2026.02.25

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"第二の故郷"づくりを提案する、新たな体験型旅行事業に挑む「複住旅」が、目指すものとは――

株式会社イノベーションパートナーズ 代表取締役社長 本田 晋一郎 氏
株式会社日本旅行 ジパング・エスコート商品部 部長 武藤 明道 氏
株式会社WOWOW コンテンツ事業戦略局 メディアサービス部 宮田 徹
株式会社WOWOW 経営戦略局 経営戦略部 部長 渡邉 数馬
※写真右から

WOWOWが新たな旅行事業の立ち上げを目指し「旅先での土地の暮らしに根差した体験」をテーマに、2025年秋より事業検証をスタートさせた「複住旅」。その第1弾が2025年10月より販売開始となった。従来の体験型旅行プランとの差別化、WOWOWが旅行事業に取り組む意義、そして最初の開催地を佐賀県嬉野市にした理由とは――? プロジェクトのパートナーとして参画するイノベーションパートナーズの本田晋一郎氏、日本旅行の武藤明道氏をお招きし、WOWOWコンテンツ事業戦略局の宮田徹、経営戦略局の渡邉数馬とともにお話を伺った。

旅行に"物語性"を持たせる――そこにWOWOWが旅行事業を始める意義がある

――WOWOWが本格的な旅行事業への取り組みをスタートさせたことに驚いた方も多いと思います。まずは、この「複住旅」の企画が生まれた経緯をお話しいただけますか。

渡邉 WOWOWは昨年の春、新たな中期経営計画(2025-2029年度)を策定し、現在、放送・配信だけではないさまざまなサービスの提供を通じて「会員の日常に"夢中"を提供する企業」への進化を目指し、パーパスに掲げる「夢中で生きる大人」を増やすべく、ライフスタイル領域での新規事業の開発に取り組んでいます。

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宮田 今回の企画もそういった新規事業開発の一環です。開発に着手するにあたり、会員であるお客さまの自由時間の使い方を調査してみると、圧倒的に「旅行」を求める声が多かったんです。検討の初期は複数の事業アイデアがありましたが、市場のニーズを踏まえ、まずは、「旅行」にフォーカスをあてて開発をしようとなりました。とはいえ、WOWOWには本格的な旅行サービスへの知見や経験もなく、やるからにはこれまでにないWOWOWらしい旅行体験をデザインしたいとの想いから、この分野のプロであるイノベーションパートナーズさんと日本旅行さんにご相談をさせていただいたことが、始まりですね。
会社の大きな方針のもとに、このプロジェクトがスタートしましたが、リーダーの私としては、既存のお客さまとのエンゲージメントを強めていくとともに、これまでWOWOWと馴染みが薄かった方にも喜んでもらえる、新しい価値やサービスを提供していきたいという想いがありました。WOWOWの強みは、やはり放送や配信を通じてエンターテインメントをお客さまに届けることです。つまり、エンタメのような体験価値や物語性のある旅の提供を主題として盛り込むことでWOWOWがやる意義や事業の広がりが生まれるのではと考え、「複住旅」というコンセプトにたどり着きました。

2602_features_fukujutabi_sub02_w810 .jpg株式会社WOWOW コンテンツ事業戦略局 メディアサービス部 宮田 徹

武藤 WOWOWさんから「複住旅」のお話を伺ったときは、従来の旅行と一線を画した、非常に興味深い内容だなと感じました。われわれ旅行会社は、お客さまに対して、数日間の旅行の中で可能な限りの体験をしてもらうようなプランを提案することが多いんです。ですから、「複住旅」のように、何度も旅先に足を運んでいただくことが前提で、その先にある"二拠点生活を提案する"というコンセプトはとても新鮮でした。また、日本旅行としても今回のプロジェクトでは学ぶことが多く、WOWOWさんやイノベーションパートナーズさんと組むことで、新しい旅行の価値を見いだせるかもしれないという期待もありました。

本田 イノベーションパートナーズは観光地の活性化や地域創生に積極的に取り組んでおり、以前から自社メディアを通じて、複住スタイルを提唱していました。なので、この「複住旅」には共感するところがたくさんありましたね。仕事柄、実際に複数の地方の観光地と接して、強く感じることが、コロナ禍以降、旅行そのものが団体から個人で消費していく時代に変わってきているということです。そのため、観光地はお客さまが選びたくなるものを提示していかないと、どんどん廃れていってしまう。今回お話をいただいた際、われわれが長年培ってきた観光地の活性化や地域創生といった取り組み自体が、今回のプロジェクトにおいても大きな役割を果たせるのではとの想いと同時に、このプロジェクトを推進することで、地域貢献にもつなげることができるのではと考えました。また、私は実はWOWOWに新卒入社し、働いていたことがある人間なんです(笑)。WOWOWがコンテンツの制作にたけ、強いブランド力もあることは誰よりも熟知しています。そうした観点からも、旅行業とWOWOWは非常にマッチするのではないかと感じ、参加させていただくことにしました。

