「アクターズ・ショート・フィルム」はなぜ人気コンテンツとなり得たのか? 俳優が己の内面をさらけ出し、俳優を演出する美しさ!<前編>
制作部 射場好昭 × コンテンツ戦略部 仁藤慶彦
それぞれに主役を張る実力を持った当代の人気俳優たちが、カメラの向こう側に回り、“監督”としてメガホンを取り、同じ予算と条件で25分以内のショートフィルムを作る。そんなエンターテインメント性とゲーム性に富んだ企画として、人気を博してきた「アクターズ・ショート・フィルム」の新シリーズの配信・放送がいよいよ開始となる。
第3弾となる今回、監督業に挑戦したのは、玉木宏、高良健吾、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎の5人。SFから日常の一部を切り取ったドラマまでジャンルも多彩な5編が完成した。そもそも、俳優が映画を撮るというこの企画はどのようにして生まれたのか?
今回、この「アクターズ・ショート・フィルム」の企画プロデューサーである仁藤慶彦、制作のチーフプロデューサーを務める射場好昭に企画の成り立ちから第3弾に至るまでのさまざまなエピソードなど、たっぷりと話を聞いた。
誕生のきっかけは、ある俳優の何げないひと言......。掘り起こされた「映画を撮りたい俳優」の熱!
──第3弾を迎える「アクターズ・ショート・フィルム」ですが、俳優が監督を務めてショートフィルムを制作するというこの企画自体、どのように生まれたのでしょうか?
仁藤 2021年1月にWOWOWメンバーズオンデマンドがWOWOWオンデマンドにリニューアルし、BS環境がなくとも配信経由でWOWOWが見られるようになったのですが、その転機を前に、2019年の暮れごろに会社から「新しい配信向けコンテンツを開発しなさい」という号令が下ったんです。
ちょうどその頃、後に「アクターズ・ショート・フィルム」の第1弾で監督をしていただくことになる俳優の白石隼也さんと話をする機会があったんです。2人で釣りをしながら「最近、若手俳優の中で監督に挑戦したい人が増えている」という話を聞いたんです。とはいえ、制作するにもお金がない、というのがいちばんの壁であり、いきなり長編を作るのは不可能だと。それならば、若手俳優を監督に起用してショートフィルムを制作すれば、予算の負担も軽減されるし、何よりWOWOWが今後、配信に向けて増やしていかなくてはいけないコンテンツの定義「短尺で本数が多い」というのにかなっているんじゃないか? という話になったんです。
仁藤 個人的にも、前々から地上波出身の田代常務から「WOWOWにももっと編成主導の企画があっていいんじゃないか?」と言われていました。地上波では編成が企画を生み出し、それをプロデューサーが実装していくという座組があるのに対して、WOWOWではプロデューサーが企画を生み出すのを待って、それを編成が決定するというシステムが多かったんです。僕自身、ずっとWOWOWの人間で、それを当たり前に思っていましたが、田代常務の言葉から、編成主導で何か企画できないか? と考えました。
そうしたことを踏まえて、ショートフィルムという企画にトライしてみようと。せっかくやるなら、ルールを整えてゲーム性を持ってやってみたら面白いんじゃないか? と企画書を書き上げました。当時、企画を通していただいた吉雄さん・徳永さん、第2弾で劇場公開の足掛かりを作っていただいた口垣内さん・栗林さん、そして第3弾でさらなる発展の機会をいただいた蓮見さんには感謝しかありません。
──企画が通って、その後、具体的にどのように制作・配信まで進んだのか経緯なども含めて教えてください。
仁藤 僕自身、編成部員なので直接番組を作る立場ではなかったので、この企画の趣旨を長谷川制作部長に相談したところ、これを成立させられるのは射場さんしかいないと言われたんです。
射場さんには僕が新入社員の頃からスノーボードに連れていっていただいたりして、かわいがってもらっていたんです。実際に一緒に仕事をしたことはなかったんですが、思い切って射場さんの門をたたいて「一緒にやりませんか?」と声をかけたら「いいじゃん。面白そうじゃん」と言っていただけました。
自分で言うのもなんですが、僕ら2人のこのペアリングが奇跡的にハマった部分がすごく大きいと思っていて、だからこそシーズン3まで続けてこられたんじゃないかと思います。役割としては、僕がプロジェクトリーダーで権利周りも担当し、射場さんはチーフプロデューサーという立場で現場周りを担当しています。
こうした役割的な部分に加えて、性格的にもうまく分担ができていて、僕はものすごく細かいところがあるんですが、一方、射場さんはWOWOWを代表する天才肌で、プロデューサーというよりもクリエイターだと僕は思っています。そうやってお互いに足りない部分を補完し合える関係であり、そこがハマったのかなと思っています。
射場 この企画は映画の文脈が非常に濃くて、単に俳優が手遊びで映画を撮ってみたというものではなく、映画の現場をいちばん知っているのが俳優であり、監督の"声"をいちばん聞いているのも俳優であるというのが根底にありました。
映画史的に、オーソン・ウェルズとかチャールズ・ロートンとか、俳優が作った映画って特殊にすごかったりするんだけど、なかなか日本ではそういうカルチャーがないんですよね。現場を最も知る俳優が作る側に回ったらどうなるか? 非常に刺激的なお題だなと感じまして、これは面白いぞと思いました。
とはいえ、最初は「俳優のお遊びみたいなものになったら...?」「アイドル性の強い人しかできない」となったら嫌だなぁと思っていました。そこに関しては、メジャー感は出しつつ、本当の映画好きの俳優、映画と愛し合えるような、映画に重きを置くような人たちでできたらいいなと。
25分以内、オリジナル脚本、撮影は2日間...
