2021.04.08

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WOWOW マンスリー・シネマセッション「踊る大捜査線 THE MOVIE」 本広克行監督×亀山千広プロデューサー 対談レポート

WOWOW  マンスリー・シネマセッション「踊る大捜査線 THE MOVIE」 本広克行監督×亀山千広プロデューサー 対談レポート

事件は現場で起きている!ヒット作はキャラクターでできている!本広克行監督×亀山千広プロデューサーが「踊る大捜査線」社会現象化の理由を語り合う!

WOWOWオリジナルの配信番組「マンスリー・シネマセッション」は、毎月、映画の放送後に、その作品に関わるクリエイターたちをゲストに迎え、制作秘話を語る特別プログラム。4月17日午後1時にWOWOWシネマで放送される「踊る大捜査線 THE MOVIE」の放送後には、大ヒット作「踊る大捜査線」シリーズの生みの親ともいえる本広克⾏監督と⻲⼭千広プロデューサー(当時/現ビーエスフジ社長)のトークの模様をWOWOWオンデマンドで配信。社会現象を巻き起こした同作の裏側を解き明かす!

いかにして「踊る大捜査線」(以下「踊る」)は社会現象となったのか? あの名ゼリフはどのように生まれたのか? こちらの収録現場にWOWOW FEATURES!が潜入! 収録後には本広監督×亀山プロデューサーへのインタビューも敢行し、ヒットを生み出す"秘訣"を尋ねました。

劇場版公開初日、映画館の長蛇の列を見て実感した「踊る」大ブーム

この日の司会進行は2004年から昨年まで東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターを務めてきた矢田部吉彦さんが担当。まず、矢田部さんは「踊る」シリーズが巻き起こしたムーブメントとはなんだったのか? について鋭く切り込んでいく。

1997年1月から3月にかけて連続ドラマが放送され、その後もSPドラマが制作されるなど、人気ドラマとしての地位を獲得していた「踊る」シリーズだが、連ドラ終了から劇場版第1弾(1998年10月31日公開)まで1年半空いたこともあって、亀山プロデューサーもあれほどのムーブメントになるとは予想していなかったという。最初に「これはすごいことになっている」と感じたのは、映画公開時。「当時は立ち見がOKで、二重三重の立ち見の客がいて、(映画館がある)有楽町マリオンの周りに未明から人が...。当時、ちょうど『プライベート・ライアン』が公開されていて、そのポスターの下に野戦病院のようにファンが寝転んでいて、『これはひょっとすると...』と思いました。そこから十数年、『踊る』に携わっていくことになるとは...」と亀山プロデューサーは当時の熱狂を振り返る。

警察を"会社"に見立て、サラリーマン刑事の悲哀を描く構成はどうやって生まれた?

810×540_9852.jpg本広監督は当初、劇場版を制作するという話を聞いても「え? これ、映画にするんだ?ってびっくりしました。誰が見るんだろう?」と思っていたそうだが、劇場版公開初日に至って「(有楽町マリオンの)上から下までずっと人が並んでいて『これはヤバいな...』と思いました」とようやくただ事ではないと感じたという。

ドラマの企画立ち上げ時の興味深いエピソードやキャスティングの経緯に関しても次々と明らかに。亀山プロデューサーは「踊る」以前には「あすなろ白書」「若者のすべて」「ロングバケーション」など、青春群像劇やラブストーリーでヒットを連発しており「『踊る』の前の『ロンバケ』が当たったんで、(『踊る』が)少々ダメでも免罪符になるかなと。ずっとやりたかった刑事ものをやることにした」と振り返る。

当初、日本でも話題を呼んだ映画『セブン』をイメージして「バディものを考えていて、織田(裕二)くんの次にキャスティングで決まったのがいかりや(長介)さん。織田くんがブラッド・ピットでいかりやさんがモーガン・フリーマン。飲み屋からいかりやさんのマネージャーに『空いていますか?』と電話して決まった。そして、僕が信頼している深津(絵里)さんをキャスティングして、いかりやさんが深津さんのお父さんで、『(織田さんに)俺のところに下宿せい』っていうホームドラマ刑事ものでした。今だったら当たりそうもない企画で(笑)。ただ、それだと結局、犯人当てになっちゃう。当時ウチ(フジテレビ)には一番優秀な"警部補・古畑任三郎"がいたので」ということで、当初の企画はボツになったという。

