演奏している空気を、そのまま映像で届けたい──監督&撮影監督が語る、WOWOWオリジナルライブ番組「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」
撮影監督 勝田正志/WOWOW制作局音楽部 プロデューサー兼監督 松井菜穂
4月18日放送の「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」。ユニコーンや斉藤和義等に続いてWOWOWのオリジナルライブ番組となる本作は、大橋トリオの世界観そのままに、温かく、柔らかな空気が映し出されている。プロデューサーと監督を務めるのは、WOWOW制作局音楽部所属の松井菜穂。全幅の信頼を寄せる撮影監督・勝田正志とともに挑んだ「コロナ禍の今、できること」とは──。
「音楽をやるならWOWOWだろう」と思って転職した
──松井さんは、2015年にWOWOWに入社する前はTBSのCSチャンネルで編成、制作に携わっていたそうですが、具体的にはどんなお仕事をされていたのでしょうか?
松井 当時、配属先には30人ぐらいしかいなくて、その30人で編成、制作、宣伝、営業と全部やっていたんです。私はその中で編成を担当していました。企画会議を行ない、24時間365日分の編成表に番組を埋める作業と、放送部にすべての番組の尺を計って伝えるという作業を4人でやっていたので、ものすごく忙しかったのを覚えています。
そんな中、制作のプロデューサーに「予算が足りないから、通訳として来てくれない?」と声を掛けられ、モルディブでのロケに同行したんです。コーディネーター兼通訳みたいな感じでしたが、それが制作に携わるようになったきっかけです。海上コテージに滞在していたんですが、海には一歩も入れず、朝日が昇る前から動いて、撮影が終わったら砂まみれの三脚とともにシャワーを浴びる、という制作デビューでした。
そのときに「編成よりも制作のほうが向いているんじゃない?」とも言われて。それからも何度かロケに駆り出されて、その後正式に制作へ移ったという経緯です。
──「制作のほうが向いている」と言われて、どう感じましたか?
松井 そもそも私は「自分が良いと思ったものを人に勧めたい」という気持ちでマスコミに就職したものの、番組を作りたいとか、ディレクターやプロデューサーになりたいという気持ちはなかったので、制作に移るというのは考えたこともなくて。「向いている」と言われて、初めて「そうなんだ」と思いました。いずれにしても、「人の役に立てたらいいな」とずっと思っていたので、「制作で役に立つなら使ってください」という感じでしたね。その姿勢は今も変わりません。
そうして5年ほど制作にいて、バラエティ、ドキュメンタリー、紀行番組、イベント、音楽ライブ番組と、いろんなジャンルに携わりました。なかでもライブ番組が好きだったので、「ライブ番組をもっとたくさんやりたい」とWOWOWに転職したんです。CSと比べても、WOWOWは圧倒的な数の音楽ライブ番組を手掛けていたので、「ライブ番組をやるならWOWOWだろう」と思いました。2015年に入社して以来、ずっと制作局音楽部に所属しています。
──大橋トリオの他、これまでabingdon boys school、EXO、ケツメイシ、米米CLUB、斉藤和義、さだまさし、SEKAI NO OWARI、髙橋真梨子、東方神起、TWICE、Nissy、浜崎あゆみ、平井堅、福山雅治、松田聖子、森山良子、WANIMA(50音順)といった方々を担当されてきた松井さん。音楽ライブ番組のプロデューサーとは、具体的にどんなことをやるのでしょうか?
松井 アーティストの事務所やレーベルにツアーの予定などをお伺いして、WOWOWがご一緒できるかどうかの交渉から始まります。ご一緒できると決まったら、収録に向けて撮影チームを招集して、予算管理をしながらWOWOWの番組として成立するように整える作業が主な仕事内容です。
基本的にはライブやツアーといったアーティストの予定がすでにあって、そこに撮影部隊がお邪魔して番組化するイメージですね。プロデューサーは収録日までにすべてを準備し整えるのが仕事で、収録後は番組化までまた忙しくなりますが、収録当日は......何かしらトラブルが起こったら対応するのと、おいしい差し入れを持って行くぐらいでしょうか(笑)。
勝田 松井さんの差し入れはピカイチですから、スタッフはみんな、松井さんが来ると大喜びするんです(笑)。
松井 差し入れってすごく大事だと思うんです。皆さん大変なお仕事ですし、1日中現場にいて外に出られないですから。おいしいものがあったほうがパワーが出るんじゃないかなと思いますし、私にはそれくらいしかできないなと思いながら差し入れを選んでいます。最近皆さんに喜ばれたのは......鎌倉のお菓子の"クルミッ子"ですね(笑)。
──今回の大橋トリオさんを起用したオリジナルライブ番組「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」では、松井さんが監督も務めています。WOWOWの社内で監督業まで行なうのは、珍しい事例だと思うのですが?
