2025.03.26

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現役社員が語る、WOWOWの転換期。放送・配信に次ぐ「新たな事業」、現状打破の機運

現役社員が語る、WOWOWの転換期。放送・配信に次ぐ「新たな事業」、現状打破の機運

1991年に誕生したWOWOW。開局から30年以上が経ち、放送や配信を取り巻く状況は大きく変化している。さまざまな映像配信プラットフォームが台頭するなかで、WOWOWは2024年に「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」というパーパスを策定。放送・配信だけでなく、お客さまの人生にさまざまなかたちで感動や驚きをもたらすことを目指してチャレンジとトライアルを重ねてきた。さらには、社員の行動規範として、「伝わっているか」「違っているか」「腹割っているか」「やり切っているか」という4つの「Change Values」も策定された。

そんなWOWOWの精神は、社員一人ひとりのマインドにどう息づいているのか。今回は、事業戦略局所属の真武綾と早川敬、技術センター所属の柳平直徳、会員サービス事業局所属の西岡広洋という社員4人による座談会を実施。年次も部署も違う彼・彼女たちだが、現在、その垣根を超えて「コマースプロジェクト」という事業に取り組んでいる。

4人が思うWOWOWの現状や未来、そしてコマースプロジェクトの可能性とは? それぞれの本音を交えて、ざっくばらんに、腹を割って、語り合ってもらった。

<参加メンバー>
西岡 広洋(会員サービス事業局 メディアサービス部 / トップ写真 左端)
2023年新卒入社。映画の番宣告知映像の制作に従事。コマースプロジェクトに公募で参加し、オリジナルドラマのグッズ制作や商品のプロモーション映像制作を担当している。

真武 綾(事業戦略局 CX戦略部 / トップ写真 左から2人目)
2001年新卒入社。番組宣伝や広報などさまざまな部署を経て事業戦略局CX戦略部へ。同局が主幹するコマースプロジェクトを主導的な立場で推進している。

柳平 直徳(技術センター 設備プロダクトユニット / トップ写真 左から3人目)
2022年キャリア入社。辰巳放送センターで放送配信設備を担当。放送設備とWOWOWオンデマンドの配信クラウドを一体となって強化するため、部署横断で業務に当たっている。コマースプロジェクトに公募で参加。

早川 敬(事業戦略局 コンテンツ戦略部 / トップ写真 右端)
2007年キャリア入社。スポーツの中継に長く携わり、2024年春から事業戦略局 コンテンツ戦略部へ。コンテンツ収益向上を目指し現在は音楽事業部に伴走。コマースプロジェクトでも全体の司令塔のような役割を果たしている。

(所属部署は、2025年3月時点のもの)

<取り上げるサービス・プロジェクト>
新コマース事業準備プロジェクト
2024年に事業戦略局主導でスタートしたプロジェクト。コマース事業拡大を目指し、番組との親和性が高い商品やWOWOWのお客さまに合うライフスタイル商品を展開。

wowshopはこちら

WOWOWが迎えた転換期。その現状を現役社員が語る

―― 本日は入社23年目の真武さんから2年目の西岡さんまで、幅広いメンバーにお集まりいただきました。はじめに、WOWOWの「現状」をどのように捉えていますか?

真武:私自身、30年以上前の開局当初からWOWOWを視聴していました。自宅でCMなしの字幕映画や音楽ライブの生中継を観られることが新鮮で、学校のクラスメートからもうらやましがられたのを覚えています。当時は、「WOWOWってすごく新しい存在だな」と感じていました。ただ、近年はさまざまな映像サービスが登場し、昔は新しかったことが当たり前になってきました。

WOWOWには現在約236万人のお客さまがいて、開局当時からずっと継続してくださっている方もいらっしゃいます。ほかの選択肢も多いなかでWOWOWを選んでくださっているお客さまにより楽しんでいただくためにも、新しいチャレンジが必要だと考えています。

2503_features_commerce_sub01_w810.jpg事業戦略局 CX戦略部の真武 綾

―― 西岡さんは2023年の新卒入社ですが、若手の目に今のWOWOWはどう映っているのでしょうか?