その後、警察組織を企業に見立て、"サラリーマン刑事"の活躍と悲哀に重点を置いた、これまでにない刑事ドラマが完成した。亀山プロデューサーは改めて、「踊る」の大ヒットについて「(取り込んだ層の)幅が広かったんだと思う」と分析。「意図してはいなかったけど、警察の構図にサラリーマンをぶち込んで、もう一つ、これは狙っていたんですけど、"キャラクターショー"になった。キャラクターの書き分けができる(脚本の)君塚良一さんがいて、この天才(=本広監督)が余分な芝居をどんどん付けることで、キャラが活きてきた」と語る。

応援上映にオフ会...「踊る」が作り上げた新しいコンテンツの楽しみ方

当時、勃興してきたインターネットとの相性の良さもヒットの大きな要因となった。本広監督は「ドラマを作るだけじゃなく、そこにインターネットを挟ませた亀山さんの功績はすごく大きい。ネットブームに『踊る』が乗っかった。ネットを見ながら映画を見る人が増えて、オフ会も全国で行なわれるようになった」と指摘する。現在では当たり前のようにファン同士がネットを介してつながっているが、当時はまだ珍しかった。「ネットで登録してくれていた『踊る』のファンに映画公開当日、『ラストシーン演出として皆さんにお願いです』と言って『映画を見終わったらスタンディングオベーションしてください』とお願いしたんです。それがムーブメントになって、最後のスタンディングオベーションをしたいがための映画になった」と、今ではこちらも当たり前のように行なわれる"応援上映"の走りとも言えることを「踊る」が20年以上前に行なっていたと明かした。

当時、@niftyのドラマフォーラムというサイトがあったが、最終回の翌日にはサイトがパンクした。「踊る」以外で同じことが起きたのが「新世紀エヴァンゲリオン」。亀山プロデューサーは、両作の共通点として「監督がオタクで、隅々までオタクの血が流れている」と語り「シネコンができて、カメラ機材のデジタル化が始まり、ネットが隆盛を極めてきたとき――つまりコンテンツ環境が変わったとき、キャラクターがそろっている番組で、しかもコメディがベースにある。今から考えると、乗るべきところに乗っかっていった。そこを外さなかったからうまくいったのかなと思います」と分析した。

本広監督は「踊る」シリーズ後もドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」、映画『亜人』などのヒット作を手掛けてきたが「いまだに(本広監督と言えば)『踊る』と言われる」と語る。劇場版第2弾『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が興行収入173.5億円をたたき出し、いまだに実写邦画歴代興行収入第1位をキープしているという事実が大きいが「そんなにヒットしたという気分でもないんですが、(『踊る』のヒットのおかげで)何を言っても『さすがですねぇ』と言われるし(笑)、それが自信になって、その後の作品がヒットしていくんだと思う」と前向きに捉えている様子。

実際、「踊る」シリーズでの演出の経験が、その後の作品を作る上でも大きく影響しているようで、学んだことの一つとして「役者さんとの呼吸の作り方」を挙げる。「台本を読んで役者さんたちから出てくる"言葉"があるので、それをキャッチできるようになれば(うまくいく)。『踊る』をやったおかげで、それを引き出す演出ができたかなと思います。センスのいいアドリブが欲しいので、そこをうまく誘導する。それは『踊る』で培われました」と振り返る。

滝藤賢一さんの中国人役が『テルマエ・ロマエ』を生んだ?

