2025.06.03

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WOWOWが設立した『夢中のトビラボ』とは?ウェルビーイング市場に注目する理由を語る

株式会社WOWOW 会員事業戦略局長 河津 孝宏
株式会社博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員 安並 まりや氏
株式会社WOWOW 会員事業戦略局 CX戦略部 那須 あゆみ
株式会社WOWOWコミュニケーションズ 廣本 鞠衣

WOWOWが設立した『夢中のトビラボ』とは?ウェルビーイング市場に注目する理由を語る

ウェルビーイングへの社会的関心が高まる中、WOWOWが、パーパスである「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」の実現のために、生活者をより深く理解することを目的とした研究所『WOWOW 夢中のトビラボ』を設立した。その設立の背景とは? 現在進めている研究内容とは? そしてこのプロジェクトが目指すものとは——。プロジェクトを主導する『夢中のトビラボ』 所長であるWOWOWの河津孝宏、研究員のWOWOW(WOWOWコミュニケーションズから出向中)の那須あゆみとWOWOWコミュニケーションズの廣本鞠衣、共同研究を行なう博報堂 生活者発想技術研究所の安並まりや氏に、『夢中のトビラボ』に込めた想いを聞いた。

WOWOWの新たな挑戦『夢中のトビラボ』とは?

──『夢中のトビラボ』は、どのような背景でスタートしたのでしょうか?

河津 WOWOWでは、「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」というパーパスを掲げています。そうした「大人が夢中で生きられる社会」を実現するためには、WOWOW個社の視点だけでなく、より広い視野を持って向き合っていく必要があると考えました。

『夢中のトビラボ』(以下、トビラボ)は、人生後半戦に突入した大人世代を対象に、「何かに夢中になること」が人にもたらす力を探る研究プロジェクトです。人生100年時代を迎える中で、自分の人生に前向きで、年齢を重ねても変化し続けられるには何が必要なのか。

そうした問いに向き合いながら、調査・分析・発信を通して「夢中」とウェルビーイングの関係性を明らかにしようとしています。この取り組みで得た気づきや学びを広く共有することで、取り組みの輪を社会へと広げていきたいですね。

2506_features_tobolabo_sub01_w810.jpg『夢中のトビラボ』 所長を務める株式会社WOWOW会員事業戦略局長の河津孝宏

──社外の共同研究パートナーとして博報堂が加わっています。どのような役割を担っているのでしょうか?

安並 博報堂は広告代理店ですが、「生活者発想」というフィロソフィーのもと、『生活総合研究所(生活総研)』を中心に長年生活者を研究してきた歴史があります。私も約10年にわたり「新大人研」というプロジェクトでシニア生活者を研究してきました。現在は2024年に立ち上がった『生活者発想技術研究所』に所属し、生活者理解をより深める活動を続けています。

こうした背景から、WOWOWが掲げる「パーパス実現のために大人の夢中を研究したい」という構想に強く共感しました。私たちも生活者発想のアップデートにつながる重要な取り組みと感じ、共同研究パートナーとして参画することを決めました。共創の範囲は共同研究や調査だけでなく、「大人の夢中」の概念や研究所で達成したいことについてメンバー全員で話すワークショップのファシリテーションや、ロゴ・ステートメントの作成まで多岐にわたりました。

2506_features_tobolabo_sub02_w810.jpg株式会社博報堂 生活者発想技術研究所の安並まりや氏

── WOWOWとの共同研究を進める上で、「夢中で生きる大人」という新しい概念をどう定義し、測定・評価しようとしているのでしょうか?