旅先での体験を通して、二拠点生活のきっかけを生み出していく

――企画の実現までに2年ほど時間をかけられたそうですが、その過程ではどのような苦労があったのでしょう。

宮田 WOWOWにとっての大きな課題は、やはり旅行事業が未知の領域だったことです。いろんなアイデアを出しても、旅行業法的に不可能なことがたくさんあることを身をもって知りました(笑)。

武藤 そうなんです。旅行業法に縛られて実現できないことって、意外と多いんです。そうした規制は主に消費者を保護するためのものなのですが、中には「これもダメなの?」と驚かれることが多い。私たちが他業種の方と組むときは、まずそのすり合わせが一つのハードルになるのですが、WOWOWさんはとても柔軟な理解と対応をしてくださり、非常に助かりました。

2602_features_fukujutabi_sub03_w810 .jpg株式会社日本旅行 ジパング・エスコート商品部 部長 武藤 明道 氏

本田 また、苦労とは少し違いますが、「二拠点生活」の提案をいかに旅行プランの中に溶け込ませていくかという点は、何度も議論を重ねたところでした。今、日本においても少しずつではありますが、二拠点生活が広まってきています。実際に私も、佐賀や愛知の仕事場に毎週のように通っていますし。こうした、拠点をいくつも構える良さというのは、何もプライベートに限ったことではなく、環境を変えることで仕事をしている時間の価値を高められるところにもあると言えます。例えば、観光地のような多幸感にあふれた場所で仕事をすれば、人生が豊かになるだけでなく、今までにない発想が生まれるきっかけにもなるかもしれません。

――確かに、リモートワークが普及してきた今の時代であれば、そうしたことも可能ですね。

本田 そうやって、ゆくゆくは"第二の拠点"、"第二の故郷"になるような場所を作ってもらいたいというのが「複住旅」の根底にはあるんです。でも、そのためにはその土地のことを深く知ってもらい、なじんでもらう必要がある。そのプランづくりには時間をかけていきました。

2602_features_fukujutabi_sub04_w810 .jpg株式会社イノベーションパートナーズ 代表取締役社長 本田 晋一郎 氏

渡邉 また、今回は佐賀県嬉野市でのプランを提案していますが、これをもっと全国的に広めていきたいという目標もあります。日本には魅力的な場所がたくさんありますので、どうすればそれぞれの観光地とわれわれが提案するコンセプト、そしてお客さまのニーズを合致させていくことができるか。そこは現在進行形の課題として、今も取り組んでいるところです。

その土地の文化や伝統を受け継いでいる方々との深い交流がリピートへとつながっていく

――今お話に出ましたが、「複住旅」の第1弾として嬉野の旅行プランが2025年10月から販売を開始しました。最初の開催地が嬉野になった経緯についても教えていただけますか。

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本田 ひとつに、私たちが三大文化価値と呼んでいる「お茶」「温泉」「焼き物」がすべてそろっている点が大きかったです。しかも、そうした文化価値を嬉野はしっかりとマネタイズしている。お茶で言えば、茶畑の中に「天茶台」という開放感のある茶室を作り、茶農家の方が自ら一番美味しいと思う状態のお茶を提供しているんですね。また、嬉野温泉は日本三大美肌の湯の一つとして知られていますし、有田焼と同じ流れを汲む肥前吉田焼も、近年どんどんと注目を集めている。歴史ある文化や風土を活かしながら、新しい価値を生み出しているところが、私たちの目指す先とピッタリと合っていたんです。

渡邉 また、嬉野はそうした取り組みを地域全体で行なっているところが素晴らしいですよね。地元の方たちは互いの文化をリスペクトしあいながら、手を取り合っている。その姿も素敵で、一緒にいるだけで気持ちが晴れやかになります。

2602_features_fukujutabi_sub06_w810 .jpg株式会社WOWOW 経営戦略局 経営戦略部 部長 渡邉 数馬

武藤 お2人がおっしゃったように、参加された方が生産者の方たちと直接対話をし、その土地の文化の深い部分まで知ることができるというのは非常に魅力だと思います。だからこそ、1回の旅で終わるのではなく、リピートしたくなる。まさに「複住旅」のコンセプトを体現した場所だと言えます。

