放送センターのすべてを公開! 「WOWOWファンミーティング2024」が2年ぶりに開催
11月30日、2年ぶりとなる「WOWOWファンミーティング2024」が辰巳放送センターで開催された。同イベントには約30人のWOWOW加入者会員が集まり、1日かけてスタジオ・設備の見学や番組制作などを体験。参加者にとっては、普段放送や配信を通して見るさまざまなコンテンツがどのように作られ、ユーザーのもとに届けられているかを知る貴重な機会となった。
振動まで伝わってくる立体音響に感動!
まずは放送センターのゲートでWOWOWのコーポレートキャラクター、ウーとワーが参加者をお出迎え
食堂に集まりここからイベントスタート
参加者は6~10人の四つの班に分かれて各所を見学し、われわれ取材チームはC班に同行することに。最初に向かったのは3Dオーディオ体験ができる試写室。部屋に入るとミニシアターさながらの大きなスクリーンのほか、形状の異なるさまざまなスピーカーが壁や天井に配置されていることに驚く。その数、なんと33本! ひと言で3Dオーディオと言っても〈ドルビーアトモス〉をはじめ、いくつものフォーマットがあり、スピーカーの配置もその都度異なるため、これだけの数が必要になるそうだ。
この日、体験したのは22.2chの立体音響。22本のスピーカーと二つのウーファーで構成したもので、歌声が前後左右から聞こえてくる教会での讃美歌や、鳥のさえずりや小さな葉音などまるで本当に大自然の中にいるかのような森林の微細な音を、映像とともに楽しんだ。
また、3Dオーディオの魅力といえば、やはり圧倒的な"没入感"。中でも花火の映像では、「(音は空気の振動であるため)体に直接、振動が伝わってきて臨場感があった」といった参加者の感想も上がった。
まるで花火大会を特等席で見ているかのような臨場感を味わえる
なお、WOWOWではこれからも〈ドルビーアトモス〉などの3Dオーディオに対応したさまざまなコンテンツを制作し、より良い環境で音を楽しんでもらうために、放送や配信だけでなく、映画館で観てもらう展開なども視野に入れているとのこと。
知られざる中継車の内部とは?
続いて一行は、音楽ライブやスポーツ中継に不可欠な中継車の見学へ。最初に解説をうかがったのは、映像中継車。
映像中継車
車内には壁一面に小さなモニターが設置され、中継車1台で約30台のカメラ映像を操作することができる仕組みになっているとのこと。また、車体は駐車時に床を1mほど横に広げられる可動式になっており、限られた空間でも効率よく作業ができる工夫がなされていた。実際に乗り込むと、参加者たちは高揚した様子で車内の設備を隅々まで見学。スタッフによる、「カメラで映し出される映像の色味は機械だけに頼らず、常に映像をチェックしながら人間の手で調整しています」といった解説に熱心に耳を傾けていた。
映像中継車の中で説明を聞く参加者
その後は、音声中継車へ。この中継車の役割は、マイクで拾い集めた音を聞きやすくミックスしていくことがメイン。音楽ライブではドラム一つに対して9〜10本のマイクを立てるそうで、バンド全体となると、その10倍近くの数になることも。バランスよく、臨場感のあるサウンドを作り出すために、これほどの数のマイクの音を調整していることに驚かされる。ちなみに、今回見学させてもらった中継車はすでに10年以上稼働していることから、2025年3月に新たな中継車が導入されるとのこと。次の中継車は〈ドルビーアトモス〉などの3Dサラウンドの生配信にも対応しているそうで、今後のさらなる展開に期待が高まる。
放送局の心臓部に潜入......!
駐車場から館内へと移動して、続いてはVR体験を。VRのコンテンツはまだまだ実験段階ではあるものの、WOWOWが現在取り組んでいる大きなプロジェクトの一つでもある。2022年に制作したVRアニメーションの『Clap』はヴェネチア国際映画祭やカンヌ国際映画祭のXR部門にもノミネートされており、今後、次世代のエンターテインメントとしてさまざまなコンテンツが一般ユーザーのもとに届けられる日も近そうだ。
手をたたきながらVRを体験する参加者たち。VRアニメーション『Clap』は、体験者自身の両手をVR空間内で認識し、「Clap=手をたたく」というインタラクションによりストーリーが進む。
次に向かったのは、館内の回線センターと収録スタジオ。回線センターは、国内外から送られてくるスポーツなどの映像を編集・配信していく部署に当たる。その横には「WOWOWオンデマンド」の部署も隣接し、過去の映像作品も含め、常時約2000のコンテンツを管理している姿も見られた。さらに参加者は、放送局の心臓部ともいえるマスター室へ。放送中の番組に問題がないかを24時間体制でチェックする、いわば"最後のとりで"。限られた人しかブース内に立ち入ることができないため、ガラス壁の外からの見学のみとなったが、なかなか見ることができない貴重な光景に誰もが興奮しているようだった。
回線センターの前で設備の概要を説明する設備プロダクトユニット栗原里実
自分たちの手で番組作りを体験!
