2025.11.28

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人間の心根を丁寧に描いた新しい不良映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』が間もなく公開!

俳優 水上恒司
映画監督 萩原健太郎
WOWOW 事業局 プロダクション事業部 チーフプロデューサー 加茂義隆

人間の心根を丁寧に描いた新しい不良映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』が間もなく公開!

仲間や自分たちの街を守るためだけに拳を振るう不良たちの姿を描いた、にいさとる作の人気漫画『WIND BREAKER』が実写映画化。主演を務めたのは、作品ごとに異なる表情を見せる実力派俳優・水上恒司。映画『ブルーピリオド』などの話題作を手掛ける映画監督・萩原健太郎とこの作品をどのように描いていったのか。製作幹事を務めた WOWOWの加茂義隆チーフプロデューサーを交えて、本作への想いを伺った。

水上さんとなら、今までにない不良映画が作れると確信

──今作は世界累計発行部数 1000 万部を超える人気漫画が原作となっています。撮影にはどのような気持ちで臨まれたのでしょう?

2511_features_windbreaker_sub01_w810.jpg俳優 水上恒司

水上 近年は原作のある実写映画が増えてきていますが、きっとその中には漫画やアニメだからこそ成立する世界もあると思うんです。ですから、原作が持つ本質をしっかりと守り・リスペクトしながら、あえて実写映画に対するアプローチを考えていく必要があると僕は思っていまして。そのためには事前に監督やプロデューサーとじっくりと話し合い、お互いの方向性をアジャストしていかなければいけない。今回の撮影ではその準備のための時間をたくさんいただけたのがとてもありがたかったです。

萩原 水上さんがおっしゃるように原作の本質からズレることなく、いかに実写映画でしかできないクリエイティブを膨らませていくかが大事なことだと思います。そうしないと、生身の人間が演じた時に違和感のあるものになりかねない。水上さんとだけじゃなく、スタッフやキャストの全員と、最初からその考えを持った状態で撮影に挑めたのは本当に大きかったです。

加茂 思い返すと、最初の打ち合わせの時はまだ脚本もない状態でしたよね。水上さんが出演を受けてくださるかどうかも決まっていなくて。

水上 はい。にもかかわらず、皆さんは僕の考えを真剣に聞いてくださり、こちらからの質問にも丁寧に答えてくださって。僕はどんな仕事でもいちばん大事なのは、"どんな人と一緒の船に乗るか"だと思っているんです。その意味でも、撮影前から大きな安心感と信頼感を得られたのは僕にとって幸せなことでした。

萩原 加茂プロデューサーが目の前にいるから言うわけではないのですが、今回はWOWOWの制作で本当によかったなと思っています。僕は4年前に「連続ドラマW いりびと-異邦人-」で監督をさせていただいたことがあるのですが、WOWOWのチームと一緒に仕事をしていて本当に楽しかったんです。もの作りに対して真摯な方ばかりですし、純度の高い熱量を強く感じて。きっと同じように思っている監督は多いと思います。

加茂 良かったです。そう言っていただけると、こちらとしてもうれしいです。

──お話が少し前後しますが、今作で水上さんを起用することになったのはどのような経緯があったのでしょう?

2511_features_windbreaker_sub02_w810.jpg映画監督 萩原健太郎

萩原 キャスティングを考えている時に、ちょうど水上さんが主演の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が公開していたんです。もちろん、それ以前の水上さんの作品も拝見していましたが、『あの花が咲く丘~』を見た瞬間に、「この人しかいない」と思えて。

加茂 桜遥という主人公はケンカというフィジカルの強さだけでなく、孤独な過去を持つ内面の繊細さも持ち合わせている、すごく難しい役なんです。それを兼ね備えているのが水上さんだろうと、監督とプロデューサー陣で一致しました。それに、過去にもいろんなヤンキー映画がヒットしてきましたが、今回はそれらと明確に差別化したいという想いがあったんです。それらの点で、水上さんとならきっと新しい風を巻き起こせるだろうという確信がありました。

水上 完成した作品を観て、まさしく新しい不良映画だなと感じました。すごく印象的だったのが、血なまぐささを排除している点で。つまり、この映画で伝えたいものはケンカの強さではないんですよね。せりふでは桜が「拳でてっぺんを取る」と言っていますが、大事なのは"なぜ彼がそんなことを思っているのか"、"そもそもてっぺんを取るとはどういうことか"といったことで。それに、桜以外のキャラクターたちもそれぞれに悩みやさまざまなジレンマを抱えていて、その答えを自分で見つけ出せないから、頭の中のモヤモヤが暴力的な言動になって出てしまう。そうした、ケンカの裏側にある気持ちの動きをしっかり描いているところにも新鮮さを感じました。

