「アクターズ・ショート・フィルム」はなぜ人気コンテンツとなり得たのか? 俳優が己の内面をさらけ出し、俳優を演出する美しさ!<後編>
制作部 射場好昭 × コンテンツ戦略部 仁藤慶彦
それぞれに主役を張る実力を持った当代の人気俳優たちが、カメラの向こう側に回り、“監督”としてメガホンを取り、同じ予算と条件で25分以内のショートフィルムを作る。そんなエンターテインメント性とゲーム性に富んだ企画として、人気を博してきた「アクターズ・ショート・フィルム」の新シリーズの配信・放送がいよいよ開始となる。
第3弾となる今回、監督業に挑戦したのは、玉木宏、高良健吾、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎の5人。SFから日常の一部を切り取ったドラマまでジャンルも多彩な5編が完成した。
そもそも、俳優が映画を撮るというこの企画はどのようにして生まれたのか? 今回、この「アクターズ・ショート・フィルム」の企画プロデューサーである仁藤慶彦、制作のチーフプロデューサーを務める射場好昭に企画の成り立ちから第3弾に至るまでのさまざまなエピソードなど、前・後編でたっぷりと話を聞いた。
第1弾の高評価が業界内にもたらしたもの
──第1弾が配信・放送された際の反響はいかがでしたか?
仁藤 このプロジェクト自体にしっかりとしたKPI(重要業績評価指標)を設定していて、加入数や利用率で診断をしていますが、それをきちんとクリアしたからこそ、第2弾、第3弾に進むという流れを踏まなければ、なあなあになってしまうので、そこは毎回、厳しい振り返り診断をしています。
ただ、この企画の最大のKPIは、あくまでも「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」のグランプリ獲得ですので、そこに関してはまだ達成できていませんが......。
──視聴者だけでなく、業界内での反響・反応も大きかったのでしょうか?
射場 俳優同士のネットワークってすごいもので、どなたかハブになる存在がいると、そこから縦横に延びていくんですよね。第1弾の監督で言うと、森山未來さんや柄本佑さんあたりは、非常に強いネットワークを持っている存在ですし、彼らから生まれたつながりというのは、こちらにとっても非常にありがたいものでした。
今回、監督を務めてもらった玉木宏さんも、永山瑛太さんと一緒になった現場で、この企画について「どうだったの?」みたいな意見交換をしていたみたいで、さらに自分の作品を撮り終えた玉木さんも、周りに「すごく面白い企画だったよ」という話をしてくれているみたいです。
仁藤 そもそも第1弾で監督をした未來さんが主演に起用したのが瑛太さんで、その撮影現場で瑛太さんから僕らに「次もあるんですか? 僕、監督やりたいです」と言われて、それで第2弾で「ぜひ!」となったんです。そのタイミングで今度は玉木さんから瑛太さんに「俺もやりたいんだけど」と相談があって、その話を瑛太さんが僕らにしてくれたんです。
第1弾の放送後、そういう"逆オファー"をいただくようになって、本当にありがたいことです。
射場 最初のきっかけになった白石さんの話で「作りたいけどお金が......」という問題が一つ解決されて、WOWOWにこういうプラットフォームができたというのはすごく大きなことでしたね。
──第1弾から今回の最新シリーズまでやってきて、思い出深い出来事、とくに印象的な作品があれば教えてください。
仁藤 僕はやはり、第2弾の千葉雄大さんの作品「あんた」が「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」でジャパン部門ベストアクターアワードを受賞したことですね。千葉さん本人も、受賞された伊藤沙莉さんも非常に喜んでいて、少しだけ肩の荷が下りたような想いになりました。
射場 それぞれの作品に面白い思い出があるんですが......丸々2日間、48時間に近い撮影を敢行しようとしていた人たちは面白かったですね。1日目、2日目それぞれ10時間、計20時間で撮り終える人もいれば、1日目に夜中まで撮影して、その3時間後にまた再開するような人たちもいまして......(笑)。長い順で言うと......。
仁藤 津田さんでしょう(笑)。
射場 そもそも「2日間で」という条件が出されたとき、抵抗したのが白石さんと津田さんだったんですよ(笑)。第1弾だったので、こっちも勝手が分かってないわけですよ。シリーズを通じて入ってもらっている、とても優秀な助監督さんに時間割をしてもらったんですけど、津田さんの作品は「これはどうやっても入らないですね」という感じで、「じゃあ、いざとなったらこのシーンをなくして」とか考えていたんです。
彼の作品の中で、ビルの屋上から飛び降りようとするのを止めるというシーンがあって、そこでハトが飛ぶんですけど、本物のハトを連れてきたんです。2時間くらいやってみたんだけど、まったくうまくいかなくて(苦笑)。
津田さんが出演するシーンも必ず入れなくちゃいけないのに「これもう無理じゃない?」「いや、そこ下りて5分で撮っちゃえばいいから!」みたいなやりとりがあって(笑)。
仁藤 2時間粘ったハトのシーンは結局、CGになりましたね(笑)。
射場 1秒も使ってない(笑)。ある意味で、第2弾に向けてのノウハウをもたらしてくれたのが津田さんでしたね(笑)。
第2弾はそういう人はいなかったんだけど、第3弾でまた萬斎さんがいろいろと難しいことを......(苦笑)。ただ、萬斎さんは自分の公演の時間が迫っていたこともあって、意外と早く終わったんですけど。
これね、原因を突き詰めると、津田さんも萬斎さんも、僕との付き合いが長いんですよ。この2人とは若いときからこちらの手の内もばれている分、頼りにしていただけてるんだと思うんです(自称)(笑)。
──撮影は2日間(48時間)という条件とのことですが、撮影がスタートしてからの現場での進め方で気を付けていることなどはありますか?
