2023.11.29

  • クリップボードにコピーしました

子どもたちに届け!MATSUNAGA CUP 2023開催

子どもたちに届け!MATSUNAGA CUP 2023開催

MATSUNAGA CUP 2023が、2023年10月7日(土)、8日(日)に岐阜県大垣市総合体育館で開催された。参加した子どもたちは総勢30人。同時に3x3バスケットボール大会、車いすバスケットボールトップ選手による黒白戦も実施された。子どもたちは、思い切りボールを追いかけ、トップ選手のプレーを間近で観戦する充実した2日間を過ごしたのだった。

子どもたちに車いすバスケの機会を!

東京2020パラリンピックで車いすバスケットボール男子日本代表の主将を務めた豊島英(広報・IR部)が中心となって「パラスポーツ応援プロジェクト」が2021年にスタートした。応援グッズ販売の売り上げからジュニア選手に車いすバスケ専用の車いす(バスケ車)をプレゼントするプロジェクトだ。
WOWOWでは車いすバスケットボールをはじめとしたアスリートの可能性やスポーツ界のさらなる発展に寄与するため、さまざまな活動を行なっている。車いすを中心とした福祉機器メーカーの松永製作所は、プロジェクトに賛同し、バスケ車の製作を担っている。すでに15人の子どもたちにバスケ車がプレゼントされた。

2311_matsunagacup_sub15.jpg

車いすバスケットボールは、数あるパラスポーツの中でも特に人気の高いスポーツの一つだ。東京2020パラリンピックでは男子日本代表が銀メダルを獲得し、子どもたちにとって車いすバスケをやってみたいと興味を持つきっかけになっている。
一方で、競技人口は減少傾向にある。1998年には1099人の選手が日本車いすバスケットボール連盟に登録していたが、2023年の登録数は704人。車いすバスケの認知度は東京2020パラリンピック以降うなぎのぼりであるにもかかわらず、なぜ、このような現象が起こるのか。その要因の一つに、バスケ車が高額なため、子どもたちが簡単に入手しにくいという現状がある。また、体験会などはあっても、継続的に練習したり、試合に出場したりする機会が少ないことも、車いすバスケ振興の課題の一つとなっている。

2311_matsunagacup_sub01.jpg

MATSUNAGA CUPは、松永製作所と岐阜県障害者スポーツ協会の共催による子どもたちのための車いすバスケットボール大会だ。2回目となる今大会は、2日間のプログラム。1日目は車いすバスケの練習、2日目には4チームに分かれて試合が行なわれた。
小学生から高校生まで、全国から30人の子どもたちが集結。日常生活で車いすを使用するなど身体障害がある子どもやダウン症候群の子どもに混じって障害のない子どもも参加した。「車いすバスケがしたい!」というあらゆる子どもたちに、MATSUNAGA CUPは開かれている。
今大会では、プレゼントされたバスケ車を持参した子どもが6人参加した。一方、まだ自分のバスケ車を持っていない子どもには、松永製作所がレンタル用の子ども向けバスケ車を用意した。

「実際に、マイバスケ車を初めて持つことで、これまで以上に車いすバスケが好きになった、熱心に練習に通うようになったという声を聞いています。バスケ車を持つこと、参加できる練習会や試合があることで夢を持つきっかけになりますよね。MATSUNAGA CUPが子どもたちの夢のステージになれば、と思っています」
豊島の想いが松永製作所とコラボして、MATSUNAGA CUPを結実させたのだ。

