2020.08.17

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男性育休取得のモデルケースとは? WOWOWで初めて長期育休を取得した2人の男性社員が語る、新しい働き方と育児!

技術局技術企画部 神保 直史  人事総務局ビジネス法務部 梅岡 哲士

男性育休取得のモデルケースとは? WOWOWで初めて長期育休を取得した2人の男性社員が語る、新しい働き方と育児!

男性社員のみなさん! 仮にいま、あなたが育児休業を取得した場合、その期間中にどのくらいのお金を手にすることができるのか? また、どれくらいの日数、休むことができるのか、把握していますか? 日本社会における男性の育休取得率は年々増加の傾向にありますが、過去最高となった2018年度でも、わずか6.16%。WOWOWにおいても有給の短期育児休業を取得する人は増えていますが、1か月以上にわたる長期間の育休を取得した男性社員は2020年7月現在で3人。

WOWOWで、男性の長期の育児休業取得者・第1号である神保直史、第2号の梅岡哲士に、育休取得の経緯から育休期間中の過ごし方、さらにこれから育児休暇取得を考える世の男性社員へのアドバイスまでたっぷりと話を聞きました。

技術採用の神保と、弁護士梅岡。2人がWOWOWに入ったワケ

――まずはWOWOW入社の経緯から、これまでのお仕事についてお尋ねします。神保さんは2009年4月に新卒で入社されていますが、そもそもWOWOWに入社を決めたきっかけは?

神保 もともとエンタメ、そして新しい技術が好きだったので、その両方に触れることができる会社はどこだろうかと見ていく中でWOWOWに出会いました。TV業界はこの条件にあっていると思いますが、その中でWOWOWを選んだのは、(選考過程で)会う人にイヤな人が全くいなかったからですね(笑)。当時もそう言っていましたし、いまもそう思っていますが、中にいる人たちの人柄がすごく好きで自分と合っているなと感じました。

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他のTV局と比べて、報道部門がないというのも自分にすごくマッチしていて、大きかったですね。報道で人の生死を扱うよりもエンターテインメントに関わりたかったですし、技術系の仕事も、報道部門に配属されたら随分変わります。報道のためのスピード重視ではなく、クオリティーの追及に注力できる環境というのは大きかったです。

――最初に配属されたのは制作技術部ですね。そこから現在に至るまでのお仕事の内容について教えてください。

神保 当時はまだ放送業界ではビデオテープが主流で、最初はVTR室というところに配属され、収録担当をしていました。ビデオテープに映像を記録したり、ダビングをするといった仕事です。

その後、ポストプロダクションと呼ばれる、収録した映像の編集・変換・アーカイブといった番組を放送するための準備を行う設備を作る仕事をしました。ちょうどその頃、ビデオデッキや編集機といった業務用の設備が、徐々にいま一般的に使われているものに近くなっていて、映像は、ビデオテープではなくファイルで扱う、編集は専用設備ではなくパソコンで行う...という時代になりつつあり、そういった変化に対応する設備やシステムの構築を担当していました。

担当しながらサーバーやストレージ、ネットワークといったIT系の知識を身に付け、その流れで、いまから8年ほど前にWOWOWの配信サービスである WOWOWメンバーズオンデマンドの立ち上げに参加するなど、配信に関わる仕事も担当するようになりました。

2015年には現在の技術企画部 (当時は技術計画部)に異動しまして、いまに至るまで新しい技術の開発や、新しいサービスを開始する前の事前検証などをWOW Laboで担当しています。最近では、TVの放送や配信を意識せず楽しんでもらうには? といったことや、リモートで映像や音声の制作をするにはどうしたらいいか? といった検証を担当しました。


――梅岡さんは中途採用で、2018年に入社されていますが、それ以前はどのようなお仕事を?