西岡:僕が就職活動を始めた時期はコロナ禍で、国内外の動画配信サービスがものすごい勢いで伸びていました。そのなかで、この会社を選んだのは自分自身も小さい頃からWOWOWを観ていたことと、これだけ新興のサービスが台頭しているなかでWOWOWには何ができるのか、挑戦してみたい気持ちもあって。期待半分、不安半分みたいな心境でした。

実際に入社して、競合との差別化やWOWOWならではの優位性を見つける難しさに直面していますが、難しいからこそやりがいも感じますね。それこそ、ここにいる全員が参加しているコマースプロジェクトには大きな可能性があると思いますし、開局当初からの事業である「放送」でも、まだまだやれることはあるんじゃないかと。

2503_features_commerce_sub02_w810.jpg会員サービス事業局 メディアサービス部の西岡広洋

―― 激動の時代のなかで試行錯誤しているのですね。では、そんな現状においてWOWOWは何を強みとして戦っていくべきなのでしょうか?

柳平:私は中途入社組ですが、WOWOWに対しては入社前から「上質」なイメージを抱いていました。アナログ放送の時代は、WOWOWに加入するために有料の大きなチューナーを買い、アンテナを立てる必要があった。WOWOWは、「自分の趣味や好きなコンテンツのために、手間と時間を惜しまない人たち」が楽しむものだったのであり、それに応えるために高品質なコンテンツを届けるという意識がベースにあったのではないかと入社前から思っていました。

映画はテーマごとに厳選されていて、オリジナル番組は完成度が高く、視聴者のひとりとして好きです。スポーツ中継は玄人向けの深掘りした実況・解説であったり、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグなど「最高峰」を扱うところも上質なイメージにつながっていると感じています。

少なくとも昔からWOWOWを知る人たちにはそうした質の部分を期待されていると思いますし、これからも上質を突き詰めていくことが一つの強みになるのではないかと考えています。

2503_features_commerce_sub03_w810.jpg技術センター 設備プロダクトユニットの柳平直徳

真武:私はWOWOWには大きな強みが二つあると思います。一つ目は先ほどもお話しした、230万人を超えるお客さまがいること。これは世帯数なので、ご家族の人数を加味するとさらに多くの方がWOWOWを視聴してくださっていることになります。

二つ目は、毎月お送りするプログラムガイドやメールでのご案内など、お客さまに直接リーチできるコミュニケーションツールを持っていること。コマースプロジェクトのような新しい取り組みを始めるにしても、「お客さまとの接点を作る」という最初の難関はすでに越えているわけです。実際、WOWOWのプログラムガイドを見て、ECで商品をご購入くださっているお客さまが多くいらっしゃいます。

―― 真武さんに次いで社歴が長い早川さんの見解も、ぜひお聞きしたいです。

早川:話の腰を折るようですが、私は今のWOWOWには「これ」という強みがないように感じます。正確には、それまで強みだと思っていたものが、徐々に通用しなくなっている。だからこそ、今はいろいろなことを試しながら新しい可能性を模索するフェーズなのではないかと。実際、事業戦略局では昨年からさまざまなトライアルを重ねてきました。

2503_features_commerce_sub04_w810.jpg事業戦略局 コンテンツ戦略部の早川 敬

より深くお客さまを知るために。WOWOWが重ねてきた地道なアプローチ

―― 具体的にどんなトライアルを行ない、どのようなことが分かりましたか?

