2026.02.06

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WOWOW×ドコモが挑む超大作ドラマ「北方謙三 水滸伝」共同制作。共創が生む次のコンテンツ戦略

株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー 映像サービス部長 田中智則氏
株式会社WOWOW コンテンツ・クリエイティブ統括執行役員 口垣内徹

WOWOW×ドコモが挑む超大作ドラマ「北方謙三 水滸伝」共同制作。共創が生む次のコンテンツ戦略

2026年2月15日から、WOWOWと株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)の2社による初の共同制作となるWOWOW×Lemino連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」(以下、「北方謙三 水滸伝」)が、WOWOWと、ドコモの運営するLeminoでスタートする。

2社は2025年11月、映像事業におけるコンテンツ分野の共同調達、共同制作、一部相互提供の業務提携契約締結を発表。異なる分野で成熟した事業を持つドコモとWOWOWは、どのような背景でタッグを組むに至ったのか。今回は、提携のキーパーソンであるドコモ映像サービス部長・田中智則氏とWOWOWコンテンツ・クリエイティブ統括執行役員・口垣内徹の2人に、業務提携の経緯と未来への可能性を聞いた。

2602_features_wowow-docomo_sub01_w810.jpgWOWOW×Lemino連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」

WOWOW×ドコモで生まれるシナジーとは?「北方謙三 水滸伝」制作の狙い

── いよいよWOWOWとドコモ初の共同制作ドラマ「北方謙三 水滸伝」の放送・配信がはじまります。今回の業務提携のキーパーソンであるお二人は、この取り組みをどのように捉えていらっしゃいますか。

田中 これまでもドコモはオリジナルコンテンツの制作にチャレンジしてきました。今回、WOWOWさんと提携して「北方謙三 水滸伝」に取り組むことで、超大作のオリジナルコンテンツをお客さまに提供できる機会を得て、ワクワクしているところです。

2602_features_wowow-docomo_sub02_w810.jpg株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー 映像サービス部長 田中智則氏

口垣内 今は海外の配信サービスが日本国内でどんどん普及してきていますし、スポーツ中継などの放映権料も高騰しています。そうしたなかで、WOWOW1社でできることには限りがあります。よりスケールの大きなコンテンツを、より幅広いお客さまに届けていく。その取り組みをドコモさんとご一緒できることは、過去のWOWOWにはなかった経験だと感じています。

2602_features_wowow-docomo_sub03_w810.jpg株式会社WOWOW コンテンツ・クリエイティブ統括執行役員 口垣内徹

口垣内 WOWOWはこれまで独自のドラマ製作プロジェクト「連続ドラマW」を展開してきましたが、一方で「お客さまが驚くようなスケールの作品を作りたい」という想いも持ち続けてきました。

ただ、せっかく大きなIP(知的財産・コンテンツ資産)を生み出せたとしても、WOWOWだけでは「より多くの人に届ける」ことを実現しきれない。その点、ドコモさんはリアル店舗をはじめ「dアカウント」を起点とした決済サービスやライフサポートなど、多様なタッチポイント(顧客接点)をお持ちです。だからこそ、IPの活用余地が大きく広がる手応えがあります。

われわれとしては、「ドラマを作って放送・配信して終わり」ではない世界観を目指せることに、大きな可能性を感じています。

田中 1社ではできなかったことを2社が一緒に取り組むことで、単なる足し算ではなく、互いの強みを増幅させる掛け算にできる。その点は非常に大きいですよね。

スポーツや音楽は、IPの権利元が社外にあるため、活用にはどうしても限界があります。一方で、「北方謙三 水滸伝」のように、われわれがドラマとして企画・制作するコンテンツは自分たちのIPとして展開できる。グッズ販売や海外展開など、周辺事業への広がりにもチャレンジできますし、WOWOWさんの制作力、キャスティング力、プロデュース力が非常に大きな力になっています。

お互いが見た両社の企業文化。タッグの経緯と驚きのキックオフミーティング

── 今回、「北方謙三 水滸伝」をきっかけにタッグを組んだ経緯は、そもそもどのようなものだったのでしょうか。

口垣内 もともとWOWOW社内で北方謙三さんの「水滸伝」を映像化しようと企画開発を進めていました。そんななかで、ほかの企画も含めてドコモさんにご提案する機会があり、評価をいただけました。僕らが思い描いていたクオリティーまで作品を高め、さらに広げていくためにも、ドコモさんと一緒にやらせていただく意味があると強く感じたんです。

田中 もう少しさかのぼってみると、僕と口垣内さんが最初にご一緒したのは、ある食事会でしたよね。お話ししているうちに、お互いこれまでの仕事で格闘技に深く関わってきたこと、キャリアで苦労したことなどにも共通点が多かった。

それに「せっかくこの業界にいるのだから、世の中を驚かせるようなことをやりたいよね」という考え方も共通していました。最初は知らなかったのですが、入社年次も同じだったんですよね。

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── 企業同士のコラボレーションでは、お互いの価値観のすり合わせが非常に大事になると思います。お二人は互いの企業文化をどのように感じていましたか?