梅岡 前職は弁護士事務所に勤務して、ジャンルとしては相続と不動産を中心に、離婚や交通事故、刑事事件など何でもやる、"マチベン(町の弁護士)"と言われるような弁護士をしていました。平日は訴訟や調停がある日が多く、毎日のように裁判所に足を運んでいました。

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「何でもやる」というのは、どんな相談にも対応するという意味でやりがいはあったのですが、一方でそうしたやり方ではなかなか自分に自信を持てない部分もあり、何か専門性を持って仕事に臨みたい――よりジャンルを絞って、専門性を身に付けて自信を持って働きたいという思いがあって、企業に入るという決断をしました。どうせならば楽しいことを、という思いもあって、エンターテインメントを扱うWOWOWに入社することにしました。

――現在はビジネス法務部に所属されていますが、具体的にはどのようなお仕事をされているんでしょうか?

梅岡 ドラマ制作部とコンテンツ事業部を担当して、日々の法務相談や契約書作成といった業務を行っています。また、"製作委員会"が絡む契約や権利者団体との契約に関する業務なども部に関係なく担当しているので、コンテンツ周りの法務には幅広く携わることができていると感じています。

前職は紛争が起きてからが自分の仕事だったのですが、いまはトラブルが起こることを想定しつつ、リスクヘッジをしながら仕事をしています。そういう意味では、WOWOWに入社して、同じ法律の仕事とはいえ、扱うジャンルも仕事の進め方も全く変わりました。

キャリアにおけるスキルアップのためにも育休・専業主夫の時間は「必要!」

――ここからお二人の育休について、詳しくお伺いしていきます。神保さんは、2015年9月に第一子が誕生し、その後、翌2016年の5月から8月にかけて最初の育休を取得されました。さらに、2018年8月には第二子が誕生し、その前後に約3週間の有給休暇を取得し、その後、翌2019年の7月から2020年の4月まで、有給期間、無給期間を合わせて約9か月間(274日)の休みを取得されています。

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神保 一人目の時は、夫婦そろって育休を取っていました。妻は少し長めに2年半くらいの育休を取っていて、私はその中で約4か月間、取得しました。この時は、わりとのんびりしていた感じで、1か月ほど子どもを連れての海外生活をしたり、やりたいと思っていたことを積極的にしていましたね。私自身、この時期は育児の"インターン"のように考えていて、妻と一緒に子育ての勉強をしていた感じでした。

二人目の時は、完全に専業主夫でした。妻が2019年の4月に復職したのですが、当時、私の仕事が休めない状況で、ちょうど下の子が上の子と同時に保育園に入園できたこともあって、一度、2人とも保育園に預けて、4月から6月は保育園に預けながら夫婦共働きで過ごし、その後、7月の終わりから私が育休を取得しました。

育休を取ったことで、下の子は保育園を退園し、上の子は時短で16時半までの登園となりました。この期間は私が中心となって家事育児をしていて、"正社員"になれた感じでした。


――それまでWOWOWでは長期の育休を取得した男性社員はいなかったわけですが、神保さんが育休を取ろうと決断したきっかけは? また、第一子、第二子のいずれの際も、お子さんが1歳に近いタイミングで育休を取得されていますが、その理由は?

神保 そもそも育休は、制度としてあるのに取得しないのはもったいないという意識が大前提としてありました。すごくよくできた制度ですし、子どもと一緒にいられる時間は限られていますから、ある程度、一緒にいられる時間をちゃんと作りたいなと思っていました。

タイミングに関しては、生まれた直後は授乳など、母親でないと出来ないこともあったので、その時期は母親の産休・育休をベースにし、私の育休は1歳に近いタイミングに寄せる形で取ることに決めました。

梅岡 私からもお聞きしたいのですが、二度目の時は、奥さんは復職されて、神保さんだけが育休を取られたんですよね? とても珍しいパターンだと思うのですが、話し合われてそうしたんですか? 奥さんが取る(育休期間を延ばす)いう選択肢もあったんでしょうか?

神保 そこはちょっとモメたんですよね。妻も妻で、もっと育休を取りたかったらしく「どちらが休むか?」でケンカになって...(笑)。

――どちらも「早く仕事に戻りたい!」ではなく、逆パターンで...。

神保 妻は「早く仕事に戻りたい」という気持ちもあったみたいです。それでも、産後7か月ほどのタイミングでの復職だったので「もうちょっと子どもと一緒にいたい」という気持ちも当然あったみたいで...。

梅岡 一人目の時のように、また夫婦2人で一緒に育休を取るということは考えなかったんですか?

