夏休みの熱戦!MATSUNAGA CUP 2025開催

MATSUNAGA CUP 2025が、2025年7月19日(土)〜21日(月・祝)の3日間、岐阜県福祉友愛アリーナで開催された。4回目となる今大会には、全国から7つのチームが集結。第1回車いすバスケットボールジュニア大会が行なわれた。栄えある初代チャンピオンに輝いたのは、埼玉県から出場した「ライオンズWSC」。グループリーグから順位決定戦まで、ジュニアたちの熱い闘いぶりをレポートする。
「MATSUNAGA CUP」とは
MATSUNAGA CUPは、福祉機器メーカーの松永製作所と岐阜県障害者スポーツ協会の共催による子どもたちのための車いすバスケットボール大会だ。4回目となる今大会は、海の日の祝日を含む3連休に開催された。
今大会の特徴は、「第1回車いすバスケットボールジュニア大会」が開催されたことだ。全国から7つのチーム、全57人の選手が集まり、予選から順位決定戦までが行なわれた。
出場チームは、東北トリニティーズ、Grow Withジュニア(新潟)、ライオンズWSC(埼玉)、千葉BRAVES(千葉)、NAGOYA(愛知県名古屋市)、近畿KIDS(大阪)、そしてTEAM松永の7つ。地元のクラブやスポーツセンターで普段練習している仲間が集まって結成されたチームが中心だ。TEAM松永は、個人でエントリーしたジュニア選手によるチームである。
小学生も多数参加することから、特別ルールになっている。リングの高さはミニバスケットボールと同じ2m60cm、5号球を使用する。6分×4クォーターで、3ポイントシュートはなし。
ジュニア選手は障害の程度に応じて、3つにクラス分けされ、それぞれに持ち点が与えられる。J1(IWBFクラス1.0〜2.0点相当)選手は1点、J2(IWBFクラス2.5〜3.5点相当)選手は2点、J3(IWBFクラス4.0、4.5点相当、健常者を含む)選手は3点とし、コートでプレーできる5人の選手の持ち点合計は最大10点とする。
何より、一番重要なルールは、選手全員が出場することだ。すべてのジュニア選手に試合経験を。それが、大会の大切な趣旨なのである。
実践的なクリニックでレベルアップ
1日目は、車いすバスケットボールクリニックと、栄養講座が実施された。
今大会のアドバイザーであり男子日本代表ヘッドコーチを務める京谷 和幸氏が初級者グループ、男子日本代表アシスタントコーチの豊島 英氏(WOWOW 広報・IR部)と元男子日本代表選手の宮島 徹也氏が経験者グループのコーチを担当した。
クリニックは、氷鬼ごっこからスタート。鬼からタッチされたらその場で固まって動けなくなるが、仲間がタッチしてくれたら復活できる。全力で車いすを漕ぐことで、チェアスキルとスピードが格段に上達する。
その後、経験者グループは、競技用車いすを2回漕いでブレーキをかけるプッシュ&ストップなどのチェアワークトレーニングから開始。どちらのグループもドリブルやパス、仲間同士連携してのシュートまで、2時間充実したクリニックを受けた。
大竹 百葉選手
「パスやシュートの上手な人がいっぱいで、すごい!ドリブルの練習がとても参考になりました」大竹 百葉選手(9歳)
大竹 志帆選手
「すごく楽しい。こんなにたくさん車いすバスケットをする人が集まっていて、名前が全部覚えきれない」大竹 志帆選手(8歳)
2人は姉妹で、MATSUNAGA CUPに初参加した。初級者グループでクリニックを受けて、どんどん車いすのスピードがアップしていった。
桐生 息吹選手(右)
MATSUNAGA CUPに一昨年から参加している地元・岐阜県在住の桐生 息吹選手(13歳)は、「これまでシュートの時の力の入れ方が安定していなかったけれども、クリニックで力のコントロールができるようになりました」と語った。
グループリーグから熱戦が繰り広げられた
