2022.08.04

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WOWOWがブロードウェイミュージカル『ジャニス』を製作する意義! "和製"でも"コピー"でもない「日本ならでは」のミュージカルを!

WOWOW事業部 大重直弥/総合プロデューサー 亀田誠治/ 主演 アイナ・ジ・エンド

WOWOWがブロードウェイミュージカル『ジャニス』を製作する意義!

唯一無二の歌声を武器に音楽シーンに登場し、アメリカの音楽史を変えた女性ロックシンガーであり、1970年に27歳で急逝したジャニス・ジョプリン。彼女が“亡くなる1週間前の一夜のコンサート“をコンセプトにジャニスの音楽人生を描き出すブロードウェイミュージカル『ジャニス』が8月23⽇、25⽇、26⽇の3日間にわたり東京国際フォーラムにて上演される。

総合プロデューサーを務めるのは、椎名林檎、スピッツ、いきものがかりなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手掛け、自らもベーシストとして東京事変に参加するなど多彩な活躍を見せる亀田誠治。孤独を抱えた歌姫・ジャニスを“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーで、本作がミュージカル初主演となるアイナ・ジ・エンドが演じる。

WOWOWにとっては、初めてブロードウェイミュージカルのローカライズ(日本版制作)を手掛けることになる本作。歌稽古が始まったばかりの7月上旬、亀田誠治総合プロデューサー、アイナ・ジ・エンド、そしてWOWOW側のプロデューサーである大重直弥に本作への想い、WOWOWがミュージカルを手掛けることの意義などについてたっぷりと語ってもらった。

亀田誠治がミュージカルに感じる可能性、アイナ・ジ・エンドがBiSH解散前にミュージカル初主演に挑む理由


――そもそも、どのような経緯でWOWOWが主幹事を務め、ブロードウェイミュージカルのローカライズを行なうことになったのでしょうか?

大重 2019年の冬にニューヨークに出張に行き、ミュージカル関連の会社を訪問したんですが、そこでミュージカルのフォーマット販売の提案を受けたのが始まりです。
当時僕自身もWOWOWもミュージカルのローカライズをいつかやりたいと思っていました。出張後社内で話し合い、亀田さんにお声掛けをして「YES」のお返事をいただいてから本格的に動きだしました。

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――亀田さんが「総合プロデューサー」を務めることになった経緯についても教えてください。

大重 WOWOWにとってはローカライズも初めてで、そもそも「総合プロデューサー」のポストが必要かもよく分かっていませんでしたが、『ジャニス』は主人公のジャニス・ジョプリンだけでなく、アレサ・フランクリン、ニーナ・シモン、オデッタ、エタ・ジェイムス、彼女らアーティストに対する音楽愛にあふれていて、しかも扱うのが1960年代の音楽ということもあり、音楽面で一緒に進めてくれる方が必要だと思い、亀田さんにお声掛けしました。

亀田 僕はお話を聞いて、チャレンジしたいなと思いました。WOWOWさんにとってローカライズは初めてで、僕もミュージカルの作曲と音楽監督の経験はありましたが、総合プロデュースまで手掛けるのは初めてのこと。これまでやってきた映画音楽やミュージカルに関わる仕事が、ここで一つになって「つながっていく」確信が持てたというのがまずあります。

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それから、アイナさんのソロプロジェクトが始まった時期で、ちょうどアイナ・ジ・エンドのアーティスト、ボーカリスト、表現者としての"地力"みたいなものを感じていて「ものすごい世代が現われた!」と思っていたんです。『ジャニス』の話が来たとき、アイナさんがジャニスをやることで、一本の"筋"が通るような感覚を抱きました。

ジャニスはたくさんの人に愛され、愛されてきた歴史も長く、個性的なミュージシャンであるからこそ「ジャニスっぽい」とか「和製ジャニス」といったキーワードでこれまでにもたくさんの人や作品が売り出されてきました。そこと完全に切り分けた、2022年の新しいミュージカル――日本オリジナルの『ジャニス』を作りたい気持ちが芽生えて、そこから半年くらいはずっとそのためにディスカッションをしていましたね。

――アイナさんは以前からずっとミュージカルに憧れを抱いていたそうですが、ジャニス役のオファーをどのように受け止めましたか?