神保 最初の予定では、2人の育休の期間を1か月くらい被せるようにして「妻の育休→2人一緒に育休→私の育休」という流れにできたらと思ってたんですが、4月から保育園に入園できることになったこともあって、予定が変わったんですね。保育園に入園するからには復職しなくてはいけないけど、先ほども言いましたが、その時期は私の仕事のほうが休めるタイミングではなくて...ということで、少し時期がずれ込んで、結果的にこうなりました。

梅岡 いずれにせよ、神保さんが一人で育休を取得する時期というのは、もともとの予定にあったんですね。

神保 そうですね。そこに関しては実はすごくモチベーションが高かったんです。「専業主夫」をやりたいという。自分のスキルアップのためにといいますか、キャリアにおいて専業主夫の時間があった方が絶対にいいと思っていたんです。これは今日、特にお伝えしたいことなんですけど(笑)。

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専業主夫をやる権利と制度が与えられているのはサラリーマンの特権だとも思っていたので、こういう形を自分から希望して取らせてもらいました。

――上のお子さんが男の子で、下のお子さんは女の子ですね。世間ではいまだに「子どもが小さいうちは母親じゃないと...」という"信仰"も根強いですが...。

神保 よくママ友とそういう話になるんですけど「赤ちゃんはお母さんにしか懐かないから僕では無理」みたいなことを言う旦那さん(お父さん)が多いんですが、全然そんなことはないですよ。うちの場合、特に下の子は私にすごく懐いてて、寝かしつけるのは私のほうが上手だったりします。
結局、そこは父親と母親、どちらとより長い時間を過ごしたかが大きいのかなと思います。うちの場合、2人目と常に一緒にいた期間は妻が7か月で、私は9か月だったので。

――育休の期間の長さはどうやって決めたんですか? 神保さんにとっては長かったですか? 短かったですか?

神保 一人目の4か月は短かったなと感じました。二人目の9か月はまあほどよい長さだったのかなと思いますね。期間に関しては、会社の仕事と育児休業給付金、保育園の入園などのバランスを見つつ決めました。

――梅岡さんは2019年11月に娘さんが誕生されています。

梅岡 うちは、娘が生まれてすぐの時期、妻の産休、育休に合わせる形で、一緒に子育てをするつもりで約2か月の育休を取得しました。

――梅岡さんが育休を取得しようと思ったきっかけは?

梅岡 神保さんがそれ以前に取ってくれていて、そのお話を聞けたことが、そもそものきっかけになったと思います。また、家庭の事情で妻が里帰りをしないことが決まり、自分もしっかり育児に参加しなければ、という思いを持ったこともきっかけです。ただ、私はそんなに度胸のある方ではないので「社内で取った人は誰もいないよ」と言われていたら、取れなかったんじゃないかと思いますね。

そもそも中途採用での採用が決まった後に、新入社員・中途入社社員用のセミナーがあったんですけど、そこに神保さんがいらして、育休の話を熱くしていて「あ、この会社、育休を取れるんだ!」と思えたのが大きかったです。

神保 そうなんですね。でも、あちこちで話をしても、当時、私の後は誰も取ってくれてなくて...(苦笑)。

梅岡 それからしばらくして、ちょうど私が育休を取ろうかと考えている時に「うちの会社、育休ってどうなんですか?」という話を周りにしたら、みんな口をそろえて「神保さんが...」って(笑)。社内のセミナーで神保さんの話を聞いた時点で「みんな、取ってるんだ」と思ってたんですけど、実はたまたま唯一の人の話を聞いただけだった(笑)。

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神保 その時のセミナーは別に育休のためのセミナーというわけじゃなく、ただの新入社員、中途採用社員のための研修で、部署紹介の中での自己紹介だったんですけどね(笑)。

梅岡 お子さんの写真とかも見せてくれました。その印象がすごく強かったですね。加えて、私も神保さんと同じで、そもそも論として、しっかりとした制度がある以上、育休は取るべきだという思いはありました。特に以前は個人事業主で自分にはなかった権利だったので、労働者の権利としてしっかり取りたいなと。

――中途で入社されて、しかもそれ以前に一人しか取得していない育休を取るということで、言いづらい空気はなかったですか?

