ディズニーブランドは、こんなところまで気を使っているんだな」と、様々なレクチャーをしていただいて驚きましたね。
──例えばどんなところでしょう?
物販をやるんですが、食品においてのレギュレーションがすごく細かいんです。子どもが肥満にならないように、「一日に摂れる塩分の量、砂糖の量はこれ以下じゃないとダメ」とか。物販の商品を作る会社に関しても「違法に子供を働かせていないか」など、細かい審査があって。手間はかかりますが、すごく勉強になりますね。
ブロードウェイのプロデューサーと二人三脚で作り上げる舞台
──イベントというのはどういった段取りで作られていくのか、今回の『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』を例に教えていただけますか。
まず会場をおさえて、契約を結んで、キャスティングが決まっていって、内容に関して詰め始めます。セットリストを検討して、譜面を準備して。今回のオーケストラは45人編成なんですが、指揮者を立てて、奏者を集めたり......今回はフリーの人たちを集めて"ディズニー・ヒッツ・オーケストラ"を作っているので、みなさんの楽器の手配も行います。それから、舞台の美術セットも調整しないといけませんし、同時並行でイベントの宣伝、チケットの販売があって、他にもゲストのブッキングや調整を行っていきます。
──今回はブロードウェイの『ライオンキング』、『ターザン』のアソシエイト・ディレクターを務め、日本でも『ライオンキング』、『リトル・マーメイド』の幕開けに携わったジェフ・リーさんがプロデューサーとして立っていますが、いまおっしゃった内容についてすべて彼に確認をとっているのでしょうか?
そうですね。彼とはもうずっとメールをし合っています(笑)。「ゲストにはこの人がいいと思います」と提案して、判断できるような材料を全部送って、すべてアプルーバルにお伺いを立てています。
──ジェフ・リーさんとそれだけ頻繁にやり取りをするなんて、とても貴重な体験をされていますね。
改めて考えたら、「すごい人と連絡を取り合っているなあ」と、ちょっとギョッとしますよね(笑)。ジェフ・リーっていうと、業界では本当に有名で。ニューヨークで一度お会いしましたが、すごく気さくで落ち着いた方でした。判断も常に冷静で...ご本人もおっしゃっていましたが「プロデューサーっていうのは、どっしり構えるもんだよ」って。彼には本当に助けられているし、仕事は非常にやりやすいですね。
──日本初上陸の『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』、楽しみにされている方も多いと思います。改めて見どころを教えてください。
本当に豪華なキャストが集まっているので、それが一番の見どころですね。ブロードウェイのオリジナルキャストが2人も出演するというのは、日本ではそう見られることではないと思うので、この機会を逃さないように。それに、編曲も素晴らしいんです。誰もが知っている曲ばかりを、音楽監督のジム・アボットが"いいとこ取り"してくれて(笑)、音楽的にも考え抜かれた素晴らしいコンサートになると思いますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
小さい頃から触れていた舞台を仕事にできたことは「ラッキーだと思う」
──WOWOWにとって、今回のようなオリジナルイベントを作ることはどのような意味を持つと思いますか?
WOWOWの売り上げの大半は視聴料収入ですが、それ以外の収入も積極的に増やしていこうという会社の方針は昔からありました。そういう意味で、イベントは収入を見込めるコンテンツのひとつでもあるし、放送とも連動できるので会社としても伸ばしていきたいんじゃないでしょうか。
それに、WOWOWとしては他局との差別化の為に「オリジナルでコンテンツを作っていく」ことに注力していきたいというのもあるので......大変ではありますが、イベントもオリジナルのものを増やしていきたいし、そのなかで経験したものが社内的なノウハウとして蓄積されていくことで、より強い組織になれば、という狙いもあるんでしょうね。
──今後、イベントの分野でやっていきたいことなどはありますか?
『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』はオリジナルのコンサートでしたが、同じようにオリジナルのお芝居を作っていきたいというのは個人的な思いとしてあります。コンサートではなくお芝居やミュージカルなど......時間をかけて稽古して、本番が1カ月間くらいあって、みたいな感じのものですね。手間はかかりますが、近いうちに実現できるように頑張っていきたいと思います。
──ちなみに、松本さんご自身も舞台出演の経験があるとのことですが?
