2023.01.24

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名ばかりのタイアップではなく、本質的な意味でのタイアップが実現した「Little Golf Monster」 

スポーツ部 小笠原功真

名ばかりのタイアップではなく、本質的な意味でのタイアップが実現した「Little Golf Monster」 

2020年から3シーズン連続でWOWOW LPGA女子ゴルフツアーのテーマソングを担当したLittle Glee Monsterが、初心者代表としてゴルフに挑戦する番組「Little Golf Monster ~リトグリ、ゴルフ始めちゃいました~」。WOWOWによるゴルフ番組には何が必要不可欠なのか──小笠原功真プロデューサーが出した答えは、アスリートとアーティストが相互に作用し合えるような“本質的な意味でのタイアップ”だった。

目の前で挑戦している日本人選手を全力で応援する、WOWOWの姿勢

──2017年に新卒で入社し、スポーツ部に配属されるまでの経緯を教えてください。

ずっと野球をやっていましたが、スポーツの番組に関わりたくてWOWOWを志望したというよりは、映画の仕事に携わりたかったのが入社のきっかけでした。入社直後はカスタマーリレーション部でカスタマーセンターの運用をしていましたが、1年たって急遽スポーツ部に配属されて、以降ずっとゴルフ班にいます。

──それまで、ゴルフの知識は?

中継もほとんど見たことがなかったですし、石川遼プロや宮里藍プロのほかは選手の名前も知らないくらい、知識ゼロの状態でスタートしました。ルールも分からなかったですね(苦笑)。

そんな自分が中継のプロデューサーを担当して、サブ(副調整室=番組の進行をコントロールする場所)で責任者として立ち会うわけなんですが、そもそも画面の中で何が行なわれているのかも分からない状態だったので......自分なりに勉強しつつ、場数を踏んで経験を積みました。

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──勉強というのは?

いろんな局のゴルフ中継を片っ端から見たり、ゴルフ番組やゴルフに関連した番組を見たりして「ゴルフってどうやって画面に映し出されるんだろう?」と自分なりに研究しました。それを踏まえて、WOWOWがこれまでどのようにゴルフを描いてきたのかさかのぼって見てみたり、自分で実際にゴルフをやってみたり......いろんな角度から勉強と研究をしていました。

そうして1年ほどたったときに、先輩プロデューサーに同行して初めて海外取材へ行ったんです。コースで何が行なわれていて、どういった動きでカメラ撮影がされていて、それがどんなふうに日本へ映像として届いているのかを目の当たりにしたことで、初めてすべてが腑に落ちた感じがしました。

──WOWOWを含めた各局のゴルフ中継を見た中で"WOWOWならでは"のゴルフ中継だと感じた部分は?

選手との距離感でしょうか。人気や流行り廃りにとらわれず、目の前で挑戦している日本人選手を全力で応援する。「海外というステージで戦っている日本人選手を、自分たちはずっとサポートしていくんだ」という熱意や敬意が"WOWOWならでは"の部分じゃないでしょうか。試合が終わったばかりの選手に快くインタビューを受けていただけるのも、そういった熱意や敬意が伝わっているからだと思いますし、その距離感はインタビューにも出ていると思います。

アーティストとアスリートが互いに鼓舞し合える関係性を作りたかった

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──2020年から3シーズン連続でWOWOW LPGA女子ゴルフツアーのテーマソングを担当したLittle Glee Monster(リトグリ)が、ゴルフ初心者代表としてコースデビューを目指し奮闘する番組「Little Golf Monster ~リトグリ、ゴルフ始めちゃいました~」。企画したきっかけは?

二つあります。一つは、LPGA中継のメイン視聴者層である50~60代の方々だけでなく、若い世代にも興味を持っていただけるように、ゴルフの親しみやすさや「案外気軽にできる」といった距離の近さを紹介したい。そのためには、まだゴルフに触れたことがない若い女性に登場してもらうのがいいんじゃないかと思ったんです。

もう一つは、リトグリとの出会いですね。数年前のお正月にたまたま高校サッカーをテレビで見ていて、テーマソングを歌っていたのがリトグリだったんです。アカペラでも歌えて、静と動を表現できるアーティストということで、ゴルフに近しいものを感じたんです。それで、まずはWOWOW LPGA女子ゴルフツアーのテーマソングをお願いすることにしました。

── 一緒にテーマソングを作っていく中で、一つ目の「若い世代にもゴルフに興味を持ってもらいたい」という想いにつながった?

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そうですね。リトグリというフィルターを通して、ゴルフの魅力を伝えられないかなと思ったんです。楽曲だけ提供していただくのではなく、相互に作用し合えるような関係性を作りたかった。楽曲を提供しているスポーツやアスリートについてアーティストは理解を深め、アスリートはその曲を聴いて自身を鼓舞する。名ばかりのタイアップではなく、アーティストとアスリート、第一線で活動している者同士が鼓舞し合える関係性を作りたくて企画しました。

──そういった想いを前提に番組作りをしていく上で、難しさを感じた部分はどこでしょう?

