2023.07.19

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第3回WOWOWクリエイターアワード授賞式&最優秀賞「連続ドラマW フェンス」脚本・野木 亜紀子インタビュー

脚本家 野木亜紀子

第3回WOWOWクリエイターアワード授賞式&最優秀賞「連続ドラマW フェンス」脚本・野木 亜紀子インタビュー

WOWOWが、自社で制作したオリジナルコンテンツを対象に、優秀なクリエイター、プロデューサー、ディレクター、技術者個人を表彰する目的で創設した「WOWOWクリエイターアワード」。3回目を迎えた同賞の授賞式が6月26日に開催され、最優秀賞に輝いたドラマ「連続ドラマW フェンス」の脚本家・野木 亜紀子さんをはじめ、受賞者が一堂に会した。

取材対象100人超え! 多面的に沖縄を描いた「連続ドラマW フェンス」

<最優秀賞>「連続ドラマW フェンス」 脚本:野木 亜紀子

授賞式の様子01

第3回WOWOWクリエイターアワードの最優秀賞に輝いたのは、ドラマ「連続ドラマW フェンス」の脚本を執筆した野木 亜紀子さん。「アンナチュラル」「MIU404」を生み出してきた野木さんが、"沖縄"をテーマに執筆した本作は、膨大な取材をベースに、沖縄を巡る歴史的な経緯、本土やアメリカとの関係、ジェンダー、人種など多面的なテーマを盛り込みつつ、"フェンス"を乗り越えて人々が理解し合っていく姿を描き、高い評価を受けた。

野木さんは「これほどの日数をかけて取材したことはなく、正直、大変でした」と述懐。この取材があったことで「多面的な視点をうまく消化できたんじゃないかと思います」と語る。そして「沖縄のさまざまな事象は現在進行形のことがたくさんあり、本土や外国にもっと知ってもらった方がいいことであり、日本人であれば知るべきことですが、なかなか伝わっていない―このドラマを通じて多くの人に伝わればと思います」と語った。

なお野木さんは今回の最優秀賞の賞金300万円の一部を、沖縄の幾つかの団体に寄付することを表明している。

「異世界居酒屋「のぶ」」全30話の監督/脚本を務めた品川 ヒロシ

<優秀賞>「異世界居酒屋「のぶ」Season2、Season3」 監督/脚本:品川 ヒロシ

授賞式の様子02

優秀賞のひとり目の受賞者は、ドラマ「異世界居酒屋「のぶ」Season2、Season3」 の監督/脚本を務めた品川 ヒロシさん。品川さんはシリーズ全30話とスピンオフのすべてで監督/脚本を務めている。

「普通のドラマだと、全部やらせてもらえるってあまりないですが、『できることなら自分で脚本、監督を全部やりたい』とわがままを言って、撮らせていただきました。芸人という"表方"をやっていましたが、映像を撮る魅力にハマってからは、仕事というより本当に好きでやっています。ですので賞をいただくまでもなく、WOWOWさんにSeason3まで撮らせていただけただけで、すごく幸せな時間を過ごすことができました」と喜びと感謝の想いを口にした。

WOWOW初となるブロードウェイミュージカル制作を牽引

<優秀賞>「ブロードウェイミュージカル『ジャニス』」 総合プロデューサー:亀田 誠治

授賞式の様子03

優秀賞受賞者2人目に登壇したのは、「ブロードウェイミュージカル『ジャニス』」の総合プロデューサーを務めた⻲⽥ 誠治さん。ブロードウェイミュージカルの日本版制作というWOWOW初の取り組みに加え、会場は劇場ではなくホール(東京国際フォーラム)、さらにコロナ禍でさまざまな制限がある中で制作を進めなくてはならないなど、多くの挑戦があった。

亀田さんは「WOWOWさんは常に背中を押してくれて、アイデアやトライアルも『やってみましょう』と力を貸してくれました」と振り返る。ジャニス・ジョプリンを扱うことの難しさを懸念する声もあったそうだが、亀田さんは「前例がないことにチャレンジすることにめちゃくちゃ燃えます。いろんなことがありましたが、こうして新しい道を切り開けたことは誇りです」と充実した表情を見せた。

ひとり6役でフジコ・ヘミングのソロコンサートを成功に導く

<優秀賞>「フジコ・ヘミング ソロコンサート "COLORS" ~色を付けるように弾く~ presented by WOWOW」 映像監督/コンサート演出:小松 莊一良

授賞式の様子04

優秀賞3人目は、「フジコ・ヘミング ソロコンサート "COLORS" 〜⾊を付けるように弾く〜 presented by WOWOW」にて映像監督、コンサート演出を務めた⼩松 莊⼀良さん。同プロジェクトにおいて、小松さんは企画プロデュースに始まり、舞台の総合演出、全体のコンセプター、番組の映像監督、編集、構成のひとり6役をこなしている。