萩原 水上さんの今の話を聞いていて思ったのですが、昔のヤンキー映画ってケンカの強い男が憧れの対象として描かれることが多かったですよね。だからみんな見得を切ったりして、かっこつける。タバコを吸ったり、形から入ろうとするのもそうだし。でも、今回の作品では誰もそういうかっこの付け方をしていないんです。

水上 確かに!バイクも出てきませんもんね。商店街を荒らすやつらはいるけれど、その後にちゃんとみんなで掃除しますし(笑)。

萩原 そうなんです。生き様であったり、仲間を想う気持ちであったり、そういった内面からにじみ出るかっこよさこそが本物なんだと思わせてくれる。それをどのキャストさんもみごとに体現してくださったからこそ、良い仕上がりになったのだと思います。

劇中では描かれていない登場人物たちの背景にもこだわりを

──水上さん自身が今回の桜遥役を演じるに当たり、大切にされたのはどんなことでしょう?

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水上 これは僕の個人的な考えなのですが、桜はこの作品において、大きく何かが変わるわけではないと感じたんです。多少の変化はあるでしょうけど、初めて自分を構ってくれる人間たちが目の前に現われて、そのことで簡単に成長するようなステレオタイプなキャラクターにすべきではないなって。

萩原 その通りだと思います。

水上 ただ、防風鈴のみんなからは「いつかは変われる芽がお前の中にはあるんだぞ」ということを見抜かれているんですよね。ですからそこを頭の中で意識しつつ、同時に、桜はまだいろんなことに無自覚で、人としても未熟であるという部分を大事にしていきました。

萩原 桜は最初こそ孤独ですけど、ちょっとずつ"仲間"の意味を感覚として理解していく。その変化を、水上さんは非常に繊細に表現してくださいましたよね。漫画原作のキャラクターを生身の人間が演じる良さや面白さは、イラストだけでは表現できなかったり、言語化しづらい感情を芝居で見せられるところなんです。それもあって、ラストカットの撮影では、桜の表情を水上さんがどんなお芝居で見せてくれるんだろうと楽しみにしていたら、まるで卵から生まれたばかりのようなスッキリとした顔をされていて(笑)。

全員 ははははは!

萩原 でもそれは、長い時間の撮影を通して、水上さんが桜と向き合ってきたからこそ出てきたものなんだなと感じました。

水上 防風鈴の梅宮しかり、同級生の楡井しかり、桜はやはり少なからず周りから影響を受けて、変わっていってるんですよね。

加茂 今作には、"ひとりじゃ乗り越えられない壁もみんなとなら突破できる"という人間関係の熱さもテーマとしてありますから、桜の変化具合はちょっとしたものでも、映画全体で見ると大きな印象として残ると思います。

──その一方で、梅宮や獅子頭連の兎耳山丁子が抱える悩みには共感できるものが多かったです。てっぺんに立つ人間の想いや、それに仕える下の者たちの葛藤は、まるで社会の縮図のようにも見えました。

2511_features_windbreaker_sub04_w810.jpgWOWOW 事業局 プロダクション事業部 チーフプロデューサー 加茂義隆

加茂 そうなんです。この映画はリーダー論を問うような見方もできるんですよね。ですから、大人が見ても心に響くものがあると思います。僕は獅子頭連の存在もすごくいいなと思えて。というのも、丁子は頭取というトップに上り詰めた先で目標を見失ってしまっている。きっと本気で何かを目指している人たちって、たどり着いた先で次の目標を見つけることが新たな壁になることがあると思うんです。今作では、そうやって獅子頭連をただの悪役や敵として描いているだけじゃないところが本当に素敵なんです。

萩原 その点に関しては、今回は原作者のにいさとる先生や講談社さんが実写化に対してとても寛大だったことがとても大きかったです。新たに加えた映画版のオリジナル要素についても、こちら側の想いを好意的に受け取ってくださって。

加茂 にい先生や講談社の担当編集者さんとは何度も打ち合わせを重ね、キャラクター造形やキャラクターのバックボーン(背景)などについて細かく確認をさせていただきました。幾度にも及ぶ打ち合わせでしたが、映画として描きたいことにリスペクトを持って詳細に指示をいただけたことは大きな助けになりました。

水上  桜の背景についても、監督から丁寧に教えてもらえたのはありがたかったです。彼がなぜ拳でてっぺんを取り、自分の存在意義を世の中に示したいと思っているのかということは劇中では描かれていないんです。でも、その理由を僕が知っているか否かでは、桜が風鈴高校の前に立つ姿ひとつとっても見せ方が大きく変わってくると思いますから。