2日目から、いよいよ試合が始まる。
7つのチームをGroup A(4チーム)、Group B(3チーム)に分けてリーグ戦を行ない、その結果から準決勝、順位決定戦が行なわれる。いずれのチームも、1日2試合ずつ、2日間で計4試合を戦う。
Group Aは、近畿KIDS、Grow Withジュニア、東北トリニティーズ、ライオンズWSCの4チーム。
Group Bは、千葉BRAVES、NAGOYA、TEAM松永の3チーム。
グループリーグで目覚ましい力を見せたのは、ライオンズWSCだ。東北トリニティーズとの試合では25-9、Grow Withジュニアとの試合では46-5という圧勝で、Group Aの1位となり準決勝進出を決めた。近畿KIDSと東北トリニティーズは、1勝1敗で並んだが、直接対決を制した東北トリニティーズが準決勝進出を決めた。
Group Bでは、TEAM松永と千葉BRAVESがともにNAGOYAをくだして1勝ずつをあげ準決勝進出を決め、2試合目で対戦。TEAM松永が33--16で勝利した。
Group AのGrow Withジュニアは、ライオンズWSCと対戦し、22-0と大きく引き離されていた第2クォーターで、鈴木 悠仁選手(11歳)がフリースローのチャンスを得た。1本目、きれいな放物線を描いてボールがネットに吸い込まれ、待望の1得点を挙げた。
「初めてのフリースロー、決まってすごく嬉しかったです!」(鈴木選手)
鈴木 悠仁選手(左)
試合は46-5で敗れたが、鈴木選手もチームも、大きな成長を感じられた試合になった。
鈴木選手の応援に来ていたお母さまも、大粒の涙を流して喜んだ。
「長野県在住で、いつもはK9長野というチームで練習しています。大人に混じって練習すると、できないことも多い。子どもたちだけでプレーできて、悠仁は楽しそうでした。すごく自信になったと思います!」
得点力、コンビネーションが光るチームに軍配
大会最終日は、準決勝と順位決定戦が行なわれた。準決勝1試合目は、ライオンズWSC対千葉BRAVES。ライオンズWSCが序盤から千葉BRAVESを0点に抑えたままリードする。ライオンズWSCのポイントゲッターは、健常者でMATSUNAGA CUP常連の増田 陽太選手(15歳)と、冨澤 湊人選手(12歳)。抜群のスピードで次々とゴールを決めていく。一方の千葉BRAVESは参加人数が5人だが、もともと千葉BRAVESに所属しているが今大会は個人エントリーしたというTEAM松永の菅野 廉選手(15歳)が、助っ人要員として千葉BRAVESの試合にも出場した。菅野選手はJ1クラスで、小学1年から車いすバスケットボールに親しんでいる。経験値とスピードで千葉BRAVESの大きな戦力となった。試合は、36-12でライオンズWSCが決勝進出を決めた。
準決勝2試合目はTEAM松永対東北トリニティーズ。東北トリニティーズも参加人数が5人で毎試合、全員がフル出場している。佐久間 昴選手(15歳)、健太選手(13歳)、恭兵選手(12歳)の佐久間3兄弟がみごとな連携を見せ、昴選手がゴールを量産。TEAM松永を33-23で下して決勝進出を決めた。
千葉BRAVES対TEAM松永による3位決定戦は、第3クォーターで千葉BRAVESキャプテンの林田 稀佑選手(16歳)が、鈴木 堅友選手(15歳)からのパスを受けてゴールを決めるなど、20-14とリードする。が、第4クォーター終盤でTEAM松永が逆転し、24-26で3位となった。
TEAM松永(3位)
この日、男子日本代表強化指定選手の鳥海 連志選手、髙柗 義伸選手が応援に駆けつけた。
「子ども時代には同年代の選手と対戦する機会がなかった。みんな力を出し切って楽しんでほしいと思います」(鳥海)
「すごい声援で拮抗した試合。見ている僕もドキドキ、ワクワクしています」(髙柗)
