2025.03.28

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公開初週末興収1位の快挙達成。WEST.とのタッグでつかんだ、音楽事業と配給事業連携の最適解

公開初週末興収1位の快挙達成。WEST.とのタッグでつかんだ、音楽事業と配給事業連携の最適解

2024年にデビュー10周年を迎えたWEST.がWOWOWとタッグを組み、今までにないコンセプトで挑んだオリジナルライブ『WEST. 10th Anniversary Live “W”』。2024年10月の放送・配信を経て、新たな曲や未公開カットを追加した劇場版が同年11月22日に封切りされ、公開初週末の興行収入1位の大ヒットを記録した。

このチャレンジが成功した背景には、WOWOWの制作力だけではなく、事業部の垣根を超えた連携があった。プロジェクトを主導した音楽事業部の島本時と、宣伝・配給を担当したプロダクション事業部の高橋怜央に聞いた。

2503_features_west_sub01_w810.jpg映画版公開時の宣伝用ポスター(資料画像)

放送開始30分でXの世界トレンド1位に。なぜ『"W"』は大きな反響を呼んだのか

── まず、このプロジェクト『WEST. 10th Anniversary Live "W"(以下、"W")』を製作することになったきっかけを教えてください。

島本 僕がWEST.のライブを初めて観たとき、アイドルグループとしての魅力があることはもちろん、それ以上に「7人のボーカルがいるロックバンド」という印象を受けたんです。

ちょうど2024年がWEST.のデビュー10周年だったので何か一緒にできないかと考えていたところ、「この7人を、世界的ロックバンドがよく見せるストイックなスタジオライブのようなスタイルで撮ったら絶対かっこいいのでは?」というアイデアが浮かびました。そこで所属事務所、レーベルに提案したところ、ご快諾をいただき、企画がスタートしました。

2503_features_west_sub02_w810.jpg音楽事業部の島本時

── この『"W"』は、観客のいないオリジナルライブをドキュメンタリー風に撮影し、WOWOWで放送したのち全国の映画館でWOWOW自社配給として公開するという、前例の少ない取り組みではないかと思います。この企画はどのような経緯で実現に至ったのでしょうか。

島本 せっかくデビュー10周年を迎えたWEST.とオリジナルライブをご一緒できるのであれば、WOWOWだけにとどまらず劇場展開してより多くの方に観てもらいたい、という想いでした。WEST.のメンバーからもとてもポジティブな反応をいただき、プロジェクトはスムーズに始まりました。

── ライブのセットリストの流れとして、冒頭に盛り上がる曲を持ってきて場を温めて、中盤から後半に進むにつれてバラードなど聴かせるタイプの曲を織り交ぜていくのが一般的だと思います。しかし『"W"』では「きみへのメロディー」などのバラードから始まっていくわけですよね。

島本 今まで見せたことのないWEST.の姿を届ける、というコンセプトのもと、丹修一監督をはじめ、これまでWEST.ほかアイドルグループとあまり接点がないスタッフ陣で挑むことにしました。セットリスト、演出は丹監督の狙いを中心に、レーベルや事務所、WOWOWの意見を取り入れ決定しました。前半はバラード、ロック、ダンスと、ストイックに色気や強さを見せ、後半はWEST.らしいエネルギーあふれる姿を見せる、という演出意図をくみ取りつつ、こちらの想定をはるかに超える表現を生み出したWEST.のパフォーマンスは圧巻でした。

2503_features_west_sub03_w810.jpg『WEST. 10th Anniversary Live "W"』メインビジュアル(資料画像)

── 放送時の反響はいかがでしたか。

島本 放送前は「無観客でのオリジナルライブという未知数の企画をWOWOWという有料放送でやって、本当に観てくれるのだろうか?」という不安がありました。WEST.のメンバーには忙しい合間を縫ってこれ以上ないほどプロモーション稼働いただき、宣伝部もプロモーションを最大限頑張ってくれましたが、実際、放送当日までどれだけの方に視聴していただけるか、まったく読めなかったんです。

いざ当日になって放送がスタートしたら、WEST.のファンの皆さんが「このクオリティーはすごい!」ということを口コミでさらに広げてくれて、放送開始5分でXの日本トレンド1位、そして30分後には世界トレンド1位を獲得しました。その効果もあってか、翌日からは映画版のチケットも加速度的に予約枚数を伸ばしていきました。劇場公開当日の舞台あいさつは予想以上の応募があり、あらためてWEST.の人気とファンの皆さんの熱量のすごさを実感しましたね。