「踊る」シリーズにゲストや個性的な脇役として出演し、その後、飛躍を遂げて引っ張りだこになっていった俳優たちも数多くいる。例えばドラマ「半沢直樹」やNHK大河ドラマ「麒麟がくる」、「連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~」シリーズなどで存在感を発揮する滝藤賢一さんは、『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』の中国人刑事役で話題を呼んだ。別作品のオーディションで滝藤さんを見た本広監督が出演を推したそうだが、亀山プロデューサーは「反対した(苦笑)」とのこと。結局、脚本の君塚さんの後押しもあって出演が決まったが、亀山プロデューサーは「あれを見て、阿部寛がローマ人をやってもいいんだって思えた。『テルマエ・ロマエ』ができたのは滝藤くんのおかげ(笑)」とのちに興行収入59.8億円を記録し、阿部さんに日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をもたらすことになった『テルマエ・ロマエ』誕生のきっかけになったと感謝を口にする。

また、劇場版第1弾では小泉今日子さんが殺人犯を"怪演"し、その振り切った演技が大きな話題を呼んだが、亀山プロデューサーが小泉さんのキャスティングを決め、小泉さん自身も乗り気だった一方で、本広監督はキュート過ぎるがゆえに「あのキョンキョン」(本広監督)を猟奇的な殺人犯として起用することに消極的だったそう。ただ、直接顔を合わせると、小泉さんの方から「歯に矯正を入れたい」「真っ黒なコンタクトを入れたらどうか?」などの提案があり、小泉さんを「あんなに崩していいんだ?」と本広監督は驚いたという。

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偶然から決まった青島刑事のモッズコート

この日のトークでは、本広監督と亀山プロデューサーが事前にファンから寄せられた質問にも回答。織田さんが演じる青島刑事のトレードマークとも言える緑色のコートはどのように決まったのか? という質問に、亀山プロデューサーは「衣装合わせで『織田くんはコートだろう』ってことで、ステンカラーコートを着たらカンチ(※『東京ラブストーリー』)になっちゃった(笑)。それで織田くんが『モッズコートはどうですか?』と言って、スタイリストさんが着ていたコートを着たら『いいね』となった。そこから青島刑事は軍の払い下げのものが好きで、時計もアーミーものというキャラクターが出来上がった」と説明した。

さらに、トークセッション終了後には『踊る大捜査線 THE MOVIE』のオーディオコメンタリーも収録したが、久々に映画を見ることで2人とも当時の記憶がよみがえってきたよう。

分煙化が進んだ今ではあり得ない、湾岸署内で堂々とタバコを吸う描写には「まだこの時はタバコを吸っているんですよねぇ...」(亀山プロデューサー)と二十数年の歳月の経過を感じてしみじみ。

芸達者な俳優陣による演技合戦に、オーディオコメンタリー収録であるにもかかわらず、おもわず2人とも言葉を失ってしまう瞬間も。湾岸署の"スリーアミーゴス"として人気を博した北村総一朗、斉藤暁、小野武彦のアドリブ満載のやり取りに本広監督が「今見ても、笑わせようとしていないんですよね。うまいなぁ...」と漏らし、さらに織田さんの硬軟自在の演技に対し亀山プロデューサーが「織田くんは本当にコメディがうまいよねぇ」と語り、本広監督が「織田さんは受けの芝居が本当にうまい! いい顔するんですよねぇ...」とほれぼれとした表情で絶賛する一幕も見られた。

また、いかりやさんに関するエピソードでは、真下役のユースケ・サンタマリアさんが衣装合わせで顔を合わせた初対面のいかりやさんに対し、いきなり「オイッスー!」といかりやさんのネタをやり「場が凍り付いた(笑)」(亀山プロデューサー)とのこと。だが、それをきっかけにいかりやさんはその後「ユースケをものすごくかわいがった」という。

さらにオーディオコメンタリーでは「踊る」人気を決定づけた名ゼリフ「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」の誕生秘話についても明らかに。亀山プロデューサーと君塚さんが飛行機の機内上映でジョージ・クルーニー主演の映画『ピースメーカー』を見ていて出てきた「戦争はペンタゴンがやっているんじゃない!俺たちがやっているんだ!」というセリフが元ネタであり「そこから何かがグーッと動いた」と亀山プロデューサーは「踊る」シリーズ、いや日本映画史に残る名ゼリフの誕生の瞬間を明かした。