小松さんはWOWOWの撮影技術力の高さをたたえ「今回は日頃の音楽番組制作で信頼を築いてきた外部のコンサート制作やステージクルーの皆さんとともに、ピアノの生音だけで勝負するフジコさんを、よりドラマティックに、よりスケールアップして、コンサートと番組の両面で独自の世界観を構築できました。音楽を愛するWOWOWが、クラシックでも新たなチャンレジができたのではと思っています」と語った。


授賞式後には野木さんがインタビューで、改めて本作に込めた想いなどを語ってくれた。

登場人物のせりふに込めた葛藤と苦悩の"結論"

連続ドラマW フェンス「連続ドラマW フェンス」

――沖縄を題材にした本作の脚本を野木さんが執筆することになった経緯を教えてください。

2020年ごろにNHKエンタープライズの北野 拓プロデューサーから企画の相談を受けていたんですが、当時は「MIU404」終了直後で疲れてもいたし、どう考えても大変な企画なのでお断わりしました。その後、「WOWOWで実現できそうだ」「沖縄出身の高江洲(義貴)プロデューサーがやりたいと言ってくれている」という話を聞いて、これは引き受けた方がいいんじゃないかと思い直したんです。ここでやらなければ、この先、私自身から沖縄を題材にしたドラマの企画は生まれないだろうし、いま、ドラマとして書く意義のある題材だとも思い、最終的に引き受けました。

――沖縄問題に詳しい大学教授から米兵による事件の弁護士、事件の被害者の支援団体、産婦人科・精神科医、県警、米軍の捜査機関、基地従業員、主人公の桜(宮本 エリアナ)と同じブラックミックスの方たちまで、100人を超えるさまざまな立場の人々を取材されたそうですが、その内容を脚本に落とし込んでいく過程での苦労をお聞かせください。

ストーリーがどう転ぶにせよ、こういう物語は想像や妄想で書いてはいけないので、"現実"を前にして、どういうふうにフィクションを作ることができるか? というリアリティの境界線を担保・補強するためにも、取材はどうしても必要です。

難しかったのは、皆さん、それぞれの立場で語られる中で、それをどう脚本に落とし込むべきか―? 私は沖縄の人間ではないわけで、沖縄の人の気持ちをどの視点でどれだけすくって描けば"誠実"なんだろうか? ということは悩みました。

その結論が、第4話での桜のせりふとして着地しているのかなと思います。高江洲プロデューサーを含め、観てくださった沖縄の方たちから「自分たちが感じていながらも言語化できていなかったことが描かれていて胸に迫った」という声をいただいて、ホッとしました。

自由でポリシーもあるWOWOWは、世界レベルに近い位置にいる

――完成した作品を観て、それぞれの俳優さんの印象はいかがでしたか?

(主人公の記者・キー役の)松岡 茉優さんはやっぱりお上手ですよね。渾身のお芝居で全体を引っ張ってくださったし、松岡さんに引っ張られて、エリアナさんも初ドラマとは思えないお芝居を見せてくれました。エリアナさんは、ブラックミックスであることで、日本でドラマの役がないとおっしゃっていましたが、この作品が役者としての足掛かりになったらうれしいです。

あとは(キーと旧知の警察官役の)青木 崇高さんがすばらしくて、沖縄の方たちもみんな「沖縄の人じゃないの?」って(笑)。沖縄なまりの英語まで身に付けてくださったそうで、すごかったです。

沖縄出身の役者の皆さんもそれぞれ素敵でしたし、(桜のおばぁ役の)吉田 妙子さんとお仕事させていただけたのもうれしかったです。

――WOWOWとのお仕事はいかがでしたか?

自由だなと感じましたし、撮影や映像のルックにきちんとお金をかけるというポリシーがすばらしいですね。やっぱり世界の作品は映像がリッチです。日本の作品がなかなか太刀打ちできない部分ですが、このレベルでやっていかないと世界とは戦えないと感じました。その意味で、世界レベルに近い位置にいるんじゃないかと思います。

――野木さんがものを作る上で大切にしていることを教えてください。

今回も大変いい座組でやらせていただいたんですけど、常日頃から座組はすごく大事だなと思っています。プロデューサーと脚本家、監督の3者が忌憚なく意見を言い合い、もの作りできる健全な現場は本当に大事です。

取材・文/黒豆 直樹  撮影/祭貴 義道

関連情報

第3回 WOWOWクリエイターアワード 受賞者決定!
https://corporate.wowow.co.jp/news/info/5180.html