初代チャンピオンはライオンズWSC
ついに始まった決勝戦は、序盤からライオンズWSCが東北トリニティーズを大きくリード。先制点を挙げた冨澤選手と、キャプテン増田選手の2人が次々とゴールを決めていく。前半終了時点で23-2。東北トリニティーズの佐久間 昴選手が何度もロングショットを放って打開しようと試みるも、リングに嫌われてしまう。後半、中里 陽斗選手(13歳)のシュートで挽回を図るが、最後は36-11でライオンズWSCが圧勝し初代チャンピオンとなった。
ライオンズWSC(1位)
ライオンズWSCは、名門・埼玉ライオンズのジュニアチーム。月2回のチーム練習を続けて今大会に臨んだ。今年度は、日本車いすバスケットボール連盟に埼玉ライオンズとは別にチーム登録している。
「試合の残り時間を見ながら、チーム全員で声を出し合って戦ったのが優勝につながったと思います」(増田選手)
増田 陽太選手(右)
「仲間を信じて、ディフェンスからの速攻でゴールできたことが大きいです。展開の速さがチームの強みです」(冨澤選手)
冨澤 湊人選手(左)
チーム最年少の永畑 澄人選手(10歳)も途中出場し、何度もシュートにトライした。
「もっとたくさん食べて、パワーをつけたいです」と語った。
―最終順位―
1位 ライオンズWSC
2位 東北トリニティーズ
3位 TEAM松永
4位 千葉BRAVES
5位 近畿KIDS
6位 Grow Withジュニア
7位 NAGOYA
オールスター5、MVPはスター選手誕生の予感
大会MVPに選出されたのは、惜しくも準優勝となった東北トリニティーズのキャプテン佐久間 昴選手だ。
東北トリニティーズ(2位)
決勝戦前の心情を「グループリーグの初戦でライオンズに負けて、リベンジしたいと思っていました」と、悔しさをにじませながら振り返った。病気で小学2年の頃から車いすを使用しているが、車いすバスケットボールを始めたのは中学に進学してから。現在中学3年。わずか2年で急成長してきた。
MVP・佐久間 昴選手
「去年、WOWOWのパラスポーツ応援プロジェクト※ に応募して、自分専用のバスケ車をプレゼントしていただきました。これで、車いすバスケットボールへのモチベーションがすごく上がりました」
MATSUNAGA CUPには初参加という。
「いつも練習しているTEAM EARTHには、同年代の選手がいません。なので、今回、同年代の選手同士で戦えたのは、すごく楽しかったです」
オールスター5に選出されたのは、MVPの佐久間選手のほか、ライオンズWSCの冨澤選手、増田選手、TEAM松永の松本 晴陽選手(20歳)、NAGOYAの古田 妃菜選手(11歳)の5人。
オールスター5(左から、増田選手、古田選手、佐久間選手、松本選手、冨澤選手)
NAGOYAは、名古屋市の障害者スポーツセンターに集まる子どもたちで結成されたチーム。今大会にも10人もの選手が出場しているが、普段はこの倍以上もの子どもたちが集まって練習しているという。今大会に参加した選手のほとんどが小学生だが、オールスター5に選出された古田選手をはじめ、大竹選手姉妹、稲葉 和歌子選手(8歳)など、元気いっぱいの女子選手の活躍が目立っていた。バスケ車のチェアワークもスピードも男子選手に引けを取らず、体の大きな男子選手の車いすにぶつかって転倒しても、すぐに起き上がるガッツを見せてくれた。
オールスター5・古田選手(左)/プレゼンター・鳥海選手(右)
また、新潟県から参加したGrow Withジュニアは、大会参加のために今年6月にはクラウドファンディングで参加費用を集めた。チームヘッドコーチの肥田野 篤史氏は、今大会のルールづくりにも携わり、大会成功を導いたひとりでもある。
Grow Withジュニアの選手たち
―試合前の様子-
(左)車いすの調整をしてもらう選手(右)テーピングをする選手