2311_matsunagacup_sub02.jpg

タッチ鬼からシュートまで。笑顔が弾ける練習風景

MATSUNAGA CUPの特徴の一つが、充実した講師陣。現日本代表HCの京谷和幸氏、ACの藤井新悟氏をはじめ、東京2020パラリンピックで銀メダルを獲得した時の日本代表選手だった豊島英、藤澤潔、宮島徹也という顔触れだ。1日目、30人の子どもたちは初心者組とジュニアチームで練習するなど経験がある組の2グループに分け、練習が行なわれた。初心者組の子どもたちは、バスケ車を自在に走らせることからスタート。タッチ鬼やコーンスラローム競走などを取り入れ、楽しんで汗を流す。経験者組にはすでにバスケ車の操作にたけている子どもも少なくない。全力疾走による前進、急停止、転回を組み合わせた走り込み、1対1での攻守練習など大人顔負けの高度な練習に取り組む。最後には初心者組も経験者組もパスやシュート練習を行なった。
地元・岐阜県から初めて参加したという桐生息吹さん(8歳)は、「今年の夏に初めて車いすバスケの体験会に参加してとても楽しかったので参加しました。シュートは難しいけれども、車いす操作はスイスイできました!」とレンタルした青いバスケ車を自慢げに操作しながら、そう語ってくれた。
2311_matsunagacup_sub03.jpg
1日目には、車いすバスケの日本代表選手らトップ選手による3x3の大会と、健常者のチームによる3x3の大会が同時開催された。3x3は、1チーム3人の選手によりハーフコートで試合が行なわれる。16人のトップ選手が集結した車いすバスケは5チーム、健常者は4チームによるリーグ戦、3位決定戦、決勝戦が実施された。
車いすバスケでは、鳥海連志率いるチームBagsyと古澤拓也率いるチームWizardが決勝戦で対決し16-12でWizardが優勝した。大会に集まった子どもたちは、練習前にはリーグ戦を、さらに練習後に行なわれた決勝戦を観戦。トップ選手らの白熱したプレーに歓声と拍手を送っていた。車いすバスケの決勝戦を熱心に観戦していた健常者の優勝チームNINJA AIRSのメンバーらも口々に「車いすバスケ、めちゃくちゃかっこいい!」と絶賛していた。
2311_matsunagacup_sub04.jpg
2311_matsunagacup_sub05.jpg

3ポイントシュートも飛び出した、大接戦の大会

2日目は、メインアリーナで子どもたちの車いすバスケ大会が実施された。赤、青、黄色、緑の4チームに分かれ、それぞれのチームに前日3x3で活躍していたトップ選手らがサポート役として参加した。ドリブルの上手な子どもにパスを出し、シュートにつなげていく。あるいは、バスケ車操作に慣れない子どもの走りに並走して応援する。チームを率いるのは練習を見てくれたコーチ陣だ。
試合は総当たり戦で予選を行ない、予選での結果により3位決定戦、決勝戦が行なわれる。リングの高さはミニバスケと同じ260cm。8分ハーフで前後半を戦うルールだ。ショットクロックや電光掲示板が設置され、DJによる音楽や会場アナウンスも入る。トップ選手たちが活躍する公式戦のような演出である。
最初は固さのあった子どもたちも、試合を重ねるごとにスピードが速くなり、どんどんシュートを打っていく。年齢や体格、そして障害の有無もバラバラな子どもたちが、お互いに協力しあってプレーする姿が印象的だった。
2311_matsunagacup_sub06.jpg
例えば、ダウン症の塚田未結さん(10歳)はシュートしてもリングまでボールは届かない。また、みんなのスピードについていけないため、サポート役のトップ選手と一緒にリング下で待機している。仲間の子どもたちがパスを出し、未結さんが受け取ってシュートを放つと、みんなでリバウンドをとって攻撃を続けるといった具合だ。未結さんは、2試合目、3試合目と続ける中で、サポート選手と一緒にコートの端から端までチームの仲間を追いかけてバスケ車で走り回れるまでに成長していったのだ。
2311_matsunagacup_sub07.jpg
試合を重ねるごとにスコアも上がり、予選最後の黄色vs青の試合では、黄色チームが予選最多の20得点をマークした。子どもたちの躍動ぶり、成長ぶりに応援にきている家族や友達なども大歓声を送っていた。その予選リーグの結果は、1位が赤、2位が黄色、3位が青、4位が緑。この結果により、青vs緑の3位決定戦、赤vs黄色の決勝戦が、午後に行なわれた。