アイナ もし亀田さんがいなかったら、受けていなかったと思います。BiSHの解散が決まって(※2023年をもって解散することが2021年の12月に発表された)、この1年はとにかくBiSHのことに集中したくて、ソロのプロジェクトに関するお話でもお断わりすることもあったし、「BiSHに集中しよう」と自分の中で決めた矢先にお話をいただいて......。正直、「やりたい」気持ちしかなかったんですけど、BiSHのメンバーとか、迷惑をかける人がいるんじゃないか? と考えたりもしました。

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でも、この作品で私が成長することでBiSHに還元できるものが必ずあるはずだという"確信"があって、それは亀田さんの存在があったからなんですけど、それで「やりたいです」とレーベルの方たちにもお願いして、やらせていただくことになりました。

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BiSH

――子どものころからの憧れだったというミュージカルに初めて主演することになります。

アイナ そうなんですよね。どんなにオーディションを受けても役がもらえないのが当たり前だったんですけど、セリフがあって、歌が歌えるなんて......本当に夢が叶った感じです。

亀田 オーディションとか受けてたんだ?

アイナ 受けてました。中学のころ、ミュージカルスクールに通ってて......。

亀田 そうなの!? それは今初めて聞きました! それは本当に「夢叶ったり」だね。そういう話を知った上で、アイナさんにオファーしたわけじゃなく、"和製ジャニス"じゃない新しいジャニスを作ること、アイナさんの歌声、"生きざま"を音楽に投影することができる若い世代の人と一緒にやりたいと思った中で、アイナさん一択だったんだよね。

――亀田さんはベーシスト、そして音楽プロデューサーとして多ジャンルで活躍されていますが、新たにミュージカルに挑戦してみようと決断した理由を教えてください。

亀田 僕はミュージカルが大好きで、コロナ禍になるまでここ10年ほど、毎年1カ月はニューヨークに滞在してブロードウェイを見あさって、2週間ほどロンドンに行き、ウエストエンドでミュージカルを見あさることを"充電"と称してやってきてたんですよね。

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ミュージカルって本当の意味で"総合芸術"なんですよ。良い脚本、良い演出、良い曲、良いキャスト......いろんな要素があって、たくさんの人間が集まって作り上げられていて......。僕はそんな「音楽の素晴らしさをみんなで分かち合う」ミュージカル文化を日本でカジュアルに肩肘張らないエンターテインメントとして広めていきたいと、ずっと思っていました。

そんな話をあちこちでしてると、話が来るようになるんですね(笑)。まず、映画のサントラを任せていただける機会が多くなって、ついに去年、森雪之丞さんの脚本、僕が音楽を担当してロック・オペラ『ザ・パンデモニアム・ロック・ショー ~The Pandemonium Rock Show~』(演出:河原雅彦)をやらせていただきました。

それから今回、初めて「総合プロデューサー」を務めますが、初めてのことに挑戦したい気持ちもすごくあります。今58歳ですが、30年近くプロのミュージシャンとして仕事をしていく中で「自分をアップデートしていきたい」という想いがあるんです。それは最新の音楽に自分を当てていくという意味ではなく、音楽の良さを伝えていくために自分に何ができるのか? を考えて活動していきたいなと。

その中で僕はミュージカルに大きな可能性を感じています。しかも今回、アイナさんをはじめ、素晴らしいキャストのみなさんとご一緒できて、僕たちにしかできないミュージカルが作れるんじゃないかという想いがあります。



2208_janis_JJ_5p_0706.jpgPhotographed by Leslie Kee
左から長屋晴子(緑黄色社会)、UA、アイナ・ジ・エンド、浦嶋りんこ、前列:藤原さくら

