「強い日本女子テニス界が戻ってきてほしい」伊達公子のジュニア育成プロジェクトにWOWOWも参画
伊達公子
2017年、2度目の現役生活を終え、引退したプロテニスプレーヤー伊達公子。その年にWOWOWテニスアンバサダーに就任し、2018年の全豪オープンからその活動を続けている。そして現在、この仕事とともに並行して行なっているのが「リポビタン Presents KIMIKO DATE×YONEX PROJECT 〜Go for the GRAND SLAM〜」というテニスの女子ジュニア育成プロジェクトだ。WOWOWはこのプロジェクトに賛同し、視聴者がグッズなどを購入して女子ジュニアへ資金応援できる仕組み「女子テニス 未来応援プロジェクト」を始めている。このプロジェクトに対する想いや、ジュニアをサポートすることの意味を伊達に聞いた。
2019年に開始した女子ジュニア育成プロジェクト
「強い日本女子テニスを復活させる」想いで取り組んでいるこのプロジェクトは、2019年にスタートし、1期2年間、8回のキャンプを通して、グランドスラムジュニア出場を目指すことをテーマに行なわれている。現在は2期生8名、6回のキャンプまで終えており、選抜選手である木下晴結(きのしたはゆ)は、全グランドスラムジュニア(全豪、全仏、ウインブルドン、全米)において本戦出場を果たしている。
木下晴結選手
伊達はこの育成プロジェクトを「人生を懸けて取り組みたいことの一つ」だと言う。
「セカンドキャリアを終え、自らやらなきゃという気持ちにもなりました。引退後の人生は人それぞれある中で、自分が何に情熱を注げられるかと思ったときに、日本の女子選手がより世界に近づくという活動がストンと心に落ちてきました。今、この決断に間違いはなかったと思います。私に与えられた使命と思えるようになりました」
現在の日本女子プロの現状は、伊達がトップ10に君臨していたころとは大きく変化している。1990年代中盤には伊達をはじめ沢松奈生子、杉山愛、神尾米らグランドスラムに何名もの女子選手が出場していたころと比べれば、現在100位以内は50位の大坂なおみのみだ。21歳の内島萌夏は116位、28歳の日比野菜緒が123位、31歳の土居美咲が84位と、若手が育っているとは言い難い。(ランキングは2023.01.23付)
昔と今、その大きな違いは、どこにあるのだろうか?
「ジュニアも含め、技術に関していうと、私たちのころに比べれば、いろいろなショットができるし、今の選手はすごくうまい」そう前置きして伊達は続ける。
「でも、世界で活躍できる選手を見ていると、やっぱりみんな武器を持っています。ただ攻撃することが好きということで活躍できるのは一握りの選手。展開力だったり、空間を使って戦ったり、自分の特徴を理解した上で、"これは私の絶対的な武器"と言い切れるものを持っている選手は強い」
自らに照らし合わせるなら「もともと力があるわけではなかったので、ライジングを使って展開を速くする」という武器。技術だけを習得すればいいわけではないし、技術が伴わないのに、速い展開を試みても意味がない。技術と戦術が伴って初めてテニスというゲームにおいての武器となる。
そういった考え方の土台を作るためにも、すでにプロになった選手ではなく、ジュニアからの育成が重要だ。
ジュニアが目指す「一握り」の世界
実際のプロジェクトキャンプは、座学から始まる。例えば「ライジングショット」がテーマなら、なぜそのショットが必要なのか、それを使うとどういう利点があるのか、また、どういう展開になったときに、どう使うのかというところを、映像と写真等を使いながら、説明した後、テーマに沿ったウォーミングアップ、そしてオンコートへ移る。
キャンプで座学中の伊達とジュニア選手たち
オンコート練習でもステップワークや体の使い方まで細かい指導が行なわれ、ジュニアにとって、中身の濃い時間となっている。
「2年で8回のキャンプという限られた時間の中で、できるだけ彼女たちの成長につながること、それはなんなのかを考えながらやっています。17歳くらいまでの期間、どう過ごすかで大きく成長が変わってくるので、色々なものをインプットしてあげて、彼女たちが必要なものを吸収していってくれればいいなと」
1年目は国内の地域大会でも結果が出なかった選手が、2年目は国際大会で決勝へ進出するなど、明らかな成長が見て取れる。
試合勝利後、伊達と喜ぶ林妃鞠(ひまり)選手(2022年岐阜国際ジュニア大会でベスト4進出)
