なぜWOWOWがフェス? 若手プロデューサーが挑む「FUJI&SUN '19」
事業局事業部 原田純ルイスプロデューサー
WOWOWが主催する初のキャンプフェス「FUJI&SUN '19」が5月11日(土)、12日(日)の日程で富士山を見上げる「富士山こどもの国」にて開催となる。 “いだかれるフェス”と銘打って、音楽にとどまらず、映画やアクティビティにも力を入れているが、そもそもなぜWOWOWがフェスを開催するのか? そのコンセプトや魅力に加えて、企画から場所や出演者などの決定プロセスに至るまで、原田純ルイスプロデューサーに話を聞いた。
ゼロからスタートした音楽部で仕事の面白さをわかり始めた頃に...異動!
――まずはWOWOWに入社されたきっかけについて教えてください。
外遊びや旅だったり、身体を動かすことであったり、エンターテインメントが昔からずっと好きだったんですね。最初は"手触り"(=具体的な製品)のある会社を考えていたんですが、映像を通してそれを伝えれば、幅広くいろんな人に浸透するなと思い、僕自身、いろんな映像作品に影響されてきた人間なので、エンターテインメントに特化した映像の会社ということでWOWOWを志望しました。
――入社されて配属されたのは...?
音楽部です。音楽部の基本的に一番のメインの仕事はアーティストのライブの収録です。
――もともと、音楽やライブはお好きだったんですか?
音楽はあまり詳しくなくて、ライブもほとんど行ったことがなかったので、全てゼロからでした。人事部には言ってなかったんですけど、正直、音楽部は志望していない部署だったんです(苦笑)、なぜかそれを悟られていて「苦手なことからやってみなさい」みたいな感じで...。
アシスタント・プロデューサーの頃は矢沢永吉さんやドリカム、あとは夏フェスなどの大きな現場につけてもらい、その後、自分自身がプロデューサーとして初めてやったのが森山直太朗さんのライブ&ドキュメンタリーの収録でした。その後、BABYMETALの担当になったんですが、それくらいで異動になりまして...。最初の部署は3年半くらいかな?
――そこまでの音楽部の仕事での面白さはどういう部分にありましたか?
ジョブローテーションの関係で面白さがわかってきた頃に異動になることがままある会社なんで(苦笑)。ちょうど3つほど企画を出して、通った時に異動になったんです...。
音楽ライブ中継はひとつの収録でも100人単位でスタッフがいるんですね。まだ若手社員だったんですがプロデューサーという立場を任され、それだけの人たちと一緒にひとつのプロジェクトをやれたというのは面白かったですね。
事業部でイベントを1から作り上げる難しさと面白さに直面!
――続いての異動先が事業部ですね?
最初の9か月ほどは「広告」チームにいて、その後、同じ事業部内にある「イベント」チームに移りました。最初は、他の会社が幹事をしていて、うちが何%かを出資して行なっている出資案件のイベントに関わって、プロモーションのお手伝いをするという仕事が多かったです。
でも、1年、2年とやるうちに、自社が企画して幹事として開催する案件が増えていき、幹事案件として最初に取り組んだのが、音楽プロデューサーの武部聡志さんの還暦コンサートでした。松任谷由実さんや、平井堅さんなど、錚々たる面々に出ていただきました。
それからWOWOWでは毎年演劇界最高の祭典「トニー賞」を生中継していますが、そのトニー賞公認のミュージカルコンサート「トニー賞コンサート」を日本で初開催しました。トニー賞受賞者のケリー・オハラさんや、「glee/グリー」の先生役でお馴染みのマシュー・モリソンさんを招聘して、日本からは井上芳雄さんに出てもらうなど豪華キャストで展開したイベントです。そういうオリジナル案件がどんどん増えていますね。
――先ほどの音楽部でのライブ収録と異なり、いちからイベント自体を作っていくということですね?