松井 そうですね。基本的にはプロデューサー集団の会社なので、普段だったら監督業は外に発注します。ですが、大橋トリオさんは前職のときからお付き合いがありましたし、勝田さんとも一緒にやっていたのと、今回は特にオリジナルライブということもあって、「絶対に勝田さんとやりたい!」と思いました。
2017年にもWOWOWで大橋トリオさんの10周年コンサートを生中継しましたが、そのときも私が監督をし、勝田さんに撮影監督をお願いしました。なので、WOWOWに入社してから監督業をやるのは今回で2回目で、ほかは基本的にプロデューサーとして携わっています。
できる表現が無限にあるから、音楽を撮るのが楽しい
──勝田さんはSMAPやJUJU、ケツメイシ、SEKAI NO OWARIをはじめ、アーティストのライブ映像やミュージックビデオの撮影監督を数多く務めていますが、どういった経緯で今のお仕事に携わるようになったのでしょうか?
勝田 32年前になりますが......最初は日本テレビのスタジオで働いていたんです。すごく良い経験をさせていただいたし、勉強にもなりましたが、僕はどうしてもスタジオの中にいるのが苦手で。「僕を外に出してくれ」と上司に直談判して(笑)、情報番組やドキュメンタリー、バラエティ、スポーツといったほぼすべてのジャンルでロケや中継に携わりました。
その後、フリーランスになるんですが......学生時代からTVKの「Live TOMATO」といった音楽番組の現場に助手として携わっていたので、音楽の仕事がやりたいなと思っていたんです。それで徐々に音楽の仕事が増えていって、1990年代にはglobeやMr.Childrenのコンサートにカメラマンとして参加するようになりました。
──ゆずとのお仕事も長いとのことですが?
勝田 そうですね。1999年からずっと一緒にツアーを回っています。2012年にデビュー15周年を迎えたゆずのアリーナツアー「YUZU ARENA TOUR 2012-2013 YUZU YOU ~みんなと、どこまでも~」ファイナルをWOWOWで放送しましたが、そのときは撮影監督として参加しました。
それまで僕はずっとカメラマンとして参加していて......もちろん、ほかのアーティストのライブでは撮影監督もやっていましたが、ゆずに関してはこれが初めてでした。SMAPに関しても、2002年からカメラマンとしてツアーに参加していて、途中から撮影監督をやっています。なので、思い入れは格別ですね。
──撮影監督というのは、どのようなお仕事なのでしょうか?
勝田 プロデューサーや監督、レーベルから依頼がきて、まずはカメラ席の確保(撮影で使う席には観客を入れられないため、あらかじめ座席表を潰しておかなければならない)から始まります。それから監督をはじめ、みんなで撮影の演出を考えていきます。そうして決まったことに対して、機材の選択やクレーンなどの特殊機械の確保、それから人集めを行ないます。不確定要素も多いので、経験がものをいう部分もありますね。
──撮影当日までの準備作業が多いというのは、松井さんがおっしゃったプロデューサー業と似ていますね。
勝田 そうですね。ただ、もちろん準備はちゃんとやりますが、完璧にやりすぎるのではなく、ある程度余力を残しておいて、本番の空気の中で作っていくことが僕は多いです。
松井 本番でカメラマンさんに出す勝田さんの指示がすごく好きで。「その画さっき見たよ。もっとほかの画が撮れるでしょ?」みたいな感じで声を掛けるんです。そう言われると、カメラマンさんは燃えるんでしょうね。「俺、こういうのも撮れます」みたいに、みんなが競争していくのが分かるんです(笑)。その様子が楽しくて、いつも「勝田さん、すごいなあ」って思います。怒ったり怒鳴ったりせず、「期待してるからね」っていう感じが伝わってくるんですよね。
勝田 みんなの一番いいテンションを本番に持っていってあげたいし、みんなの良いところをちょっとでも多く引き出してあげたい。だから、「リハーサルではあんまり飛ばさないで、本番にとっておいてね」って言うんです(笑)。みんなが本番でベストなものを発揮できるように、準備段階ではいい環境を作ることに専念する。撮影監督は本番でみんなの士気を高める役割もあるし、「俺が見守ってるから大丈夫だよ」と、みんなを安心させる役割もあると思うんです。
──お二人とも「音楽番組をやりたかった」とのことですが、音楽にしかない魅力みたいなものがあるのでしょうか?