安並 大切なのは、「夢中で生きる大人」が、WOWOWにとってどのような存在なのかということ。その問いに向き合うべく、まずヒアリングを実施し、ワークショップを通じてメンバーそれぞれの声を横断的に引き出し、情報を整理しました。そこから、「こうした価値観がありそうだ」といった仮説を導き出しながら、「夢中な大人を体現する人とは、具体的にどんな人物なのか?」という問いを立て、ペルソナの作成を行ないました。

中には、若い頃から「夢中」を持ち続けてきた人もいれば、大人になってようやく見つけた人もいます。長年、社会や家族のために尽くしてきたからこそ、ふと自分の人生に立ち止まったとき、挫折感や喪失感を経て「夢中」に出会う人もいる。そんなストーリーも浮かび上がってきました。


──なるほど、それぞれの人生に刻まれた「夢中」の形が見えてきたんですね。

安並 こうした過程を経て、『夢中のトビラボ』というステートメントと名称が生まれました。ただし、ここで立てた仮説や価値観が本当に社会に共通するものなのか、検証が必要です。

そこで私たちは、約1.8万人を対象に調査を実施しました。仮説をアンケートに落とし込み、量的データとして仮説を検証していく。そんなプロセスを大切にしながら研究をしています。

2506_features_tobilabo_sub03_w810b.jpg5月15日に設立を発表した、『WOWOW夢中のトビラボ』のトップページ。今後、さまざまなコンテンツの発信を予定している

「大人の夢中」の研究は、ウェルビーイング、シニアビジネスとどうつながる?

──なぜいま、WOWOWはウェルビーイングという領域に取り組むべきと考えたのでしょうか?

河津 WOWOWはエンターテインメントの会社ですから、「こうなったらもっと楽しいんじゃないか」という発想を大切にして、徹底して質にこだわったコンテンツをお届けしてきたわけですが、お客さまの視点からは「時間を忘れるほど没入できる密度の濃い体験」、つまり「夢中になれる」時間をお届けしてきたという見方もできると思います。一方で、事業変革をしていくためには、自分たちの事業を社会的な文脈に接続していく必要性を強く感じていました。そこで「夢中」というキーワードを得たことで、WOWOWが向き合っていく社会課題としてシニア世代のウェルビーイングという領域が見えてきたという流れでした。その領域に確かな足跡を残していくためにも、WOWOWの事業活動からは独立した「研究所」というアプローチが必要だったんですね。

研究所としては、このテーマに関心のあるさまざまなセクターの方々に興味を持っていただける発信をしていきたいと考えています。そのために、調査をする際には、先行研究やこの領域で元来用いられている尺度を活用し、数値化などの適切な手続きを踏むことで、社外の方に客観的な評価や実践的な活用をしていただけるようなアウトプットを重視しています。

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──ウェルビーイングに「夢中」という視点を入れる。そこにはWOWOWらしさも感じます。

河津 とはいえ、いまの段階では私たちが考えていることは解像度が低く、いきなり「大人の夢中」という概念を提示しても議論しにくい状態です。ですから、初期段階では「大人の夢中」を丁寧に定義しつつ、研究テーマとして深掘りしていくための "受け皿"となる枠組みも同時に作っていく必要があります。

──トビラボが発信する知見を、企業が活用する未来を見据えていらっしゃるとのことですが、ビジネスの面ではどのようなメリットがあるとお考えですか?

河津 まだ始まったばかりですが、トビラボの研究を通じて、自分たちのビジネスやサービスを生活者視点で考えることが容易になった実感がありますし、その結果として、これまでのアプローチでは生まれなかった新たな価値提供につながるんじゃないかと期待しています。それと同じように、社外の方々がトビラボの知見を活用して、新たな開発に踏み出していただければ、「夢中に生きる」大人が増えていく。そんなビジョンを持ってやっていきたいですね。

安並 私たちも、生活者発想のアップデートを目指し、WOWOWとの連携を通じて新たな視点や知見を得ていると実感しています。そこからさまざまな選択肢が生まれ、WOWOWがトビラボの活動を通じて多様な視点を掛け合わせることで、生活者に楽しい選択肢を提示し、豊かな人生をサポートする存在へと成長していくことを期待しています。

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河津 そもそもWOWOWの中期経営計画(2025-2029年度)自体が、人生を楽しみたい大人世代をターゲットにしています。そのため、ターゲット層が持つ根底の部分の知見を掘り下げることで、従来のアプローチを超え、人生の充実に寄り添った新しいアプローチが可能になると考えています。

こうした取り組みがビジネスの付加価値となり業績向上につながれば、研究所のアウトプットに対する説得力が増します。関心を持っていただいた企業と連携し、コンテンツにとどまらず新しい商品やサービスの開発や協業へとつながることも期待しています。

その可能性は未知数ですが、多様な人々に対して、共創を促しながら、ビジネスの可能性のトビラを開いていく場にしたいと思っています。

──トビラボの研究は、ウェルビーイングや社会課題とどうつながっていくと考えていますか?