梅岡 多少、それはありましたね。ただ相談をした法務部の方たちがみんな「いいじゃん。ぜひ取りなよ!」と背中を押してくれたんですよね。自分の仕事を引き継ぐことで負担が増えてしまうはずの法務部の方がみんな「もっと長く取ればいいのに」とまで言ってくれるので、お言葉に甘えてしまおうと思いました。法務部の方の後押しがなければ、自分は取得に踏み切ることができなかったことは間違いないので、今でも本当に感謝しています。

――神保さんは、取得を宣言したときの周りの反応はいかがでしたか?

神保 どうだったかなぁ...? 反対された記憶はないですね。「いいじゃん」という感じだったと思います。

特に自分の場合、子どもが1歳になる直前のタイミングだったこともあって、急に言い出したのではなく、わりと前、それこそ子どもが出来たことを伝える時期から「取ります」ということを宣言していたんですよね。1年後に休むとわかっていて、準備もしていたのでそこまで大変ではなかったですね。

ましてやいま、社会的にも会社としても「育休を取りましょう」という流れには確実になってきているので、むしろ休んで褒められるという感じでしたね(笑)。社長も含めて、会社の人たちがみんな褒めてくれる感じでした。

立場が上の人間よりも、逆に自分に近い立場の人や同じ部署で働く横の人間の方が「大変だ」とか「困った」と思う場合が多かったかもしれないですね。確実に一人、人員が減るわけで、その分の仕事が増えるんですから。でも幸い、自分の周りでそういうネガティブな反応をする人はいなかったです。

梅岡 私も誰か一人にでも嫌な顔をされていたら取れなかったかもしれないですが、幸いなことにどの人も嫌な顔をせずに背中を押してくれたので取れましたね。本当は周りの目ばかりを気にしてちゃいけないんでしょうけどね(苦笑)。でもやっぱり、会社で働いている以上、周りの目が気になっちゃう部分はどうしてもあると思うので、自分は周りの方に恵まれていたことが救いでしたね。

育休を取得しても勤続期間に含まれるので、昇格が遅れることはありません!

――WOWOWの育休の特色について教えてください。今後、こういった点を改善してほしいと感じた部分などもあればお願いします。

神保 WOWOWの育休制度は、世の中の制度に合わせて考えられたしっかりとした制度です。男女関係なく2年間休めますしね。会社によって、例えばうちの妻の会社は3年休めたり、公務員も3年休めるんですが、そこまで長くはないものの、キチンと育休を取ることができるという点で、ごく普通のいい制度だと思います。

一度目の時、1点だけ嫌だったのが、昇格の条件となる勤続期間に育休の期間が含まれないということだったんですが、それについては何度も改善をお願いして、二度目の育休を取る直前のタイミングで改善されたんですよね。

一度目の育休を取得したことで、昇格のタイミングが同期よりも遅れてしまったんです。なかなか改善されなかったのですが、ちょうど社長も参加する「ママ会」のような勉強会があったので、その機会に改善すべきだと言ったら社長が「それはすぐに変えよう」と言ってくれたんです。

もちろん、私が言っただけで変わったというわけではないと思いますけど、ちょうどいろんな制度改革の時期だったこともあって、改善されたんですよね。

梅岡 そのお陰もあって、現在はもちろん女性も含めて、育休期間も勤続期間に含まれるようになったので、同期と比べて出産や育休のせいで昇格が遅れることはなくなったんですよね。私たち後輩からすると、とても有難いことです。

神保 私の場合、一人目の時は4か月しか休んでなかったんですけど、それで1年昇格が遅れたんですよ。1か月でも休んでしまうと、1年遅れてしまう制度だったので、それでは男性が育休を取りづらいだろうと。二度目の休みを取る直前に改善されたので、取りやすくなりました。

自分の担当業務を細分化して振り分けることで引き継ぎの負担を減少!

