斎藤工×石井正則"本当に面白い映画"を語り尽くす!「隠れた名作"発掘良品"」の公開収録レポート
2010年7月からTSUTAYAが展開している名物コーナー"TSUTAYA発掘良品~100人の映画通が選んだ本当に面白い映画~"。WOWOWがコラボレートする「隠れた名作"発掘良品"」では、このコーナーに置かれた作品から選んだ4本の映画を4日連続で放送している。このコラボレーションは2012年10月からスタート。WOWOWで放送中の「映画工房」にもレギュラー出演している俳優の斎藤工が、映画監督・落語家・音楽家・漫画家など毎回さまざまなゲストを迎えてトークを展開し、映画本編の前後にこの解説トークを放送している。第24弾となる今月10月放送分の公開収録が9月22日、都内で行われ、斎藤工が出席。タレント、俳優とマルチに活躍する石井正則をゲストに招き、厳選した"本当に面白い映画"4作品について見どころを熱く語り合った。
石井正則がまさかの告白?「普段は斎藤さんと同じ身長」
会場には多くの映画ファンが駆けつけ、収録前から熱気むんむん。斎藤さんと石井さんが登場すると、大きな拍手で迎えた。石井さんは「良かった、拍手が少ないと元気が出ない(笑)」と安どの表情。「後ろの皆さんは見えないかも」と身長にまつわる"自虐ネタ"まで披露し、会場を盛り上げた。
まず、紹介されたのは名匠、シドニー・ルメット監督が1973年に発表した「セルピコ」。実話をベースに、警察内部の腐敗と戦う青年刑事の姿を描いた社会派ドラマ。主演を務めるのはアル・パチーノ。本作で初めてアカデミー賞主演男優賞候補に挙がった。「今のアル・パチーノを作ったと言っても過言ではない作品」だと斎藤さん。この言葉を受けて、石井さんは「今回、(作品を)見直してみると、アル・パチーノがいい意味で小さく見えたんですよ。役柄によって、存在感を変えている。苦しみ鬱屈としている姿がフォルムにも出るんですね」とその役者魂に驚きの声。「僕も今日のために、なくなく骨を削って、この身長にしてきたんです。普段は斎藤さんと同じ身長」と再び笑いを誘った。
当時、映画界に旋風を巻き起こしたアメリカン・ニューシネマの「ど真ん中」だと本作を評する斎藤さん。「セルピコが示したヒーロー像は泥くさく、ある意味、主人公像を変え、後の映画にも影響を与えている。すごく分厚い力作」と分析。石井さんは、本作は実話の映画化である点に触れ、「普通はある出来事のダイジェスト的に終わってしまうことも。この作品は2時間強のなかに1人の人生を詰め込んでいて、監督と俳優の力、作品そのもののエネルギーでどんどん(物語が)展開していく」と魅力を力説した。
斎藤工が目にした巨匠、ジョン・ウーの素顔とは?
続いて紹介するのは、"香港ノワール"の火付け役となった「男たちの挽歌」。ハリウッド進出も果たしたジョン・ウー監督が1986年に発表した本作は、それまでカンフー一色だった香港映画の流れを一変させた金字塔とも呼ぶべき作品。「本当に傑作」(斎藤さん)、「僕も大好き。結構な回数見ているはず」(石井さん)と早くも作品愛をヒートアップさせた。
2人が特に意気投合したのが、本作における伏線の見事さ。斎藤さんが「フラグの立ち方がもう...。本当にカタルシス祭り。どのシーンも意味深で、とんでもない"前振り"になっている」と語れば、石井さんも「ものすごいことがたくさん起こっているのに『えっ、まだ15分しか経っていないの?』って。後半の『3年待ったんだぞ』と言うシーン、グッときました」と濃厚なストーリーに大興奮の様子。さらに芸人時代を振り返り「(主演の)チョウ・ユンファのモノマネをしながら、でたらめな広東語をしゃべるコントもやっていた」と話した。
斎藤さんはウー監督が日本でのロケを敢行したサスペンスアクション大作「マンハント」(1976年に高倉健主演で映画化された西村寿行の小説「君よ憤怒の河を渉れ」の再映画化)にテロリスト役で出演。「本当に徹底したこだわりがある監督。日本映画だと撮影が1日延びるだけでも大問題なのに、それができるのがジョン・ウー監督ですね。台本も前日、当日に変わることがありました」(斎藤さん)。その素顔を「穏やかで常にニコニコ。現場ではきれいなシャツで、スラックスをはいている」と明かすと、石井さんは「あれだけバイオレンスなのに!」と驚いた。
芸人から俳優へ「古畑任三郎」シリーズ抜てきの舞台裏
途中15分程度の休憩をはさんで、再開された「隠れた名作"発掘良品"」収録の後半戦。斎藤さんと石井さんが、まるで少年のように大はしゃぎしながら語り合ったのが、ホラー映画界の鬼才、ジョン・カーペンター監督が1988年に放った異色SF「ゼイリブ」。人間になりすましたエイリアンが、地球侵略を計画。果たして、人類に勝ち目はあるのか?