安並 特に現代の日本では、体力の低下や持病などで年齢を重ねるほどできることが減り、新たな喜びや楽しみを見つける選択肢も非常に限られてしまいます。さらにシニア層になると社会的なつながりが失われやすく、孤独を感じるケースが増えるという社会課題もあります。

この課題は定年退職後の人々だけでなく、じつはまだ定年を迎えていない人たちにも当てはまるものです。トビラボの研究を通じて、「夢中」という状態が社会とのつながりや居場所を生み出す可能性が見えてきました。大人になってからも「夢中」を見つける方法を提供し、それをスキルとして身につけることで、孤独感を和らげることができるのではないかと考えています。

ウェビナーの参加者とともに、新たな可能性を探りたい

2506_features_tobolabo_sub06_w810.jpg左から、株式会社WOWOWコミュニケーションズの那須あゆみ(現在は株式会社WOWOWに出向中)、株式会社WOWOWコミュニケーションズの廣本鞠衣

──WOWOWコミュニケーションズのお2人はどのようにトビラボに携わっているのでしょうか?

廣本 WOWOWコミュニケーションズではウェビナーの運営などを通してトビラボの活動成果や研究結果を多くの企業の方々に発信し、対話のきっかけをつくる役割を担っています。いわば、「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」というWOWOWの企業パーパスを社内外へと広げる、橋渡し的な存在です。

那須 私は現在WOWOWコミュニケーションズからWOWOWに出向中ですが、両社の社風の違いも感じながら業務に当たっています。WOWOWは主体性をもって調査テーマの切り口を見つけることに強みを発揮し、グループ会社であるWOWOWコミュニケーションズは協調意識を持ちながら調査や運営を担っています。そのようにある程度の役割分担はあるものの、研究員が能動的に関わっていける環境がこのプロジェクトには整っています。

2506_features_tobolabo_sub07_w810.jpg株式会社WOWOWコミュニケーションズの那須あゆみ(現在は株式会社WOWOWに出向中)

──6月12日にはウェビナー「"夢中のチカラ" 調査レポート」が開催されます。どのようなトピックを予定されていますか?

廣本 初めてのウェビナーとなる今回は、「ウェルビーイング向上の鍵! "夢中"の可能性をひもとく」をテーマに、トビラボの活動紹介を行ないます。さらに、「夢中」を持つ人の割合や、何に「夢中」になっているのか、年代や性別による違い、ウェルビーイングとの関係など、20代から70代までの約1.8万人を対象にしたアンケート調査の分析結果も発表。また、河津さんと安並さんによるクロストークも予定しています。

2506_features_tobolabo_sub08_w810.jpg株式会社WOWOWコミュニケーションズの廣本鞠衣

安並 ウェビナーで発表する内容の一部をご紹介します。「夢中」を持つ人は、20代から70代のうち約2人に1人の割合で存在し、「夢中」がない人と比べて人生満足度のスコアが2倍も高かったんです。さらに、「他人の評価に左右されない自分軸の夢中」を持つ人は全体の約17%でしたが、この「自分軸の夢中」がある人ほど人生満足度のスコアがさらに高いこともわかりました。

これは、「夢中なものを持つ人は、他人に流されない自分軸も持っているのでは?」というワークショップの話を受けて調査・分析した結果。「自分軸の夢中があることが望ましい」という仮説の裏付けとなっていますね。

2506_features_tobolabo_sub09_w810.jpgウェルビーイングの研究で広く用いられている、「人生満足度尺度」の測定結果を、「夢中あり×自分軸」「夢中あり」「夢中なし」の生活者間で比較した図


──今回のウェビナーは、参加者にとってどのような意義があると思いますか?