さまざまな条件がもたらした面白さ
──1.尺は25分以内 2.予算は全作共通 3.原作物はなし 4.監督本人が出演すること、といったルールはどの段階でどのように決まったのでしょう?
仁藤 最初の企画の段階から考えていました。そもそも、この企画の目標が「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」(※米アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭)に出品し、グランプリを獲得することなので、そのルールに準じて「尺は25分以内」というのをいちばんのルールにしました。また、5人の監督が同じ条件で撮るのが面白いと思ったので、予算や撮影日数(2日間)も共通としました。三つ目の「原作物はなし」というのは、権利クリアランスの観点や、WOWOWがオールライツを持っておきたいという下心もありました。
そして最後に、ちょっとでもいいから監督本人が出演するということにしました。これは俳優の皆さんに付いているファンの方々へのサービス的要素が強いです。
予算的なインパクトを長編よりも抑えて、本数を多く撮ることができるというメリットに加えて、撮影が2日間でできちゃうというのもすごく大きかったですね。長編を撮るとなると、俳優さんのスケジュールを1カ月、2カ月と押さえないといけないところ、2日間であれば大物俳優さんにも「合間を縫ってお願いします」とオファーできるんですよね。これはやってみて分かったことで、いちばんの副産物と言えるかもしれません。
そもそも、この「撮影2日間」というのは、予算から逆算して割り出した日数だったんですけど、みごとにハマったなと思います。最初はそこまで計算していなかったんですけど、おかげで豪華監督陣と俳優陣の組み合わせが可能になったんだと思います。
いろんな"足かせ"があることで、逆にクリエイティビティが生まれてくる部分が多くて、そこは非常に面白いなと思いますね。
──監督の選出については、どういった経緯で決まったのですか?
(写真左上から時計回りで、磯村勇斗、柄本佑、白石隼也、森山未來、津田健次郎)
射場 「サウナーーーズ ~磯村勇斗とサウナを愛する男たち~」で磯村さんと一緒にフィンランドに行った際に、彼が実はメチャメチャ映画好きで、学生時代には自分で監督をしたこともあると聞いていたので、その話を思い出して磯村さんに「どう?」と聞いたら「やります!」と。
津田健次郎さんは、いまみたいな売れっ子になる以前、30年くらい前から友達なんですけど、彼もメチャメチャ映画好きなんです。たしかエドワード・ヤンの映画にこっそり出演していたりするほどの映画好きの演劇青年が、声優としてブレイクして......という変わった経歴の持ち主ですが、それが面白いなと。
仁藤 最初に決まったのは企画のきっかけとなった白石さんと、磯村さん、津田さんの3人でした。それから制作会社も入り、柄本佑さんと森山未來さんも加わって動き出しました。
お互いの腹を見せ合う脚本執筆のプロセス
──脚本を練っていくプロセスはどのように行なわれたのでしょうか?
射場 ある意味で、そこが最も時間をかけた大変なところでした。プロデューサー5人がかりで、それぞれの監督に「面白いものを書いてごらん?」と振りつつ「それはちょっと成立しないかな」とか「2日間の撮影だと無理かな?」とか「25分にはまとまらないね」とかダメ出しをしていくという......。
──なかなか厳しいですね。
射場 そこでお互いの腹の内をすべてさらけ出すという感じですね。そこできちんと言い合わないと面白いものはできないということは監督たちにも理解してもらって、腹を割って話をしました。
仁藤 皆さん、初めての監督業なので、分からない部分も多いですし、そこは50:50の関係で言い合う感じですね。俳優としてはもちろん一流の皆さんですが、監督としてはあくまでも新人監督ですから、言うべきことは言います。
──監督本人が脚本を執筆する場合と脚本家を入れる場合がありますが、これは監督本人と話し合って決めていくという感じでしょうか?