2503_features_west_sub04_w810.jpg『WEST. 10th Anniversary Live "W"』の一場面(資料画像)

上映規模の拡大、話題化を加速した宣伝ビジュアル&グッズ

── 『"W"』はWOWOWの配給作品としては過去最大規模の全国100館超で上映されました。高橋さんはプロダクション事業部としてどのような業務を担当したのでしょうか。

高橋 まず、撮影のタイミングから同行し、「映画としての音をどのように編集するか」というプロデュースワークに携わりました。その後、劇場版の完成までの進行や配給業務を進めていきました。今回はWOWOWで最大規模の配給・上映になったことで、公開していただく劇場側との調整も多かったですね。並行してポスター、チラシ、公式サイトなどの宣材のほか、入場者プレゼントやパンフレットの制作、舞台あいさつ、声出しOKの応援上映の企画、マスコミへのPRなどの調整を進めていきました。

2503_features_west_sub05_w810.jpgプロダクション事業部の高橋怜央

── 宣材やグッズ制作では、どんなところがポイントになったのでしょうか?

高橋 入場者特典は、初週3日間限定のフィルム風しおり、さらに2週目の応援上映では折りたたみ式収納ボックスを配布しました。特にフィルム風しおりはメンバーたちがライブで歌っているシーンを並べたデザインが好評で、フィギュアスケートの坂本花織選手がスマホケースに入れているのがSNSでも話題になりました。個人的にも、僕が電車に乗っていたときに、このしおりをスマホケースに入れている方をお見かけしました。日常的に愛用していただいていることが分かって、とてもうれしかったですね。

2503_features_west_sub06_w810.jpg(写真左から)パンフレット(wowshopで販売中)、フィルム風しおり、折りたたみ式収納ボックス

2503_features_west_sub07_w810.jpg7人の歌う姿が並ぶフィルム風しおり

── そして2週目の応援上映で配布された折りたたみ式収納ボックスは、無料配布のグッズとは思えないほどの上質感のあるつくりですが。

高橋 このボックスはファンの皆さまに長く愛用していただけるグッズにしたいと思って制作したものです。ちょうど応援用のサイリウムがすっぽり入るサイズで、ほかにもCDを入れたり、WEST.のファンの方たちが集めたグッズを思い思いのかたちで収納できるものがいいな、と。

── 『"W"』の公式サイトやポスターデザインで特徴的なのが、毛筆で書かれた題字です。「W」というアルファベットを、日本の伝統文化である書道を用いてWEST.の躍動感を表現したという発想も面白いですよね。

高橋 このロゴは書道家である島本さんのお母さまにお願いして、いくつも案を書いていただいたなかから選びました。収納ボックスの生地に題字をプリントするのが難しかったのですが、できるかぎり墨のかすれやハネを再現できるように印刷会社の方と調整を重ねました。

2503_features_west_sub08_w810.jpg題字「W」の原版となった、島本田鶴子さんによる書

事業部の垣根を超えた連携はいかにして生まれたか?

── 最近はWOWOWが劇場映画の配給や共同製作に携わる機会も増えていますね。

島本 これまでのWOWOWのビジネスモデルは「良い番組を制作・放送することで加入者を増やしていこう」というものでした。しかし、映像作品のネット配信などが浸透し、世の中のエンターテインメントが多様化していく状況下では、放送外の収入を増やしていく必要があります。こうした流れのなかで、WOWOWの音楽事業部でも、高橋のいるプロダクション事業部の映画配給チームと協働する機会が増えてきています。

UVERworldの男性限定ライブ「男祭り」が2019年に東京ドームで過去最大規模(当時)で開催され、その模様をDolby Atmosで全国の劇場に配給したのがきっかけでした。その後、『UVERworld KING'S PARADE 男祭り REBORN at Nissan Stadium』や『Superfly Arena Tour 2024 "Heat Wave"』などWOWOWの放送・配信とあわせて劇場公開しています。こうした経験が今回の『"W"』につながっていると思います。

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── 『"W"』は音楽番組を制作する音楽事業部と、映画配給など放送外収入を担当するプロダクション事業部が緊密に連携することが大事だったわけですね。

島本 今回、音楽事業部としては音楽映画として世に届けるまでの土台は作りましたが、その後の舞台あいさつの企画なども含めて映画興行の動員を最大化してくれたのは、プロダクション事業部と宣伝部の人たちです。その頑張りが公開初週末で興行収入1位という結果につながったと思っています。

高橋 今回のプロジェクトは、自分が携わってきたなかで最も部署間の連携が取れた作品だと思います。

2503_features_west_sub10_w810.jpg映画公開初日の舞台あいさつにて(資料画像)

── それは、なぜ可能になったのでしょうか?

