2018.02.26

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会社という枠を超えて。オープンイノベーションで生み出す新しいカタチ

マッキャンミレニアルズ Co-Founder/ クリエイティブプランナー 吉富亮介 、松竹株式会社 人事部 西田恵、松竹株式会社 経営企画部広報室 堀端恵一、株式会社WOWOW マーケティング局ネット事業推進部 藤岡寛子

会社という枠を超えて。オープンイノベーションで生み出す新しいカタチ

WOWOW、松竹、マッキャンミレニアルズの3社共同で若手を育成するプログラム「ENTERTAINMENT the HACK」。若手社員たちが会社や部署を超えた新しい仲間と出会い、アイデア開発からアウトプット制作まで、自らの責任で進める本プロジェクト。事務局メンバーにその狙いを聞いた。

若手社員に「自分でプロジェクトを遂行する場」を与えたい

──「ENTERTAINMENT the HACK 」は、WOWOWが2016年から行なっている「若手社員を対象としたオープンイノベーション研修」に松竹、マッキャンミレニアルズが賛同したことで立ち上がったプロジェクトということですが、まずは経緯を教えていただけますか?

藤岡 2016年の夏にWOWOW全社で新サービスの企画を募集したところ、若手社員も含めて90件以上の応募があったんです。ただ、若手社員の場合は当然、自身でプロジェクトを立ち上げた経験がすくないので、「完成度の高い企画を求めるのは難しい」という話になりました。そこで若手社員を対象に、発想力や企画力、それを形にする機会を作ろうと社内で"実施前提"のアイデアソンを始めました。

──実施前提とした理由は?

藤岡 ほとんどの若手社員は先輩社員やプロデューサーのアシスタントとして仕事をするため、ひとつのことを自分の責任ですべて行う機会があまり生まれないんです。そういった背景があったので、実行力を養うためにも実施を前提にしたいと思いました。WOWOWの社内だけで2回のアイデアソンを行なってみて、「次は他社さんとコラボレーション方がよくなりそうだね」という話になったんです。

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──そこで2社にお声がかかったのですね。WOWOWの取り組みに賛同されたポイントはどこでしょう?

吉富 元々の発端が、若手メンバーが普段の仕事とは別の場で「自分たちの責任で活躍できる場」を立ち上げることで彼らのモチベーションアップになるんじゃないか、というところからマッキャン・ワールドグループ全体を横断した「マッキャンミレニアルズ」をつくったんです。それってまさにWOWOWさんの取り組みに近い考え方だと感じたので、ご一緒できたらもっと面白くなりそうだなあと思いました。

西田 当社も3年前から全く異なる業種の会社さんと合同研修を行なっているのですが、今回は「業界が似ている異業種研修も面白いんじゃないか?」ということで参加させていただきました。課題が似ている一方で、持っているリソースは異なるので、それらを持ち寄って解決していくことができたら面白いアイデアが実現しそうだと思ったからです。

──異業種研修を始めた理由は?

西田 脱"井の中の蛙"というテーマがあったので(笑)。やはり自分の会社だけだと視野が狭まるし、どうしても同じ会社さんと仕事することが多くなるんですね。ですから、研修会場で初めて会う他社の方たちと一緒にゼロからなにかを発想するというのは、凝り固まった枠を取り払うきっかけになるんじゃないかなと思いました。

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──そうして2017年12月、「ENTERTAINMENT the HACK」についてのプレスリリースを3社同時に出したということですね。

藤岡 今回のプロジェクトは「ビジネスを考えられる若手を育てたい」という思いはもちろんのこと、WOWOWとしても新規のサービスを作っていかなければいけないという課題感・意識もあったので、会社ゴトにしたいと思ったんです。つまり、いち部署同士のプロジェクトではなく、人事部にも協力してもらって、会社ゴトとして取り組むプロジェクトにしたいですということを2社さんにお伝えしていました。

──会社ゴトとなるということで、それぞれ社内で承認を得る必要があったと思いますが、感触はいかがでしたか?

吉富 良かったですね。グループ全体の有志活動であるマッキャンミレニアルズのなかで自由に行なう、かつ、マッキャンの評判が上がる活動ができれば、有志活動としては役目を果たすことができるので。それに加えて、「こんな面白いことをやっている会社があるんだ。そんな面白い会社と一緒にやっているエージェンシーのチームがあるんだ」といったブランディング効果が3社全部にあればいいなと思いました。

西田 人事としては「ぜひやりたい」と即決しましたが、社内で承認を得る際には、前例がないため不安といった意見も挙がりました。ただ、現場の社員からは「ぜひ参加したい」という声がとても多く上がったので、広報にも入ってもらって、広報と人事の共同研修にしました。

3社合同とすることで、凝り固まった考えに刺激を与えたい

──3社で行なうことのメリットはどこにあると思いますか?