松井 私はもともと「音楽がすごく好き」というタイプではなかったんですが、勝田さんと一緒に行った韓国の音楽フェスで、強烈な体験をしたんです。有名になる前のBTSがライブをしていて......2曲はテレビでも放送するから、カメラマンさんは全員カメラを回していましたが、残りの1曲は会場に来たお客さんに向けてのものだったので、韓国のカメラマンさんたちはカメラを回していなかったんです。
でも、勝田さんは「あの子たち、すごいカッコいいじゃん!」って言いながらカメラを回していて。どこにも出ないその映像が、ものすごくカッコよかったんです。今でも思い出せますが、本当に私の心にガン! ときた映像でした。そのときに初めて「この画を編集して、人に見せたい。この人が撮る画を多くの人に見てもらいたい」と思ったんです。それまでは映像に対してそんなふうに思ったことはなかったし、監督になりたいとも思っていなかったんですが......それぐらい、すごい画でした。
だから、私の場合は「音楽番組をやりたい」というよりも「ライブ映像を届けたい」という想いでやっている感じですね。「このアーティストの音楽が好きだから」というよりは、どんなアーティストでも「ライブ映像を通すことで、より、アーティストを好きになれる可能性がある」という想いがある。それはもしかしたら舞台だったかもしれないし、スポーツだったかもしれないけれど、たまたま強烈な体験をしたのが勝田さんの音楽ライブ映像だった、という感じです。
勝田 うわ~、ありがたいし、うれしいです。どんな映像を撮ったのか、僕は覚えてないんですけど(笑)。
松井 ははは! とにかくすごかったんです。
──勝田さんはドキュメンタリーやバラエティ番組をひととおり経験したなかで、音楽番組をやりたいと思った理由は何だったのでしょうか?
勝田 自分に合っていると思ったからです。テレビの番組って「撮ること・撮るもの」がハッキリしていて、「今はこれを見せないといけない」とかって算数的なんです。その点、音楽は国語っぽいというか......答えが一つではなく、いろんな表現の仕方ができると僕は思っていて。撮影者によって、いろんな表現がある。カメラマンというのは表現者なので、そういった音楽の自由さに魅力を感じますね。
もちろん、ライブとミュージックビデオの違いはあります。ライブはドキュメントで、ミュージックビデオはドラマみたいなイメージですが、それでもやっぱり、できる表現が無限にある。そういったものを作り上げていく楽しさが、音楽の一番の魅力だと僕は思っているんです。
窓越しでの撮影、情景だけで音を表現。初めて尽くしのオリジナルライブ番組
──大橋トリオさんを起用したオリジナルライブ番組「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」をWOWOWで放送することになった経緯について教えてください。
松井 先ほどお話ししたように、WOWOWのライブ番組というのはアーティストのライブにわれわれがお邪魔して、収録して、番組化することが多かったんです。でも、新型コロナウイルスの影響で、多くのアーティストがツアーやライブができなくなりました。そういった状況のなか、「WOWOWで何かやれることはないか?」と考え、何組かのアーティストに「オリジナルなことを一緒にできないでしょうか?」とお声掛けしたんです。
そうしたら、大橋トリオさんから「プライベートな空間として、自宅でライブをやるのはどうでしょう?」とご提案があって、「ぜひ!」ということになりました。ただ、下見に行ってみたら......とても素敵なお家で、住むには十分広いんですが、「ここにアーティストが6人入って、カメラも入るんだろうか?」と。
勝田 僕も一緒に行きましたが、「えーっと、ここでやるんだよね?」と何度も念押ししちゃって(笑)。
松井 それでも、やると決めたからにはやるしかないと思ったので、覚悟を決めて、勝田さんに「ここで一緒に撮影したいです」とお伝えしました。「自分が監督をやるときの撮影監督は、絶対に勝田さん」と決めていて、勝田さん以外には考えていないんです。
──というのは、先ほどのお話に出てきたような"すごい画を撮る"方だからでしょうか?