みなさんの助けを借りながら作っているんですけど、それも含めて自分で言うのもなんですが(笑)、ここまで自分が歩んできた道のり、その積み重ねを経て、ミュージカルというものが、最も自分の力を発揮できる場になってきていると感じています。

ここまで自分が経験してきたすべてを注ぎ込むことができるのがミュージカルであり、そこにたまらない魅力を感じています。

――亀田さんを「総合プロデューサー」に迎えた中で、大重さんはWOWOW側のプロデューサーとして今回の作品においてどのような役割を担われているんでしょうか?

大重 プロフェッショナルなみなさんがいらっしゃって、亀田さんは総合プロデューサーであり、バンドマスターでもありますし、アイナさんをはじめとする素晴らしいキャストのみなさんもいるし、演出、歌唱指導......さまざまなスペシャリストのピースはそろっているので、僕はうまくピースをはめて、"ガワ(=外枠)"を作ることが、一番の役割かなと思います。

ただ、ガワを作って後はお任せするのではなく、もう一歩踏み込んで、一緒に中身を作っていくスタンスでいます。

日本の観客にジャニスの生きざまを届けるために、あえてオリジナルに変更を加える勇気

――先ほど、亀田さんが「半年ほどディスカッションをした」とおっしゃっていましたが、日本版『ジャニス』のコンセプトはどのように決めていったのでしょうか?

亀田 まず「作品を届ける」点で一番難しさを感じたのが、"音楽のバトンリレー"の部分で「リズム&ブルースがあり、カントリーがあって、そこからロックが......」みたいな音楽の伝承文化、歴史が日本人にはなかなかなじみがなく、届きづらいだろうと思ったんですね。

そこで僕が考えたのが、アイナさんもそうだし、UAさん(アレサ・フランクリン)、藤原さくらさん(オデッタ)、長屋晴子さん(エタ・ジェイムス)浦嶋りんこさん(ニーナ・シモン)......全員に言えることなんだけど、それぞれの役を演じる人たちのパーソナリティーが舞台に反映されていくようにするのがいいんじゃないか? ということ。

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オデッタ&ベッシー・スミスの2役を務める藤原さくら

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ニーナ・シモン役の浦嶋りんこ


もう一つ、オリジナル版で見られる迫力満点にグワーッと歌い上げて盛り上がっていく感じは、日本のお客さんにとってはある意味過剰で、日本人のフィジカルやメンタルでそこに挑戦しても単に消耗してしまって結局モノマネ、フォロワーになってしまい「届かない」ことになってしまうんじゃないかと。

だから、そこに関してはキッパリと捨てて、日本人にしか出せない良さを出しつつ、でも"音楽の伝承"に関しては、すべてのものには種があり、それが花となって咲き、花が枯れても種が残って次の世代に伝わっていくことを大事にしようと。そのことについてずっと話し合っていた気がします。
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大重 僕が印象的だったのが、最初の段階で、亀田さんが「WOWOWはどういうふうにこの作品を世の中に広めていきたいんですか?」と尋ねられたことなんですね。

先ほども話しましたが、僕も亀田さんも肩書きは"プロデューサー"ですが、僕は「"場所"を整えるひと」であり、亀田さんは「もの作りをするひと」なんですね。僕は当初「ブロードウェイで上演された通りにどうやろうか?」という意識がすごく強かったんです。でも亀田さんがずっとおっしゃっていたのは「WOWOWはどうしたいのか?」ということでした。

亀田さんのその言葉で、僕は「あぁ、そうか。これはゼロイチ(=0から1を新たに作り上げること)なんだ......」と感じて、それは亀田さんのおっしゃった「和製ジャニスではなく」にもつながっていきました。

WOWOWと亀田さんで決めたコンセプトが三つあるんですが、そこに至るまでの前段階の話し合いは「ものをつくるとは?」で、非常に贅沢な授業でしたね。「僕は今から、模倣ではなくものを作るんだ!」と強く思うようになりました。

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――そこで決めた三つのコンセプトはどういうものだったんでしょうか?