藤岡 会社のなかにいると、「こうしないといけない」とか「WOWOWって、こういうものを出すべきだよね」といったような考えが無意識に生まれてしまいますし、私たちも若手に対して、押し付けているつもりはなくても、「こうやってやるものだよ」と伝えてしまいがちです。このようないつの間にか、凝り固まってしまった部分に今回のようなプロジェクトは刺激を与えてくれるのではと思っています。

西田 当社も同じですね。若手と言えど「こうあるべき」という考えが強くなってしまって、せっかく良いリソースを持っていたとしても、「これは触れてはいけないんじゃないか」と考えがちで......そういったときに、他社さんから「面白いから使ったら良いんじゃないですか?」とアドバイスいただくと、「やっぱりこれはうちの強みになるから使ったほうがいいんだ」と、考えるきっかけになりますよね。そういう刺激が得られるのは、3社で行なうことのメリットですね。

堀端 広報の観点から言うと、余暇の過ごし方も多様化していくなかで、いままで松竹が行なってきた映画・演劇をそのままやっていってもダメで、「もっと世の中にアンテナを張っていかないといけない」と会社としても考えているんですね。それで最近、若手社員が中心になってニコニコ超会議でブースを設置したりもしているんですが、今回のプロジェクトも若手社員が活躍できる場に参加できるのはありがたいし、松竹のブランディングとしても有効だと思っています。

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──マッキャンミレニアルズではいかがでしょう?

吉富 今回のプロジェクトに関しては、当社から参加しているメンバーは普段の仕事にかなり近いことを行なっているんですね。お題があって、クライアントの課題を解決するための企画を考える。それを今回は「優秀アイデアは4月公開を目標にアウトプット制作ができる」ということで、若手が自分の企画を形にして通していくという、ある意味、成功体験をつくることができるのはすごく良いことだと思います。それに加えて、普段ほとんど関わりのない方たちと一緒にモノづくりができることも大きいと思います。

──というのは?

吉富 普段、僕らがやり取りする相手先は、クライアントのマーケティング担当者さんや、広報の担当者さんなんですね。ですから、例えば今回参加されているような、人事の方や制作部署の方と関わることができるのは、とても貴重な機会ですよね。ネットワークが広がるということもありますし、「会社にはいろんな役割の人がいて、その人たちはこういう考え方をしているんだ」と知ることができる、かなり良い場所だと思います。

──3社それぞれ、参加される方をどうやって選ばれたのでしょう?

吉富 当社はできるだけ若いメンバーを中心に選びました。25歳前後で、コミュニケーション能力が高く、発想できる子を中心に声がけをしていきました。WOWOWさんと松竹さんは、様々な部署からメンバーが参加すると伺っていたので、マッキャンミレニアルズとしては、普段から行なっている課題解決やアウトプットの部分でみなさんのサポートができるようなメンバーにしようと。

藤岡 WOWOWは35歳以下限定で、グループ会社も含めて全社募集をかけて応募してくれた人が中心に参加しています。

西田 松竹も同じですね。参加したいという人を全社募集しました。予想以上に手が挙がりましたし、いろんな部署から手が挙がったのも意外でした。演劇、映像、管理部門など、いろんなところから手が挙がったので、新しいことをやりたい人が、いろんなところに散らばっているんだなあと改めて実感しています。

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──実際にプロジェクトが始まってみて、参加者の様子はいかがですか?

吉富 先ほどお話したとおり、普段やり取りしないような職種の方が多いので、「こういう発想をするんだ」といった気付きが多いようです。

西田 当社の社員は各チームにだいたい1人配置されています。そうすると、どうしてもそのチームにとってはその社員が「松竹の代表」になるのですが、「これが提供できます」とか「こんな方法どうでしょう?」と、松竹のリソースを提案する際に、若干の戸惑いがあるみたいですね。「私がそこまで言っていいのかな?」みたいな(一同笑)。実際のビジネスの場では、若手がそういう体験をすることってなかなかないですよね。だからそれはすごく良いことだと思います......本人たちは戸惑っていますが(笑)。