――梅岡さんは、WOWOWの育休制度について、感じたことなどはありましたか?

梅岡 これはWOWOWというよりも、法務部内での引き継ぎに関することなんですが、部長に育休の取得を相談した時、引き継ぎで「自分の業務を細分化してくれ」と言われたんですね。かなり細かく、部署ごとではなく、さらに「○○部の中でどんな仕事があるか?」ということまで細かく分けてほしいと。

最初は難しいなと思ったんですけど、やってみると意外とできて、細分化したおかげで、当初は引き継ぎの相手が2~3人だと思ってたんですが、もっと多くの人に引き継いでもらうことができたんです。そうすることで、引き継いでくれる方たちの個々の負担を少しでも減らすことができたのでよかったなと思います。もちろん、負担を増やしてしまったことに変わりはないのですが。

――続いて、お二人の育休期間中の生活について詳しく伺います。どういった生活をされていたのか? 1日の過ごし方などを教えてください。

神保 一人目の時は夫婦で休職していたので、基本的には妻をサポートしつつ、子育てを勉強させてもらっていました。あとは、以前から海外での子育てをやってみたくて、そのために育休を取ったという部分もあったので、約1か月間、親戚が暮らすカナダで過ごして、日本とは全く違う子育て環境を経験してきました。
二人目の時は、完全に世の中のワンオペ育児のママに近い生活でした。二人目ということもあって。下の子の面倒を見るのは慣れていたのですが、上の子の赤ちゃん返りが大変で苦労しましたね。

妻は朝の6時半くらいには出勤してしまうので、朝起きるとまず子どもたちとごはんを食べて、上の子の保育園の準備をし、保育園に送り、家に戻ったら家事をして、落ち着いたら下の子と散歩がてらお出掛けをしていました。私はクラフトビールが大好きなので、昼間から子どもを連れてビール屋さんに行って一杯やって休憩して(笑)、それから上の子を迎えに行き、家に戻ったら夕飯の準備をし、食べたら寝かしつけるという生活でしたね。

休みの日は「妻を休ませたい」という思いもあって、私が子どもを連れてどこかに遊びに行くことが多かったですね。1週間ほどの旅行も何度か行きました。つい一昨日は、子ども2人を連れて富士山に登っていました。新型コロナウイルスの影響で上までは登れないので標高が低いところまでなんですけど。

梅岡 下のお子さんも登ったんですか?

神保 下の子は全然歩いてくれないから(笑)、ほぼ抱っこしてました。

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旅行に子連れ居酒屋、ママ友に混ざって情報交換...やりたいことはすべてやる!

――育休期間中、奥さまとの家事の分担は? 奥さまに「これだけはやって」とお願いしていたことなどは?

神保 妻は時々、料理や掃除をしてくれてましたね。(お願いしていたことは)ほとんどないですね。いや、こういう言い方をすると、妻が何もしていないように見えちゃうかもしれないですが、そんなことは全然なくて、私が100%やっていたわけでもないし、そもそも、私が育休を取っていない時期に関しては、妻が中心になって家のことをやってくれていたので、すごく感謝しています。

――育休期間中の印象的な出来事などがあれば教えてください。

神保 いろいろありますけど、世の中でいうところの"ママ役"を私がこなしていたんですが、保育園に関することなどは基本、ママが中心で、保護者会というよりもママ会ですし、(ネットワークも)ママLINEなんですよね。そこに私が全部入っていて、ママたちの中でちょっと浮いてるんですけど(笑)、案外、みなさん温かく迎え入れてくれて嬉しかったですね。

そういう意味で、いろいろ面白かったですね。普段、会話しない人と話せるし、特に保育園のようなコミュニティーっていろんな職種のお母さんがいて、その中でお話するのがすごく面白かったです。あとは印象深いのはやはり子連れ旅行ですね。子ども2人を連れて旅行すると、行く先々でいろんな方に温かく絡んでもらえるんです。大変なこともありますけど。

