2020.07.30

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WOWOWが劇場で『劇場の灯を消すな!』を制作する意義。コロナ禍の中でTVが演劇のためにできること

制作局制作部 石川彰子

WOWOWが劇場で『劇場の灯を消すな!』を制作する意義。コロナ禍の中でTVが演劇のためにできること

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下で、次々と全国の劇場での演劇公演が中止に追い込まれる中、WOWOWは劇場とのコラボレーションによる番組『劇場の灯を消すな!』を制作。第1弾はシアターコクーンを舞台に、総合演出・松尾スズキの下、豪華キャストを迎え、ミュージカル『キレイ』などのナンバー、書き下ろし短編『ゾンビVSマクベス夫人』、特殊な劇場案内、衝撃のアクリル剣劇、さらに井上ひさしの朗読劇『十二の手紙』などを収録・放送し大反響を呼んだ。

既に池袋のサンシャイン劇場を舞台にした第2弾、宮藤官九郎を演出に迎え、下北沢の本多劇場から送る第3弾の放送も決定。この番組を企画した石川彰子プロデューサーに企画・制作の経緯について話を聞いた。

スポーツ部から制作部、事業戦略部と異例の異動を繰り返した女性プロデューサー。

――石川さんは2000年に新卒で入社されていますが、WOWOWに入社すると決めたきっかけは?

当時は就職氷河期で、それこそア行から順番に200社くらい受けたと思います。WOWOWは開局当時から加入していて、私自身、映画好きだったし、エンタメに関わりたいという思いはありました。もともとは雑誌の編集がしたかったんです。だから、面接でも「(会員に配布する)プログラムガイドの編集をやりたい」と言ってた覚えがあります。

――入社してすぐの配属は...。

最初はスポーツ部で、テニス、ゴルフにUFC、それからDTM(ドイツツーリングカー選手権)といったモータースポーツも担当していました。女性社員初のスポーツ部員だったんです。

そこに3年半ほどいて、その後、制作部に異動になったのですが、スポーツ部から制作部に異動する社員というのも、おそらく初でした。当時はスポーツの人はスポーツといった感じで、ジャンルをまたぐ異動は少なかったので。

制作部では主に舞台中継とアカデミー賞授賞式の中継業務など、スポーツでの経験を生かして中継の仕事を6年ほどやっていました。ドキュメンタリーも作りました。

それから編成部に7年ほどいました。最初はスポーツの編成で、錦織圭が全米オープンの決勝に進出したときの放送にも関わりました。ちょうど3チャンネル開局の時期で、番組量を増やした時期です。NBAやランジェリーフットボールの放送を開始したり、生中継の増加に対応できるように辰巳のスタジオのシステムをあれこれ考えたり...。

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その後、編成部内の担当替えでプライムチャンネルでの海外ドラマと映画の編成を担当しました。その頃『大人番組リーグ TV Bros.TV ~異色テレビ誌・テレビブロスがテレビになったよ。~』というオリジナル番組も作りました(※ナレーションを清水ミチコと星野源が担当し、松尾スズキ、片桐仁らが出演)。

それから編成の中でライブチャンネルのデスク(統括)になり、ステージの編成も担当するようになり、トニー賞の中継をしたり、ミュージカルの放送に力を入れるなど、舞台に関連したオリジナル番組を考えたりしていました。

その後、「事業戦略部」という部署に2年くらいいました。「加入を最大化する」という目標の下、何をすべきか施策を考える部署で、ジャンルに関係なく部署横断的に放送、編成、営業、デジタルマーケティングなどを連動させる仕事に携わり、そこで東方神起や『ツインピークス』のプロジェクトに関わったりしました。

そして、ここ2年半ほどは再び制作部で久々に現場に戻っています。現在は演劇の中継を担当しており、今年の3月には松尾スズキさんのドキュメンタリーを制作し放送しました。(ノンフィクションW 松尾スズキ 人生、まだ途中也

「観客を劇場に戻す」ことがWOWOWの舞台中継の命題!

――演劇の中継の仕事について教えてください。具体的に担当されてきた作品は?