吉富 「私の裁量権では無理かな? でも、いけそうな気もする」とか(笑)。

西田 そうそう(笑)。相談もされるんですが、「社内のOK取りも含めて、自分でやってね」というのが今回の意図なので、チャレンジできる機会ができて良かったなと思います。そこをどう突破していくかって結構大きなことで、彼らにとっては良い学びになると思いますね。

藤岡 あとはコンテンツのリソースを持つ松竹とWOWOW、ふたつの会社が一緒にプロジェクトを行なうことで、課題がより難しくなったのではないかと参加者に言われました。松竹さんの持っている映画や歌舞伎、芸人さんなどのリソースを使うほうが企画としては楽しくなると思うけれど、そちら側に寄りすぎると、「WOWOWとしては、どこまでやらなきゃいけないの? WOWOWがやる意味があるの?」みたいな、バランスを考えるのが難しいようです。

──そういった意見をうまくチームでまとめていくためにも、アクティブラーニング社による研修パートが重要になりますね。

藤岡 そうですね。「アクティブラーニング」という言葉はここ最近、よく聞かれるようになってきましたが、アクティブラーニング社さんはすでに20年くらい取り組まれているので、ただ「教える」のではなく、発想やアイデアを引き出すためのコミュニケーションが優れているんですよね。意見のまとめ方や企画を形にしていくためのアドバイスが的確で、知識も共有していただけるので、今回だけではなく、今後仕事をしていくうえでもヒントになるようなことを、たくさん教えていただいています。

西田 インプットばかりの研修ですと、「実務ではこれ、どこまで役に立つんだろう?」と受講者が思ってしまうことも多いので、みんなで知恵を絞りながらアウトプットすることは、その後にも活きる、学びが大きいものだと感じますね。

異業種のコラボレーションで、新しい価値を世の中に提供していく

──今回のプロジェクトもそうですが、最近ではオープンイノベーションに取り組んでいらっしゃる企業も増えています。やはりその必要性を強く感じられることが多いのでしょうか?

吉富 少し話がズレますが、「One JAPAN」という大企業の有志団体が集まるプラットフォームがあって、僕らマッキャンミレニアルズも参加しているんですが......各社の有志団体をつくってイノベーションしようと思っている方々も、「大企業病」になっていることを自覚しつつも抜けきれず、でもどうにかしたいんですよね。それこそ異業種のコラボレーションを作って、もっと視野を広くしていかないといけないし、僕らが仕掛けていかないといけないと強く感じています。

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堀端 松竹の広報室としては、視野を広げて既存の枠にとらわれない発想をしてほしい、「タガを外してほしい」と社員には伝えているんです。でもそれって、環境を無理やり変えないとできないようにも思います。例えば今回のプロジェクトに参加しているのは、経理や演劇などの、ずっと同じ現場で働いてきているメンバーなので、こうして新しい業種の方々と触れる合う機会を作るのも狙いです。

西田 松竹の特徴として、製作、宣伝、営業、興行、二次利用まで全部一社でできるんです。そこが良いところでもある一方で、他社さんと一緒に取り組む機会は少ない傾向にあるかもしれません。

──他社と取り組むメリットはやはり大きい?

西田 そうですね。他社さんと一緒にやることで、別の価値や、もっと大きな価値が社会やお客様に提供できる部分もあると思うので、一社にとらわれずにビジネスをしてほしいというのはトップの思いでもあるんです。いまあるものを使っていろんな会社とコラボレーションして、価値を生み出してほしい。そういう意味で、今回のプロジェクトは若手のヒントになるのではないでしょうか。

藤岡 放送局の場合、どうしても番組を制作して放送するところに特化してしまいます。ただ、世の中の変化が早く、大きいので、新しい発想をしていかないといけないし、やはり今後、お客様にさらに価値を提供するには自社だけでは難しいと感じます。ひとつの会社だけで思いつくことって、すでに誰かがやっていたり、検索したら出てきそうなサービスやビジネスなんですよね。ですから、それを超えるような新しいものをつくるためには、いろんな人が集まって、みんなで発想していかないと、もう難しい世の中なんじゃないかと思います。

西田 面白いものって、一社でやろうと複数社でやろうと、関係ないですもんね。お客様にとって面白ければそれでいいので。

藤岡 会社の枠を超えて、いろんな人たちと仕事するほうが楽しいですし。そういう意味でも今回のプロジェクトは、個の力が重要になってくる時代にフィットするような、若手にとっても刺激的なものになっていると思います。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.