私自身、育休の取得を含め、自分がやりたいと思っていたことを存分にやらせてもらったなという感じですし、いまでもそれは変わらなくて、子どもを連れて旅先で居酒屋に行ったりもします。子どもがビールをこぼしちゃって、お店に迷惑をかけたり、イヤな顔されたりすることもありますけど、案外、子ども連れでも大丈夫になっている店が多いんですよね。どんどん社会も変わってきていて、基本はどこに行っても大丈夫だなって感じています。

――お話を聞いていると、育児がすごく楽しそうですね。

神保 楽しいですね。ベースとして「やったことがないことをやりたい」という生き方をしているので、そういう意味ではこんな経験ができるってなかなかないので。大変ではありますけど。

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頑張り過ぎて育休1か月でダウン...夫婦で出した結論「無理せず二人で協力してやっていく」

――梅岡さんの育休期間中の生活は?

梅岡 私は神保さんほどパワフルな生活はできていなかったと思います(笑)。
妻の出産直後から育休を取ったんですが、「わざわざ育休を取ったんだし、出産直後の妻を休ませてあげたい」ということで、最初の一カ月は、意気込み過ぎちゃった部分があった気がします。

具体的に言うと、朝起きて、洗濯して、昼ごはんを用意して、買い物に行って、夕ごはんを用意して...。寝かしつけや、家事の合間のおむつ替えやミルクも、出来るだけ自分がやろうと心掛けていました。

特に最初の頃、妻に夜はゆっくり休んでもらおうとカッコつけちゃって(苦笑)、別の部屋で寝てもらい、私が娘と一緒に寝る日を多く設けていたんですけど、それを続けていたら、睡眠不足もあってか、1か月を過ぎる頃にふと考えるようになってしまったんです...「俺、全然上手くできてないんじゃないか...?」って。

娘が泣き止まない時などに、わざわざ育休まで取ってるのに何やってんだ? と。そんな時、妻が気づいて話を聞いてくれたんです。それで、「育休を取ってくれただけでも嬉しいよ。無理し過ぎないでいいからうまく分担してやっていこう」と言ってくれて、わざわざ育休を取ったんだからと意気込み過ぎた考え方から、少し余裕をもった考え方に変えることができました。

そこで得た教訓は「育児は2人でやろう」ということ。正直、神保さんみたいに一人でっていうのは私にはかなりハードで、逆に妻にも一人でやらせちゃダメだなと思っています。

改善後は、生活ペースは同じ感じでしたが、夜、娘と寝るのを妻にお願いすることを増やしたり。あとはごはんも献立を毎回考えるのが苦痛で...。

神保 そうなんですよね(笑)。

梅岡 献立を考える役割と買い物をする役割を分担するようにしたり。2人で励まし合い、協力し合うのが大事だなと実感しました。たとえ仕事を休んでいても、育児を一手に引き受けるのは自分のキャパでは無理だなと。

神保 私も三食すべて作るのはすぐ諦めましたね。無理だなって。

梅岡 でも先ほどの印象的な出来事という話で言うと、すごく嬉しいこともあって、ちょうど育児に疲れていた育休取得1か月後くらいの時期に、市の家庭訪問で助産師さんが来てくれて、娘の泣き声を聞いて「元気ないい泣き方するわね。お父さんが一緒にいてくれるからかしら」って言ってくださったんです。助産師さんは何気なく言っただけだと思うのですが(笑)、その言葉だけですごく満たされた気分になったんですよね。

育児って、見返りがないもので、そこにつらさを感じていたんだということに改めて気づかされました。今も妻が家にいて、育児をしてくれているんですが、感謝の気持ちは忘れちゃダメだし、きちんと感謝の言葉を伝えなきゃな、と思っています。

「イクメン」という言葉はキライ! 必要なのは価値観の転換と意識改革

――今後、より多くの男性が育休を取得するために必要なことはどういったことだと思いますか?