いまは主にシアターコクーンの作品を担当することが多いですね。この3月に放送したのが「大人計画」のミュージカル『キレイ -神様と待ち合わせした女-』。あとは本多劇場で年末に行われた大森南朋さん、長澤まさみさんらが出演した『神の子』(作・演出:赤堀雅秋)。なかなかチケットがとれない作品が多いです。

――WOWOWの舞台中継の特色、とくに大切にされていることを教えてください。

「劇場に人を戻す」ことがWOWOWの目指すところだと思います。舞台は生で見るのが一番であり、中継でもできるだけ臨場感をもって見せることで、視聴者に生で見たいと思ってほしいです。

チケットが取れなくて(生で)見られない作品というのも多いですし、地方に住んでいる方で見に来られないという方も多いと思うので、そういう方に全国放送でお届けできたらと思いますね。そういう意味で「一番見たい作品」を放送するべきだとは思っています。

また「演劇は時代を映す鏡」という言い方をよくしますが、可能な限り「いま」の作品をやることを心掛けています。

今回の新型コロナウイルスのことも含めて、ここ数年で舞台の中継が大きく変わってきた部分はあって、以前は舞台をテレビでやること自体、イヤだという方が多かったんですよね。いまだにそういう方はいらっしゃいますけど、そもそも「生で見る」ものですからね。でも、消えてしまうものだからこそ、残しておくべきだというところもやはりあって...。

映像のためのものではないというのはわかっているので、やはり「劇場で見たい」「いつか生で見たい」と思ってもらうことが重要で、演劇人へのリスペクトを持って作ることがWOWOWの演劇中継だと思います。

そういう意味で、多くの作品を届けたいという思いがあり、(予算をふまえて)ハイクオリティの番組を作るのか? 数を増やすのか? というせめぎ合いはあります。ひとつの作品に予算を掛け過ぎてしまうとどうしても数が減ってしまうので。

公演中止の劇場に組んだままのセットが...「もったいない!」から始まった劇場とのコラボ企画 

――続いて今回のメインテーマである、WOWOWと劇場のコラボレーションによる『劇場の灯を消すな!』についてお聞きしていきます。今回、このような番組を制作しようと思ったきっかけは? 企画が成立するまで、どのような話し合いがあったのでしょうか?

新型コロナウイルスの感染拡大により、セットが組まれたまま公演が中止になってしまった劇場が空いているという話がいろんなところから聞こえていたんですね。「何だ、このもったいなさは!」って思ったんです。「何かできることがあるんじゃないか?」と。

もともと、WOWOWでも中継するはずだった作品が中止になったり、無観客で撮ることになったりもしていて、公演が中止になっても、次の公演も中止になっているので、セットが組んだままになっていて、それをバラす(解体する)にも人を集めないといけない状況で。

そうした中で、空いている劇場で何かやるのはどうかな? と考えて、(シアターコクーンのある)Bunkamuraさんに興味があるか聞いてみたんです。そうしたら「なくはない」という感じの反応だったので「社内で企画が通ったらもう一度、お伺いします」と伝え、その週のうちに企画書を出したらすぐに承認されたんですね。

演劇スタッフのために仕事を作りたい

――その時点で、(シアターコクーンの芸術監督でもある)松尾スズキさんには話は届いていたんですか?

200730_ishikawasan_gekijyo_2.jpg劇場の灯を消すな!第1回 
「Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭」オープニング

その時点ではまだですね。ちょっと時系列が前後しますが、それより前の時点で大人計画の社長の長坂(まき子)さんと電話で話をしていたんです。話している中で単に演劇人と何かするというだけだと、普通のテレビ番組になっちゃうなと。どういう縛りで、どこに軸足を置くか? 役者さんにフィーチャーするとドラマを作ることになっちゃうなと。それでは、今回の趣旨とは違うので、"劇場"にこだわるべきだという話になりました。そこで、もし作ることになったら、長坂さんにプロデューサーとして一緒にやってほしいというお願いをしました。

最初は演劇=生ということで生配信をやりたいと思ったのですが、それだとどうしても"密"が生まれてしまうので生配信はあきらめました。

そこで決めたのは、緊急事態宣言が明けた約2週間後に収録をして、その約2週間後に放送するということ。それから、劇場でやるということ。あともうひとつ、演劇の照明さんや音響さんといったスタッフさんの仕事がなくなっているという話を聞いていて、私自身も仕事がなくてヒマになりかけていたこともあって、「儲けることはできないかもしれないけど、みんなに仕事を作る」ということをテーマとして決めました。

