2019.10.09

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なぜWOWOWがゴッホ展に出資参画を? プロデューサーが語る、ナビゲーター・杉咲花起用の理由とイベント事業の今後!

事業局広告イベント事業部 大重直弥

なぜWOWOWがゴッホ展に出資参画を? プロデューサーが語る、ナビゲーター・杉咲花起用の理由とイベント事業の今後!

WOWOWが、産経新聞社・BS日テレ・ソニー・ミュージックエンタテインメント・上野の森美術館と共に主催に名を連ねる「ゴッホ展」が10月11日(金)より幕を開ける。ゴッホのわずか10年の創作活動を初期のハーグ派と後期の印象派の二部構成で紹介しており、「糸杉」などの著名な作品を見ることができる。
こちらの展覧会でナビゲーターを務め、音声ガイドにも初挑戦しているのが女優の杉咲花。彼女の起用をはじめとするプロモーション展開や同展の魅力、さらにWOWOWにおけるイベント事業の新たな可能性について、広告イベント事業部の大重直弥プロデューサーに話を聞いた。

イベント業界の"新参者"WOWOWがイベントを主催する意義と武器

――2016年入社で今年入社4年目の大重さんですが、WOWOWに新卒で入社することになった経緯について教えてください。

僕は学生時代、アメリカのシカゴに1年、語学留学をしていたんです。帰ってきたら同級生たちはひと足早く就職活動を終えていたんですが、彼らからいろんな話を聞くうちに、幼稚な発想ではあるんですが(笑)、「好きなことを仕事にしないと続かないな」という考えに至りました。

昔からスポーツやエンターテインメントが好きだったので、イベント会社からスポーツ新聞まで、エンタメに関わりのある会社を中心に就職活動していました。WOWOWは実家が加入していたこともあって、いつも見ていました。サラリーマンになる以上、部署の異動は覚悟していましたが、WOWOWならばスポーツ、映画、ドラマ、音楽など、何かしら自分が好きなものに関わっていられるだろうと。

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――入社後はまず映画部に配属されたそうですね。

最初は映画の放送に合わせて、映画の映像に加え、トレーラーや字幕データ、吹替えデータ等もろもろの関連素材を準備し、管理するの仕事をしていて、その後、WOWOWで放送する海外ドラマのプロデューサーとしてプロモーションに携わるようになりました。初めて関わった作品は『リーサル・ウェポン Season1』でした。僕はもともと、お笑いもすごく好きなんですが、この作品はアクション・コメディでしかもバディものということで「これはお笑い芸人しかいない!」と思いまして、「ピース」の又吉直樹さんと綾部祐二さんのお二人に日本語吹替キャストで出演いただいて、プロモーションのイベントにも出ていただいたりしました。その後、『プリズン・ブレイク』もプロモーションを担当し、10分ほどの短いものですが番組を作ったりしました。

――そして、昨年の7月に広告イベント事業部に異動されました。

広告イベント事業部はその名の通り、「広告」と「イベント」を担当する事業部門です。僕も配属当初は毎月、発行されているWOWOWのプログラムガイドに広告を出していただくための営業を担当していました。広告事業ではほかに、放送で流れるCM枠の営業や、映像制作能力を活かしプロダクションとして企業CMを制作するなどの活動を行なっています。

――イベント事業は文字通り、フェスや展覧会などのイベントを担当する部署ですね?

そうですね。イベント事業に関しては、長い歴史を持つメディア企業やイベンターの皆様と比べるとまだまだ新参者という立ち位置です。人と人とのつながりの中で出資参画という形で参加する機会を徐々に増やしてきたという状況です。

少しずつノウハウを身に着けて、我々が"オリジナルイベント"と呼んでいる、自分たちで幹事を務めるイベントを年に十数本できるようになってきました。

――大重さんは今回のゴッホ展以前にはどんなイベントに関わってきたんですか?

ニューヨーク・ブロードウェイで上演された『メリー・ポピンズ』の初代メリー・ポピンズ役を演じたアシュリー・ブラウンをはじめとする4人の歌手を招聘して、ディズニー・ブロードウェイ・ミュージカルの名曲の数々をお届けする「ディズニー・ブロードウェイ・ヒッツ」というコンサートに携わりました。

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ディズニーという世界で有数の総合エンターテインメント企業と、ウォルト・ディズニー・ジャパンにサポートに入っていただきながらも、基本的にはアメリカの本社と直接やりとりをする、かなりハードな経験でしたが、大変勉強となりました。

今年の1月31日、2月1日に横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜で公演が行われたのですが、悪天候でキャストの乗るはずの飛行機が飛ばないという緊急事態があり(苦笑)、あと24時間で幕開けという時点で、フライトをアレンジしつつ、会議室で中止になった場合の対応を話し合っているという状況で...。

なんとか間に合いましたが、キャスト陣は日本に到着後、ゆっくり休む間もなくステージに立つことに。それにもかかわらず「さすがプロ!」という圧巻のパフォーマンスを披露してくれまして、事業としても良い結果を出すことができました。来年、2度目となる来日公演を今度は満を持して東京国際フォーラムで開催することが決定しました。

――お話を伺っていると、イベント事業は近年、WOWOWの中でも急成長を遂げている事業のようですが、社内での位置づけ、重要性も以前と比べて変わってきているのでしょうか?