お昼休みを挟んで、3位決定戦の前に、車いすバスケのトップ選手らによる黒白戦(ブラックチームvsホワイトチーム)が行なわれた。黒白戦は5対5の10分ハーフ。ブラックチームは古澤拓也、赤石竜我、緋田高大、川上祥平、北風大雅、髙柗義伸、紅一点の萩野真世、村上直広の8人。ホワイトチームは鳥海連志、池田紘平、川原凜、塩田理史、堀内翔太、丸山弘毅、宮本涼平の7人。子どもたちの「3、2、1、ティップオフ!」のかけ声で試合が始まった。
2311_matsunagacup_sub08.jpg
前半、村上、髙柗のシュートが決まったブラックチームが17―10でリードして折り返すが、後半になるとホワイトチームの鳥海、池田が躍動。最後に池田がシュートを決めて30―28で逆転勝利を飾った。

2311_matsunagacup_sub09.jpg

いよいよ、この後は子どもたちの3位決定戦と決勝戦だ。チーム全員がコートに入場し、メンバー同士がハイタッチを交わす。ワクワク感が一気に広がり、家族や観客の声援が子どもたちを後押しする。3位決定戦も会場にいる全員の「3、2、1、ティップオフ!」のかけ声で始まった。
青チームを率いるのは宮島徹也コーチと、池田紘平、川上祥平、塩田理史、村上直広のサポートメンバー。対する緑チームは藤澤潔コーチと、赤石竜我、緋田高大、髙柗義伸のサポートメンバーという構成だ。
青チームの増田陽太さん(14歳)のシュートが次々と決まり、前半8−2と大きくリードして折り返した。後半は、青チームはなんとコートの5人全員が子どもだけのスタメン。サポートメンバーはベンチスタートした。一方、後半に入ると緑チームが俄然、活躍を見せる。森元晴さん(14歳)らがシュートを決めると、試合残り0秒で関谷譲さん(16歳)が放ったシュートがネットに入った。ビデオ判定で得点が認められ8―8に。延長線を戦うことになった。4分間の延長線では青チーム、緑チームともに子ども選手同士のスタメンだ。どちらも固いディフェンスで守り続ける中、桜井一樹さん(15歳)のシュートが決まり、10―8で青チームが3位を決めた。

2311_matsunagacup_sub10.jpg

決勝戦は、赤チームと黄色チームの対決だ。赤チームは藤井新悟コーチと、川原凜、北風大雅、鳥海連志、堀内翔太というサポートメンバー。対する黄色チームは、豊島英コーチと、萩野真世、古澤拓也、丸山弘毅、宮本涼平というサポートメンバー。
健常者の3x3優勝チームのNINJA AIRSや健常者の3x3主催団体である垂井レイザーバックスのメンバーも応援に駆けつける中、試合が始まった。
障害はないが車いすバスケに魅了されているという黄色チームの横萩騎士さん(15歳)を仲間がサポートして得点を重ねる中、会場を沸かせたのは、赤チームの大滝日向さん(12歳)だ。前半、後半で3ポイントシュートを2度も決めた。トップ選手たちも思わず拍手を送るスーパープレーの連発。前半、黄色チームが10―7でリードして折り返し、後半赤チームが2度、同点に追いすがる大接戦を繰り広げたが、最後は黄色のポイントゲッター、騎士さんのシュートが決まり、16―14で優勝した。

2311_matsunagacup_sub11.jpg

「楽しかった!」の笑顔が量産された大会に

「昨日の練習の時に、教えてくれたコーチが"目標は3ポイントシュートだね"って言ってくれて、いっぱい練習しました。これまで試合で3ポイントを決めたことはないです。初めてです。すごくうれしい! でも、チームが優勝できなかったのが悔しいです」3ポイントシュートを2本決めた日向さんは神奈川県からの参加。いつもは埼玉ライオンズのジュニアチームで練習しているのだとか。「将来は、サポートしてくれたトップ選手のように上手になって、MATSUNAGA CUPで未来の子どもたちのサポートをしたい」と語ってくれた。