大重 まず少し上の世代の人たち――「アイナ・ジ・エンドは知らないけど、ジャニスは大好き!」な人たちに「あぁ、今の日本の若い世代にこんな素晴らしいシンガーがいるのか!」と気付いてほしい。逆に「ジャニス・ジョプリンって? よく分かんないけど、アイナ・ジ・エンドが出るなら見に行こう」という若いファンには、こういう歴史があって、今の音楽につながってるんだと感じてほしい。

つまり、WOWOWは洋楽も邦楽も放送していいますが、ミュージカルというリアルイベントに足を運んでくださる人たちに、音楽的な文化がちょっとでも広がればいいなということが第1のコンセプトです。

それから、ジャニスの生きざまは、今の時代にも通じると思うんです。信念を貫いて少しでも世の中を変えた人がいるということを伝えたいなと。それが第2のコンセプトです。

そして、この作品はボーカリストが全員女性なんですね。いまだに日本では「女性の社会進出が......」と言われていますが、エンターテインメントを通じてあらためて、今を生きる女性シンガーたちのかっこ良さを感じ取ってもらいたい。それが第3のコンセプトです。

――アイナさん以外のキャスティングはどのように決まったのでしょうか?

亀田 幸運なことに僕は、音楽プロデューサーとして現場で関わる以外にも、ラジオ番組やフェスなどでさまざまな人との出会いがあって、アーティストの方たちのパーソナリティーに触れる機会が多かったんですね。今回のキャスティングに関しては、そうした僕自身のこれまでのあらゆる経験が投入されています。

先ほども言いましたが、日本版を作る上で、声質はもちろんですが、キャストのみなさんのパーソナリティーを大切にしようと。そこは僕自身が、"肌感"で持っているものを大事にしつつ、例えばエタ・ジェイムス役の長屋さんに関しては、彼女が歌っている姿を生で見て「長屋さんがいいんじゃないか?」とインスパイアされたりもしました。

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エタ・ジェイムスを演じる長屋晴子(緑黄色社会)

そうした経緯も含めて、僕の中でよどみなく最新の最高のチームが作れた感覚があります。

もう一つ幸運なことに、僕はインデペンデントプロデューサーという立場で今までずっとやってきたので「この事務所は......」とか「この人はNG」とか、そういうしがらみや縛りがないんですよ。「音楽業界のスイス」と呼ばれているくらい(笑)。

大重 永世中立国(笑)。確かにそういうのは一切なかったですね。

亀田 だから純粋に「この役はこの人のお願いしたい」と思ったまま、ひとりひとり提案して、決めていきました。

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『ジャニス』そのまま! アイナ・ジ・エンドにとってのUA とは?

――アイナさんは共演陣について知らされたときはいかがでしたか?

アイナ リョクシャカ(緑黄色社会)の晴ちゃんは、フェスや自分たちのライブで共演したり、一緒にお肉を食べたり、花火をして遊んだりもしたことがあって、(長屋さんの出演が決まって)気負いがちょっとなくなりましたね。全員女性であることも含めて、みんなで最高のものを作れるんじゃないかって思いました。

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エタ・ジェイムス役の長屋晴子(緑黄色社会)

――長屋さん、藤原さんといった同世代の共演陣に加え、ジャニスに多大な影響を与えるアレサ・フランクリンをUAさんが演じることについてはどのように感じましたか?