ノウハウを積み重ねる中で変わってきた部分もありますし、WOWOWは加入者からの視聴料収入が売上の大半を占める中で、放送以外の事業をいかに成長させていくのかという課題に取り組んでいる姿勢の表れだと思います。
放送ありきでイベントに投資するのではなく、まずイベントとしてきちんと採算が取れるように成立させた上で「これはいいイベントなので、ぜひ(WOWOWで)放送したいね」という流れになるのが理想です。

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突然の「ゴッホ展」担当!
予算&人員...けた違いの規模のデカさに驚愕!

――ここからは今回の「ゴッホ展」について、詳しく伺ってまいります。そもそもなぜWOWOWが「ゴッホ展」に出資することになり、そこに大重さんが関わることになったのでしょうか?

今回の「ゴッホ展」は産経新聞さんが主幹事を務めているのですが、そちらからお声がけいただいたのがきっかけです。WOWOWが主幹事を務めるオリジナルイベントの際も「どんな企業とパートナーを組んで製作すべきか?」という点は吟味する部分ですが、WOWOWの視聴者は、映画やドラマや音楽を視聴するためにお金を使うという点で、美術を楽しむ層と親和性が高いと評価されたのではないかと思います。

実際、関わってみて驚いたのですが、美術展というのは予算などの規模もものすごく大きいんです。初めて委員会に出席した際、出席者の数もすごく多くて、机に並べきれないほどの名刺をいただいて上手く役目を果たせるか不安がよぎりました(笑)。

――そんな中で今回、WOWOWが担っている役割、大重さんのお仕事は?

テレビ媒体としてどのように「ゴッホ展」を宣伝をしていくかというのが大きな部分ですね。具体的にはスポットや特番の制作を担っています。ありがたいことに事前のプレスツアーでオランダに行かせていただきましたが、そこで今回の監修を務めていただく方へのインタビューを行なったり、様々な素材を集めたりしました。そして今回、WOWOWとしては初めて、展覧会のナビゲーターと音声ガイドのキャスティングを担当しました。

――日本で「ゴッホ展」を行なうにあたって、来場者層として性別や年齢層はどのように想定されているんでしょうか?

そこがすごく難しいところでして(苦笑)、調べれば調べるほど「ゴッホ展」については「ここ」という層があるわけでもなかったりするんですね。

女性の方が美術展を好きな傾向が多い中で、画家によりますがゴッホに関しては男性ファンも非常に多いですし、日本で最も有名で人気の高い画家のひとりですから、特定の層というよりは、かなり幅広い層に訴えかけていかなくてはいけないなと。

ナビゲーターは美術展の"顔" 杉咲花が務める必然!

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――そうした中で、同展のナビゲーターおよび音声ガイドを杉咲花さんが務めることが発表されました。杉咲さんの起用に関しては、大重さんが提案されたとか?

ナビゲーターというのは、その美術展を背負う"顏"になっていただく存在です。委員会でも何度も話し合いがあり、幾人かの方の名前が挙がったのですが、僕自身はかなり初期の段階から、杉咲さんにお引き受けしていただけないか? という思いを抱いていました。

幅広い層に認知されていて、イメージがよい存在となると俳優さん、女優さんになるのですが、僕が調べた限りで、杉咲さんはこれまでナビゲーターを務めた経験がありませんでした。音声ガイドを務めていただくという点でも、お芝居のうまさに関しては僕が改めて言うまでもなく素晴らしい実力をお持ちですし、スタジオジブリの『思い出のマーニー』、スタジオポノックの『メアリと魔女の花』でアニメーションの声優も務められていて、ラジオ番組(「杉咲花のFlower TOKYO」)もやってらっしゃいますが、非常に心に残る声をお持ちだなと感じていました。

僕が映画部の時代にすごくお世話になった方で、いまは映画監督になられた早川千絵さんが是枝裕和監督プロデュースの『十年 Ten Years Japan』の中の一編を監督されて、その公開時の舞台挨拶に伺ったんですが、別の一編に杉咲さんが主演されていて(津野愛監督『DATA』)、舞台挨拶に登壇されていたんです。

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『十年 Ten Years Japan「PLAN75」』2019年11月放送

そこで杉咲さんが発するひとつひとつの言葉にすごく誠意を感じたんですね。日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞(『湯を沸かすほどの熱い愛』)を受賞された時のスピーチもそうで、「伝える力」を持った女優さんだなと。

――「広い層に訴えかける」という意味でも、NHKの朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」や現在放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」にも出演中の杉咲さんは適任ですね。

僕の母親も「好き」と言っているくらいで、やはり朝ドラ、大河ドラマの影響は絶大だなと実感しました。女優としてのご活躍はもちろんのこと、「ガキ使」(=「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル 絶対に笑ってはいけない」)に出るなど、若い人たちの間でも人気も知名度も高いですしね。

――すぐに杉咲さん側にオファーを?