松井 もちろんそれもありますが、私のふわっとしたイメージを具現化できるのは、勝田さんしかいないんじゃないかと思って(笑)。
勝田 僕はいつも「監督は抽象的でいいので、イメージを言ってください」と松井さんにお伝えしているんです。松井さんのふんわり描いている世界観を、映像にするのが僕の仕事ですから。
松井 今回で言うと、「キラキラ、ふわふわ」とか「シャボン玉が~」とか(笑)。それぐらいざっくりしたイメージをお伝えするので、たぶん困っていらっしゃると思うんですが(笑)、「分かった、キラキラね!」って力強く返してくださるので本当に恥ずかしい気持ちなく、言いたいことを言えます。
勝田 監督さんによっては「照明はこんな感じ、カットはこういうイメージ」とかって、海外の素材をたくさん送ってくださる方もいますが、松井さんみたいに抽象的なイメージをお伝えいただいて、映像にしていくのも楽しいですね。
──大橋さんから自宅ライブを提案いただく前は、松井さんの中ではどんなイメージがあったのでしょうか?
松井 前回、WOWOWで大橋トリオさんのライブを生中継した際、「すごい広い空間に、大橋さんがぽつんと居るような画がほしい」と勝田さんにお話ししたんです。そうしたら、ミニチュアみたいに撮れるレンズを用意してくださって、二階席から大橋さんを撮影して。
2017年12月に生中継した「大橋トリオ 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT "TRIO ERA"」
シフトレンズを使用して撮影
そのときの画がとても好きだったので、今回もそういった世界観がいいんじゃないかと思っていました。
大橋さんの歌詞には自然に関する言葉もたくさん出てくるので、「森の中で撮影できればいいな」とも思っていましたが、実現するにはいろいろとクリアしないといけない問題があって。でも、結果的には自然が豊かな空間で撮れたので、最初に描いていた世界観からは遠くないものが表現できていると思います。今回の番組にも「みんなが森の中にいる」ようなシーンも入っているのでぜひ探してみてください。
──先ほどお話に出てきたように、広さとしてはギリギリだったとのこと。カメラの位置など、いろいろと工夫されたのではないでしょうか?
勝田 そうですね。最初に下見したときは「ちょっとハードルが高いな」と思いつつ、「さあ、どうやって作り上げていこうか」と燃えました(笑)。カメラを入れる場所も限られているし、カメラマンが入れないので、「窓越しに撮ってみたらどうだろう?」と思ったんです。僕自身、初めての試みでしたし、絶対にいつもと違うものが撮れるだろうと。案の定、大正解でしたね。
松井 大正解でした!
窓の外のポジションのカメラマンが撮影
勝田 それと大橋さんの音楽って1曲1曲がストーリーになっていて、独特な世界観があるんです。そのストーリーに、見ている人たちが吸い込まれるような映像にしたいという想いが僕らの中にあって。それで、情景を撮るカメラを1台用意したんです。
メインのカメラは演奏する様子を撮っていますが、1台のカメラだけは景色とかを撮っている。大橋さんが音を奏でているのを撮っているわけじゃないけれど、「音を感じるような画を撮ってほしい」とカメラマンにお願いしました。
松井 大橋さんが演奏している様子を映した画からはもちろん音が感じられますが、大橋さんを映していない画からも、大橋さんの音を感じられるようなものを撮ってほしいと。それは一体どんな画なのかっていう答えはなくて、カメラマンさんのセンスにかかっているという(笑)。
カメラマンのセンスあふれる情景カット
勝田 木漏れ陽とか、揺れる菜の花とか......通りかかった猫を撮るときにも"音を聴きに来た猫"のような視点で撮ってほしいとか。かなり大変だったと思います。なので、本当に今回は演奏している様子を窓越しで2台のカメラが撮るとか、情景で音を伝えるとか、初めての試みが多かったですね。イメージはすごくあったんですが、「そこまで思い切ってやっちゃっていい?」って相談して。
光の中揺れる菜の花
番組の演出として花やグリーンは松井が担当
松井 「いいですよ。やりましょう!」って(笑)。以前、監督をやったときに「ライブ映像においては、アーティストを正面から捉えた画が一番よくて、バックショットは"逃げのショット"だ」と言われてバックショットを差し替えられたことがあって。私は少し変わった画のほうが好きなところがあるので、私の編集の仕方で、それを"逃げのショット"に見せてしまったことをずっと悔しく思っていたんです。