「若い世代にもゴルフに興味を持ってほしい」という観点で言えば、例えばお笑い芸人さんをお呼びして、もっとバラエティに振った番組にすることもできたと思うんです。でも、「Little Golf Monster」を見た人がいつかはLPGAの中継を見るようになる、という動線作りをする上では、やっぱりLPGAに出場している選手に来ていただいて、世界トップクラスの技術や想いを伝えたい。そういった"バラエティの加減"を社内外に説得し、理解していただくのが苦労した点だったと思います。2年ほど企画を温めていましたから(笑)。

──その2年の中で、布石を打っていた部分もあったのでは? 例えば、リトグリのLPGAのテーマソング「VIVA」は畑岡奈紗プロをイメージして作られた楽曲だそうですね。

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畑岡プロの人生観をヒアリングして、それをもとに作っていただきました。2022シーズンは「強く、美しく、頂点を目指す!」というキャッチコピーでWOWOWのLPGAを放送しているので、歌詞にもそのフレーズを入れていただいたり。そうやって一つひとつこだわって築いてきた関係性の最終形態として、象徴的な番組ができれば素敵だろうなと思って、各所と交渉を重ねてきました。

誇張せずに、ゴルフが上達していくありのままのリトグリを描く

──ゴルフの魅力を伝えるために、意識した部分は?

ガオラー(リトグリファンの総称)には歌っている姿とは別のリトグリを見て「リトグリがやってるんだったら、自分もゴルフをやってみようかな」と思っていただけるように、ゴルフを身近に感じていただきたいと思いました。

普段からLPGAを見ている方々には、3シーズンにわたってテーマソングを担当してきたアーティストがゴルフを始めたことで、歌だけではなく、本当にゴルフと向き合っていることをメッセージとしてお伝えしたかった。本質的な意味でのタイアップが実現したことを視聴者の方々に感じていただきたいというのは、制作スタッフにもリトグリの皆さんにもずっとお伝えしてきました。

──9話構成の中で、どこをゴールとしたかったのでしょう?

「初めてゴルフに触れる女の子たちが、無理のないスケジュールの中、半年間ゴルフと向き合った結果、これぐらいまで上達しました」というリアルを表現したかったので、9話を通して完璧になる必要はないと思っていました。誇張せずに、ありのままの上達具合を描くことに一番こだわりました。

──畑岡奈紗プロ、東尾理子プロも登場し、アドバイスやレッスンを通してリトグリにゴルフの魅力を伝えていく様子も印象的です。

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畑岡プロもそうですが、理子さんもとにかく愛にあふれている方で、本当に真摯に向き合ってくださいました。いろんな方をゲストにお招きすることもできたと思いますが、ゴルフは人によってスイングの仕方も違ってくるので、理子さんが上達過程に最後まで寄り添ってくださった方が教わる側もモチベーションをキープできるだろうと思ったんです。

番組の収録を進めていく中で、コーチである理子さんが彼女たちの"ゴルフの母"みたいな存在になっていくのがありがたかったですし......理子さんとLINEを交換して、自分のスイングを「見てください」と頻繁にやりとりするなど、番組外でもゴルフのつながりができていたようです。

──番組配信後の反響は?

とくにガオラーの皆さんの反応が顕著ですよね。「何分のアサヒの表情が良かった」とか「ここのかれんのスイングがきれいだった」など、SNSで「#リトゴル」のハッシュタグを付けて感想を発信してくださるんです。番組タイトルを「Little Golf Monster」にしたのも、リトグリにもじって「リトゴル」の愛称で呼んでほしいなと思ったからだったんですが、それをくみ取ってくださっているのがうれしかったです。

そういった感想を参考に「じゃあ、もうちょっとリトグリのリアクションを多めに入れましょう」とか「いいプレーをした直後の本人の表情だけじゃなく、ほか2人のリアクションも入れた方がいいね」と、番組作りにも反映することができました。ガオラーの皆さんと番組の相乗効果で、普段は見ることのできないリトグリを表現できたと思います。

──各話のサブタイトルもこだわっているとのことですが?

ガオラーの皆さんはもちろんご存じですが、各話ともリトグリの楽曲のタイトルをもじって付けています。1話1話更新されていくごとに「次はこれかな?」と予想しながら楽しんでくださっているのを見るのもうれしかったですね。

ほかにも「ゴルフをやってみようかな」とか「ゴルフやめちゃったけど、またやってみたくなった」といった声も多かったので、リトグリと歩んできた3年の集大成となる番組を作って本当に良かったなと思います。

WOWOWのプロデューサーとして最低限必要なのは「熱量とリスペクト」

──先ほども出てきましたが、改めてWOWOWが表現するゴルフとはどんなものであるべきだと思いますか?