これは、特に今回の委員会の中でのWOWOWの強みだと思いますが、WOWOWの制作部門には、(俳優・女優の)マネジメントの方々とつながりのある社員が非常に多く、今回もドラマ制作部経由ですぐにコンタクトをとることができました。

――杉咲さん側の反応はいかがでしたか?

まず、杉咲さん自身が声の仕事に強い興味を持たれていたらしく「音声ガイドという仕事をやってみたい」とおっしゃっていただけたそうです。

小野賢章も参戦! 音声ガイドでより深く、絵画の背景にあるゴッホの人生のドラマが見えてくる!

――オファー受諾後の打ち合わせで、大重さんが今回の「ゴッホ展」の魅力について、杉咲さんを前にかなり熱いプレゼンを行なったそうですね?

パワーポイントを使いつつ、ゴッホの画家としてのキャリアについて説明させていただきました。すごく真剣に聞いてくださって、わからない部分に関しても「ここがよくわからない」とハッキリとおっしゃって、いろいろと質問してくださいました。

音声ガイドではゴッホの人生や作品にまつわるエピソード、鑑賞のポイントなどを杉咲さんに語っていただいています。また、ゴッホの人生を語る上で、欠かすことのできない重要な存在として、パリで美術商をしながら、画家として売れない兄に、自分の給料の半分を仕送りし続けた弟のテオがいますが、音声ガイドではテオの声は声優の小野賢章さんにお願いしています。こちらも含め、素晴らしい音声ガイドになっていると思います。

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――改めて、今回の「ゴッホ展」ならではの魅力、見どころを教えてください。

ゴッホが画家として活動したのはたったの10年ですが、現存しているだけで約2000点の絵を残しています。今回の展示では、彼が初期に 描いた"ハーグ派"と後期に描いた "印象派"の二部構成で、画家ゴッホのキャリアとその背景を伝えていきます。

色鮮やかなイメージがあるゴッホの絵ですが、初期のハーグ派の作品は驚くほど暗い色調です。そこには理由があり、なぜ彼がこういう絵を描いたのか? それがどうして変わっていったのか? という背景を知ることができる美術展になっていると思います。

後期に関しては、パリにいるテオを通じて印象派の存在を知り、モネの作品に衝撃を受けてパリに移住し、やがて完成する「ひまわり」に通じるような色使いを覚えていきます。その後、ゴーギャンとの口論の末に自らの耳を切りつける事件などがあり、精神を病み、病院に入ることになるんですが、入院の1か月後に描いたのが今回の美術展のメイン作品でもある「糸杉」で、みなさんがよく知るゴッホらしい"うねり"が表現されています。

ようやくハーグ派でも印象派でもない、唯一無二の"ゴッホの絵"にたどり着いたのですが、それが孤独な病院の中という皮肉...。すごいドラマですよね。一方で、体調が回復した時期に描かれた「薔薇」という作品では、その精神状態を表すかのように明るさに満ち溢れています。

音声ガイドに耳を傾けつつ、彼の人生のドラマを感じていただければ、僕のようにこれまで絵画にあまり関心がなかったり、美術展は敷居が高いと感じている方も楽しんでいただけるのではないかと思います。

「WOWOWと美術」の親和性は高い!
今後のイベント事業拡大のカギとなるのは...?

――最後に、大重さんがお仕事をされる上で大切にされていること、また今後、実現したいことがあれば教えてください。

大切にしていることは"チームプレイ"ですね。学生時代からの部活気質があるのかもしれませんが(笑)。

事業としてのミッションは収益を生み出すことにあるので、当然その部分は大切なのですが、「収益のあがる仕事だから」と割り切って、淡々とに仕事を進めていくタイプでもないので、一緒に働く人たちの"熱"を大事にし、同じチームの人がモチベーション高く、気持ちよく仕事できるような環境をつくることが大事だと考えています。、それが結果的にチームの力の最大化につながると思っています。

映画部にいた頃は入社したばかりで、なかなかそうしたことに思いが至らなかったんですが、いま事業部で外部の方も含めて多くの方と仕事をさせていただいて、チームの重要性をひしひしと感じています。

いま美術展に関わっていて実感しているのが、展覧会事業で主幹事を務めるというのは、すごく大変なことだということです。
ただ、WOWOWでやっているミュージカル・コメディの「グリーン&ブラックス」のように、ミュージカル番組や、イベントへの出資参画が増えていく中で、様々な方から「一緒にやりましょう」とお声がけをいただけるようになると思っています。

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いま、WOWOWに美術番組はないですが、世界のエンターテインメントに対して高感度のWOWOWのお客さまは美術に興味を持って下さることも多いと思っていますし、今回のような美術展への出資に合わせて美術番組を制作するようになれば、どんどん出資参画できるイベントが増えたり、より中心的な役割を担えるようになると思うんです。そうなるといいなと思っています。

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「ゴッホ展」は10月11日(金)から2020年1月13日(月・祝)まで上野の森美術館にて、1月25日(土)から3月29日(日)まで兵庫県立美術館にて開催。

https://go-go-gogh.jp/

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道  制作/iD inc.