私自身、長年仕事をさせてもらっていて、芸術監督に就任した松尾さんのドキュメンタリーも作っていたので、一本目はシアターコクーンでということで、私と長坂さん、シアターコクーンの加藤(真規)さんと森田(智子)さんとで「誰と何をどんなふうにやろうか?」という話し合いを始めて、そこから色々な人に声を掛けて、松尾さんにも加わっていただくことになりました。

――松尾さんが総合演出を務められたのは、大人計画の主宰としてではなく、シアターコクーンの芸術監督という立場でなんですね。

そうです。Bunkamuraさんの舞台制作チームと、大人計画のスタッフとWOWOWの番組にする上で、テレビマンユニオンさんに入ってもらい、収録技術はWOWOWエンターテインメントチームに参加してもらいました。

200730_ishikawasan_gekijyo_3.jpgBunkamuraシアターコクーン芸術監督 松尾スズキ

魅力的なオープニング映像、アクリルボックス内でのパフォーマンスが生まれた経緯は?

――企画を通した段階で、先ほどおっしゃっていた「緊急事態宣言が明けて2週間後に収録、その2週間後に放送」といったスケジュールは決まっていたんですか?

そうですね。もともと、次々と劇場公演が中止になる中で、緊急事態宣言が明けてから、次の公演が動き出すまで、2か月くらいは空いているだろうという読みをしていました。その2か月で、空いている劇場で何かしようと動き出した企画でしたので。

――歌あり、ダンスあり、短編の作品から朗読劇まで盛りだくさんの内容でしたが、具体的な内容、キャスティングに関してはどのように決めていったんですか?

最初の時点で、「歌のコーナーは見たい」「ひとりずつ出てくるなら(密にならないので)大丈夫だよね?」といった話はしていて、朗読の通し企画に関しては、長坂さんから「連作としてやるなら、通し企画がひとつあった方がいいよね」という話があって、長坂さん自身が学生時代に井上ひさしの「十二人の手紙」をラジオドラマで聞いてて、よかったということで提案があったんですね。それで日本文藝家協会さんに許諾をいただきに動きました。

アクリルボックスを使ったことに関しては、Bunkamuraの加藤さんから最初の時点で「アクリルボックスの中ならできるんじゃないか?」という提案があって、最初は短編の古い戯曲をボックスの中に入ってやるというアイデアが出ていました。

最初の段階ではそれくらいだったんですが、まず松尾さんに相談したら「アクリル剣劇」のプロットが来たんですね。「だったら、歌もアクリルでよくない?」 「じゃあダンスもやろう」みたいな感じで、アクリルボックスを使うことが決まって、次々といろんな企画が決まっていったところはありますね。結果「アクリル演劇祭」になりました。

200730_ishikawasan_gekijyo_8.jpgアクリルボックス内で歌い踊る 小池徹平、神木隆之介、阿部サダヲ

――松尾さんがダンスをしながら劇場に入っていくオープニングも印象的でした。

松尾さんが劇場に灯をつけるようなイメージで、ツーステップで入っていくような画がほしいなという話をしていたんです。ゴールデン洋画劇場の和田誠さんのオープニングのような感じで、何か始まるワクワクした感じができたらなという妄想を話していたところ、松尾さんから「トーキョー・シック」という佐野元春さんと雪村いづみさんの曲ではどうかという提案があり、曲にあわせるとなると踊ることになり、振付家業air:manさんの振付が入り、オープニングの監督は上田大樹さんにお願いしようとなり・・・壮大になっていきました。

――そもそも、稽古が必要ないというのも重要な要素だったとか?

そうです。密を避けるために稽古をしないことを念頭に置いていました。そこで何度か打ち合わせする中で、全体像が見えてきた感じです。キャスティングもその話し合いの中で案が出て、オファーを出して...という流れでした。

200730_ishikawasan_gekijyo_4.jpg「アクリル演劇祭」に集まった豪華キャスト陣


――朗読劇の中村勘九郎さん、大竹しのぶさん、過去にコクーンで上演された『もっと泣いてよフラッパー』の「スウィング・メモリー」を歌った松たか子さんのキャスティングはどのように?