映画を見終えて、亀山プロデューサーは「やっぱり作ったんだなって思いました。作品が残っているというのは本当にありがたいことですね」としみじみ。矢田部さんの「よくぞこの映画作品をわれわれに届けてくださいましたという感謝の念でいっぱいです」という言葉に本広監督は改めて「いまだに『踊る』って言われるって、幸せな作品だなとつくづく思います」と喜びを口にしていた。

収録終了後、FEATURES!はお二人にインタビューを敢行! 今、ヒットを生み出すためにプロデューサーに求められる嗅覚、そしてWOWOWに期待することとは――?

――まず、本広監督の最新作『ブレイブ ‐群青戦記‐』が先日より公開となっています。本作の撮影において、どのようなことを大切にされたのでしょうか?

本広:もともと『亜人』という作品のチームで作るということでお声掛けいただいたんですけど、決して予算が潤沢というわけではないので(苦笑)、どれだけコンパクトに撮れるか? 時代劇で野原(での合戦)やとりでのシーンが多かったのですが、実はほとんどが東京のスタジオで撮っているんです。緑山のスタジオの前に広場があるんですけど、ほぼあそこで撮影しています。見ていただくととてもそうは見えないんですけど。こう撮れば、これくらいの(スケールの)映画ができるというのが僕自身、分かってきましたしね。

あとは若いキャストが多かったので、それこそ『踊る大捜査線』で培ったノウハウを全部注いで、「役をもっと考えよう」「そこから出てくる言葉を考えなさい」という演出をしているんですけど、みんなよかったですね。

――現代の高校生が戦国時代にタイムスリップして...というストーリーはかつての『戦国自衛隊』にも重なります。主演は『戦国自衛隊』主演の千葉真一さんの息子の新田真剣佑さんで、随所にオマージュも見られます。

本広:そうなんです。実はある映画祭で千葉さんとお話しする機会があったんです。しかも『ブレイブ~』の台本を読まれていて「どうでしたか?」と聞いたらノーリアクションなんですよ。これは気に入らないのかな? と思って、もう一回、台本を作り直そうと思って、でもそれがよかったと思います。話がキュッとまとまりました。

マッケンは、本作で共演した三浦春馬くんに出会って「役者を目指そう」と思ったらしくて、あの2人は兄弟みたいな関係だったみたいで...。だからマッケンはなかなか完成した映画を見られなかったみたいで、途中で何度も外に出ちゃうんですよ。でも、そこから少しずつ強くなって...。実は映画の中にも重なるようなところがあるんです。ファンの方たちはそこで号泣するんじゃないかと思います。奇跡みたいな映画になっていると思います。

「踊る大捜査線」の構図にはヒットのすべての要素が詰まっている!

――続いてお二人にお伺いします。WOWOWは「全員がプロデューサー」という方針を掲げていますが、数々のヒット作を生み出してきたお二人が作品を企画・制作する上でどんなことを大切にしているのか? ヒットの"嗅覚"とはどういうものなのかを教えてください。

亀山:じゃあ現役から(笑)。

本広:でも僕がヒット作を生み出せたのは「踊る大捜査線」のおかげで、「踊る」シリーズであれば全部ヒットするという流れになったので(笑)。ただ、作品を作る段階では、予告編で使いやすい画を撮ることは意識していますね。あとは宣伝部さんがやってくれるので。

――本日のトークセッションでも「踊る」にはヒットの構図が詰まっているというお話も出ていました。

本広:これは間違いないですよ! 「踊る」では所轄と本店(=警視庁)があるじゃないですか。主人公の周辺を似た構図にするとだいたい...いや、全部ヒットしていますね。

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恋愛ドラマも刑事ものも同じ! 「板挟み」「三角関係」こそが視聴者を惹きつける

――対立構造であったり、ちょっとしたバディ感があったり?