「ぞっとする。洗脳がテーマになっていますが、最近ではSiriが僕のほしいものを予測して、薦めてくるんですね。便利だからついつい「ありがとう」ってなっちゃいますけど、(機械と人間)どちらに主導権があるんだろうって...。そういう意味では、今の時代を予見している」と斎藤さん。うんうんと聞き入る石井さんは「そういう意味では、社会的な視点から見た『なんじゃ、これ?』という面白さがありますよね。とにかく、ユニーク! 一見、とんでも映画なんですけど、笑っちゃう自分が試されている。いい意味での仕掛けの"ずるさ"があるし、難しい顔しないで、メッセージを伝えてくれる」と持論を展開した。
主演を務めるのは、80年代の全米人気プロレスラーのロディ・パイパー。一方、石井さんも芸人として活躍していた1999年、三谷幸喜氏の目に留まり、演技経験はほぼゼロの状態で大人気ドラマ「古畑任三郎」シリーズで、西園寺守役に抜てき。"異業種転身"を果たした。
「三谷さんからは『すごく緊張すると思うんですけど、それでいい』と言われて。『西園寺は古畑(田村正和さん)に憧れているので、緊張感が必要なんです』と。三谷さんはそのあたり、計算をしていたのかも。同じような効果が『ゼイリブ』にもあるのかもしれない」(石井さん)
戦争映画の傑作「戦争のはらわた」 唯一残念な点は?
最後に二人が紹介したのが、アメリカ映画界を代表する名監督、サム・ペキンパー唯一の戦争映画である「戦争のはらわた」(1977年製作)。スローモーションを多用した独特のバイオレンス描写は、先ほど紹介した「男たちの挽歌」にも多大な影響を与えており「ウー監督本人も公言している。ある意味、師匠はサム・ペキンパー」(斎藤さん)。
第2次世界大戦下、ソ連軍によって追い詰められるドイツ軍歩兵小隊の運命を、徹底したリアリズムで描かれ、石井さんは「人間のイヤな部分も含めて、登場人物の人生が丁寧に描かれて、泥くさいですよね。地上の人間が戦車にどう立ち向かうか? 突飛に思えるシーンや言動も、生々しい描写があるからこそ、『その場にいたら、こうなるかも』と気づかされる」と圧倒された様子。斎藤さんも「チープな描写が一切なく、観客が戦場に駆り出される。女性軍の描き方も意味深く、全方位的にすばらしい戦争映画」と絶賛した。
ただ、石井さんが「邦題と原題(Cross of Iron)がすごく違うじゃないですか」と切り出すと、斎藤さんは「この邦題で見たいと思わないですよね(笑)」と思わず本音。石井さんも「このタイトルだけ残念です」と嘆き節(?)を披露し、最後まで収録を盛り上げた。
「隠れた名作"発掘良品"」第24弾はWOWOWシネマにて10/28(月)~31(木)放送
取材・文/内田涼 撮影/曽我美芽 制作/iD inc.