選手もそうですし、リトグリもそうですが「真剣にゴルフに向き合っている人たちをリスペクトして、全力でサポートする」というのがわれわれのフィロソフィーだと思っています。それはゴルフだけでなく、WOWOWのスポーツ全般に言えることですよね。

だからこそ、「Little Golf Monster」をバラエティ番組にしなくて良かったなと思いますし、WOWOWのLPGAを見てくださる方たちをないがしろにするようなことがあってはならない。ポップな部分があってもいいけれど、それを前面に出さないというか......色気を出すことなく、きちんと上質なものにこだわりたい。そう思いながら「Little Golf Monster」も普段のゴルフ中継も作っています。

──WOWOWのスポーツ番組の中でゴルフの立ち位置は変わってきましたか?

以前はテニスがダントツで人気でしたが、オンデマンド配信で「日本人選手専用カメラ」というコンテンツを始めたら、それがとてもヒットしたんです。だいたいゴルフって、後半の5、6ホールくらいから生中継しますが、「選手は1番ホールからプレーしているんだから、最初からちゃんと見せましょうよ」という想いで始めたコンテンツで......5~6時間配信するんですけど(笑)、ファンの方にとってはとても貴重な映像なんですよね。スポーツ部にかぎらず、WOWOW全体でもかなり上位のコンテンツとなりました。

そういったコンテンツもできたことで、オンデマンドの専用カメラで日本人選手を見て、中継では日本人選手に限らず大会としての優勝争いを見る、といったすみ分けができていることを実感します。きっとゴルフはオンデマンドにもテレビにも順応できるスポーツなんでしょうね。今後もいろんなアプローチができそうだと、スポーツ部の中での期待度も高いです。

──小笠原さんご自身がWOWOWで挑戦してみたいことは?

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音楽、スポーツ、映画という柱がある中、それぞれのジャンルを越えるような番組って現状はそれほどないと思うんです。そういった意味で「Little Golf Monster」は僕にとって、音楽とスポーツを掛け算した一つ目の作品だったのかなと思っているので、今後もジャンルの掛け算を増やしていきたい。WOWOWの中でシナジーを生み出していきたいと思っています。

──最後に、仕事をする上で大事にしていることは?

僕もそうでしたが、WOWOWはディレクターを経験せずにプロデューサーになれる会社なので、最初は分からないことだらけなんですね。それを埋めていくためには、とにかく経験を積むしかないんですが、前提として、題材とするものに対しての熱量やリスペクトがないと成立しないと思っています。経験がないからこそ、それらを武器にやっていくしかないんです。もちろん、どこのテレビ局でプロデューサーをやろうとも必要なものだとは思いますが、WOWOWではとくに大事です。

僕も最初は苦労しましたが......実際に自分で番組を企画するときに「世の中にこういうメッセージを発信していきたいんだ!」という想いが強くないと何も書けませんし、「それをどう撮影しますか?」と聞かれたときに、ふわっとした想いだけだと伝わらないですから。当時の僕にとっては、熱量や想いの強さが唯一の命綱でしたし、いまでも一番大事にしています。何事も全力REAL LIFEですね。

取材・文/とみたまい 撮影/祭貴義道



この番組への想いについて、Little Glee Monsterのメンバーからもコメントをいただきましたので、あわせてご紹介します。

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<メンバーコメント>

LPGA女子ゴルフツアーのテーマソングを歌わせていただいたり、周りでゴルフをされている方もすごく多いのでゴルフに興味はあったものの、なかなか一歩踏み出すタイミングがなかったので、この番組への出演機会をいただきとてもうれしかったです。

最初は道具の名前やルール、何もかも分からない所からのスタート。
『最終的には畑岡奈紗選手と一緒にラウンドを回る!』というのが目標ということで、果たして達成できるのか!?という不安もすごくありました。

番組が本格的に始まって、東尾理子さんには本当に丁寧に、的確に、分かりやすく指導していただきました。理子さんには感謝しかありません!

気付けばあっという間に最終回。
やればやるほど、ゴルフの難しさ、そして魅力に気付いていきました!
難しかったですが、楽しみながらできていたのは、関わってくださっていた皆さんのお陰です。
本当にありがとうございました!!

番組は、終わってしまったけれど、これからもゴルフライフを楽しんでいきたいです!

<番組情報>
「Little Golf Monster ~リトグリ、ゴルフ始めちゃいました~」
WOWOWオンデマンド配信中 
最終話配信 1月25日(水) ROUND9「全力GOLF LIFE」
全話一挙放送 2月13日(月)午前10:00~午後0:00 [WOWOWプライム]