そうですね。まず企画を立てて「それは面白そうだし、お金になりそうだね」となったら、そのアーティストとの交渉、ハコ(会場)押さえ、制作の手配、運営手配などを行います。
やりがいということで言うと、自分たちが一から作ったものを形にできるというのもあるんですが、何よりお客さんがすごく喜んでくださるのを間近で見られるんですね。音楽部で取り組んでいたライブ収録は、テレビで流してもお客さんがどういう反応をしてるのかはわからないですが、イベントは目の前にお客さんがいるので。そこは面白いですね。
――ビジネスとして収益を上げるのは完全にチケット収入からということでしょうか?
事業部としてはチケットの売り上げ、協賛がついた場合の協賛金、それから会場でのグッズの売り上げ等ですね。
前任者の異動でいきなりフェスのプロデューサーに!
――そうしたイベントのひとつが、5月11日(土)、12日(土)開催の「FUJI&SUN '19」ですね。こちらのイベントの成り立ち、企画の経緯について教えてください。
リアルな経緯を申しますと、企画当時事業部にいた今の音楽部長と、事業部に出向頂いている「インフュージョンデザイン」という野外フェスを多数企画している会社の代表取締役兼プロデューサーがいるんですが、この2人の間で、毎年行なうWOWOWの「顔」となるイベントをやりたいという話になったんです。
それから2人がいろんな会場を見に行き、「富士山こどもの国」に行った時、ロケーションがとにかく素晴らしく、キャンプフェスをやるにも設備が整っているということで「ここならできる」という話になって進んだ企画だったんです。
その企画者が異動になりまして(苦笑)、彼に任命されるかたちで僕が担当プロデューサーになりました。
――いきなり大きな企画を任されることになったんですね...。
きつかったですね(苦笑)。最初は実はビビってました...だって絶対にしんどいですし、なにから手を付けていいかもわからず。本来、僕の年齢の社員がプロデューサーをやるような規模のものではないですし、フェスを作るという経験もなかったですし...。
――原田さんは具体的にどのような仕事を?
企画が動き出したのは1年半か2年くらい前からですが、基本的には制作会社と話し合いながら全てに関わってます。アーティストや映画など、コンテンツの選定や、プロモーション、運営などなど。
――今年のゴールデンウィークは10連休ですが、その次の週末に開催なんですね。
実は、この会場がメチャクチャ霧が出やすいんです。寒すぎず、でも霧が出ない期間はギリギリこの辺りなんですよね。夏になるとまた台風の心配も出てきてしまうので...。ゴールデンウィークはゴールデンウィークで、かなり混雑して渋滞も発生するので新たにフェスを開催するのは結構リスクもあって。そうやって絞っていくと、この週末しかないなと。
なぜキャンプフェス? なぜ富士山? ネーミングからビジュアルまで議論百出!
――改めてこの「FUJI&SUN '19」のWOWOWらしさやコンセプトについて教えてください。
音楽だけでなく映画、アクティビティ(スポーツ)もあるし、いわばWOWOWという会社がお届けしているエンターテインメントコンテンツをしっかり入れているということがひとつ。あとは「富士山におそらく一番近いフェス」ということで、ロケーションが素晴らしいということですね。
――そもそも、入り口としてキャンプフェスという形にしたのは?
キャンプ人口、アウトドア人口が増えているというのはもちろんです。加えて、WOWOWは普段、TVや配信を通じ、エンターテインメントをお届けしていますが、今後はそれだけでなく、会員の皆様のライフスタイルに近い部分にもブランドとして浸透し、よりエンゲージメントを深められればという会社としての思いもあります。そういう意味では、キャンプってまさにエンターテインメントであると同時にライフスタイルなんですよね。今回のキャンプフェスを通じ、まさにリアルな体験としてWOWOWに"触ってもらう"ことができるんじゃないかと思います。
――既に「フジロック」が存在する中で、富士山に近いとはいえ「FUJI&SUN '19」というネーミングにすることに関して議論は?