萩原 確かにそうですね。また、そうした背景について他のキャストさんにもお伝えし、それぞれが役を深く理解したうえで撮影に臨めたのも良かったです。だって、具体的なことは言えませんが、それぞれのキャラクターが持つびっくりするようなバックボーンの話も先生に伺いましたからね。もしかしたら、いつか原作で描かれるのかもしれませんが、正直あれは役得だなと思いました(笑)。

──どんな内容なのか非常に気になります。

加茂 絶対言えないので勘弁してください(笑)。

──映画の公開に合わせて、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』のグッズ展開も予定されているとお聞きしました。

加茂 この『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』が持つ圧倒的な熱量を改めて実感したのが、グッズ制作のお問い合わせの数が多かったことでした。たくさんの企業から「映画のグッズを作りたい」というお申し出があったんです。僕も長く映画の世界に携わっていますが、これまでで一番じゃないかと思えるほどでしたので、その熱い想いを形にして、ファンの皆さんが喜んでくださる商品を、たくさん作ることができたと思っています。映画だけにとどまらないコンテンツの多層展開にもぜひ期待いただきたいです。


2511_features_windbreaker_sub05_w810.jpg防風鈴メンバー4キャラ(桜、楡井、蘇枋、杉下)のアクリルスタンド

2511_features_windbreaker_sub06_w810.jpg防風鈴メンバー・柊がいつも飲んでいる胃薬・ガスクン 10 のパッケージを再現したミニポーチ

──では最後に、もう一つだけ質問を。WOWOW は中期経営計画(2025-2029 年度)において、目指すビジネスモデルとして、「会員の日常に"夢中"を提供する企業」への進化を掲げています。皆さんが今夢中になっていることを教えていただけますか?

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加茂 夢中になっていること......。思えば、萩原さんとは今作の脚本を作っている時から、ずっといろんな映画の話をしていましたよね。

萩原 そうでした。お互い「これ、観ました?」って勧め合ったりして。映画を観ることも仕事の一つですが、気がついたら純粋に楽しんでいるので、ほとんど趣味みたいなものです。

加茂 そうやってたくさん映画を観ている方が近くにいると、"僕ももっと観なきゃ"って刺激になります。水上さんは夢中になっていることってありますか?

水上 僕は、なんとしてでも家に帰ることですね。

萩原 えっ、どういうこと?(笑)

水上 いや、これにはちゃんと理由がありまして(笑)。なぜ家に帰りたいかというと、翌日の仕事に全力で挑むために、いかに休むかを考えているからなんです。"今日は6時間寝られるな"とか、"そのために、家に帰ったらまずはあれをやろう"とか。今は取材中なのでこの座談会に集中していますが、終わり次第、どうすれば早く家に帰れるかを全力で考えようと思っています(笑)。

▼プロフィール
水上恒司/俳優
1999年生まれ、福岡県出身。ドラマ「中学聖日記」でデビュー。主な出演作に大河ドラマ「青天を衝け」、連続テレビ小説「ブギウギ」、映画『死刑にいたる病』など。2023年公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。

萩原健太郎/映画監督
1980年生まれ、東京都出身。2001年に渡米し、アート・センター・カレッジ・オブ・デザインの映画学部を卒業。代表作に映画『東京喰種 トーキョーグール』、『ブルーピリオド』、『傲慢と善良』、ドラマ「嘘なんてひとつもないの」、「連続ドラマW いりびと-異邦人-」など。

加茂義隆/WOWOW 事業局プロダクション事業部 チーフプロデューサー
2016年WOWOWにキャリア採用にて入社。多くの映画やドラマの制作に携わる。主な作品に映画『ピースオブ ケイク』、WOWOW FILMS『前科者』、『アキラとあきら』、『最後まで行く』、ドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」、WOWOW国内プロダクション事業第1弾 NHKドラマ「八月の声を運ぶ男」など。

2511_features_windbreaker_sub08_w810.jpg©にいさとる/講談社 ©2025「WIND BREAKER」製作委員会

WIND BREAKER/ウィンドブレイカー(2025年12月5日公開)
原作:にいさとる『WIND BREAKER』(講談社「マガジンポケット」連載)
監督:萩原健太郎
脚本:政池洋佑
出演:水上恒司 木戸大聖 八木莉可子 綱啓永 JUNON(BE:FIRST) 中沢元紀 山下幸輝 濱尾ノリタカ 上杉柊平 ほか

公式サイト:映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』オフィシャルサイト

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』劇場グッズは、WOWOW百貨店で 12月5日(金)午前10時より販売開始予定
映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』劇場グッズ | WOWOW百貨店


取材・文/倉田モトキ 撮影/中川容邦