2311_matsunagacup_sub12.jpg

「今回、初めて参加しました。優勝できるとは思ってなかったので、びっくりですけど、チームのみんなを信頼していたので、うれしい。東京パラリンピックで車いすバスケを見て、絶対にやりたいと思うようになりました」そう語るのは、優勝した黄色チームで活躍した相原大輝さん(17歳)。トップ選手と一緒にプレーすることで、テレビで見ているのとは違うスピード感や迫力を実感し、自分の新たなモチベーションにつながったとか。

新潟県からやってきた高悠希さん(9歳)は、昨年に続き2度目の参加。憧れのトップ選手はダントツ鳥海選手。黒白戦の時にも前日の3x3でも、鳥海選手に大きな声援を送っていた。その鳥海選手と同じ赤チームでプレーできたのは夢のよう、と話す。「ティルティングしてシュートする姿がカッコよくて鳥海選手が大好きになりました。今はまだ(鳥海選手のようには)できないので、今日はディフェンスで頑張りました!」
悠希さんのご両親は「昨年の夏にWOWOWさんからプレゼントされたバスケ車が届きました。初めてのマイバスケ車に大喜びで、練習に向かう気持ちが大きく変わりましたね」と話してくれた。新潟県では県内全域から月に1、2回集まって子どもたちの練習会が行なわれており、悠希さんも欠かさず通っている。

2311_matsunagacup_sub13.jpg

表彰式では、今大会のオールスター5が発表された。赤チームで3ポイントシュートを決めた大滝日向さん、同じく赤チームの高悠希さん、青チームでは長野県から参加した伊藤壮伸さん(10歳)、黄色チームからは悠希さんとともに新潟県から参加した江口樹さん(11歳)、そして緑チームでブザービーターを決めた関谷譲さん。大会MVPは、大滝日向さん。
さらに、大会特別賞として、ダウン症候群という障害がある塚田未結さんと筧優奈さん(11歳)が、大きな成長ぶりで選出された。「とっても、楽しかった!」2人は、大きな笑顔でそう喜びを表現した。
2311_matsunagacup_sub14.jpg
京谷氏は、今大会について次のように総括した。
「子どもたちは練習経験の有無に関係なく、とてもよく車いすバスケを理解しているという印象でした。今日の試合でも、ゲームごとに成長を見せてくれました。特に特別賞に選ばれた未結さんと優奈さんの成長ぶりには目を見張っています。バスケ車を走らせることも難しかったのに、今日は走り回ってパスしてシュートまでチャレンジした。子どもたちにとって大きな自信になったと思います」

藤井氏も「MATSUNAGA CUPは、全国の仲間と一緒に車いすバスケをする楽しさに満ちあふれた大会でした。昨日はポツンとひとりでボールに触っていた子どもも、今日はチームメンバーとしてプレーしていた。また、トップ選手がサポートし、実際に一緒にコートでプレーすることで、その選手のすごさも感じられたのではないかと思います」と語る。

応援プロジェクトを通じて、MATSUNAGA CUPを見つめる豊島は、今大会の成功に満足していると振り返った。
「昨年のスタートの時から、単発で終わらせず継続してやっていきたいと強く願っていました。プレゼントしたバスケ車を持参してくれた子どもも、レンタルのバスケ車を使った子どもも、みんなすごくいい笑顔でした。バスケ車のプレゼント台数が増えるほど、子どもたちの笑顔が比例して増えていくことを改めて感じています」

車いすバスケを体験したこと、バスケ車をプレゼントしてもらったこと。こうしたチャンスによって子どもたちは、飛躍的に成長を見せている。子どもたちの「すごく楽しかった!」「もっと練習して上手になりたい!」という想いと笑顔が印象的だったMATUSNAGA CUPは閉幕した。

取材・文/宮崎恵理 撮影/MOTO YOSHIMURA・MATSUNAGA CUP