田中 最初に行なったキックオフミーティングが印象に残っています。関係者が全員集まって自己紹介がてらいろいろなお話をしたのですが、WOWOWの皆さんは本当にコンテンツに対する愛が深いなと。

私はこれまで社内でコンテンツ企画・制作の文化を育ててきたので、ドコモ側のスタッフもその点に関しては高いと自負していたのですが、WOWOWの皆さんからはそれ以上の高い熱意を感じたんです。うちのスタッフたちも大いに感化され、「これから一緒にやっていこう!」と士気が一気に高まりましたね。

口垣内 私から見てドコモさんのすごいところは、自由闊達に議論しつつも、ある目標地点が決まったら全員がそこに向かっていく推進力の強さです。多くの事業を展開しているなかで「あっちに行くか、こっちに行くか」で進まなくなってしまう局面は必ずあるはずですが、ドコモの皆さんは決めたことへと真っすぐ進んでいく突破力があるな、と感じています。

「前例があるか」ではなく「成果が生まれるかどうか」。ドコモがWOWOWを信頼した背景

── 仕事を進める上でのコミュニケーションについては、お互いにどう感じていましたか。

田中 言い方が難しいですが、裏表なく、誠実に仕事に向き合っていただいていると感じてきました。これって当たり前のことのようですが、この業界では意外と当たり前ではないんです。僕の経験でも、相手方が言いにくさや違和感を抱えていながら、こちらが察しきれずにそのまま進んでしまうことが多々ありました。しかし、このプロジェクトではそうしたことが一切なかったと感じています。だからこそわれわれも「WOWOWさんに対しては言いたいことを隠さずに伝えよう」という姿勢で、前向きに進めることができました。

口垣内 企業文化ってどうしても異なるものなので、仮にWOWOWとドコモさんの各担当者がそれぞれの分科会で50時間、100時間と話してもまとまらないことは十分あり得ます。ですが、田中さんと僕が話してしまえば1時間でまとまることは多い。

それと、これはたまたまですが、WOWOWとドコモさんのオフィスは歩いて10分、走れば5分で行ける距離にあるんです。僕は何度も「今日、このあと15分だけお時間いただけないですか?」と連絡し、田中さんのところに走って行きました(笑)。

田中 ありがとうございます(笑)。

口垣内 というのは半分冗談ですが、真剣な話として「物理的に距離の近い環境で、密にコミュニケーションを重ねられたこと」が、このスピード感につながったと思います。2025年11月の業務提携発表やドコモさんの決算会見に向けては、情報の出し方も含めて調整事項がとても多かったのですが、初期段階で僕と田中さんで何度も膝を突き合わせて会話を重ねられたから、僕らも頑張れたんだと思います。

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田中 その際のやりとりでも思ったのですが、僕らは「あんなことも、こんなことも」といろいろ要求してしまうわけです。それでもWOWOWの皆さんは「できない」とは言わず、いったん必ず「分かりました。検討します」と受け止めてくれる。振り返ると、よくあれほどまでに対応してくださったなと感じています。

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口垣内 社内で話していたのは「ドコモさんとのプロジェクトで、"前例"はないんだ」という考え方でした。前例があるかどうかではなく、成果が生まれるかどうかで判断しよう、と。

とはいえ、要望に対してその場で否定しないのはドコモさんも同じです。だからこそ、さまざまなやりとりがキャッチボールとして成立しているんだと思います。

「権利だけ、放送だけ」からの脱却。2社だから描ける未来

── 現在ではLeminoのNBA(バスケットボール)をWOWOWで配信したり、逆にWOWOWのUEFAチャンピオンズリーグ(サッカー)をLeminoで配信したりと、スポーツや音楽の分野でも相互乗り入れが進んでいます。現時点ではこの提携にどんな手応えを感じていますか。