(左)髪を結ってもらう選手(右)タイヤの空気圧を調整する選手
※WOWOWがパラスポーツ応援グッズを販売し、その売り上げからジュニア選手に車いすバスケットボール専用の車いす(バスケ車)をプレゼントするプロジェクト。これまで計16台をプレゼントしている。
今大会をベースにジュニア大会の発展を図る
今大会を視察した日本車いすバスケットボール連盟 会長・WOWOW代表取締役 会長執行役員 田中 晃氏は語る。
「全国に車いすバスケットボールが大好きだというジュニアがたくさんいます。この大会に出場したことで、100倍好きになってくれたらいいなと思っています。近い将来、連盟公認のジュニア大会を開催したいと計画中です。このMATSUNAGA CUPが公認大会として発展するという可能性もあります。一方で、小学生と高校生が同じルールで試合をするのは少し難しさもある。競技性や公平性を保ちながら、魅力ある大会を実現していきたいと考えています」
クリニックのコーチ、TEAM松永のアシスタントコーチを務めた宮島 徹也氏は、一昨年に続いて2度目の参加だ。
「2年ぶりに見た選手たちの成長にすごく感動しています。Grow Withジュニアの伊藤 壮伸選手(12歳)はリーダーシップを発揮していましたね」
近畿KIDSにも野中 陽太選手(12歳)ほか、複数のMATSUNAGA CUP経験者が出場。練習を続けてきた選手たちの成長に目を見はっていた。
クリニックのコーチ、TEAM松永のヘッドコーチを務めた豊島 英氏は、「これまでこの年代同士で対戦する機会がなかった。今大会がその第一歩になったことの意義は大きい」と語る。
「普段から一緒に練習している仲間と出場したことで、チームワークの重要性を感じられたと思う。一方、全くカラーの異なるチームと対戦して、新たな発見や気付きも多かったはず」
保護者からは、地域別のジュニア大会など、複数回開催してほしいという声が上がっていた。
「移動、開催時期、参加費用のことなどを含め、身近にジュニア大会が開催されることが理想です。将来、MATSUNAGA CUP参加者から、パラリンピックに出場する選手が出てくるかもしれない」(豊島氏)
男子日本代表のアシスタントコーチとしても、新たな注目選手がどんどん出現してほしいと期待する。
今大会アドバイザーで、男子日本代表ヘッドコーチの京谷 和幸氏も、何より「大きな感動だった」と語った。
「たくさんのジュニア選手が全国から集まって、レベルの高い試合を展開してくれた。車いすバスケットの本質を見せてもらったと感じています」
かつては、男子U23日本代表のヘッドコーチとして全国の若手選手の発掘や育成にも力を注いできた。
「準優勝した東北トリニティーズの佐久間 昴選手は、ボールハンドリングが素晴らしい。シュートセンスも高い。それからライオンズWSCの冨澤選手と、森田 樹英選手(13歳)の活躍にも注目していました」
さらに、NAGOYA、Grow Withジュニアらの女子選手たちのプレーも光ったという。
「東北トリニティーズの小野寺 凛選手(13歳)は、全試合フル出場です。彼女たちのような元気いっぱいの女子選手がいるのだから、女子日本代表の未来もきっと明るい」
過去のMATSUNAGA CUPにもコーチとして参加し、子どもたちの成長を見続けてきた。
「この大会をベースに、さまざまな年代のジュニア選手たちが楽しみながら成長できる場をたくさん提供していけるように計画していきたいと思います」
日本車いすバスケットボールの歴史に、また一つ大きな足跡を残した。
来年以降、さらに出場チームや選手が増えて大会が拡大し、発展していく。そんな期待を抱かせてくれた大会だった。
【関連情報】
MATSUNAGA CUP 2023の記事はこちら取材・文/宮崎 恵理 撮影/MATSUNAGACUP/YOSHIMURA MOTO