真武:例えば、2025年1月にWOWOWで放送・配信がスタートした「暮らしをたのしむ、料理道具」(全6回)は、事業戦略局が主導するコマースプロジェクトがきっかけで生まれた番組です。私たちが行なったお客さまへのアンケートで最も関心の高かったジャンルが「食」でした。その結果を参考に、ターゲットに訴求する切り口や、それを売り上げにつなげる方法を考えた結果、「料理好きで道具にもこだわりたい人が視聴したくなる番組を作り、そこで気になるアイテムがあればWOWOWのECサイトですぐに購入できる」という施策として実現したんです。

ほかにも、この1年、さまざまな角度でお客さまにアプローチしたことで「売れるもの、売れないもの」「WOWOWのお客さまが好きなもの、そうでもないもの」の傾向をつかみつつあります。

2503_features_commerce_sub05_w810.jpg料理人・麻生要一郎がレシピとともに料理道具を選ぶ楽しみを伝える番組「暮らしをたのしむ、料理道具」

―― つまり、EC事業を通じて、お客さまの理解がより深まったと。

早川:そうですね。今後は、このデータを積極的に活用していこうと考えています。例えば、「暮らしをたのしむ、料理道具」のような放送・配信とECの連動企画をやるにしても、よりお客さまの嗜好に沿った、精度の高いものを提供していきたい。そして、それがWOWOWの新たな強みになるよう、売り上げという部分も強く意識しながら事業を成長させたいと思います。

コマースをWOWOWの新たな事業へ。収益獲得の見立ては?

―― 先ほどから話に出ている「コマースプロジェクト」について、改めてお伺いします。はじめにプロジェクトの概要を教えてください。

真武:WOWOWグループにはもともと「wowshop」というECサイトがあり、番組の関連グッズなどを販売していました。これを強化し、「コマース事業」として本格的に立ち上げていくのが今回のプロジェクトです。メンバーは関係部署から選出したほか、社内から公募した7名が本業との兼任で参加しています。ここにいる柳平と西岡も、自ら手を挙げてくれたメンバーです。

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――そもそも、なぜこのプロジェクトをやることになったのでしょうか?

真武:一般的に、企業やサービスの寿命は約30年という説もあるなかで、WOWOWもサービス開始から30年以上が経過しました。社会情勢の変化が目まぐるしい昨今では、既存のビジネスで成功を収め続けることがさらに難しくなっています。この30年、WOWOWのビジネスは映像サービスだけでほぼ成り立っていましたが、今後はそれ以外の価値もお客さまに提供していく必要があるだろうと。

また、この考えはWOWOWが2024年に新たに策定したパーパス「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」にもつながっています。「WOW(ワウ)」とは驚きや感動の意味。放送や配信に加え、それに紐づく体験を提供していくことで、お客さまに新しい「WOW」を感じてもらいたい。そんな想いもあり、今回のコマースプロジェクトがスタートしました。

―― 映像を見る時間だけでなく、お客さまの人生により広く、深く関わっていこうとしていて、その表われの一つがコマースなのですね。具体的に、ECサイトでは何を目的に、どんなものを販売していますか?

真武:まずは、お客さまの「視聴体験を拡張」するような、コンテンツと連動したアイテムの販売です。ドラマであれば視聴する楽しみに加え、そのグッズを買って自宅に飾ったり、手元に置いたりして、放送や配信以外でもその世界観を楽しんでいただきたいと考えています。

もう一つは、WOWOWでの放送と連動する商品だけでなく、お客さまの暮らしに「WOW」が生まれるようなアイテムの販売です。例えば、映画スターがプロデュースしたお酒や、年末年始の時間を彩るこだわりの「おせち料理」を販売してみたりもしました。これまでは視聴のみでお届けしてきたWOWな時間を、食事やリラックスタイムといった日常のあらゆるシーンに広げていけるような商品を展開することが、EC事業の大きな目的です。

2503_features_commerce_sub07_w810.jpg「wowshop」のトップページ。映画やスポーツなど、WOWOWのコンテンツと連動した商品をセレクトしている

真武:会社としても、コマースを「放送」「配信」に続く事業に育てていくことを掲げています。WOWOWのお客さまが求めているものを提供して、収益の柱にしていく。新しい事業には、新しい発想が必要です。プロジェクトメンバーを社内公募すること自体、これまでにはあまりなかった動きです。

「『稼ぐ』ことが求められる」。社員がコマース事業に感じる情熱

―― その公募で手を挙げたのが柳平さんと西岡さんですが、そもそもなぜ参加しようと?