――土地に根付いたいくつもの文化や伝統を同時に体験できるのは、先ほどの「旅に物語性を持たせる」という想いと通ずるものがありますね。

宮田 そうですね。例えば、陶芸で作った器と「天茶台」でいただくお茶の器が同じ焼き物だったり、旅館での食事の際に出てきた日本酒の酒蔵を翌日、見学できたり。そうやって、体験の一つ一つがつながっていくことで、自分だけの物語や発見を得ることができる。そうしたシナリオ作りには注力しました。実際にこの「複住旅」の販売に先駆け、デモツアーを実施したのですが、嬉しいことに参加された方々から、「これほど深く地元の茶農家さんたちと触れ合うことができるとは想像していませんでした」「文化を受け継いでいる方たちのお話を直接聞けて楽しかったです」といった喜びの声を多くいただいています。

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コンパクトなプランの提供やPR映像でさらなる訴求を目指す

――ツアーの内容を拝見すると、2泊3日で体験できるコンテンツはどれもバラエティに富んでいます。そうした中、皆さんが特におすすめするものを挙げていただくと......?

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本田 すべてのプランにストーリーを持たせているので、どれ一つとして欠かすことができないのですが......強いて挙げるなら、副島園さんの茶畑の中で飲むお茶は非常に印象的でした。先ほどもお話ししたように、絶景の場所で、しかも一番いい状態で淹れていただくので、本当に幸せな気持ちになります。

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武藤 副島園さんの「ティーツーリズム」は嬉野でしか体験できないコンテンツですので、私もおすすめです。また、今回のプランで私が特に驚いたのが、旅の起点となる旅館が和多屋別荘さんだということです。1300年続く嬉野温泉や広大な日本庭園を有し、一度お泊まりになっていただければ、その価値が分かると思います。

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渡邉 「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025」でグランプリを受賞した、本当に素晴らしい旅館です。嬉野の文化や歴史、伝統が旅館の中にすべて詰まっていて、私も一度宿泊しましたが、"小宇宙"と呼ばれるのも納得でした。

宮田 私がおすすめしたいのは、「ティーツーリズム」と対をなす、「ライスツーリズム」です。嬉野のお米とお水を使い、鍋で炊いたご飯でいただくおにぎりなんです。最初はなんの味付けもされていないおにぎりから始まり、少しずつ味付けがなされ、2合分のおにぎりのフルコースをいただける。体の中でお米がほどけていくような不思議な食体験ができます。「ライスツーリズム」を提唱する神谷よしえさんは"にぎりびと"と呼ばれる有名な方で、その神谷さんいわく「食べる座禅」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだなと思いました。

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――どれも非常に魅力的ですね。また、通常のプランとは異なり、2025年の12月から新たにプレミアムコンパクトプランも始まりました。これはどういった内容なのでしょう。

宮田 通常プランはやはり決して安価とはいえない金額ですので、まずはその一端だけでも経験していただきたいという想いから、1泊2日のプランをご用意しました。

武藤 全部で4種類あり、お茶園か酒蔵のコース、それとお部屋のグレードで分けた形になります。「複住旅」の良さを手軽に知っていただける素晴らしい内容になっています。宿泊プランに加えてJR・飛行機代を含めたセットプランも10万円くらいからという金額でご用意しております。一般的な旅行と比べても大きな差のない価格ですので、ぜひ多くの方に参加していただければと思います。

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本田 食事も、佐賀の特産品が盛りだくさんなコース料理で、名物の温泉湯豆腐も食べられます。また、複住旅をコンセプトにした一皿を料理長に特別に開発してもらいました。コンパクトなプランとはいえ、非常に充実しています。

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渡邉 温泉湯豆腐は私も一度いただき、湯豆腐の概念が変わるほど美味しかったので、本当におすすめです。また、こうしたわれわれの説明を聞く以上に、きっと映像でご覧になったほうが、嬉野の「複住旅」の楽しさがよく伝わると思います。「真日本旅行記 佐賀・嬉野路 ~複住旅~」(全4回)と題したミニ番組をWOWOWオンデマンドで無料配信しているので、ぜひご覧いただきたいですね。

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宮田 この映像は各事業者さんにもお渡しし、それぞれでプロモーションとして自由に使える形にしています。映像を制作するのはWOWOWの得意とするところですし、イノベーションパートナーズさんや日本旅行さんがわれわれと組むメリットの一つでもある。点になっていた3社の長所は、協業することでそれぞれがつながるトライアングルになりました。そして、現地嬉野の皆さんも加わり、今では四角形に形を変えて展開しています。さらに関係を深め、一丸となってお客さまへ新たな価値を提供できるチームになり、新しい旅のスタイルを広めていきたいと思っています。

■「複住旅」公式サイト
https://fukuju.wowow.co.jp/

取材・文/倉田モトキ 撮影/中川容邦