20年ちかく前ですが、子役として舞台に立ったことはあります(笑)。舞台役者を目指していたというよりは、子どもの頃から舞台が好きで、いろんな舞台を観ていたので「私も出てみたいなあ」って。でも「やっぱり、出ることよりも作るほうが好きだし、向いてそうだな」と思って、お芝居の道には進まなかったのですが...。
──その思いがいま実現しているというのは、すごいことですね。
たぶん少ないですよね、そういう人(笑)。ラッキーだと思います。『ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ』のキャストにもそれぞれ思い入れがあって......メリーポピンズ役のアシュリー・ブラウンさんは、中学生の頃に私、ブロードウェイで実際に観たことがあったんです。ターザン役のジョシュ・ストリックランドはどうしてもブロードウェイに観に行きたかったけれど、受験生だったので(笑)観に行けないかわりに動画でずっと観ていました。
アシュリー・ブラウン/ジョシュ・ストリックランド
そういう意味でも私自身、彼らがすごい人たちだということがわかっているので、「彼らの素晴らしさを多くの人に伝えたい」という気持ちは自然と出てきますし、私自身の知識や経験がいまの仕事と自然とつながっているので、「ああ、観ていてよかったなあ」と思いますね。それは今回に限らず、これまでやってきた仕事全部に言えることです。
──もともと制作部で舞台中継などに携わっていたとのことですが?
私はいま10年目くらいなんですが、新卒でWOWOWに入社して、制作部で2、3年舞台中継をやってから宣伝部に異動し、3年前ぐらいからいまの事業部にいます。
──最初から事業部を目指していたのでしょうか?
いいえ、どちらかというと、舞台中継をやりたくて入りました。映像が好きで、舞台も好きなんですが、舞台を実際に観るよりも、映像を介して観たほうがおもしろかったときがあるんですね......とても稀なケースですが。なので、舞台中継をやりたくて入社して、ラッキーなことに最初からやらせてもらうことができました。
そんななか、演劇の情報番組をやる機会があって、劇団や制作会社さんと付き合いができてくるようになると、今度は宣伝に興味が出てきて。それで宣伝部に行ったんです。希望を出して、希望通りに、希望のタイミングで異動できたので、超ラッキーだったんですけど(笑)。それで一通り宣伝のことがわかって、次は「舞台を作っている人はどういう気持ちなのかな?」と、事業部に異動した感じですね。
──ラッキー続きのとんとん拍子ですね(笑)。
ですね(笑)。映像のことも、宣伝のこともわかっているのがいま一番の強みだと思うので、すべての経験が役に立っています。
──しかも昔は舞台に出ていらっしゃったという(笑)。
ははは。ラッキーです。私は本当にいい異動をさせてもらっているので、よかったなあと思います。
──次のステップも楽しみですが、いまのところは事業部でいろんなイベントを作っていくのが最優先でしょうか?
そうですね。目の前のイベントと並行して、2年後、3年後のことをやっているので、異動とかが考えにくいんですよね。いまは目の前のチケットを売ることと、3年後のことを考える感じで(笑)頭がごちゃごちゃになりますけど。
──松本さんがお仕事を続けていくなかで、大切にされていることやこだわっていること、「偏愛」について聞かせていただけますか?
「リラックス」です(笑)。「がんばらないこと」というか......。
──「人に頼る」ことに繋がる感じでしょうか?
はい。いまの部署に来て、「ひとりでやれる仕事量には限界がある」と感じているので。本当にチームの力がないとダメですし、プロデューサーという立場としては、多少引いて作品のことを考えないといけない。ましてや、年間何十本もありますから、少し落ち着いて、ジェフ・リーのようにドーンと構えていないといけないなあと思っています。ですから、がんばりすぎない、ひとつのことに没頭しすぎてはいけないと日々思っています。
──そういう意味でもリラックスする時間を...。
意図的に作ろうと。
──ちなみにどんなリラックス方法ですか?
誰もいないときに、自分の席でアイマスクをしています(笑)。あと、私は外出さえなければずっと会社に居てしまうタイプなので、一瞬でも外に出て、外の空気を吸うようにしようと最近意識しています。ってこれ、偏愛ではないですよね?(笑)
──もともと舞台に立っていらっしゃったというのが、かなりの偏愛だと思います。
歴が長いっていうのはあるかもしれませんね(笑)。それに、昔の経験がいまの自分に活きているように、いまの経験が何十年後につながってくると思うので、なるべく話題になっているものを観ようと思っています。
──そう考えると、小さい頃からずっと、なにかしらのカタチで舞台に関わっているということですよね?
そうですね。宣伝部にいたときに、舞台をまったくやっていなかった時期はありましたが......音楽ライブの宣伝をやらせてもらっていて、それも本当にいい経験でした。舞台って、どんなに大きな会場でも3000席ぐらいなんですね。でも、音楽ライブってドームクラスになってくるので、あの世界観を体験できたのは、すごく良かったと思います。
いかに自分がニッチな層に生きているかということがわかりましたし......ニッチでいることも大事ですが、ニッチのなかでも多少ターゲットが大きいものをやっていきたいと思っているので。そういう意味では、ディズニーはドンピシャだったと思います。
取材・文/とみたまい 撮影/祭貴義道 制作/iD inc.