アイナ 私が亀田さんに出会う前、 MONDO GROSSOとUAさんがコラボレーションされた曲「光」をカバーさせていただいたんですけど、ライブで緊張しすぎてイヤモニ(イヤーモニター)を入れるのを忘れてしまいまして(苦笑)、始まってから「あれ? 何も聴こえない!」ってなって「ヤバイ!」って震えながら歌いました。

UAさんの曲は幼少期から、母親が車でかけているのを聴いていたし、なんならUAさんの息子さんの村上虹郎くんと同世代ですから、私にとってはレジェンドです。そういう意味で、ジャニスにとってのアレサとの関係と似ている部分もあるのかなと思います。そんなことも考えられないくらい、緊張する存在ですね。



2208_janis_481_0706.JPGアレサ・フランクリン役のUA

亀田 これはいい話だよね。もちろん、そんなエピソードは知らずにキャスティングしてるんだけど。

アイナ イヤモニ忘れただけでなく、緊張しすぎて同じ歌詞がループして同じ箇所を2回歌ったこともあるんですよ(苦笑)。今度の公演ではそういうことがないようにします(笑)!
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――既に歌稽古が始まっているとのことですが、ここまでの手応えや苦労、醍醐味を感じていることについて教えてください。

アイナ 不安と安心が同じくらい、稽古終わりにやってきます(笑)。これまで亀田さんとお仕事をしていたときは、レコーディングが終わると安心感があったんです。「今日もやり切れたな」って。でも今回は、稽古が終わるたびに「ヤバイ! できない!」って(苦笑)。

歌唱指導の森大輔先生にも、歌稽古であんなに(見本のために)なん度もなん度も歌っていただいて......。大重さんも稽古の間、ずっといてくださって......。これ大重さん本人にも言ったんですけど「サラリーマンってこんなことまでするんだ?」って(笑)。すごく熱心に発音のこととかも言ってくれたり、ジャニスにまつわるDVDを薦めてくださったり。

そういうのも含めて、いろんな固定観念が崩れていってますね。歌でもBiSHのときはビブラートをかけた瞬間に「ダメだ! ロックはまっすぐ歌え!」って言われてたんですけど、それも覆されたし、ようやく歌詞を覚えたと思ったら、(訳詞の)森雪之丞先生がアップデートしてくださって、ガラッと変わったり(笑)。

亀田 雪之丞先生もアイナさんの歌を聴いて「ここは、こうしたほうがいいね!」ってうれしそうに書き換えるんですよね。歌ってるそばから書き換えてる(笑)。でもそうやって、みんなが作品をより良くしようとするポジティブな連鎖が起きてるのはすごく感じますね。

アイナさんをはじめとしてキャストのみなさんの歌稽古が始まって、本当に手応えを感じてます。良いものができている確信もあるし、この作品を経たアイナ・ジ・エンドがすごいところに行きそうな気がしてます。同じことはアイナさんだけでなく、他のキャストにも言えると思いますし、本国のコピーではない、"新しいミュージカルの形"が生まれてくるだろうと感じています。

「アイナ・ジ・エンドとジャニスが共鳴し、重なり合っているような存在を見せたい」

――アイナさんは、このミュージカルにおいてジャニス・ジョプリンをどのように体現、表現しようと考えているのでしょうか?

アイナ 私はもともと女優ではないし、演技経験もないので、"ジャニスを演じる"感覚はハナから持っていないんです。"心でジャニスとぶつかり合う"というやり方で挑まなければ、私がやる意味はないのかなと思っています。

ジャニス・ジョプリンを私の中にインストールした上で、私の心を乗せて、アイナ・ジ・エンドとジャニス・ジョプリンが共鳴し、重なり合っているような存在を見せられたらと思っています。

――亀田さんが言う「和製ジャニスではなく」「コピーではなく」という言葉とも重なりますね。

アイナ 最初は「ジャニスをとにかく入れなきゃ」とか「ジャニスと同じように」という意識が強かったんですよね。でも、森大輔先生が歌唱指導でジャニスのシャウトのキーを「ここは、アイナさんにとってはおいしくないキーなので、おいしいキーに変えましょう」とおっしゃって音程を変えてくださったんです。

そういうスタンスは亀田さんも、雪之丞さんも、大重さんも同じで「ジャニスをコピーするんじゃなくていいんだよ」というのがひしひしと伝わってくるんですね。そこに私はすごく救われました。

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――先ほど、亀田さんにはこのミュージカルに懸ける熱い想いを語っていただきましたが、アイナさんは今、新たな挑戦のまっただ中にいますが、このチャレンジが自分に何をもたらしてくれそうだと感じていますか?

