2018.04.12

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徹底レポート!最先端テクノロジーの祭典SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)

ロサンゼルス駐在事務所 須川賢一 

徹底レポート!最先端テクノロジーの祭典SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)

ハイテク都市としても注目を集めるテキサス州オースティンにて開催される「インタラクティブ」「映画」「音楽」の複合イベント、サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW2018)に参加してきました。世界95カ国から7万人以上がオースティンに集合するSXSW。今回WOWOWからは私一人での参加となりました。ソロ出張ゆえの身軽さで、会場や町中に散在する企業のイベントスペースなどを色々見聞きした体験・経験と共に「世界最大級のコミュニケーションの祭典」をレポートいたします。(初回掲載日:2018年4月12日)

ハイテク都市としても注目を集めるテキサス州オースティンにて開催される「インタラクティブ」「映画」「音楽」の複合イベント、サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW2018)に参加してきました。世界95カ国から7万人以上がオースティンに集合するSXSW、今年は電気自動車テスラや宇宙開発ベンチャーのスペースXの創業者イーロン・マスクのサプライズ登壇があったり、スピルバーグの新作SF「レディ・プレイヤー1」のプレミアがあったりと、昨年以上に話題を提供していました。

日本企業ではソニーやパナソニック(街中でイベントスペースを展開)、電通や博報堂(トレードショーに出展)のほか、フジテレビのウェブニュースサービス「ホウドウキョク」が日本メディアとして初めてセッションに登場。日本人参加者も1,000人に達するなど、「コミュニケーションの未来を見たり、聞いたり、語ったりする場所」としての認知度も高まってきているのではないかと思います。

企業がSXSWに出展する理由とは?

世界各国の企業や政府がこぞってイベントスペースを展開するSXSW。その目的は大きく2つに分けられると思います。一つは新しいアイディアやコンセプトを展示し、参加者の反応を見て、更なるブラッシュアップ方法を探る場所として活用するケースです。前述の日本トップ企業たちや、巨大スペースを運営していたメルセデス・ベンツなどがそれらに当たります。ここでの展示や、商品やサービスに落とし込む前の段階のものが多く、一見よく理解できないものも多いのですが、絵的に面白かったので、何個か紹介します。

メルセデス・ベンツのブースでは自動運転のトラックとドローンによる配送システムのコンセプトなどを展示。VRを使って運転するこの乗り物の正体は謎でした。

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グーグルはGoogleアシスタントの可能性を体感できるスペースを公開。CESに引き続き力を入れていた。

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ボーズはAIと繋がったスピーカー内蔵グラス「Bose AR」を展示。音響機器メーカーらしく、音声ARというコンセプトを提案。

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ソニーは、昨年に引き続きVRやARを駆使した、体感型アトラクションを展示。新型アイボもまあまあ人気。

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アメリカの農業協同組合、ランド・オ・レークスのスペース。飢餓問題や農業におけるテクノロジー活用事情を、体験を通して知る事ができる。

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もう一つの目的はSXSWの世間的注目度を利用したプロモーション活動です。特に春~夏に新番組、新シリーズを控えるテレビ局に加え、ブロックバスター大作「レディ・プレイヤー1」を配給するワーナーもスペースを展開していました。それぞれ特色はありつつも、共通しているのはSNS対策。来場者に「ソーシャル・メディアを如何に使って拡散してくれるか」を念頭に置いた展開は、番組宣伝ツールの域を超え、「コンテンツの一部」となりつつあるSNSの存在感の強さを改めて認識しました。
毎年人気のHBOのスペースでは、SNS拡散に特化したコメディ「シリコンバレー」のプロモーション。SFドラマ「ウェストワールド」の世界観を完璧に再現したイベントも、オースティン郊外で開催していた模様。

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女性ターゲットのケーブル局Bravoのスペース。こちらもインスタに特化しており、カメラマンとメイクまで常駐し、好きなシチュエーションのセットで写真が撮れる。

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ペイ局のStarzは、女性をターゲットとした新ドラマ2作品に併せ、五感を喚起させてるプロモーションを展開。

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FOXスポーツはバーを借り切って、6月開催のワールドカップのプロモーションを行う。

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映画「レディ・プレイヤー1」に出てくる80年代のポップカルチャーを徹底的に再現したスペースは連日長蛇の列。HTCの最新ヘッドセットによるVR映像も提供していたが、更に2時間待ちと言われ断念...。

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カンファレンス‐テクノロジーはコンテンツをどう変えるのか?