「どこのポジションから撮ろうと、逃げのショットなんかない」と私は思っているので、後ろから撮っても「良い」と思えるものが見つけられる人にカメラをお任せしたいなと思うんです。勝田さんは、ちゃんとそういうカメラマンさんを絶妙なポジションに配置してくださるんですよね。
今回も「どこに忍び込んだの?」と思うようなところにカメラマンさんを配置して、ほかでは絶対に見られないような角度からの画を撮ってくださいました。そういうところがすごく好きで。今回はそういったことの集大成になっていると思います。あんな角度からの画は......泥棒に入った人ぐらいしか見られないと思うので(笑)。
室内外にいる4人のカメラマンがうつっている。窓に映り込む緑や、反射する光を取り入れて撮影した
撮影:平野タカシ
勝田 ははは! 松井さんとは共感しあえるところが昔から多かったよね。同じ感覚で、同じ価値観でものづくりができるんです。今回も「大橋トリオさんが演奏している、その場の空気を丸ごと伝えたい。そのためにはどういう画にするか」っていうイメージが、ほとんど同じだったから。
松井 「"写真集から音がする"ような映像がほしい」っていうお話をして。パッパッと映像が切り替わらなくても、見た後にすごく幸せな気持ちになれるような映像ですね。なるべくワンカメでいきたいというお話もしていたので、カメラマンさんは意識して撮影してくださったと思いますし、実際10分ほどの長尺の曲でほぼワンカメで構成できた曲もありました。編集中に息をのむほどだったので、ぜひ見ていただきたいです。
勝田 「俯瞰したら、絵本の1ページになっている」というイメージだったので、普段のコンサート会場で使うようなズームレンズではなく、空気を伝えられるようなレンズを選んで。2曲だけ屋外で演奏したのも、いいスパイスになっていると思います。照明部と前日に日の傾きを計算して、「絶対にこの時間内で撮影しましょう」と決めて。最高の天気だったし、ロケーションも良くて、すごくいい画が撮れました。
収録時の様子
やることが多いからこそ、できることも多いWOWOWという会社
──2015年に入社され、これまで多くのライブ番組を手掛けてきた松井さん。あらためてWOWOWとはどんな会社だと感じていますか?
松井 私は音楽部のことしか分かりませんが、まず、プロデューサーがやることがすごく多いという印象でした。例えば、宣伝まわりのことでも(プロモーション部が事務所に直接確認をとるのではなく)プロデューサーを介して事務所に確認をとったりするので番組制作以外の部分で任されるものが多いとは思いましたが、「だからこそ、できることも多い」と今では考えられるようになりました。
例えば今回は蔦屋書店(代官山、奈良)で展示会をやるんですが、これはプロモーション部が提案し、進めてくれました。
代官山 蔦屋書店と奈良 蔦屋書店でライブ写真の展示やグッズ販売など展示会を開催
WOWOWのオリジナルライブってまだまだ認知度が低いので、まずはたくさんの人に知ってもらうことが必要だと思っているんですが、プロモーション部の堤口敬太さんに相談したら、すぐに色々動いてくれて。彼は毎回新しいアイデアとともに全面的に協力してくれるので本当にありがたいです。あと、技術的に新しいこともやってみたいと以前から技術企画部に相談もしていて、今回は制作技術部の戸田佳宏さん、技術企画部の蓮尾美沙希さんと一緒に3Dオーディオという形でそれが実現しました。
3Dオーディオを担当した蓮尾(左上)戸田(左下)、イベントを企画した堤口(右)
3Dオーディオの端末、展示スペース
また、今回の番組用にファンの方々からのリクエスト楽曲を募ったんですが、CR部がアンケート作成に動いてくれたり、今回ではありませんが、「番組のオリジナルグッズを作りたい」と言ったらWOWOWコミュニケーションズの人たちが動いてくれる。そうやって、番組制作じゃない分野に関して、声を掛けたらみんながすぐに力を貸してくれるんです。だから、プロデューサーが任されることは多いけれど、想いさえあれば、できることもたくさんある会社だと思います。アーティストに「WOWOWと組んだらこんなことができる」と思ってもらえるような武器を、会社全体でそろえていけるイメージですね。
──エンターテインメントに携わっている中、コロナ禍を経て仕事に対する考え方に変化はありましたか?