アイナ 私、"亀田さんに言われたことブック"を持ってるんです(笑)。

亀田 「亀田ノート」(笑)? マジで?

アイナ 今日も、そこに書き加えたいと思う言葉をいっぱいいただきました。『ジャニス』をやることで日々、「こういう着眼点があるんだ?」「こういうことを吸収したいな」と思うことが増え続けていて、シンプルに毎日を一生懸命生きる中で、何かが変わっていく、皮がむけていくんだなと感じています。

自分の人生を豊かにするためにも『ジャニス』をやり切りたいですね。ジャニスは27歳で亡くなっちゃいましたけど、もしジャニスが28歳になったら? 29歳になったら......こんな人生だったんじゃないか? と思えるように生き続けていきたいなと思っています。

亀田 いい話だね。

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――ここから亀田さんとアイナさんにWOWOWに対する印象についてもうかがいます。亀田さんは今年のトニー賞授賞式にもスタジオゲストとしてご出演されていますが、WOWOWと仕事をされてみての印象はいかがですか?

亀田 良い話しか出てこないですよ(笑)。わが家はずっとWOWOWさんを契約してまして、今で言う"サブスクリプション"がこれだけ広がる前から、これだけ幅広く音楽、スポーツ、映画や演劇などの窓口を広げていたのがWOWOWさんだなと思ってます。

僕自身、WOWOWさんとはこれまでさまざまな現場でお仕事をしてますけど、信頼できるパートナーだと認識してご一緒させていただいてきました。

そして、そうした前段があった上で、今回のお話をいただいて、ミュージカルのローカライズは初めてだということは、僕にとっては不安要素でも何でもなくて、WOWOWさんが新たにやろうとしていることならぜひ力になりたいなと思って受けさせていただいています。

で、ここから大重さんを褒めますよ(笑)。大重さんとご一緒していて感じているのが、現場の機動力の高さとチームの風通しの良さ。いろんな意見を言えるんですよね。僕も結構なことを言ってるんですけど(笑)、それが言いやすい空気もあるし、すぐにそこに対応してくれるんですよね。

ユーザーとして関わっても、中の人間として関わっても、すごく素敵なパートナーだなと感じています。

――アイナさんはWOWOWとお仕事をしてみて、どのような印象を抱いてますか?

アイナ まず「WOWOW」って名前が面白いですよね(笑)。

亀田 確かに(笑)。

アイナ 「これ、誰が考えたんやろ? メチャメチャおもろい人なんかなぁ......?」って思ってて(笑)。ソロライブにWOWOWのちょっと年配の方が来てくださったりして、ごあいさつをさせていただいたんですけど......。

大重 誰だろう(笑)? きっとエライ人ですね(笑)。

アイナ でもこの人たちが「WOWOW」って名前を決めたってことなのか? だったらギャップもあってすごく面白いな! って(笑)。もうこの名前が大好きなんです。

亀田 たしかにめちゃくちゃキャッチ―だね(笑)。誰が考えたんだろう?

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WOWOWのW、O、Wの文字を体現して3人でポーズ!

アイナ BiSHのワンマンライブも放送していただいてますけど、そういうときは清掃員(=BiSHファンの総称)のみんながこぞってWOWOWを見て、コメントし合ってたりして、そういうのもすごく思い出深いです。解散が決まっているからこそ、一つ一つの出来事がすごく大きいんですけど、そこにWOWOWさんが関わってることが多くて、私だけでなくみんなにとっての居場所の一つだと感じています。

大重さんとは『ジャニス』で初めてお会いして、打ち合わせをしたんですけど、1時間くらいの予定だったのが3時間くらいになって(笑)、その間、ずっとジャニスについていろんなことを教えてくださるんです。

大重 貴重なお時間をいただきまして(笑)。

亀田 熱い男です!