射場 初めての監督挑戦で、やりたいことがたくさんあって「時間が足りるのか?」という不安は皆さん、持っていると思います。それを押さえつけ過ぎず、かといって、そこまでやったら無理だね......というところまでいかないように、うまくバランスを取ることは意識しています。
撮影は2日間ですけど、そこに至るまでの時間というものがあるので、ただバーッと撮ればいいというのではなく、きちんと良いものを撮れるようにと考えています。
先日、土屋太鳳さんの作品の撮影があったんですけど、彼女自身「本当に撮影の日が来るのかな......?」という想いを抱えながら脚本を練っていたんですね。「これだけの内容を本当に撮れるのか?」「その日が来た!」「撮り切った」――終わってみたら、計画していたものがきちんと撮れたという充実感があったと言っていて、そう言ってもらえたらこちらも大満足ですね。
現場で接する上では、もちろん言うべきことは言わなくてはいけませんが、やはり皆さん、ナイーブな部分をお持ちですから、そこをあまりゴシゴシとこすり過ぎないように......というバランスですかね?
未來さん、瑛太さん、今回で言うと高良健吾さんもそうですが、非常に繊細な部分を持っていて、そこがクリエイティビティに結び付いているんですけど、「大丈夫ですよ! いきましょう!」と背中を押しました。
──土屋さんの話が出ましたが、そもそも土屋さんが監督を務めることになったのはどういった経緯で決まったんでしょうか?
(写真左上から時計回りで、青柳翔、玉城ティナ、千葉雄大、前田敦子、永山瑛太)
射場 第2弾で前田さん、玉城さんという2人の女性に監督をやってもらい、第1弾とは違ったカラーが出てきたなと感じたんですが、一方で女性が監督をするというのは、男性と比べてなぜかハードルが高い部分がありまして......。じゃあ、誰かやってもらえるか? と考えたときに「太鳳さん、やってくれるんじゃない?」って(笑)。ただ、ご本人の反応は萬斎さんと同じで「そんなおいしそうな肉をぶら下げられたら、食べないわけにはいかないでしょう!」という感じで即座に「やります」とお返事をいただきました。
僕が演劇を担当していたときに、ダンスやバレエも担当していましたが、実際にバレエの番組に踊り手として太鳳さんに出演してもらったことがあったんです。ベルギー出身の世界的演出家・振付家で、ダンサーでもあるシディ・ラルビ・シェルカウイが演出を務めた舞台「プルートゥ PLUTO」でも、太鳳さんは非常にすばらしい存在感を発揮されていて、潜在的に深いクリエイティビティをお持ちの女優さんだということは感じていました。
──細かいカット割りなどに関しては、現場で決めていくのですか?
射場 カット割り以前に、カメラマンを誰にお願いするか? というのが重要なところで、山崎裕さんという、是枝裕和監督や河瀨直美監督の作品などに参加されているカメラマンさんに第1弾からずっと参加していただいていまして。
仁藤 昭和15年生まれの82歳の方です。
射場 山崎さんには今回は土屋組と高良組をお願いしたんですが、とくに土屋組ではカット割りとかではなく、そのシーンごとに即興的に「どうやって切り取っていこうか?」とセッションしながら進めていました。土屋さんと有村架純さんが向かい合ってテーブルで話をするシーンがあったんですが、82歳のカメラマンが靴を脱いで手持ちのカメラでグルグルと回りながら撮った画があって、それは奇跡的なすばらしい画になってます。是枝さんや河瀨さんの映画を観ている人なら、同じ雰囲気を感じてもらえると思いますし、モニター越しに見ていて震えましたねぇ。
カット割りに関しては、土屋さんみたいに現場で即興的に決めた方もいれば、前の晩にカメラマンさんと徹夜でどうするかと詰めてくる方もいたりして、皆さん、それぞれのやり方でやられていましたね。
──間もなく第3弾として高良健吾さん、玉木宏さん、土屋太鳳さん、中川大志さん、野村萬斎さんが監督を務めた5作品が放送・配信となりますが、改めて今回の作品の見どころ、新たに挑戦したことなどについて教えてください。
(左から「CRANK-クランク-」(監督:高良健吾)、「COUNT 100(監督:玉木宏)」、「Prelude~プレリュード~(監督:土屋太鳳)」、「いつまで(監督:中川大志)」、「虎の洞窟(監督:野村萬斎)」 )
射場 シリーズを重ねて、個別化・強烈な個性化のバリエーションは確実に増えています。土屋さんの作品は、監督自らダンスの振り付けを創作していますし、萬斎さんの作品でもご自身で舞踊を作っています。ダイナミックなパフォーマンスが見られるというのは新しい部分だと思います。同じ時代を生きている個性の多様性が見られるのが、短編映画というジャンルの最も面白い部分だと思います。