(松尾さん演出の)『キレイ』だけではない、別の作品の歌もやろうという話はしていて、そこで初代芸術監督の串田和美さんの作品でもあり、松尾さんも出演していた「『もっと泣いてよフラッパー』の曲を聴きたい」という話になって、松さんにお願いしました。

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朗読のキャスティングは、長坂さんの提案で、大竹しのぶさんと中村勘九郎さんという、最初に出た案のまま決まった感じですね。お二人ともシアターコクーンとのつながりも深いですし、お二人の関係も深いので。

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秋山菜津子さんと杉村蝉之介さんの「ここにいないあなたが好き」は、まさにここにいなくて、離れているという内容の歌なので、松尾さんからの提案ですね。

感染予防のルールを徹底! 空っぽの客席だからできたクレーン撮影

――企画の段階、さらに収録で苦労された部分は?

感染を避けるための劇場の運用のルールに関しては前例がないので大変でした。舞台制作チームと収録チームの導線をわけてルールをオリジナルで作りました。Bunkamuraさんが消毒マットの仕組みを構築したり、楽屋周りのマニュアルを大人計画制作チームが作ってくれたり、クリーンスタッフを決めて、お弁当周りはその人しか触らないようにしたり、各楽屋を消毒したり。アクリルボックスも使いまわさないといけなくて、でも消毒すると消毒のあとがついてしまったり。

アクリルボックスに関しては、静電気が発生して困ったというのもありましたね。あと、中に入ってみるとわかるんですけど、すごく孤独なんですよ、アクリルボックスの中って。鏡のように自分の姿が映りこむんです。自分の顔を見ながら自分に向かって歌うような感じで、出演者のみなさん最初はすごく戸惑っていました。

――プロデューサーとして、あくまでも映像作品としてこの番組を作るにあたって、工夫された部分、大切にされたことは?

「演劇を作っている」という思いと「テレビ番組を作っている」という思いが両方ありつつ、どちらでもないというような不思議な感覚だったんですよね。

シアターコクーンに(撮影用の)クレーンが入るということは、普段、お客さんが客席にいる状態では絶対にないので、そういうことを含めて「放送だからこそできる」ということを最大限に活かして作りたいなということは考えていました。「RONIN」というステディカム的なものを使って撮影したのもそのひとつですね。クルクル回るシーンでは、あのカメラを持ったカメラマンも一緒に回って撮影していますし、最前列のイスを外してレールを敷いたり。

――収録されてみて、スタッフ、キャストのみなさんの反応はいかがでしたか?

第1弾の放送が終わって、反響をいろいろといただいています。収録後のインタビューでもみなさん、この企画についてだったり、劇場への思いをいろいろとお話してくださって、すごく感動しました。劇場愛も感じるし、演劇スタッフのすごさも強く感じましたね。

――今回、普段の生中継とは異なる形で演劇・劇場に関わられて、発見などはありましたか?

私自身、これまでは作られたものを撮らせていただくというスタンスでしたが、一緒に作るという点で新しい取り組みでした。本当に楽しかったですね。

私が「わーい楽しい!」ってやってちゃダメなんですけど(笑)、『キレイ』の歌をリハーサルで聴いた時点で私も含めてみんな、涙ぐんでましたし、松さんの歌った「スウィング・メモリー」の歌詞も「いつかふたりで肩を抱き合い、踊りましょうか・・」みんなウルウルでした。

やっぱり"書ける"人はすごいんだなと感じましたね。松尾スズキさんと天久聖一さんが書いて、じゃあそれをどうやって実現するか? というところでみんながガーッと動き出すんですね。脚本に1行でも書いてあると、それを作り出す人がいる。(MCの)皆川猿時さんのセリフでアクリル板に「今日、食べた味噌汁のニラがついてました」と書いてあると「(実際に)味噌汁、かけますか?」と聞いてくれるんです。実際はかけなかったんですけど(笑)。

朗読劇のバイオリンとギターの生演奏も、松尾さんの「バイオリンの即興生演奏とか」という一言で全てが動き始めて、すごい人たちが集まるんです。プロは本当にすごいなぁと思いましたね。

第2弾の朗読劇はいのうえひでのりが演出! 超豪華・新感線"準"劇団員の座談会も!