射場 俳優さんに「何をやりたいですか?」「何を撮りたいですか?」と聞いたとき、一つ目のタイプとして、自分自身に問いかけて、自分の内面性をどうやって映像で表現するか? という部分に面白さ、刺激を感じてくれる"自分語り"というのがあります。
そこで自分で物語を書きたいか? それとも脚本家の力を借りた方が良いか? というのは、人それぞれで、自分自身の話なんだから自分で書くという人もいれば、一度、他人の目を通して組み立て直してもらった方が面白くなるという人もいます。いずれにせよ、基本は「自分」なんですよね。もちろん私小説のようなプライベートなネタを吐露するという意味ではありません、エンターテインメントとして構築していくのは当然の前提です。
仁藤 実際、脚本家を入れているエピソードでも、どんな物語にするか? という部分は基本的に監督が決めて、簡単なプロットまで自分で書いています。それを実際の脚本に落とすという作業の部分で脚本家の方に入っていただいていますね。
射場 もう一つのタイプとしては、自分の中にある"妄想"であったり、言い換えると原風景、自分の中で繰り返されるイメージを映像として形にするというものですね。「どんな話にしましょう?」と聞いた時、「こういうイメージがありまして......」という"映像妄想着火型"ですね。それは僕らプロデューサーが日常的にやっている作業に近いのですが、このタイプは第1弾でいうと津田さん、今回の第3弾では高良健吾さんにもそんな気配を感じます。ずっと映像のイメージが内側で熟成されていて、それが出口を求めて、形になって出現してくる、そういう人たちにしてみたら、これ以上の現場はないんじゃないかと思ってもらえるような環境作りを心がけています(笑)。
少し前に野村萬斎さんのインタビュー取材があったんですけど、この企画について「ずっと食べていないトラの檻に血の滴る肉が放り込まれたようなもの」って(笑)。「『どうします?』と言われて、やらない手はないな」とおっしゃっていました。
──脚本家を入れる場合、どなたと組むかという決定はどのように?
射場 例えば、前田敦子さんと根本宗子さんの組み合わせは、完全に前田さんからのラブコールでした。おそらく(根本さん脚本、前田さんが主演の一人を務めた映画)『もっと超越した所へ。』の企画が決まっていた段階だったのだと思います。もちろん前田さんが以前から根本さんが好きで......というのはあったでしょうし。
仁藤 もともとお二人は面識はあったのですが、前田さんの要望を受けて、僕らから根本さんにオファーをしました。
(アクターズ・ショート・フィルム2 「理解される体力」)
俳優同士の信頼関係によって実現した豪華共演
──各作品のキャスティングに関してはどのように決定していったのでしょうか?
射場 (各監督は)俳優さんなので、俳優さんのことは誰よりも分かっているんですよね。どう演出すれば、どういうふうに刺激を受けてどんなパフォーマンスをしてくれるのか? というのは分かっている人たちなので、彼らが信頼できるキャストを起用するというのがまず大前提でありました。
俳優同士の信頼関係って、はたから見ていてもすばらしいもので、2日間の撮影を信頼関係でもって撮り切った瞬間というのは神々しいです。俳優同士の信頼関係に、ある意味でこちらは付け込んでいるわけですけど(笑)。
それは永山瑛太さんと役所広司さんとか、年齢が離れていてもそうです。ただ、男性監督は男性を、女性監督は女性の主演を......という傾向はありますね。唯一、異性で監督と主演の関係を築いているのは千葉雄大さん(監督・脚本)と伊藤沙莉さん(主演)の作品かな? そこはこれまでのシリーズの中でもすごく光っているなと思います。
(アクターズ・ショート・フィルム2 「ありがとう」)
──基本的に、過去に共演経験があったりしてオファーするのですか?
仁藤 津田さんの作品(竜星涼と大東駿介のW主演)くらいですかね?
射場 津田さんは当時はまだ声優の仕事が多くて、あまり俳優の知り合いがいないというのもありまして。
仁藤 物語の内容から、(竜星さんと大東さんを)僕らで提案しました。
射場 「あなたの作品の世界観だとこういう俳優が良いと思います」と。今回の萬斎さんの作品に出演している窪田正孝さんもそうですね。窪田さんの場合は、萬斎さんの狂言の稽古場まで忙しい中何度も通っていただき、セリフや動きを掘り下げて、徹底的に擦り合わせを行なう中で信頼関係を築いてくれました。やはり俳優と俳優だからこその関係性というのは非常に面白いですし、感動しますね。
──これまで"俳優"として見てきた皆さんの"演出家""監督"としての顔が現場で見えてくることも?
射場 やはり、"俳優"として接しているときは、皆さん、外側に殻を持っていて、こちらから何を求められているのか? 何を表現すればいいか? というスタンスなんですけど、作り手として"こちら側"で一緒に話をしていると、弱いところをさらけ出し合った上で「どうしようか?」と考えていくという関係性ですので、普段とは違う顔を見せてもらえますよね。
取材・文/黒豆直樹 撮影/祭貴義道
(後編につづく)
■番組情報
「直前特番 アクターズ・ショート・フィルム3独占インタビュー」
2月11日(土・祝)午後7:30~/2月17日(金)午後4:00~ [WOWOWプライム]
「アクターズ・ショート・フィルム3」
2月11日(土・祝)午後8:00~/2月17日(金)午後4:30~ [WOWOWプライム]
#1 CRANK-クランク-(監督:高良健吾)
#2 COUNT 100(監督:玉木宏)
#3 Prelude~プレリュード~(監督:土屋太鳳)
#4 いつまで(監督:中川大志)
#5 虎の洞窟(監督:野村萬斎)
詳細はこちら
「アクターズ・ショート・フィルム」「アクターズ・ショート・フィルム2」 WOWOWオンデマンドで配信中