メチャクチャありました、いや、いまもまだありますね(笑)。他に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」もあるんで、そのあたりの被りは気にしていました...。名前を決めるのに2か月以上かかりましたね
とにかくアイディアを出しまくって話し合ったんですがなかなか決まらず、そんな時、うちの局長とお付き合いのあったコピーライターの第一人者、岡本欣也さんにダメ元で相談したら引き受けてくださったんです。
僕らが出した案の中には富士山から離れたものも多数あったんですが、岡本さんが「とにかくここのよさは富士山じゃない? だったら富士山を前面に出していこう」とおっしゃって、最終的に「FUJI&SUN」になりました。ずっと続けていく中で定着したらいいなと思っています。
――仕事を進める上で一番大変だったのはどんなことですか?
WOWOWと制作会社の間に立って、様々なアイディアに関して調整を行うという部分ですかね?うちの会社の中にはキャンプフェスに行ったことがある人はあまり多くないんですが、その人たちなりの「こういうフェスがいいんじゃないか?」という意見があり、一方でキャンプフェスをよく知っている人たちの「こうしたい」という意見もあるんで。
収録の仕事に関しては、ある程度これが正解というのがわかるんですけど、今回のようにイベントを新たにゼロから作るとなったとき、本当に正解がわからなくて。
たとえばフライヤーのビジュアルも、かなり議論があって、結果的に相当奇抜なデザインになったと思います。キャンプフェスに来る人というのは、キャンプが好きというよりも、キャンプフェスが好きな人たちが多いんですよね。その層をしっかりと呼びこまないといけないときに、ほかのキャンプフェスと似たようなビジュアルだと、埋もれるだけなので「差別化」をキーワードに進めていきました。
このメインビジュアルのアートワークは、「SWITCH」「BRUTUS」のカバーアートや、「Esquire」「GQ」等のグラフィックワークを手掛けてきたアートディレクターの伊藤桂司さんにお願いしましたが、伊藤さんにお願いすれば、他のフェスでは絶対にないような個性的なものが上がってくるだろうという狙いがありました。実際にそういう他のキャンプフェスからは一線を画したビジュアルになってます。賛否両論あるんですが、それでいいんじゃないかと。
――様々な意見をまとめていくなかで気をつけていることは?
いろんな意見それぞれに耳を傾けた上で実際の準備に入ると、やはりキャンプフェス経験の多い方たちの言葉ってリアリティがあるんです。偏ってはいけないんですが、なるべくそういう経験者の言葉を他の人たちにきちんと理解してもらえるようにというのは意識していますね。
――1回目ということで、本当に当日に何が起こるかわからないし、そのことが面白い部分でもあるんでしょうが...。
いろんな人からそれは言われますね。動員もいきなりドンっと増えた時に、対応できるのか? ビールがなくなった話とかトイレがあふれた話とか、経験者からはよく聞いてます。いまは天気が一番心配ですけど、それはもう心配してもしょうがないので。事前にシュミレーションできることはきちんとやっておこうと。
――アーティストのラインナップについてはどのように決定されたんですか?
今回のフェスは、来場者に「ゆったりした時間を過ごしてもらいたい」というのがあって、キャンプの区画を広くとっていたり、ライブとライブの間の時間を長くして、音が鳴っていない時間が結構あったりするんですね。そういう空間にマッチしている、聴いていて「気持ちいい」ということを重視しています。
加えて「継承」という部分もテーマとして考えていて、大御所のアーティストから若手に音楽を継承していくようなフェスにできたらと。11日(土)のSUNステージのトリを務めるHermeto Pascoalさんは、ブラジルのアーティストなんですが、アーティストの間での人気が高くて、「Hermeto Pascoalが来るなら出る」とおっしゃってくださったアーティストさんも何人かいます。
それから12日(日)のSUNステージの林立夫さんは、ティン・パン・アレーのドラマーなんですが、今回は矢野顕子さんなど数々のゲストを迎えて、大瀧詠一さんの70年代初期の楽曲などを演奏するスペシャルセッションをしていだきます。こういった様々なセッションを通じ、世代も国籍も超えて、音楽を継承していく場を作りたいなと思いながら選んでます。
現在、出場アーティストは28組を予定していますが、正直、これだけのアーティストを揃えたのは...初年度でやりすぎちゃったかなと(笑)。
竹原ピストル、CHARAなど豪華アーティストが富士の麓に集結
『かぐや姫』伝説のおひざ元で高畑勲の『かぐや姫の物語』を野外鑑賞!