本広:そうです。あまりガッチリしたバディでもないんですけど、「今日はこの組み合わせで」「明日はこの人とのバディで」くらいの感じでね。あとは"制服感"というか、ユニフォームを着ている――これはアニメとかで多く使うんですけど――そういう構図で作っていくと、今のところ、全部それなりにヒットしてますね。

「PSYCHO-PASS サイコパス」も最初はブレがあったんですよ。でも「いや、そうじゃなくて! 『踊る』ではこうやりました」と言って、実際にそうしたら当たりました。あの構図を発明された亀山さんと君塚さんはすごいと思いますね。

亀山:"板挟み"なんですよ、大事なのは。見る人にとってはそれが一番面白い。当たっているものってほとんどそうですよ。「半沢直樹」だって、全員が板挟みになっているでしょ? 逆に自由に生きて、バイク飛ばして...って映画は、それはそれでいいけど、どうぞ好きな人が撮ってくださいって感じですね。結局、そういう自由なものを見たい気持ちもあるけど、30分くらいで飽きてきちゃうんですよ、その自由な生き方に。

つまり、実は人って「自由にしろ」と言われてもなかなかできなくて、これは君塚さんとも話したけど、僕らは期限がない中で「作品を作れ」と言われてもできない。放送は〇月〇日で、その枠の条件はこうで、スポンサーはこちらの企業で、あれはできるけど、これはできない...みたいにどんどん消去法で「じゃあ、こんなことができそうだ」ってなる。

そこからさらに人間関係を作っていくけど、そこでも板挟みですよ。バディものだったとしても、このバディの敵がいて、その敵がバディのひとりと親友だったということが分かったら"板挟まる"わけです。そうすると、三角関係をいくつ作れるか? というのが大事になってくるんです。

恋愛ドラマでも(メインの)2人がいて、この2人は強固な恋愛関係にあるけど、周辺に毎回親友やら同級生やらが絡んでくるという内容で13話作れとなったら、優秀なクリエイターなら作れちゃうんです。その過程で大好きな人の知らなかった過去が分かったりして。

「構図の中に三角形をいくつ作れるか?」――それは「踊る」でも恋愛モノでも同じなんです。それってなんなんだろう? って考えたら、健さん(高倉健)の映画なんですよね。「義理と人情をはかりに掛けりゃ、義理が重たい男の世界」なんです。この親分にはお世話になったけど、その人を殺しに行かなくちゃいけないとか。そこでみんな泣くわけです。『仁義なき戦い』だって、野放図にやっているようで、組み合わせがコロコロ変わるってだけで、勝手に板挟みの構図ができているんです。

ドラマ作っていて、どんなに濃密な人間関係があったとしても、ポンっと別の要素を加えたときに、急に濃密じゃなくなったりする。だからこそ人間関係って面白いんですよね。結婚したらしたで、男は「仕事」と「家庭」の板挟みになるわけですね。

「踊る」はそういう板挟みの要素がいっぱいでしょ? みんながそれぞれの「正義」と「信念」を持っているけど、組織があって、そこに板挟みがある。青島と室井だって友情を育んでいるけど、次の回ですぐにそれが崩壊したりもする。

日本の映画で当たっている作品、僕が好きなエンターテインメントの作品ってすべてそういう作りなんですよ。その構図を見つけることができればストーリーはできるわけです。

漫才だってそうですよ。ミルクボーイも"オカン"という知らない人についての相談を受けながら、勝手に板挟みになっている(笑)。あれはオカンが誰なのか知らないってところが面白くて、あの話が「俺が...」となると、面白くならないんですよ。

「エッジの効いた最先端はマイナー」――『トレインスポッティング』禁止令の真意とは?

――今、最近の人気コンビの名前が出てきましたが、そういう"流行り"のものはご自身でチェックされているんですか?