神保 正直、制度をこれ以上変えても意味がないというか、すごくいい制度が既に構築されていると思うんですよね。男性も2年間休めて、給付金も年々増えているんですよ。結局、変えるべきは考え方なんだろうと思います。

今日、私はすごく楽しそうに育児の話をしていたと思うんですけど「こういう目線で見ると、考え方次第で(育児は)すごく楽しい」というふうに思ってほしいし、男性はどうしてもキャリアプランやスキルアップを気にする方も多いと思うんですけど、むしろキャリアのひとつとして育児ってすごくいいよという価値観であったり、違う目線を入れられたらいいのかなと思いますね。

結局、制度をいくら良くしても、その中身について知らない人がほとんどなんですよ。男性と話していて、育休期間中は(育児給付金は支給されるが、会社からの)給料はもらえないということを知らない人がほとんどです。そういうことを知らないと給付金のことなんて興味すら持てないでしょう? 組合から多少のお金が支給される会社もあって、WOWOWも私が組合の担当をしていた頃、育児休業期間中は月に5千円支給される制度を作ったりしました。

男性の育児休業なんてただ休んでるだけと思っている人もいますよね?休めてないですよ?

私は「イクメン」って言葉が好きじゃなくて、父親とか母親という以前に「親」なんだよって自覚を持つことが大事だなと感じていますね。

育児は仕事の一部 「自分のためではなく家族のために取るという意識を!」

梅岡 いま神保さんが指摘されたように、制度ではなく考え方次第の部分が大きいですよね。特に考え方に関しては、「周りの考え方」と「自分の考え方」のふたつの変化が必要だと思っています。

「周りの考え方」を変えていくということで言うと、神保さんと私に続く形で育休を取る男性が少しずつであれ増えていくことで、会社全体が「男性も育休を取るのが当たり前なんだよ」という意識に、地道に一歩ずつ近づいていくのが、重要なんじゃないかと思います

もうひとつ、「自分の考え方」を変えるという点に関しては、仕事を休むことで周囲に迷惑をかけちゃうんじゃないかと考え、責任感が強い人ほど育休を取りにくい部分があるんじゃないかと思うんです。でも、神保さんもおっしゃっていたように、育児休業は休暇ではなく、家でやるべき仕事があるんだということ。そして、奥さんが一人でやるには本当に大変な仕事なんだということ――「家族のために取得する」という考え方を持つことが大事なのかなと思いますね。育児の大変さを知って、自分のためじゃなく家族のために取る制度なんだと理解すれば、勇気を出して、もっと取りやすくなるのかなと思っています。

――まさにいま、梅岡さんの話にもあったように、今後、お二人に続く形で育休を取得する社員は増えていくと思いますが、ご自身の経験や反省点なども踏まえて、アドバイスなどがあれば教えてください。

神保 自分の反省点を踏まえて言うと、最初の育休のあとの育児に関して基本、妻に任せていた部分が多かったということに、二度目の育休の機会があったからこそ気づいたというのがあったんですよね。繰り返しになってしまうんですが、夫は妻の子育てを「助ける」とか「手伝う」という意識がよくないなと。まず親として他人事じゃなく自分事で考えて、休む必要があれば休めばいいと思うし、結局、子育ても仕事なんです。仕事が好きという男性も多いと思うので、そういう意味で子育てという仕事もやるならちゃんとやろうよということを後に続く人に伝えたいですね。

知ってた? 男性の育休は2回に分けて取得可能! 理想の育休プランはこれだ!

――もしもう一度、育休を取得するなら、こういう取り方がベストなのではないかというプランなどはありますか?