松井 「今だからできることがあるんじゃないか」と考えながら番組企画を立てるようになりましたし、以前よりもさらに「アーティストの方たちの役に立ちたい」と思います。今回だけ一緒に何かをやることがゴールではなく、その先もまたご一緒したいし、頼りにされたい。「WOWOWと一緒にこんなこと、あんなことしたいよね」と思ってもらいたい。ライブの現場が減っているのは寂しいですが、マイナス面ではなくプラス面を考えたいと思っています。
勝田 僕らのような"撮る立場"から言うと、お客さんを入れずにライブを配信することが増えたので、撮影のスタイルが変わりましたよね。今後もそれは一つのスタイルとして残るんじゃないかと思っています。ただ、やっぱり難しい部分もあって。お客さんがいないので、「歌番組と同じになってしまうんじゃないか」といった怖さが最初は特にありました。今も、いろいろと模索しながら撮っている感じです。
──コロナが落ち着いたら、チャレンジしてみたいと思っていることは?
勝田 ずっと思っているのは......ズームで動かすカメラじゃなくて、単焦点のカメラだけでライブを撮りたい! それがハマるアーティストって限られてくると思いますし、広すぎる会場ではできないんですが、いつかはやってみたいです。1枚1枚の画にこだわりながら。
──映画を見るような映像になる、ということですね。
勝田 そうです! 映画で使うレンズですね。海外だとU2とかがやっていますが、日本ではなかなかハマるシーンに巡り合えないので。すごくやってみたいですし、できたらうれしいなと思います。
松井 私はWOWOWオリジナルのライブを増やしたいです。アーティストの方たちもすごく楽しんだり、喜んでくださるし、ライブにお邪魔して撮るよりも"一緒に作っている"感が強いので、自分としても楽しいですし、関わっているスタッフも楽しそうにしているのがうれしくて。ツアーのライブ収録よりも予算が必要なのでなかなか難しいとは思いますが、少しずつでも増やしていき、「WOWOWでしか見られないライブがすごいらしいよ」といつか話題になったらうれしいなと思います。
──それでは最後に、ご自身にとってお仕事をするうえでの「偏愛」や、大切にしている哲学を教えてください。
松井 WOWOWに入社するときに「どんなプロデューサーになりたいですか?」と聞かれて、「みんなに愛されるプロデューサーになりたいです」と答えたんですね。演者さんからはもちろん、スタッフさん含め、全方位から「松井の現場だったら行きたい!」と言ってもらえるような人になりたいと思っているんです。それは今も変わらず......実際にできているかと言ったら難しいんですけど(笑)、そう在るためにも、自分の仕事をずっと好きでいたいと思っています。
あと、編集作業をしているときに、いい画があると感動して泣いてしまうんです。それって珍しいみたいで、「え? そんなことあるの!?」って周りにすごい引かれて(笑)、「あれ? 私ってちょっとズレてるのかな?」と思ったんですが、だったらそれは"偏愛"と言えるんじゃないかなって。それぐらいライブ映像が好きで、これからもたぶん、ずっと好きだろうなと思います。
勝田 僕は、とにかく"楽しく"かな(笑)。
松井 そうですね! 怒号が飛ぶ現場も珍しくないのに、勝田さんの現場にはそれがなくて、"楽しさ"がたくさんあります。
勝田 楽しくやりたいので、空気感を大事にしています。現場スタッフを何十人、何百人も束ねるうえで、それが一番大事だと僕は思っているので......どんなにキツい現場でも、みんなが楽しくできるような雰囲気にしたいなと思います。
というのは撮影監督としての話ですが、いち撮影者としては、やっぱり「Don't think, feel.」かなあ。考えるよりも感じる、感覚的なところを一番大切にしていきたいですね。
インタビュー/とみたまい 撮影/祭貴義道
撮影:平野タカシ
心にじんわり染みる大橋トリオのWOWOWオリジナルライブ番組。豪華なメンバーとプライベートな空間で奏でるスペシャルなライブをお届け。
2021年4月18日(日)夜6:00 WOWOWライブ、WOWOWオンデマンド
■大橋トリオ X THE CHARM PARKスペシャル対談
2人の対談映像をWOWOWオンデマンドで配信中
■大橋トリオ×THE CHARM PARK Special Exhibition supported by WOWOW
代官山 蔦屋書店と奈良 蔦屋書店でライブ写真の展示やグッズ販売などスペシャルな展示会を開催!
※詳細は蔦屋書店のサイトでご確認ください。