亀山:自分からチェックしに行っているというわけではないかな? プロデューサーっていろんなタイプがいて、エッジの立っている人を探そうとするタイプもいるし、本広はそうだと思う。そういうことに常にアンテナを張って「面白いものを世に出そう」と考えているよね。

僕は、面白いものが世に出始めているころに「なんでこの人たち、面白いんだろう?」って考えて「なるほどなぁ」と思ったら、メジャーな舞台に引き上げるということをするタイプかな。下北沢の100人くらいの規模の小劇場で面白いことをやっていた人間が500人規模の劇場に出てくるくらいのタイミングで「TVでやってみませんか?」と引き上げる。

ただ、その時に、その人の一番得意なことを「これは使うなよ」と封じることによって、ここでも"板挟み"の状況を作るんですよ。「踊る」シリーズで、もともとさわやかな笑顔が印象的で"ギバちゃんスマイル"なんて言われていた柳葉敏郎に「今回は絶対に笑うなよ」と笑顔を封じ手にしたのと同じやり方ですね。

"流行りもの"ということに関して言うと、僕は「本当の最先端にあるものはマイナー」だと思っているので、そこはあえて封印していますね。ものすごくエッジの立ったものには手を出さない。それこそ以前、"『トレインスポッティング』禁止令"って出したことありますよ(笑)。あんなエッジの立ったもの、見ちゃダメだよって。

――エッジが効いている小規模作品。"メジャー"であるフジテレビが目指すべきはそこではないと?

亀山:そう。ただ、あのダニー・ボイルという監督のすごいところは、そういうところにとどまるかと思っていたら、その後、ものすごいメジャーな大作を作り出すようにもなって、そのへんが才能があるってことなんだぁ...って思いましたね。

これは本広や羽住(英一郎/「踊る」シリーズで助監督を務め、その後、「海猿」シリーズなどを生み出した)もそうだけど、でかいお金を背負わせても、そのお金の使い方、見せ方をしっかりと分かっているんですよね。どこにお金をかけるべきかってのをしっかり分かっていて、ちゃんとお金をかけているように見せてくれるし、使い切ってくれる。そういう部分は「踊る」から学び取ってくれたのかなと思いますね。 

本広:「踊る」に参加していた助監督たちは今では次々とヒット作を生み出しているけど、そういう部分は「踊る」から盗み取られたのかなと思いますね(笑)。金が掛かっている映画は画が動いていて、大きな一点に向かっていくとか。

亀山:僕がプロデューサーを"天職"だと感じるのは、自分で映画を撮ることはできないし、役者さんのように演じることもできないんだけど、「こういう企画があるんだけど」と周りをその気にさせることさえできればいい仕事だという部分なんですよね。それさえできれば最初の観客にもなれるし、ダメ出しまでできる。最高の仕事じゃないですか(笑)。

企画を通すだけでなく、作品を「いかに売るか?」こそプロデューサーの手腕の見せどころ!

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――企画にせよ、制作にせよ、"構図""枠組み"を作るということですね。

亀山:その企画をやりたいと思ったら、みんな企画書を作るけど、往々にしてみんな、その企画を実現すること自体が楽しみになっちゃうんですよ。でも、本当は出来上がった作品をどう売るかがプロデューサーの仕事なんです。僕は企画が通った瞬間から、ポスターのビジュアルから宣伝プランまで、頭に思い描いてやっています。映画は企画が通ったら、後はほっといても監督の世界観の中で完成するので、僕らはそれをどう売るかを考えなくちゃいけない。監督選びやキャスティングの段階で作品自体はほぼ決まっているわけですから、それを"当たる"映画にするのがプロデューサーの手腕なんです。

さっき「事件は現場で起きているんだ」ってセリフの話も出たけど、あのシーンに関しても本広に「ちゃんと宣伝で使える5秒くらいの画を撮ってこいよ」って言っていましたから。それこそプロデューサーとして「本編で使わなくてもいいから、こういう画を撮ってきてくれ」くらいのことを言いますからね、僕は。

WOWOWはもっと"バカっぽい"ドラマを作るべし!