河津 「夢中」の力をお披露目する場であり、参加される方々にとってはWOWOWが新たに始めた活動を通して、新しい切り口やヒントを得ていただけると思います。WOWOWが、どのような姿勢で仕事をしているのかも伝わればうれしいですね。

2506_features_tobolabo_sub10_w810.jpgウェビナー詳細ページ:https://www.wowcom.co.jp/blog/event/event-5540/


安並 
「夢中」という新しい概念は、個人レベルでのウェルビーイングだけでなく、企業や社会においても新たなビジネス機会やインスピレーションになる可能性がある。そのような価値を伝えたいです。

河津 そうですね。興味のある方はぜひ気軽にお問い合わせいただき、ウェビナーに参加していただきたいです。また、調査結果に対する意見、感想、そして共同研究のオファーなど、さまざまなリアクションを期待しています。

──今後トビラボとどのように関わり、どのような場に育てていきたいのか、皆さんの考えをお聞かせください。

那須 年を重ねることや将来に関して、ネガティブな情報が多い中、『夢中のトビラボ』を通じてポジティブな情報を発信し、世の中を元気にしていきたい。そのためにも、常にワクワクする気持ちを持ち続け、シニア世代だけでなく、若い世代の将来にもつながるような活動をしていきたいです。

廣本 「夢中」は誰でも持てるものであり、年齢に関係なく、好きなときに好きなものを好きと言えるような社会にしていきたいですね。若年層であっても、「夢中」が何か分からない人もいる。自分自身も当事者意識を持ちながら、そのきっかけを提供できるような場づくりをしていきたいです。

安並 インサイト起点のプランニングやコンセプト作りを重視し、「夢中」起点のマーケティングを推進していきたいですね。ほかのクライアントとも共感できるような、大人の「夢中」を探求する仲間を増やしていきたいです。

河津 トビラボの研究に触れることで、企業や個人が新しい展望を見つけたり、新しいことに挑戦したくなるような、前向きな気持ちになれる場所にしたいと考えています。「夢中」になることの正解を出すのではなく、さまざまな可能性を見つけていく場にしていきたいですね。

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【プロフィール】(写真右より)

河津 孝宏(株式会社WOWOW 会員事業戦略局長)
夢中のトビラボ 所長
1994年WOWOW入社。営業企画部、編成部、映画部などを経て、マーケティングや事業戦略の領域に従事し、2025年4月より会員事業戦略局長。社内に新設された研究所組織「WOWOW 夢中のトビラボ」所長を務める。


安並 まりや氏(株式会社博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員
博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所所長)
2004年博報堂入社。トイレタリー、食品、自動車、住宅・人材サービス等さまざまな業種のマーケティング・コミュニケーション・商品・サービス開発に携わる。2015年より新大人研のマーケティングプランナー兼研究員として、シニアのインサイト研究やマーケティング業務に従事。2019年より新大人研所長に就任。


那須 あゆみ(株式会社WOWOW 会員事業戦略局 CX戦略部)
WOWOW 夢中のトビラボ 研究員
2021年にWOWOWコミュニケーションズ入社。さまざまな企業の定性・定量調査を中心としたマーケティング・コミュニケーション支援を担当。2025年4月より、株式会社WOWOWに出向。現在はマーケティング活動および会員事業戦略の領域に従事。


廣本 鞠衣(株式会社WOWOWコミュニケーションズ)
WOWOW 夢中のトビラボ 研究員
2017年にWOWOWコミュニケーションズ入社。外部の企業様向けのSNS運用やWebディレクション業務を担当。2023年4月よりデータマーケティング課に異動し、定量調査を中心としたマーケティング業務を担当。

WOWOW 夢中のトビラボ

WOWOW 夢中のトビラボは、「人生をWOWで満たし、夢中で生きる大人を増やす」ために大人の夢中を研究する研究所です。「大人の夢中」の実態やメカニズムを解明し、誰もが持つ「夢中のトビラ」をひらいていくための様々な発信をしていきます。

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取材・文/宇治田エリ 撮影/北原千恵美