コンセプトに関していうと"自由"の度合いが広がったと思います。第2弾は、第1弾でノウハウを身に付けて、それを展開したらどうなるか? という部分があったんですが、この第3弾でもう一度、自由を与えてみたらどうなるんだろう? と。
仁藤 この「アクターズ・ショート・フィルム」という企画は、僕らだけでなくプロジェクトとして、APの劉さん(制作部)や大瀧さん・鳴海さん(事業部)、半田さん・高橋さん(コミュニケーションデザイン部)も一緒になって、価値を高めていこうという存在になっているんですね。
そういう意味で今回の第3弾では、これまでコロナ禍でできなかったんですが、5人の監督が一堂に会する「完成報告会」を有観客で行なうことができたので、それはすごくうれしかったですね。加えて、第2弾で道筋をつけた劇場公開を今回もすることになっていて、しかも前回は5本の作品を一つにまとめて上映していたんですが、今回は5作品を別々に上映します。1日限定の上映ですが、各作品の監督がリモート、もしくはリアルのいずれかの形でトークも行なう予定です。
──ここから、お2人の仕事観などについてもお聞きしていきますが、今後、実現してみたいこと、やってみたい企画などがあれば教えてください。
射場 尺の短いコンテンツでどれだけ面白いものを作れるか? このショートフィルムもそうですし、コントの収録をしていたことがあって、コントってまさに短い尺の中に面白いものをどれだけ詰め込めるか? という勝負なんですよね。短くて味わい深いものを新たにまた作ってみたいなと思いますね。
この企画でいろんな俳優さんとも知り合うことができましたので、俳優さんと一緒に短いコントを作ることができたら面白いですね。
あとは、WOWOWではいまミュージカルを放送したり、作ったりもしていますが、ミュージカルを連ドラという形で作れないかな? と考えています。日本ではめぼしい成功作品ってあまりないですよね?
『ラ・ラ・ランド』が公開されたとき、いろんな人が「ああいうのができないかな?」と言っていたんですけどね。ミュージカル俳優さんを起用するというよりは、普通の俳優さんが実は歌えるという感じで連ドラをやれたら面白いなと思ってます。
仁藤 僕はやっぱり、この「アクターズ・ショート・フィルム」で「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」のグランプリを獲得するというのを実現させたいですね。
あとは、この企画を通してショートフィルムというジャンルに可能性を感じていて、この文化に貢献できたらという想いがあるので、「アクターズ・ショート・フィルム」から派生する形で何か新しいことが始められたらと思います。
射場 僕らの世代で言うとPFF(ぴあフィルムフェスティバル)があって、あそこで評価されて長編を作るという流れがあったけど、配信の時代にもう一度、クリエイターの"登竜門"となるような存在ができたらいいですね。
──最後にお仕事をする上での「偏愛」、大切にしていることや哲学などがあれば教えてください。
射場 映像のカルチャーが好きで、いまの仕事をしているんですけど、映像に対するこだわり、映像に対する"シズル感"みたいな部分と、物語をどうやって組み合わせるか? 映像に寄り過ぎると物語が置いてきぼりになるし、質の高い物語を要求することと映像のシズル感をどう合体させるか? 自分で映画を観るときも常にそれを求めていますし、作る場合もそれを提供することができればと考えています。
仁藤 僕は、サッカーが好きでこの会社に入って、運よくスポーツ部に配属されて、サッカーを担当させてもらって、13年ほどいる中で思ったのは、ただ好きなだけが「偏愛」ではなく、お客様が何を求めているかを研究し、分析し、番組にフィードバックする――そこまでいくことが必要だと思っています。
逆に言うと、そこまでの過程で大変なことも多いんですけど、それを「つまんない」とか「苦しい」と思うか? そう感じずに「楽しい」に昇華できることが"偏愛"なのかなと思っています。
取材・文/黒豆直樹 撮影/祭貴義道
■番組情報
「直前特番 アクターズ・ショート・フィルム3独占インタビュー」
2月11日(土・祝)午後7:30~/2月17日(金)午後4:00~ [WOWOWプライム]
「アクターズ・ショート・フィルム3」
2月11日(土・祝)午後8:00~/2月17日(金)午後4:30~ [WOWOWプライム]
#1 CRANK-クランク-(監督:高良健吾)
#2 COUNT 100(監督:玉木宏)
#3 Prelude~プレリュード~(監督:土屋太鳳)
#4 いつまで(監督:中川大志)
#5 虎の洞窟(監督:野村萬斎)
詳細はこちら
「アクターズ・ショート・フィルム」「アクターズ・ショート・フィルム2」 WOWOWオンデマンドで配信中