柳平:私が普段所属している部署では放送・配信するための設備を取り扱っています。設備部門はいわゆるコストセンターに分類されます。そのため、直接的に「収益につながる仕事」をやりたいという想いを以前から抱いていたんです。また、一つのことに絞るのではなく、いろんなこと、新しいことにチャレンジしたいという気持ちもあり、そのチャンスがあるならとプロジェクトに応募しました。

周囲からはよく「通常業務とコマースプロジェクトの兼任は大変だね」と言われますが、大変さよりも新しい業務に携われる喜びや楽しさが勝っています。特に、自分が関わった商品が売れたときは本当にうれしいです。

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真武:そうそう、売れると本当にうれしいよね。お客さまに届いている手応えが感じられるというか。私はWOWOWに長く勤めていますが、これまでの業務では感じたことのないタイプの喜びがあります。

―― 西岡さんはいかがですか? なぜプロジェクトに名乗りを挙げたのでしょうか?

西岡:入社から1年が経過し業務にも慣れてきて、次のステップに進みたいと考えていたタイミングでプロジェクトメンバーの公募がありました。会社としても力を入れていることが伝わる内容でしたし、何かが大きく動き出しそうな予感がして、これは乗るしかないだろうと。

プロジェクトの目的である「放送外収益」の獲得は僕自身も課題に感じていた部分でしたし、明確に「稼ぐ」ことを求められる事業って、とてもやりがいがあるんじゃないかとも思いましたね。それに、WOWOWには年齢や社歴に関係なく、手を挙げた人のチャレンジを後押ししてくれる文化があります。実際、現部署の人たちもチャレンジを応援してくれたので、気兼ねなく応募することができました。

それに、コマースプロジェクトに携わることで、所属部署での通常業務にもいい影響が出ていると感じますね。普段の仕事ではWOWOWの放送に差し込む映画の告知映像を制作しているのですが、コマースプロジェクトでも商品の告知映像などを担当しています。コマースの映像制作で使った技法やアイデアを映画の告知映像にも取り入れてみたり、その逆もあったり。相互に良いシナジーが生まれている実感があります。

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番組至上主義から、経営強化へ。全社に広がる変化のムード

―― プロジェクトとしても、参加メンバー個人レベルでも、コマースプロジェクトは既存の事業と良い影響を与え合っているのですね。プロジェクトに関わっていないメンバー、とくにコンテンツ制作陣からはどのように受け止められているのでしょうか?

早川:今まさに、会社全体からの認知や理解が高まっているところですね。これまでずっと放送・配信だけを生業にしてきたため、自分も含めてどうしてもほかのものを売ることに対する意識は持てなかった、あるいは薄かったのですが、今は社員みんなが「変わらなければ」という危機感を持ち、会社からも「コマース事業を新しい柱に据え、経営を強化していこう」というメッセージが発信されたことで、それぞれの意識が変わってきたと感じています。今後、コマース事業の売り上げを伸ばして数字という結果で示せるようになれば、さらに理解も進んでいくはずです。そうなれば、さらに放送・配信とコマースの掛け合わせも活発になっていくと思います。

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真武:あとは、私たちプロジェクトメンバーが体感している「商品が売れる喜び」を、他部署のメンバーにも知ってもらいたいですね。

これまで30年以上続けてきたやり方を変えるのは大変なことですし、すぐに大きな成果が出るわけではないかもしれません。でも、私たちが体感した充実感や達成感を社内中に共有できたり、早川が言うようにコマース事業の売り上げが伸びていけば、みんなの受け止め方も変わっていくはず。そのためにも、コマースプロジェクトをどんどん前に進め、事業を成長させていきたいですね。

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取材・文/榎並紀行(やじろべえ)  撮影/豊島望