スタッフ厳選による人気のロケ弁でランチを挟んだ後は、午後の部へ
スタッフも楽しみにしていた人気ロケ弁でのランチタイム
まずは、番組プロデューサーによるトークコーナーの第1弾が開催された。登壇したのは、ドラマ制作部の高江洲義貴プロデューサー。
ドラマ制作部 高江洲義貴プロデューサー
バカリズム脚本・出演の「殺意の道程」や、中井貴一主演の「華麗なる一族」など、話題作を数多く手掛けてきた高江洲プロデューサーは、沖縄を舞台に米軍犯罪の実態を扱ったクライムサスペンス「フェンス」を2023年に制作し、この作品で同年のギャラクシー賞大賞を受賞。自身も沖縄県宜野湾市の普天間出身であることから、「沖縄が抱える問題とそれらを知らない社会との温度差をしっかりと描きたかった」と振り返り、また、「今後も沖縄を題材にしたドラマを企画していきたい」と想いを語った。
続いてC班は、D班とともに辰巳放送センターの中で最も大きなAスタジオへ移動。ここでは技術スタッフたちの協力のもと、実際に自分たちで番組を作る体験が行なわれた。
制作したのは、2024年のスポーツ名場面を解説していく『胸高なる瞬間を』という約10分の仮想番組。台本を読む出演者の役だけでなく、スイッチャーやミキサー、カメラなど技術面もそれぞれが担当し、スタッフからのレクチャーを受けた後、WOWOWの宮脇美咲アナウンサーを司会に、いよいよ実践へと挑んでいく。本番では緊張による失敗も加味して時間を多めに用意していたものの、みごとでOK! 中には、アドリブに対応する余裕をのぞかせる人も。また、収録後は撮って出しの映像を全員で視聴。さらに時間の許す限りスタッフとともにカメラの操作やスタジオ機器の設備を体験し、"作り手側の視点"を楽しんでいるようだった。
番組制作の裏側も披露されたプロデューサーたちの"生"の声
再び参加者全員がイベント会場に集まると、ファンミーティングもついにラストブロックへ。最後に用意されたのは、番組プロデューサーによるトークコーナーの第2弾。音楽事業部から大原丈和プロデューサーが登壇し、音楽ライブを中継する権利を得るための苦労話や成功体験などが明かされた。
音楽事業部 大原丈和プロデューサー
また、WOWOWでは音楽ライブの放送・配信や独自の番組制作のみならず、最近は韓国アーティストのATEEZやxikersとタッグを組んでいるとのこと。大原プロデューサーは「コンサートの主催やグッズ販売などにも携わることで、以前からのアーティストのファンにだけでなく、ひとりでも多くの方に彼らの活動に興味を持ってもらえるような情報を届けていきたい」と、新事業に懸ける想いを語った。
さらにスポーツ事業部からは、テニスの4大大会の中継のほか、ボクシングや総合格闘技のUFCなどを担当している加藤弘樹プロデューサーが参加。
スポーツ事業部 加藤弘樹プロデューサー
「最近の仕事で印象に残っている出来事は?」との質問に、2023年にプエルトリコで行なわれた錦織圭選手の復帰戦を挙げ、「現地から送られてくる映像は定点カメラのため、錦織選手の表情が伝わらないと思い、急遽、自分でカメラを持って現地に飛びました」とエピソードを披露。また、試合後にロッカールームでコメントをもらえたことにも触れ、「あくまで選手と制作側であるという距離感を保ちつつ、心を許してもらえる関係性を築いていくことが大切だと思っています」と、仕事への向き合い方についても語ってくれた。
そして最後には、この日のファンミーティングで各部署の解説をしてくれたスタッフたちも登壇。それぞれに、「番組制作体験を担当しましたが、どのチームもものすごいクオリティーのものができたと感動しました」(コンテンツ技術ユニット エンジニア・音声担当 蓮尾美沙希)、「VR体験での皆さんの反応や感想を聞いて、もっといろんな楽しみ方を提供できるのではないかと励みになりました」(R&Dユニット 芳賀高光チーフエンジニア)、「中継車はところどころ塗装が剥げてきていますが、それはエンジニアたちの汗によるもの。私たちが番組作りに懸ける熱が中継車を見て伝わっていたら幸いです」(設備プロダクトユニット チーフエンジニア・映像担当 斉藤圭亮)と感想を伝えていった。また、締めくくりとして村上祐之技術センター長から、「WOWOWのことをもっと知っていただきたいという想いから、このファンミーティングがスタートしました。皆さんと触れ合うことで、私たちにとっても大きな刺激になりました」とのあいさつが行なわれ、約8時間にわたるファンミーティングの幕を閉じた。
最後のあいさつをする村上祐之技術センター長
ウーとワーが参加者をお見送り
取材・文/倉田モトキ 撮影/中川容邦