――第2弾は池袋のサンシャイン劇場を舞台に「劇団☆新感線40周年!~勝手に?われら青春のサンシャイン!」と銘打って制作されていますが、見どころは?

タイトル通り、サンシャイン劇場で劇団☆新感線さんとやるということで、いのうえひでのりさんに、朗読劇の演出をしていただきました。粟根まことさんによる詳しすぎるサンシャイン劇場案内。もはやアトラクションのようでした。

他には、勝手に座談会と題して劇団員と準劇団員の方に集まっていただきました。古田新太さん、池田成志さん、松雪泰子さん勝地涼さんが参加してくれました。

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座談会も過去の作品の小道具を置いて、新感線コラボカフェみたいにしまして、店長は橋本じゅんさんが演じてきた人気キャラの剣轟天さん、そして店員として中谷さとみさんが演じるウマシカがいたりして、ファンの方にとってはすごく楽しめるものになっていると思います。さらに演劇ジャーナリストの徳永京子さんが、新感線の作品を見ながら、いのうえさんに根掘り葉掘り聞くという企画もあります。進行は中井美穂さんがしてくれています。

朗読劇は、高田聖子さんと入江雅人さんが出演しているのですが、いのうえさんが朗読劇を演出するとこうなるのか! という感じで、朗読でありながらもはや朗読ではないものになっています。

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ちなみに第3弾もほぼ同時並行で進めていて、本多劇場を舞台に宮藤官九郎さんと細川徹さんを総合演出に迎えて制作しておりまして、こちらもまあ普通じゃない変な番組になっていますので、楽しみにしていただければと思います。

たった一人でいいから「これを待っていた!」と刺さるものを作りたい

――最後になりますが、WOWOWのM-25旗印では「偏愛」をキーワードとして掲げています。ご自身にとって仕事をするうえでの「偏愛」、仕事をするうえで大切にしていることを教えてください。

誰かが「絶対に見たい!」と思うものを作るということですかね。誰かのネット上のネ申になりたいというか(笑)「これを待ってたんだ!」と、圧倒的に刺さるピンポイントのひとが一人でもいるものを作りたいなと思っています。

少なくとも誰かに刺さるものを作りたくて、「たぶん、みんなこんな感じのものが好きなんでしょ?」というものじゃ届かないですよね。

それと同じ意味で、誰かが本当に「作りたい」と思っているものを作りたいですね。ディレクターさんだったり、今回であれば松尾さんに見えているものを形にしたいなと。

スポーツを担当していた頃から、その思いはあって、WOWOWは有料放送なので、ものすごく好きな人が見ているんですよね。加入者の方がお金払ってまで「見たい」と思う人に私は会えているわけで、そこには責任があるなと。だから、担当するものに関しては圧倒的に詳しくいたいし、その人たちが喜んでもらえるものにしないと意味がないなと思っています。

偏愛という意味では、そのジャンルや人を異常に好きな人たちに納得してもらえるものを作りたい。「これ、あんまり好きでもないやつが作ってるな」と思われたら、それは失礼だと思っています。

――今回のお話に出てきた大人計画や新感線は、まさにものすごくコアなファンを抱えた劇団ですね。

そうなんですが、大人計画は31年、新感線は40年続いていて、コアなファンも多いけど、それだけ長く続く中でやはりメジャーなんですよね。そういう意味で「強いマイナーは絶対にメジャーになる」ということは信じていますし、マイナーなまま終わるものはそんなに好きじゃないんです。別に私がそれを「メジャーにしたい」と思っているわけじゃなく、おのずとそうなっていくはずだと思っています。

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<第1回リピート放送>
劇場の灯を消すな! 劇場の灯を消すな!Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭8/26(水)よる11:30

<第2回放送>
劇場の灯を消すな! 劇場の灯を消すな!サンシャイン劇場編 劇団☆新感線40周年!~勝手に?われら青春のサンシャイン!8/1(土)よる8:00
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<第3回放送>
劇場の灯を消すな!本多劇場編 特ダネ!皆川スポーツ in 演劇とパンケーキの街、下北沢。宮藤官九郎と細川徹責任編集 9/26(土)午後3:00
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インタビュー:黒豆直樹  撮影:宮川舞子