――最後に、お二人のWOWOWに対する印象、今後、WOWOWはどういった作品を作っていくべきか? など提言をいただければと思います。

亀山:僕は同業者として、WOWOWさんはスポーツ、映画、音楽と派手にいろんなことをやってくれて、ドラマも非常に精力的に作っていらっしゃるなと感じています。今全部で4チャンネル? 僕なんて1波だけでも大変ですから、そう考えるとすごいですよね。

ただ、ドラマに関しては「もっとチャレンジしてもいいのに」とも感じています。それは重厚なものとかクオリティーが高いものという意味じゃなく、もっと"バカっぽいもの"、発想がユニークなものにチャレンジしてくれたらいいのになと思っています。

例えば韓国ドラマとか、発想がものすごいでしょ? そういうの、地上波はなかなか手を出せないでいるので、そういうところをやってほしいですね。結局、長く残っていく作品というのは、エッジが効いていてキャラクターが立っているものなんですよ。WOWOWさんは意外と原作ベースで忠実にしっかりと作っていく作品が多いように感じるけど、なかなか原作ものだとそこまでキャラクターを自由に立てられない部分もあるんですよね。

全豪オープンを見ていて、もちろんハイレベルな試合も見たいんだけど、やっぱり大坂なおみを見たいでしょ? 勝っても負けても。つまり"人"なんですよ。そっちにもっと特化した作品を作ってもいいんじゃないかなというのは同じBSの同業者として思っています。

最近、僕ら(ビーエスフジ)もWOWOWさんのマネをして、中島みゆきに特化して、彼女の魅力を工藤静香や柳葉敏郎が語るという番組(「輝き続ける中島みゆき」)を作りましたけど、そうやって"人生"が見たいんですよ、みんな。そういうのをどんどんやってほしいですね。

非常にクオリティーの高いドラマを作っているけど、ストーリーを大事にし過ぎているのかなと。まあ、今自分がドラマをやっていないから勝手なことを言えるんですけど(笑)。

「踊る」のスリーアミーゴスたちがやっている接待とかなんて、今の世の中だったらたちまち週刊誌の餌食ですよ(笑)。でもキャラクターが立っていて、彼らがやっていることって面白いでしょ?「半沢直樹」があれだけヒットしたのもそこだと思うんです。もし半沢が実際にいても、僕は絶対に友達になりたくない。青島もそう。よく聞かれたけど、僕だったら青島の上司にも同僚にもなりたくない(苦笑)。絶対にウザい。でもそれだけキャラクターが立っているから面白いんですよ。これまで自分が作ってきた作品を見ても、ヒットした作品は青島にしろ、久利生(「HERO」)にしろ、全部役名で呼ばれているんですよね。

「地上波では作れない、人間の汚さやえぐい部分を描くドキュメンタリーが見たい」

本広:僕は今TVはドキュメンタリーしか見ていなくて、実はドラマはほとんど見ないんですよね。今、よく見ているのは例えばフジテレビの「ザ・ノンフィクション」。東海テレビのドキュメンタリー(「さよならテレビ」「ヤクザと憲法」「人生フルーツ」など)もメチャクチャ面白いんですよ。それでも地上波だから、いろんな制限がかかっていると思うんですよね。WOWOWは有料チャンネルだから、もっと深いところまでいけるんじゃないかなと思うんですよね。そういう本気のドキュメンタリーを見てみたいですね。

亀山:実際、今BS局でヒット作を生み出せるのは、WOWOWさんくらいだなと思うんです。でも賞を狙いにいっているというか、キレイなんですよね。実際に日本民間放送連盟賞とか取るんですけど「そこじゃないだろ!」と思っちゃう(笑)。

本広:もっともっと人間の汚い部分とかを映してほしいんですよね。「ザ・ノンフィクション」はそういう部分も映してはいるんですけど、本当はもっとあると思うんです。実際、触れてはいけないようなものを見てみたいんですよ。カメラを向けられた人間が見せるリアルをね。

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道

マンスリー・シネマセッション : 「踊る大捜査線 THE MOVIE」本広克行監督×亀山千広プロデューサー
4/17(土)午後1:00 WOWOWシネマ/ WOWOWオンデマンド