――映画の上映もありますね。
映画は今回、メイン会場で『かぐや姫の物語』を上映します。実は富士市って「かぐや姫」伝説の地で、かぐや姫が生まれたとされる里は富士市だと言われているんですね。さらに、高畑勲さんの命日が4月5日ということもあり、一周忌の追悼企画として上映させていただきたいとジブリの方にお願いしました。WOWOWオリジナルのドキュメンタリーとしてその制作過程を追った『高畑勲、かぐや姫をつくる』も放送しているので、それも併せて上映する形にしました。
――他のアクティビティなどについても教えてください。
これは他のフェスと差別化を図ることができる部分だと思うのですが、「人力チャレンジ応援部」という"冒険のプロ"集団がいまして、そこに所属されている方々に来ていただいて、「冒険家が教える本気の焚火の起こし方」や、日曜日の朝一に山のぼり(トレッキング)をする企画、水のエリアでのラフティングボートレースなど様々なアクティビティを現在準備しています。
――他にこの「FUJI&SUN '19」ならではの楽しめるポイントはありますか?
キャンプスペースとして、今回のフェス限定で森の中のトレイルラン用のコースの中でキャンプができたりもするのでかなりのガチなキャンパーにとっても楽しめるフェスになっているんじゃないかと思います。あとは、何と言っても富士山の魅力が半端じゃないので、ロケーションに関しては自信をもってお勧めすることができます。
フードエリアは基本、地元の出展者さんを入れているので、地場のおいしいものを楽しんでもらえます。もちろん、自分で食材を持ち込んで料理することもできますし、火を焚くのもOKなエリアもあります。キャンププランに関しては「手ぶらでキャンプ」というのも用意していて、文字通り、何も持たずにいらっしゃってもキャンプを楽しんでもらうことができます。あと、パオという遊牧民のテントも用意してます。
――プロデューサーとして、今回のキャンプフェス、どうなったら「成功」と言えると思いますか?
まず今年来てくださった人たちが「来年も来たいね」と思ってくださることが大事だと思いますが、天気が晴れて富士山が見えたら、絶対にそう思ってもらえるだろうと思います。そういう意味で天気が本当に重要なんですが(笑)、とはいえ、道もきちんと舗装されており、雨が降ったとしてもそれはそれで楽しんでもらえるとは思います。
「環境が素晴らしいから行こう」と思えるフェスに!
――まだ第1回が開催される前から尋ねるのも恐縮ですが、今後、どのようなフェスに育てていけたらとお考えですか?
「ビッグアーティストが来るから行こう」ではなく、この環境が素晴らしいからチケットを買って頂けるようなフェスになったらいいなと。そのためにもまず今回、この場所を好きになってもらうということを大事にしたいなと思っています。
――最後に最後にWOWOWのM-25の旗印である「偏愛」にちなんで、プロデューサーとして仕事をする上で、大切にされていること、"偏愛"と言える部分を教えてください。
僕、いまの仕事をしていてよく思うんですが、実はあまり「これ」という大好きなコンテンツがあるわけじゃないんです。もちろん、それぞれのコンテンツは好きなんですけど、まずそれよりも何よりも「人」が好きなんですね。
仕事を回す上でもやはり、一緒に仕事をする人を好きにならないとうまくいかないんですよ。いや、「この人は好きになれない」という人も時にはいますけど(苦笑)、常に人への"偏愛"を持ち続けたいなと思っています!
取材・文/黒豆直樹 撮影/祭貴義道 制作/iD inc.