神保 まず子どもが生まれた直後に1~2か月取得し、その後、妻の復職の時期に合わせて、また1~2か月取るというのがベストなのかなと思いますね。やはり、出産したばかりの時期は妻も肉体的にかなりしんどいですし、復職した直後もすごくキツいですよね。そこでしっかりと妻が体を休められる環境をつくれたらいいのかなと思いますね。

梅岡 いま神保さんがおっしゃった通りだと思います。私自身、最初は「妻を手伝う」という感覚が抜けきらないまま動き始めたんですけど、それだけじゃ長期の育休を取ろうという気になれない男性も多いと思うんですよね。やはり「親」としての自覚を持つことが大事だなと。

娘が生まれた直後に育休を取りましたが、その時は私も妻も初めての子育てということで不安なことだらけだったので、そこで妻任せにするのではなく、一緒に一から子育てをできたのはよかったなと思っています。

自分の場合、そこで育休を終えてしまったんですが、もちろんいまも子育ては続いていて、常に新しいことの連続なので、まだまだ足りないなと思います。神保さんがおっしゃったように復職のタイミングで取るというのは有効だなと思いますね。男性社員は、タイミングを工夫すれば2回に分けて育休を取れるんですよね?

神保 そうです。男性は2回取れるんですよ。それも知らない人が多いと思いますので、まずは制度について知ってもらうことも大事だなと思います。


――育休を取得したことで思う、今後、WOWOWをこんな会社にしていきたいといった思いがありましたら教えてください。

神保 これはうちの会社のテーマでもあると思うんですが「多様性」――いろんな人がいて、いろんな考え方、働き方をする人がいて、いろんな価値を持っているというのが、エンターテインメントを作る会社として大事だと思います。そういう意味で、全員でなくてもいいですが(笑)、自分のような人間がいてもいいと思うし、自分のような働き方、育児の仕方をする人間に続く人が増えてくれたら嬉しいですね。

梅岡 私自身、育休を取ったことで、もっと娘と向き合う時間を増やしたいという思いが強まりました。神保さんもおっしゃったように、いろんな価値観、生き方が存在する上で、仕事というものがあると思うので、属人的な仕事を可能な限り減らしていくことが大事だと思います。もちろん、エンターテインメント企業としては各人のアイデア・工夫が重要な要素を占めているとは思うのですが、フォローし合って少しでも属人的な仕事を補える体制、環境を作っていくことが、一人一人の社員の人生を充実させていくために必要なのかなと。

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――最後になりますが、WOWOWのM-25では「偏愛」をキーワードとして掲げていますが、ご自身にとって仕事をする上での「偏愛」、仕事において大切にしていることを教えてください。

神保 私は新しい技術が好きだし、新しいものはなんでも好きで、そこを大事にしているので、とにかくインプットを増やすことを意識しています。それをどう仕事に活かせるか? 世の中でまだ知っている人が少ないこと、世の中にあまり出てない情報を知ることで、新しいものを作り出せると思うので、その部分にはこだわってWOW Laboの仕事をしていきたいなと思っています。

ちなみに最近は、子どもと一緒にいることが多いので、子どもの最先端技術教育みたいなことに興味があって、4歳になった上の子とプログラミング教育とか工作をやっているんですが、いつかそういうことも仕事に活かせたらいいなと思っています。

昨年、仕事でもTV番組とおもちゃを連動させるための実証実験をしたりしたんですが、子どもと一緒にいる中で得たこと、感じたことを、会社に与えられたミッションから多少ずれたとしても活かせるようにできたらと思います。

梅岡 私は、自分の仕事の進め方として「自分の気づきに自信を持つこと」と「自分の知識・経験を過信しないこと」を大事にしています。自信を持つという意味では、疑問を持ったことに対しては遠慮せずに質問して、しっかりと議論をして掘り下げていき、あやふやなままにしないようにしています。自分が気になったことは大事なことだと自信を持って、現場と話をするようにしています。

一方で、過信をしないという意味では、自分が少し考えただけで答えが出たと思わず、文献を調べたり、他人の意見を聞いたりしてしっかりと追求すること。この2つを両立することができれば、法務として良い仕事ができると思うので、そこは忘れないようにしています。

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現代の父親の子育て感を映像化した短編ドキュメンタリーシリーズ「Father's Map -父親の地図-」がYouTubeに公開されており、神保は第1回に取り上げられている。

Father's Map | #01 A father's paternity leave / 父親の育休

インタビュー/黒豆直樹  撮影/祭貴義道