アイナ しかも「アイナさんは今、不安に感じていることがあるかもしれませんけど、アイナさんとジャニスは似てません?」「絶対に大丈夫です!」と言ってくれるんですね。それで「この人のことを信頼できそう」「この人には自分が分からないことを素直に聞けそうだな」と思いました。

WOWOWさんがどうっていう以前に、まず大重さんはいい人だと思います(笑)! せっかくこのチームに入れていただけたなら、精一杯やってみようと思えたのは、大重さんがいたこともすごく大きいです。

「心が閉じがちな今、ピースフルな風を吹かせる作品になる!」


――最後に本作の上演を楽しみにしている人たちに向けて、作品の魅力、見どころなどについてひと言ずつお願いします。

大重 魅力としては、やはりWOWOWとしては、初めてのブロードウェイミュージカルのローカライズなので「アイナ・ジ・エンドの歌を聴きに来てください」とか「亀田さんのベースを......」ということではなくて......。

亀田アイナ:違うの(笑)!?

大重 もちろん、それもあるんですけど、そこだけではなく(笑)、ミュージカルが織りなす総合芸術を楽しんでいただけたらと思います。演出、主演をはじめとした豪華キャスト、バンドメンバー......すべてのピースがそろっているなと感じていて。ブロードウェイのオリジナルとはまた違った作品になっていると思いますし、新しいミュージカルを観に来ていただければと思います。

ずっと音楽をやってきたWOWOWとしては、ぜひ音楽ファンにも見に来てほしいし、昔からのミュージカルファンのみなさんにも見ていただいて「新しいミュージカルを見たな」と思ってもらえる作品にしたいと思います!

アイナ:『ジャニス』のお話をいただいたころは、頑張りたいのに何から頑張ればいいのか分からずに八方ふさがりだったんです。

周りのファンのみなさんからいただく手紙にも「こういうことをやったら周りになんて言われるか」とか「周りに求められる自分にならなきゃ......」とかいろんなことで悩んでいる声が書かれていて、私自身もそうだったんです。

でも稽古が始まって、頑張るべきことが明確になってきて、楽しくなってきたんですね。もちろん、不安もありますけど。私はこの作品を通じて自分自身がまず一歩を踏み出して、成長したいと思ってます。これを見て「こういうことを感じてほしい」とかじゃなく、まず自分は頑張る、みんなと一緒に最高のものを作るという気持ちが強いです。

ただ「見てやろう」と思って劇場に来てほしいし「こいつの挑戦、どんな感じなんや?」でもいいんです。そうやって来てくれる、その一歩が、あなたの何かを変えるかもしれない――そういう日にしたいなと思っています。

亀田 僕が一番伝えたいのは、すべてのものには種があり、そこから花が咲いて、それがまた種を生んで......というふうにバトンが渡されていくということ、それに尽きます。
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この作品の中では、ジャニス・ジョプリンが、さまざまなアーティストや音楽から影響を受けて、短い人生を駆け抜け、表現し抜いたんだということが描かれています。音楽の世界だけでなく、すべての人間がそうなんだということ――あなたが今、生きているのは、先祖がいて、彼らが頑張ったおかげで、彼らが恋をして結婚して、自分の命があって......そんな積み重ねでバトンが渡されていることを伝えられる気がしています。

人の心が閉じがちな時代になっていますけど、そんな中ですごくピースフルな風を吹かせることができるんじゃないかと思っています。そんな風と一緒に「ミュージカルって楽しいものなんだ」と少しでも伝えられたらと思います。

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構成/黒豆直樹


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ブロードウェイミュージカル『ジャニス』
8/23(火)、 25(木)、 26(金) OPEN18:00 / START19:00
東京国際フォーラム ホールA

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