田中 われわれはスポーツ・音楽業界にそれほど深い関係値があるわけではありません。一方で、WOWOWさんは、その分野における関係値と経験、実績を持っていらっしゃる。その上でわれわれドコモと一緒に取り組むことで、資金面のスケールも大きくなり、2社であれば権利の買い付けに成功するチャンスも生まれてくると感じています。

2602_features_wowow-docomo_sub07_w810.jpg欧州サッカー UEFAチャンピオンズリーグ

2602_features_wowow-docomo_sub08_w810.jpgNBAバスケットボール

田中 加えて今後は、コンテンツを購入するだけではなく、付随する権利もしっかりと拡大していきたいと考えています。例えば音楽ライブであれば、配信権だけを取得するのではなく、ライブのチケッティング、観覧できる権利、さらには舞台裏やライブに至るまでのアーティストの活動をドキュメンタリーとして撮影する、といった試みにも取り組んでいきたいと考えています。

口垣内 おっしゃるとおりで、ドコモさんは有明アリーナのような会場運営も手がけていらっしゃいます。チケッティングを含め、まさにWOWOWが掲げている多層展開、「権利だけじゃない」「放送だけじゃない」「配信だけじゃない」ということをご一緒できそうだと感じています。さまざまなコンテンツの放映権料が上がっている今、保有する権利が増えれば、回収の見込みも立てやすくなります。

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田中 コンテンツを多面的に捉えることが、大きな可能性を育てると考えています。これはアーティストサイドと関係値が深く、「任せてください」と言っていただける実績を持つWOWOWさんと一緒だからこそ実現できることなんですよね。

ドコモはもともとは通信サービスを基盤とする企業ですが、今は金融サービスに力を入れていたり、エネルギー分野の開拓も進めるなど、さまざまなお客さまとの接点を広げています。約1億人の方々に満足していただくためにエンターテインメント分野にも注力しながら、より発展的なユーザーベースの構築をWOWOWさんと共に進めていきたいと考えています。

── WOWOWのコンテンツ制作力と、ドコモのリアル/デジタルを行き来する力が新しい価値を作っていく、ということなのですね。

田中 リアルとデジタルを融合していきながら、どうお客さまに新しい体験価値を提供するか。お客さまがその価値をどう捉え、それを2社へのエンゲージメントへつなげていくか。これが大きなテーマです。

リアルの取り組みで言えば、先ほど口垣内さんも触れてくださったように、国立競技場、IGアリーナ、有明アリーナなどのスタジアム・アリーナの運営を、ドコモが手がけ始めています。そこにWOWOWさんと一緒に音楽ライブを誘致し、リアルな体験価値を提供する。一方で、ご来場できないお客さまには放送・配信を通じてデジタルでも価値を届けていく。そうした取り組みを目指していきたいですね。

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──2社で制作していく「北方謙三 水滸伝」は、日本国内だけにとどまらない魅力を持っているようにも思えます。

口垣内 最終的には世界の方々に見ていただきたい気持ちはありますが、そのためにはまず国内のお客さまに向けて、しっかりとした作品を作ることが重要だと考えています。経験的にも、「こうすれば海外の人に受けるはずだ」という発想では、むしろうまくいかないことが多い。もちろんマーケティングも欠かせませんが、何より大切になるのは「このスケールで、この物語を届ける」という強い意志を持ったコンテンツを創り上げることだと思っています。

田中 僕も口垣内さんと同じで、現在グローバルでヒットしているコンテンツも「すべての人に受ける」ことを目指して作られているわけではないと思っています。まずは、われわれが想定しているお客さまに良いコンテンツをお届けできれば、そこから次の広がりにつながっていく。その積み重ねこそが、WOWOWさんが磨いてきた、そしてドコモが広げていく「良質なコンテンツを信じる姿勢」と重なっていくのだと思います。

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■WOWOW×Lemino連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」公式サイト

【プロフィール】

田中智則(写真 左)
株式会社NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー 映像サービス部長。1995年に日本電信電話入社。サービス企画開発、M&A、グループ戦略、経営企画業務に従事。2012年からコンテンツビジネス事業を担当し、直近では映像配信サービス「Lemino」の企画開発を担当している。

口垣内徹(写真 右)
株式会社WOWOW コンテンツ・クリエイティブ統括執行役員。1995年、WOWOWに新卒入社。営業職からスタートし、その後スポーツ番組の制作を経験。格闘技、テニス、サッカーなどでプロデューサーを務める。事業局を経て編成局でデスク、部長を歴任。2024年、執行役員に就任し現在に至る。

(肩書き・所属部署は2026年2月時点のもの)

取材・文/中野慧 撮影/佐藤翔