高橋 この『"W"』は撮影後のプロダクションの時点で、作品として事前の想像を超えるクオリティーに到達していると、われわれスタッフは感じていました。僕も完成直前の音の仕上げでプレビューしたとき、自然と涙が流れるほどの感動を覚えました。それくらいすごい作品になっていたからこそ、関係者全員が「あとは届けるだけだな」と確信することができた。だからこそプロジェクトに関わる全員に熱が伝播し、自分の役割や事業部の垣根を超えて頑張ることができたんじゃないかと思います。

2503_features_west_sub11_w810.jpg『WEST. 10th Anniversary Live "W"』の一場面(資料画像)

過去最大の上映規模を達成。この成功を次につなげるカギとは?

── 外から見ていると、WOWOWという組織には映像作品に関する高い制作能力があると感じます。ただ、その一方で、世間一般に広く知られているかというと疑問符のつくところだと思います。こうした見方について、お2人はどう考えますか。

島本 それは、おっしゃるとおりですね。今回の『"W"』で良かったのは「WOWOWだからこのクオリティーに達することができたんだ」ということを、まず知ってもらえたことです。ただし、今回の成功だけで完結するのではなく、「さらに次はこんな作品をお届けできます」という仕組みを戦略的に作っていく必要があると考えています。

高橋 それでいうと個人的には、もっとWOWOW独自の色を出したほうがいいんじゃないか、と思っていて。

── それは、どういうことでしょう?

高橋 WOWOWの作品それぞれが個別のクオリティーを追求することももちろん大切ですが、一つ一つの作品が、視聴する皆さんのイメージのなかで線になってつながってくようなブランディングが必要なんじゃないかなと。

個人的にはアメリカの独立系エンターテインメント企業「A24(エー・トゥエンティフォー)」の作品が大好きなんですが、ファンのあいだでは「こういう作品こそA24ならではだよね」というイメージが浸透しています。「扱うテーマはさまざまでも、WOWOWの作品には色がある」という認知を得ることが重要なんじゃないか、と考えています。

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── 最後に、あらためて今回の『"W"』プロジェクトを振り返っていただけますか。

高橋 今回は単に「アーティストの音楽ライブを記録し、観ていただく」というだけでなく、映画館という空間での「映画体験」へと昇華できたんじゃないかと思っています。僕自身の今後の目標でもあるのですが、番組を作る最初の段階から「映画用のコンテンツ」として企画することも必要になるだろうし、そこに挑戦していきたいとも思っています。

島本 今回良かったことは、まず、WEST.という素晴らしいアーティストと一緒に作品を制作できたことです。そして、たくさんのファンの方にWOWOWで観ていただいただけでなく、劇場へ足を運んでいただけて、その期待に応える作品を提供できたという手応えを持てたことです。「いいものを届ける」ためには絶対に妥協してはいけないとあらためて感じたし、そこを妥協せずにチーム全員で走り切ることができて、本当に良かったです。

いまは放送でも動画配信でも独占/非独占の垣根が崩れてきていて、WOWOWも会社としてコンテンツの多層展開を掲げ、WOWOWの作品を他の動画配信サービスでも視聴できるようになってきています。高橋の言うように「WOWOWはいいものを作るよね」というブランド化を進められるように、皆さんの想像を超えるような作品を生み出していきたいですね。

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【プロフィール】
島本時(音楽事業部)
2013年入社。営業部、宣伝部を経て、音楽部(当時)に異動し、現在に至る。音楽事業部のプロデューサーとして、椎名林檎、MAN WITH A MISSIONなどの国内アーティストのライブや、Red Hot Chili Peppers、NewJeansなどの海外アーティストの来日公演、グラミー賞授賞式の中継などを担当。

高橋怜央(プロダクション事業部)
2023年入社。プロダクション事業部の映画部門に所属。『ゴールデンカムイ』などWOWOW製作映画のプロモーションや、スピッツ、UVERworld、VaundyなどのアーティストのODS作品の配給を担当している。

取材・文/中野慧  撮影/大西陽