「私自身、何かしらの縁でテニスと出合って、テニスが私を形作ってくれました。テニスと出合っていなければ、大きく人生も違っただろうし、だからそういうテニスの魅力を知ってほしい。当然一握りのところを目指させているわけなので、簡単ではないと思いますが、そこにたどり着けなかったとしても、きっと自分の人生にプラスになると信じているので、そういう経験を多くの日本人の選手にしてほしい。それがすべてかな、と思います」
選手の遠征費をサポートできるWOWOWの取り組みがスタート
テニスがグローバルなスポーツであることの象徴に、プロが回る世界ツアーのジュニア版としてITF(国際テニス連盟)ジュニアツアーが存在する。世界各国で大会が行なわれており、これらの大会の結果でポイントが加算され、それがジュニアの世界ランキングとなり、グランドスラムジュニアへの出場へとつながる。
プロジェクトメンバー同士でダブルスを組み、2022年岐阜国際ジュニア大会で準優勝した古谷ひなた選手・岸本聖奈選手
伊達は、育成プロジェクトの一環として、グランドスラムジュニアに出場するためのポイントが獲得できる、ITFジュニア大会を、愛媛、岐阜、福岡の3カ所に3年かけて新設していった。
そして、このプロジェクトを長年追いかけてきたWOWOWが、その志に賛同し、「女子テニス 未来応援プロジェクト」と題して、番組・SNS・特設サイトで日々の活動を紹介し、視聴者がグッズを購入することでメンバーたちの遠征費をサポートするという取り組みを行なっている。
これについて伊達は、「プロのように金銭契約が結べない彼女たちは、試合を回る生活をしていても賞金があるわけではないし、所属契約があるわけでもない。金銭面は家庭環境も影響するし、そういった点ではプロ以上にお金の問題は大きいと思います」と、その重要性を語る。
応援グッズにサインするために、初めてサインを作ったジュニア選手たち
WOWOWのこのプロジェクトでは、このボールなどグッズを購入することでジュニア選手の遠征費用を寄付できる
選手としての可能性は未知数といえるジュニアだが、伊達は「伸びしろがあるのは間違いない」と断言する。また、こうした取り組みによって、人の目が、選手自身や、プロジェクト全体へ向くことも女子テニス界の活性化において必要だと考える。
「ヨーロッパのようにプロの世界がすぐそばにあるような環境なら、選手も人の意識も向きやすくなるのですが、日本からの遠征で、コーチ帯同にお金を出せるかと言えば簡単ではありません。土地柄難しい面もありますが、こういう取り組みを目にした人たちが、彼女たちの置かれている環境は大変なのだな、ということを知っていただけるだけでもありがたいと思います。夢を見て、夢を実現させるために頑張っているということを理解してくれる人が増えていけば、良い変化につながっていくような気がします」
大会でジュニア選手と話す伊達
育成と並行し、団体を立ち上げ大会を新設
さらに伊達は、2022年の6月に「Japan Women's Tennis Top50 Club (JWT50)」という、かつて世界50位以内に入った経験を持つ、女子テニス選手の有志が立ち上げた一般社団法人のメンバーとして、その経験を余すことなく伝えるとともに、団体としてプロツアーの下部大会であたるITF大会を新設する予定だ。
育成プロジェクト、ITFジュニア大会、そして年齢制限のないITF大会と、段階を踏んだ日本女子テニスへの取り組みは、ようやく土壌が整備されつつある。
「私もまさか自分がここまでエネルギーを注ぎ込めるものになるということは、想像がつかなかったのですが、実際、足を踏み入れてみると、ジュニアたちの可能性に魅力を感じる自分がいるし、何よりも強い日本女子テニス界が戻ってきてほしい」
現役を2度経験し、現在もWOWOWテニスアンバサダーを通して世界のテニスを見続けている伊達の知見は、整備されてきた土壌の栄養となるはずだ。
「本当に今、楽しい」
そう語る伊達の未来へのプロジェクトは、いつしか大きな花を咲かせることだろう。
「女子テニス 未来応援プロジェクト」特設ページはこちら
グッズ第2弾は1/29(日)まで!
<番組情報>
「伊達公子と世界を夢見る8人の少女たち~Go for the GRAND SLAM~」
2023年3月25日(土)午後5時 WOWOWライブ
女子テニス 未来応援プロジェクト、ジュニアたちの成長の軌跡を集大成として振り返る特別番組
文/保坂明美 撮影/福岡諒祠