昨年中心に聞いて回っていた「フィルム&テレビ業界」のカンファレンス、今年は登壇者や内容に惹かれるものがそれほど多くなく、逆に昨年より大幅に質が充実したスポーツビジネス系のカンファレンスを中心に、メディアビジネスのトップによるセッションや、コンテンツ(=ブランド)マーケティング戦略のような、いかにもSXSWらしいカンファレンスなどに参加してきました。ここではダイジェストで紹介します。

「テクノロジーによってファンの体験だけでなく、戦術、分析、トレーニング方法、スカウティング、選手の発信力まであらゆるものが変わった」
クライド・ドレクスラー(元NBA選手)
地元テキサスのロケッツでも活躍したドレクスラーによる、自身の現役時代と今のバスケットボールとの比較。ドレクスラーやジョーダンが活躍した90年代とは全く異なるスポーツになりつつあるとの発言に、一緒に登壇したスピーカー達も納得していました。

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「ARでマジソン・スクエア・ガーデンに入ると、1971年のモハメド・アリvsジョー・フレイジャー戦が再現されるようなアイディアを考えている」
ジェイ・カプール(マジソン・スクエア・ガーニューヨークを代表するスポーツ施設(今年のグラミー賞の会場も)であるMSGのデジタル担当カプール氏がARとスポーツを組み合わせたアイディアを紹介。スポーツコンテンツの魅力である「レガシー」を最新テクノロジーで再現する試みは、ナイキが今年2月のNBAオールスターでも同様のキャンペーンを行っており、一つのトレンドとなるかもしれません。

「NFLはラジオやポッドキャストなどの『ボイスメディア』を双方向なメディアにする事を検討している」
ダン・ホーガン(NFLデジタルメディア)
アメリカン・フットボール、NFLのデジタル部門を率いるホーガン氏の発言。アメリカ最大のプロスポーツリーグだけに、顧客のビッグデータ分析に40名のスタッフを雇用したり、AIの活用方法にも取り組み始めているのも流石と思いましたが、歴史あるラジオに、デジタルの特徴である双方向機能を加える事で新たなる可能性を見出しているのは驚きました。

「番組は(放送される)平日30分だけでなく、24時間7日のサイクルで展開されているんだ」
ラミン・ヘダヤティ(コメディ・セントラル)
アメリカの政治や文化にも大きな影響を与える放送コンテンツといえば、深夜のトーク番組、通称レイトショーですが、最もソーシャル・エンゲージメントに成功しているコメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショー」のデジタルチームを引っ張るヘダヤティ氏の発言。CESでもソーシャル・メディアを活用した、視聴者と常に繋がる番組外展開のケースを聞きましたが、ニュースを扱う「ザ・デイリー・ショー」の特性を活かしたSNS展開は興味深かったです。

「アップルのオリジナルコンテンツ路線は、スティーブ・ジョブズが育てたピクサーの様に、上質なストーリーテリングの提供を目指す」
エディ・キュー(アップル)
昨年後半よりついにオリジナル・コンテンツ路線に参入してきたIT界の巨人、アップル。とはいえ、ネットフリックスやアマゾンに比べると発表している企画の量が少なく、その狙いが読めなかったのですが、陣頭指揮を取るキュー氏の「クオリティ路線」という発言で腑に落ちました。(ピクサーの)アニメに比べ、ジャンルの幅が広い実写で何処までアップルブランドに染める事ができるのか、注目です。

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終わりに

ここ数年で、「映像メディア」という当社の主戦場一つとってもOTTやモバイル、VRにAR、ソーシャルメディアにAIまで、環境が劇的に変化、複雑化しているのはご存知の通りです。このような時代こそ(常に分かり易い答えを提供してくれる訳ではないですが)、新しく、幅広い見識に触れられるSXSWに参加し、「今の流れ」を知る事の重要性を、改めて認識しました。